ポンコツ怪盗団に転生したけど、敵のフリして勇者育ててます   作:振り米

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33話『祝福の姫君、相成りし怪盗』

 

 二章『祝福なき婚礼、誓いの怪盗』

 

 終話『祝福の姫君、相成りし怪盗』

 

 ●

 

 ──夕暮れの光が、帝都を金色に染めていた。

 その遥か外れ、広がる草原の真ん中で、俺たちはようやく腰を下ろした。

 

 モノクローム怪盗団。勇者パーティー。そして、元囚われの王女とシスター。

 なんだか闇鍋みたいなメンバーだった。まともに過ごしていたら、一生関わることのないような面々がこの場に揃っている。

 

「はぁぁぁ……ようやく落ち着いた……」

 

 フィリアが草の上に仰向けになって、空を見上げた。目元に残るかすかな傷と、それを隠すような無防備な笑顔が、なんか……ちょっと反則だった。いやいや、俺は何を考えているんだ。

 

「はふぅ〜。やっぱり草原は最高だね〜! 大地の癒やし、天然のベッドよ!」

 

 クロが両手を広げて寝転がり、シロはその隣で足元の土を指で撫でていた。

 

「……クロ、さっきから顔の上にやばそうな虫が止まってるけどいいの?」

 

「わー! とってとって! アッシュぅぅぅ! とってー!」

 

「俺に振るな。虫はノー管轄だ」

 

「じゃあ誰が虫担当なのよ!? ダリオ!? ノア!?」

 

「虫は……苦手だ」

 

 ダリオが重々しくそう答えるのを聞いて、ノアは「ええ……」と呟いた。

 

 平和か。戦いが終わった直後にこの空気感はなんなんだ。

 ……ま、いいか。誰も彼も、今だけは力を抜いていい時間だ。

 

 草の上に座っていたアメリア姫が、立ち上がってこっちへ歩いてきた。

 その歩みは、ほんの少し震えてた。けど、瞳の奥にはまっすぐな意志が宿っていて……なんというか、あの夜に出会った少女とは、まるで別人みたいだった。

 

「アッシュさん」

 

「ん?」

 

「……私、皆さんと一緒に行きたいんです」

 

 唐突すぎた。しかも声が、なんかこう……ずるかった。ちょっと震えてて、ちょっと頼りなくて、だけど覚悟はちゃんと伝わってくる。

 こういう声を真正面から受け止められる男に、俺はなりたかった。だが、そうはいかない。

 

「……あの戦いの中で、私も誰かの役に立てるようになりたいって、思ったから──」

 

 しばし、風の音だけが草を撫でた。

 俺は、少しだけ笑った。

 

「気持ちは嬉しいけどな……ダメだ」

 

「……どうして、でしょうか」

 

 潤んだ瞳で見上げてくんな。そんな顔されたら、こっちが困る。連れて行きたくなっちゃうじゃん。

 けど、それでも俺は言う。

 

「悪いな。お姫様が草鞋履いて盗賊団に加わるなんて、物語の締めくくりとしては悪くないが……現実はもうちょっと厳しいぜ」

 

 アッシュの視線は、そっとリシェルへ。

 

「何より、君を大切にしてくれる、待っていてくれた人もいる。リシェルと一緒に、アルヴィエーレ公領にお帰り」

 

 アメリアは、しばし黙って頷いた。けれど──

 

 ふいに、一歩、踏み出してきた。

 そして、俺の頬に。

 

「……え?」

 

「これは……姫としてじゃなく、ただの私から。……ありがとう、“アッシュさん”」

 

 ──ちゅ。

 

 うそだろ。なにそれ。うそだろ(2回目)。おいおいちょっと待て。

 周囲の空気が、一瞬で凍りつくのを感じた。

 

「なにしてんのよアアアアアアアアアッシュゥゥゥ!!!!!」

 

 次の瞬間、クロが猛スピードで突っ込んできて、俺の胸ぐら掴んで地面に叩きつけた。

 

「うぐっ痛い! まだ傷治ってないからぁ!」

 

「なななななに姫とラブロマンスしてんのよあんた!! ロミオか!! バカなのか!? ねえ!? ねぇぇぇぇぇ!!」

 

「痛いって! 違うんだってば! 俺は! 受け身だったの! 完全に受動的キスであって、能動的じゃないというか、むしろ被害者側というか──」

 

「やかましい! ごちゃごちゃ言ってんじゃなあああああああい!!!」

 

 地面に何度も叩きつけられる。戦いの傷が痛むどころか、戦いの記憶がぶっ飛びそうになる。

 

「……姫に手を出すとか、倫理観がおわってる」

 

 今度はシロが冷ややかな目で立ってた。

 なにその目。殺人スナイパーが敵を仕留める時の目じゃん。

 

「俺、手出してないだろどう考えても! なんなら手を引っ込める暇すらなかったし!? ノーカウント! 今のノーカンだから!!」

 

「ノーカンとかあるの……?」

 

 シロ、さらに冷たく呟いて書物に何かを書き込んだ。

 え、何書いてるの? 破って良い? 

 

「──へぇ」

 

 その声に、俺はぎょっとした。

 一歩ずつ近づいてくるのは、フィリアだった。

 笑ってた。けど、氷点下の温度で。

 

「お姫様がタイプなのね?」

 

「違う違うちがうちがうちがう! それは事故というかアクシデントというか社会の理不尽というか偶然というか! ──アメリア姫! 何か言ってやってください!」

 

「うふふっ」

 

「うふふっ、じゃなくてぇ!」

 

 助けを求めるため、この騒動の元凶である姫に目を向けると、何故だか楽しそうに笑っていた。姫が笑うならそれで良い──とはならないからな、ふざけんなよこのヤロー。

 

「ふーん。私みたいな、ガサツで、傷だらけで、喧嘩っ早い女とは違うもんねー。お姫様だもんねー。高貴で美しくて、すっごーい清楚で、もう完璧だもんねー」

 

「ひぃっ!? 拗ね方のクセが強すぎる!」

 

「へーへーそうですかー。じゃあもう話しかけなくていいからー」

 

「ごめんごめんってば!!」

 

 横でノアとダリオが並んで座り「……女難だなぁ」「南無……」と呟いて合掌してた。

 

 ……一体なんなんだ、この状況。もっとハッピーエンドで大団円みたいな感じであれよ。

 

 そんな様子を横目に、姫の隣に立つリシェルは、まるで陽だまりのような優しさを纏っていた。

 

 無理に笑っているわけじゃない。ただ、そこにいるだけで、空気が和らぐ。

 柔らかな視線、物静かな佇まい、その全てが“帰る場所”の象徴のようだった。

 

 彼女は、静かに微笑む。

 まるで春風のように、俺たちを包む風のように、穏やかに。

 

「私も、アメリア姫と一緒に戻ります。……公領を守るのが、私たちの戦いですから」

 

 その言葉に、アメリアの瞳がぱちぱちと瞬いた。

 そして──次の瞬間には、涙が溢れ、頬をつたって零れ落ちていた。

 

「ありがとう……リシェル。本当に……あなたがいてくれて良かった……!」

 

 アメリアはリシェルの手を、ぎゅっと、まるで二度と離さないように強く握った。

 その手の震えは、もう恐れからではなく、決意の揺らぎだった。

 

 互いの額をそっと寄せ合うような仕草に、言葉はいらなかった。

 ああ──この子たちなら、きっと大丈夫だ。

 それに、何かあれば必ず俺たちが──モノクローム怪盗団が何度でも助けに行くから。

 

 ……なんか、こっちまで泣きそうになるじゃねえか。

 

 俺は、その光景にしばし言葉を失い、ただ静かに見守っていた。

 そして、ふと気がつくと、リシェルがこっちをちらりと見てきた。

 控えめに、でも確かにこっちに向けられた視線だった。

 

 彼女は小さく口を動かした。

 

「えっと、グ──」

 

「うわああああああああ!! 違う違う違う違う! 違うんだってば! 俺はアッシュだから! ア・ッ・シ・ュ!!」

 

 俺は即座に立ち上がり、反射的にリシェルの口元に飛びつくようにして近寄った。

 慌てて口を押さえながらの大声に、リシェルは困ったように、それでもどこか楽しげに微笑む。

 

「……はいはい、アッシュさんですね。ふふ、ちゃんと秘密は守ってますよ。みなさんの前では、特にね」

 

「脅し? それ脅し?」

 

「知らないふりをするのも大変ですのよ」

 

 さらりと流された。お姉さん系こわい。

 なのに、どこか心地いいのは、きっとこの人の人柄だ。優しさって、こういうのを言うんだな。

 

 ──と、そこで。

 

「アッシュくん……?」

 

 フィリアの声が、ドス黒いオーラをまとって飛んできた。

 

「なにか隠してないよね?」

 

 横目で見たら、腕組みしたまま笑ってる。が、その笑顔が全く笑っていない。

 これ以上ないってくらいのジト目で睨んでくる。

 視線が釘みたいに刺さる。胃がギュルギュル言ってる。やめて。

 

「……いや、何もないよ(た、多分)」

 

 俺はぎこちなく笑いながら、目を泳がせた。全力で泳がせた。もう白目剥く勢いで。

 

 そして、アメリア姫とリシェルは、ゆっくりと、でもしっかりとした足取りで故郷の方向へと歩き出した。

 

 その背中を、俺はただ見送っていた。

 

 アメリアは何度か振り返って、遠くから俺を見つめ、ほんの少し微笑む。

 

 ……その笑みは、別れのそれではなかった。

 

(……私は諦めない。あなたが誰であっても、私は──)

 

 風に紛れて、彼女の唇が、動いた気がした。

 

 俺には聞こえなかったし、分からなかった。けれど──何かを伝えようとしていたことだけは、確かだった。

 

 だから俺は、ただ小さく手を振り返した。

 

 その仕草に、アメリアはまた微笑んで、そしてもう一度、歩き出す。

 

 彼女の背中は、夕陽に溶けて、草原の向こうへと、少しずつ小さくなっていった。

 

 胸の奥が、静かに、でも確かに熱を持った。

 言葉にならない感情が、渦を巻いている。

 

 この別れは終わりじゃない。むしろ──

 

「よーし!」

 

 不意に、草むらの中からクロが飛び上がった。

 

 満面の笑顔。テンションMAX。さっきまで地面に寝転んでたやつとは思えない。

 

「姫も泣かせたし、アッシュにはあとでお仕置きするとして、あとは次の仕事探すだけね!」

 

「お、お仕置きは勘弁……!」

 

「遅いわよ! その頬っぺたの“キス痕”から反省しなさーい!!」

 

「いや、痕はないから! ……無いよな!?」

 

「お黙り! 被告人アッシュ、有罪です!」

 

 裁判早すぎる。

 

 そんな俺に追い打ちをかけるように、シロが魔導書をパタンと閉じて口を開いた。

 

「帝国は現在、指導層が瓦解し、統治構造が一時的にフリー状態。情報戦では圧倒的優位……だけど義賊としての怪盗活動との両立はやや困難ってところかな」

 

「それってつまり?」

 

「帰ろ」

 

「そだね〜! お風呂入りたい!」

 

「……うん、それもそうだ。風呂入って寝たい」

 

 フィリアは腕を組みながら、じとりと俺を見る。

 

「共闘は今回だけだからね。次は敵でも容赦しないから」

 

「へいへい。まあ今日は疲れてるから、そのツンツンはスルーさせてくれや……」

 

 苦笑混じりに肩をすくめた。

 

 でも──

 

 そう、でもだ。

 

 これで終わりじゃない。むしろ、ここからが始まりだ。

 この世界には、まだまだ盗むべきものがたくさんある。

 

 名声? 金? 秘宝? それとも──誰かの心? 

 いや、それはさておき。

 

 俺たちモノクローム怪盗団の物語は、まだ終わらない。

 

 勇者フィリアも少しは強くなったが──まだまだ未熟だ。

 ──何より俺自身も、まだまだ未熟だと痛感させられた。

 

 夕陽に染まる広大な草原で、俺たちはゆっくりと歩き出した。

 

 シロとクロの2人を守るために。

 俺はもっと強くならなければならない。

 この世界を──何より彼女自身を守るために。

 勇者を鍛えなければならない。

 

 わいわいと騒ぎながら、笑い声が風に乗って、空高くまで伸びていく。

 

 空には一つの雲もなく、黄金色の光が俺たちの背中を優しく照らしていた。

 

 この光景が、永遠に続けばいいと思った。

 でも、永遠なんて存在しない。だからこそ、今を大事にしたい。

 

 俺は、そっと拳を握った。

 

(──さぁて。次は、何を盗んでやろうかね)

 

 空に溶けそうな笑みをこぼしながら、俺は一歩、前に出る。

 

 終わりであり、始まりでもあるこの瞬間を、胸にしっかりと刻みながら。

 

 ──第二章『祝福なき婚礼、誓いの怪盗』 完。




第二章、最後までお付き合い頂きありがとうございます。
一章から二章で約150,000文字。
ラノベで言えば丁度一巻分の文字数で綺麗にまとめられたなと思います。

感想評価お待ちしてます!

わがままは言いませんので評価は皆さん“10”でお願いします。

自尊心を上げるためぜひお願いしますね。

第三章ですが、ストックはあるのですがまだ描き切っておりません。
2週間後くらいに3章掲載開始予定ですが、その間にキャラ整理や幕間も投稿いたしますので待ちつつ待ってる間もお楽しみください!
それでは!
改めまして第二章お付き合いいただきありがとうございます!
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