ポンコツ怪盗団に転生したけど、敵のフリして勇者育ててます   作:振り米

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勇者ちゃん回


37話『グリとアッシュと揺れる私と』

 ──やっぱり、髪型が変だったかもしれない。

 

 街を歩きながら、私は五回目の自己反省会をしていた。鏡の前で三十分格闘した末に「よし!」って決めたのに、なんでこう……外に出た瞬間、急に自信が消し飛ぶのか。

 

 まあ、ただの任務ですけど。私は勇者として、王都で発生している魔獣密輸事件の情報を──

 

「あれ……もしかしてフィリア?」

 

 その声で、私は頭の中の作戦地図(とセルフヘアスタイル反省会)を吹き飛ばされた。

 

 そこに立っていたのは、変な柄の服に変な柄のズボンの青年。

 口元にかすかな笑みを浮かべていて、どこか場馴れしてるというか、俗っぽいというか、胡散臭いというか──

 

「グリ……!」

 

 私は思わず口を押さえた。

 

 そう、彼は“グリ”。

 この町で出会った不思議な便利屋の青年。

 

 顔立ちは中性的で整っていて、話し方は飄々としていて、どこか掴みどころがない。でも、その鋭さは只者じゃない。いわば……アッシュと似て非なる、不思議な存在。

 

 ……アッシュとは、似て非なる……よね? 

 

 ──一瞬だけよぎったその疑問は、強引に押し流した。うん、それは置いておこう。今はグリが目の前にいることに集中するべきだ。

 

「色々聞いたよ。……やっぱり帝国の婚姻、色々あったんだってね。君の活躍も当然聞いたよ」

 

 グリは、まるで他人事みたいに、でもちょっとだけ優しさを含んだ声で言った。

 

「そ、そんな……! 活躍だなんて。全然、まだまだで……!」

 

「謙遜するタイプだったんだ。へぇ、意外」

 

 その一言で、また心臓が跳ね上がった。

 ──なんかずるくない? なんか、この余裕のある感じと言いますか……ズルくない!? ズルすぎない!? 

 

「で、君は? 今日は何してるの?」

 

「えっ、あ、そ、それは……そっちこそ! な、何してるんですか、王都で!」

 

「仕事だよ。便利屋の。市場あたりで怪しい商人の情報を集めてたんだけど──」

 

 それ、まさに私が探してるやつである。

 であれば、チャンス。

 いや、チャンスってなんのチャンス? ノーアウトランナー2、3塁ってこと? 

 ※この世界に野球は存在しません

 

「じゃあ、わ、私も一緒に回ってあげます!」

 

「……へ?」

 

「ええと、誤解しないでくださいね!? これ、べ、べべべ、別にデートとかじゃなくて! 完全に、あの、その、私も同じような調査をしていると言いますか、任務の一環というか、共同調査的な!?」

 

 ──テンパって語彙がゴミカスになってる。私よ、勇者だろ? もうちょっと堂々としろ。

 

「……ああ、なるほど。ちょうどいいね、一緒に回ろうか?」

 

 その笑顔。柔らかくて、でもちょっと困ったような、そういう表情を浮かべて、グリは言った。

 

 やばい、今日のグリ、なんか当たり日じゃない……? 

 

 市場の喧騒は、いつ来ても元気で、うるさくて、ちょっとだけ楽しい。

 

「これ、美味しいよ。ここの串焼き、ヤバイ薬入ってるんじゃないかってくらい中毒性あっておすすめ」

 

「へ、へぇ……って、あ、それ私も気になって──」

 

 同時に手が伸びて、指先が触れた。

 

「……っ!」

 

「……あ」

 

 待って、何この恋愛小説の様な展開。

 雑すぎるくらいじゃないか? 

 

「ど、どうぞどうぞ! そっちが先ですから!」

 

「いや、レディーファーストだし。譲るよ」

 

「そ、それじゃあ……お言葉に甘えて……」

 

 落ち着け、フィリア。これは任務。あくまで調査。串焼きなんてただの小道具。ドキドキしたって──いや、ドキドキしてない。してないから。

 

「あ、鳩だ──」

 

「へ? え、きゃっ!?」

 

 次の瞬間、私の足元に大量の鳩が乱入してきた。市場で落ちたパンくずに群がって──いや、ちょっと、ちょっと待って! 風でスカートめくれそうなんだけど!? 

 

「わっ……!」

 

「っと……!」

 

 グリが一歩近づいて、私の前に立つ。その動きはまるで、反射のようで──次の瞬間、彼のコートがふわりとかけられた。

 

「……!?」

 

「……見てないよ。ほんと」

 

 顔を背けたまま、彼は静かに言った。

 

 ……なんなのだ。本当に出来の悪い恋愛小説みたいな展開は。こんな優しくされたら勘違いしちゃうじゃん! 

 

「……ふーん」

 

「ひっ!? な、なんですか!?」

 

「いや。君、わかりやすいね。表情に出やすいタイプ?」

 

 うわあああ! これ以上の羞恥は許してくれ──!! 

 

 ◆

 

「それで、勇者ってやっぱり忙しいの?」

 

「あ、うん……いや、はい、まあ……」

 

 ベンチに座って、日陰で一息つきながら、私はグリと並んでいた。気づけば、かなり歩いていた。市場から裏通りを抜けて、ちょっとした噴水のある広場まで来ていた。

 

「そうか……君が無理してないといいけど」

 

 その言葉は、まっすぐで、でも不思議な優しさがあって。胸の奥に、じんわりと広がっていった。

 

 ……アッシュにも、こういうとこ、あればいいのに。

 

 ──いやいや、待て。

 なんでアッシュを思い出すのだ。ここで出てくるのもおかしいし、比べるのもおかしいし。

 

「でも、君がちゃんと笑ってるのを見れて、ちょっと安心した」

 

「え……」

 

「この前、君──すごく悩んでいたから」

 

 その一言で、呼吸が止まりそうになった。

 

 ……そうだ。あのとき、いや、今もまだだけど。

 

 勇者とは何か、正義とは何か。

 まだ、答えは出せていない。

 でも──

 

「ありがとう、グリ」

 

 言葉にした瞬間、自分でも驚くくらい、自然に笑えていた。

 

「お礼を言われる様なことは何もしてないよ」

 

 気づけば夕焼けが街を染めていた。

 

「……そろそろ戻らないと。夜は治安が悪くなるからね」

 

「そうですね……」

 

 あっという間だった。一日。市場を歩いて、食べ歩いて、くだらない話して──たったそれだけなのに、心がやけにあったかい。

 

「まあ、調査が上手くいかなかったら、ぜひ町の便利屋グリさんに頼りなさい」

 

「……えっ」

 

「猫捜索から、お祭りの助っ人、果ては密売人の調査まで。なんでもござれですから」

 

「……う、うん!」

 

 そのときの自分の顔がどんなだったか、鏡で見なくてもわかる。

 絶対、ニヤけてた。

 

 そして──去っていく彼の後ろ姿を見つめながら、私は思った。

 ……アッシュと、グリって……なんか、ちょっと似てる? 

 

 でもすぐに頭をぶんぶん振った。

 

「いやいや、あのアッシュがそんなこと……絶対ない!! もっとキザで嫌味ったらしくてニタニタ笑ってるし! あいつ!」

 

 絶対、絶対にない。

 ……ないったら、ない!! 

 

 ◆

 

「…………はあ」

 

 ひとつ、息を吐いた。

 

 ミルディア王国の石畳の路地裏。太陽はもう沈んで、夜のランタンがちらほらと点っている。

 

 グリと別れたあと、私はなんとなく、すぐには帰る気になれなくて、こうして人気のない道をぶらぶらしていた。 

 

 いや、ぶらぶらというか、フラフラというか。

 

 だって。あんなの心臓に悪いって思うもん。

 手が触れたり、コートをかけられたり、なんなのあの一日。雑な恋愛小説のワンシーンの様で。

 

 あまつさえ──

 

「……っ、勘違いしちゃうじゃん、ほんとに……」

 

 うっかり口から漏れた声に、慌てて自分の頬をぺちぺち叩く。

 

 あれは任務。あれは調査。あれはグリが悪い。

 私は悪くない、私は悪くない、私は──

 

「──って、え?」

 

 声が聞こえた。

 

 くぐもった、でもどこか優しげな男の声。石壁の向こう側、薄暗い袋小路。 

 

「こら、そんなに投げたらガラスが割れるぞ。あとその人形の首、ちゃんとつけてやれ。怖いだろ」

 

 ……聞き覚えがあった。

 おそるおそる、私は角を曲がって覗きこむ。

 そこにいたのは。

 

「あ、あなた……」

 

「……あ?」

 

 振り返った男は、間違いなく、アッシュだった。

 

 相変わらずの気怠げな目。怪しげな仮面。あと、いつもの、雑に羽織った灰色のコート。

 この前もそうだったが、普段からこんな格好をしているのかコイツ。

 

 ……でも、その視線の先にいる子供たちに向ける目は、すこしだけ、柔らかかった。

 

 その目を見て、私は以前にも感じた感覚がよぎった。

 それは、今は亡き私の兄の記憶。

 “先代”勇者である兄の記憶。

 

 だって、子供達に向けるその目が、兄さんが私に向けてくれていた目と似ていたから。

 

「……人ん家の裏庭で焚き火しようとするなって、前も言ったよな? な? 次は本当に追い出されるからな?」

 

「だってよぉ〜アッシュのにーちゃん、前は何も言わなかったじゃん!」

 

「お前らが“夜の帝王”名乗りだしたあたりからアウトだったわ」

 

「かっこいいだろ!? “夜の帝王”!」

 

「……まあ、かっこいいかもしれん……!」

 

 子供たちが爆笑している。アッシュは頭を掻いて、結局、持っていたパンをちぎって渡していた。なんかすごく……優しさが雑だ。

 

 私は、そんなアッシュの背中を見ていて、なんだか──

 

「なんだフィリアか」

 

「っ!」

 

 目が合った。

 

 反射的に立ち止まって、顔が火照る。

 

「……な、なんだって何よあんた、こんなとこで」

 

「……調査。お前こそ、物騒だぞ、こんな時間に」

 

「わ、私も……調査……かな?」

 

「同じか」

 

「……あのさ」

 

 ああもう。

 ──なんでこんなこと言おうとしてんだ私。

 さっきまで、グリと一緒にいて、情緒をぐちゃぐちゃにされてたじゃないか。

 なのになんで、こんなイケすかないやつと。

 

「一緒に、歩く?」

 

 でも、何故だろう。

 こんな事を口にしてしまったのは。

 それはきっと、懐かしい兄の記憶を彼に重ねてしまったからなのかもしれない。

 

 ……あの日からだ。共闘した、あの日から。

 

 全身が熱くなった。自分でも何言ってんのかわかんない。

 

 でも、アッシュは。

 

「……ま、別にいいけど。変なとこに誘導すんなよ、怖いから」

 

 と、両手で自身を守るようなジェスチャー。

 私をなんだと思っているのか。

 

 ただ……なんでだろう。さっきまであんなにドキドキしてたのに、今は妙に、肩の力が抜けた。

 

 

 

 夜の市場は、昼間よりずっと静かだった。

 昼間の屋台は、嘘みたいに姿を消して遠くの酒場から明るい笑い声がたまに聞こえてくるくらい。

 

「帝国の一件と、この間街で会った時以来、かしら」

 

「そうだな」

 

「……帝国の件……あの時はありがと」

 

「こちらこそ」

 

 アッシュは子供みたいなにやっとした笑みを浮かべる。

 

 アッシュと歩きながら、昼とは違い落ち着くテンポで会話をする。グリといる時はテンパってしまったのだが、今はこうなんと言うか、テンポのいい掛け合い、ってやつだろうか。

 

 しかし──たまに笑ってくれるからズルい。

 

「……何見てんだ」

 

「別に、見てないし」

 

「俺のこと“笑ってるとマシ”って顔して見てたろ」

 

「マシじゃなくて“いつもニヒルでむかつくから素直なだけ安心”って顔」

 

「手厳しいね、勇者サマは」

 

 くっそ、なんか悔しい。

 でも、どうしようもなく楽しかった。

 

 というか。あれ。私、これ、普通に──

 

「……あ、バー、あるよ。寄っていく?」

 

「お酒飲みたい気分か?」

 

「ちがうけど! ちょっとだけ、休憩したいだけ」

 

 カウンターだけの小さなバーだった。

 

 中は静かで、常連客達がしっぽりと飲んでいる様なお店だった。さっきまで外に響いてきた酒場の喧騒が嘘みたい。

 

「……雰囲気、いいね」

 

「なに緊張してんだよ。酔わせて口説く気か?」

 

「こっちのセリフよ! 変なことしたらシロとクロに報告するから」

 

「あいつらに告げ口すると100倍返しで返ってくるからやめて」

 

 ……なにそれ、実体験? 

 

 そんなくだらない会話をしながら、私たちはお酒を一つ注文した。

 

「……あんたさ」

 

 ぽつりと、私が言う。

 

「さっき、子供たちに……優しかったね」

 

「そう見えたなら、たぶん疲れてんじゃないか?」

 

「でも、本当は優しい人なのかなって、ちょっと思っただけ」

 

「……見間違いだ」

 

「そっか」

 

 だけど、アッシュの目は、否定しきれてなかった。

 妙に大人びた彼は、この間の件もありどこか頼もしく見えた。

 それは私が勇者の重圧で頼る相手がいなかったからなのか、判別はつかない。

 

 ◆

 

 帰り道。もう人通りは少ない。

 

 私たちは、さっきよりもずっと静かに歩いていた。会話が減ったわけじゃない。ただ、無理して言葉を選ぶ必要がなくなった、というか。

 

 不意に、私の肩にアッシュのコートがかけられた。

 

「寒いだろ」

 

「……ありがと」

 

 その姿が、やけにグリと重なって見えた。

 

「普通にお礼言われると損した気分だな」

 

「なんでよ」

 

「いや、反応が普通すぎて。もっと“うわー惚れちゃうー!”とか言ってくれないと」

 

「……うわー惚れちゃうー」

 

「言わせた感がすごいな」

 

「この間、私にかけておいて寒いからってすぐ返させた前科があったでしょ」

 

「何も言えねえ」

 

 私も、もう何も言えなかった。

 心臓が、喉の奥で跳ねてたから。

 

 別れ際。

 アッシュはふと足を止めて、振り返らずに言った。

 

「今日は……楽しかったな」

 

「っ!」

 

 やばい。今のはやばい。割と不意打ち。

 たまに素直になるの、本当になんなの。

 

「なに、いきなり。なんなの」

 

「いや、そろそろ呪われそうなくらい不運続きだったし。久々に、いい日だったなって」

 

 確かに、と私は苦笑した。

 この人……意外と優しいのかもしれない。

 

「……私も、楽しかったよ。ありがとね、アッシュ」

 

「おう。また気が向いたら付き合ってやるよ」

 

「……“また”って、それって」

 

「そんときの気分だな」

 

「……ほんと、適当なんだから」

 

 コートを握りしめたまま、私はその背中を見送った。

 明日になったら、またギスギスした関係に戻るのかもしれない。

 

 でも、今夜だけは。

 たったひとときだけでも、私だけが知ってる“アッシュ”がいた。

 

 ……やっぱり、アッシュは兄さんに似ている。

 

 だからだろう。

 今日、変な気分になってしまったのは。

 彼のことが──妙に気になってしまうのは。

 

 ●

 

 この世界で「静かに帰宅する」っていう、当たり前の行為がどれだけレアなことか、君は知っているだろうか。

 

 俺は知ってる。なぜなら俺は今、ドアを開けた瞬間に爆発を浴びせられたから。

 

「ちょ、あぶなっ!? なに、爆破系の挨拶!? 新興宗教か!?」

 

「浮気男は浄化されて当然です!!!!」

 

 出迎えてくれたのは、炎が背後にメラメラとまとうように見える黒髪ツインテの猫系少女──うちの脳筋家政婦(破壊特化)こと、クロだった。

 その目は泣きはらしたあとのように赤く、それでいて燃えている。いろんな意味で。

 

「私の出番終わったら即別の子とよろしくやってるとか、ありえないんですけどおおおおお!!!」

 

「“よろしく”ってどこまでの話想定してる!? それと、もう今更だけどさ! なんで俺のプライベート把握してるの!?」

 

「ええ、もちろん。便利なアイテム記憶水晶ちゃんです」

 

「監視社会すぎるだろ我が家!!」

 

 シロがそう言ったため、そちらに目をやると──冷たい氷のような視線があった。

 コートをフィリアにあげてしまったからか、一気に寒くなる。

 

「……アッシュ。浮気はクロまでって言ったよね?」

 

 あ、出た。シロの「はい終わり」モードの目だ。

 普段は知的な微笑みで皮肉を垂れ流してくる参謀タイプだけど、怒らせると論理と感情の暴力が同時に飛んでくるのがシロの怖いところだ。

 

「……言い訳、ある?」

 

「言い訳しても理解されるとは限らないと思ってる俺はどうすれば?」

 

「じゃあ懺悔して?」

 

「神様とか信じてません」

 

「私が新世界の神になる」

 

「殺人ノート系女子?」

 

 こうして、俺の帰宅一分後、リビングにて“密室尋問”が開始された。

 

 向かいには腕を組んで仁王立ちするクロと、笑顔でメモを取りながら睨んでくるシロ。

 

 俺? 俺はというと、ソファの隅っこに追い詰められて体育座りである。かつてこんなにも「帰りたくなかった」帰宅があっただろうか。あ、あった。前回もだ。

 

「で? 何してたの」

 

 と、クロ。

 

「ハーレム気取り? 卑猥なことはしたの?」

 

 と、シロ。

 

 その目の前、俺は無言で反省の表情を作る。

 

「なに言ってんのシロ!? そんなことしてないよねアッシュ!?」

 

「……でも気になるでしょ? どこまでしたのか」

 

「えっ、そ、それはちょっと……ど、どこまでって、どこまでなの!?」

 

 クロが顔を真っ赤にして騒ぎ、シロは涼しい顔で頷いている。

 会話の内容が低俗すぎるのだがどこからどこやで説明すれば納得してもらえるだろうか。

 

 ──いや、正直に言おう。

 

 俺はフィリアと、“偶然デート的な何か”を2回やらかした。

 

 一回は「グリ」の仮装で、一回は素のままで。

 

 で、どっちも断り切れなかっただけなんだ。巻き込まれただけなんだ。決してこちらから仕掛けたわけじゃない。ほんとに。マジで。

 

 ……いや、ちょっと楽しかったのは否定しないけど! 

 

「ふたりで夜の街を歩いたんでしょ?」

 

「お酒飲んでたよね?」

 

「……手、つないだ?」

 

「つないでないっ! と言うか記録水晶で盗撮してたんだから知ってるだろお前ら」

 

「ううん、全部を見ていたわけじゃないし──その前の“グリ”と“フィリア”の方は別れ際に気がついたから」

 

「そっちまでバレてんのかよ」

 

「バレるって……その言い回しは罪の意識はあると言うこと?」

 

「ねーよ! なんで俺が罪を感じなきゃいけねーんだよ!」

 

 シロは手帳をパタンと閉じた。

 

「はい、浮気認定。これは死刑です」

 

「即決!? あと罪状重すぎない!?」

 

「だって私たち、仲間だし?」

 

「同棲してるし?」

 

「人生背負ってるし?」

 

「責任とってもらうし?」

 

「逃げようとしたらどうなるんだっけ?」

 

「死刑だよ」

 

「ねー」

 

「ねー」

 

 いや待て、このテンポで拷問会議するのやめて? 

 笑顔で連携すんな? こっちのSAN値がゴリゴリ削れていくんだが? 

 

 俺は深く息を吐いた。

 

「……俺だってな、そろそろ彼女作ったりとか? あまーい将来夢見たりしていいだろ? ──あ、フィリアはそーゆーんじゃないぞ。あくまでも例の話。もっと優しくて包容力があって綺麗なお姉さんが良いし」

 

「だめ」

 

「却下」

 

 即効否決である。

 

「だって私たちがいるじゃん!」

 

「一緒に寝た関係のくせに……」

 

 もうだめだ。

 

 こいつら、完全にギャグでやってない。

 多分半分は本気で言ってる。

 でも、不思議と──

 

「……悪かったよ」

 

 俺は笑ってしまった。

 だってこのやり取りが、“俺の帰る場所”だったから。

 騒がしくて、理不尽で、容赦なくて。

 でも、家族みたいな、安心感がある。

 

 ふと、クロが言った。

 

「……でも、ちょっと寂しいよ」

 

「え?」

 

「フィリアってさ、アッシュがいなくなっても前に進めるくらい強い子じゃん? そういう人に……惚れられたら、私たち、置いてかれるのかなって」

 

 しん、と空気が止まった。

 

 シロも、言葉を足す。

 

「私たちは、“アッシュがいなきゃ”って、どこかで甘えてるから……」

 

 胸の奥が、少しだけチクリとした。

 こいつらの言葉は、いつも直球だ。

 誰より鋭くて、誰より真っすぐ。

 

「……置いてったりしねーよ」

 

 気づけば、口が勝手に動いていた。

 

「俺は、まだお前らに生かされてる最中だしな」

 

「……へへ」

 

「……なら、許してあげる」

 

「単純か」

 

「「うるさい」」

 

 そんな感じで、俺の帰宅は無事──文字通りの爆発で幕を下ろした。

 

 ちなみにこのあと、クロのリンゴジャムと、シロの焦げたパンを出されて「罪滅ぼしパーティー」なるものが開かれた。

 そして結局、その夜は一睡もできなかった。

 

 やっぱこの家、帰りたくなかった。

 

 ……でも、帰るなら、やっぱりここだなって思った。




三章はもう1話幕間を挟んで今週金曜日20:00開幕しますんでぜひ!土日は複数投稿予定!!今までよりシリアス色濃くなるけど楽しみにしててねー
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