目覚めると、其処はまばゆいばかりの黄金に彩られた広間だった。目に入るものすべてが黄金、黄金、黄金。しかし、其の輝きは俺の心を安らがせる何処か、激しい嫌悪感を呼び起こした。
「マハト……」
脳裏に響く声は、此の身体の持ち主が、千年以上もの間、フリーレンを苦しめてきた魔族、黄金郷のマハトであることを告げていた。信じられない。まさか、あの物語の登場人物、其れも憎むべき魔族に転生するなんて。俺の知るマハトは、人間を愛し、人間を知ろうとし、しかし結局は理解できず、最終的に人間を黄金に変える魔法を完成させた悲劇的な存在だった。だが、俺は違う。俺は現代日本で生きていた、ごく普通の人間だ。人間の感情も、価値観も、痛みも理解している。此のままでは、いずれ俺の意思とは関係なく、黄金郷を創り上げてしまうだろう。想像しただけで吐き気がする。街が、人々が、大切なものが、すべてが冷たい黄金の塊に変わる光景。そんな未来は絶対に阻止しなければ成らない。先ず此の身体に染み付いた魔族の概念と向き合う必要が有った。マハトの記憶は膨大で、まるで別の意識が同居しているかの様に、時に黄金への衝動が俺の思考を侵食しようとする。
「愚かな、人間よ。黄金こそが至高。永遠の美ではないか」
幻聴の様に響くマハトの声。だが、俺は断固として拒絶する。
「黙れ。美しければ良いってもんじゃない。命の輝き、時間の流れ、感情の豊かさ、其れが人間なんだ!」
俺は、魔族としての本能に抗う為、ひたすら人間を知る努力を始めた。森で動物を観察し、村の子供たちの無邪気な笑顔を見つめ、職人の汗と努力の結晶である品々に触れる。そして何よりも、人間との交流を求めた。しかし、魔族で有る俺が人間に近付くことは容易ではない。警戒され、恐れられ、時には敵意を向けられる。其れでも俺は諦めなかった。言葉を交わし、手助けをしささやかな優しさを示す。ある日、俺は偶然、道端で倒れている老夫婦を見つけた。魔族ならば見向きもしないだろう。だが、俺は躊躇なく駆け寄り、彼らを助けた。感謝の言葉を口にする老夫婦の笑顔は、俺の凍り付いた心を僅かに溶かした。そして、老夫婦に何故こんな目に遭ったのか尋ねると、彼らは魔物に襲われたと話してくれた。その話を聞き、俺はすぐに彼らがやって来た道を辿った。そこには、老夫婦を襲おうとしていた魔物がいたのだ。其の魔物は巨大な蜘蛛の様だった。老夫婦に再び襲い掛かろうとするその蜘蛛の魔物に対し、俺は迷うことなく行動したので有る。 まず、老夫婦の荷物を確認し、武器として使えそうな物を漁っていると、中に新品の杖を見つけた。そして、倒れている老夫婦の旦那さんの手には折れた杖が有ったのだ。
俺は躊躇し無かったので有る。自身のディーアゴルゼという、万物を黄金に変える技で、旦那さんが持っていた折れた杖を黄金に変えた。輝く黄金の杖を手に、俺は魔物へと瞬時に間合いを詰め、正面から三連の斬撃を放ち、さらに大きな月型の刃で対象を取り囲むように斬り裂いた。魔物は断末魔の叫びを上げ、その場に崩れ落ちたという出来事は、俺の心に確かな変化をもたらした。魔族としての本能に抗い、人間を守るという行動は、俺が人間として生きる道を選んだ証だった。
魔物を倒し、老夫婦を助けた翌朝、俺は早速行動に移った。夜の内にディーアゴルゼを使い、蜘蛛の魔物の脚を黄金の杖や黄金の槍、黄金の剣に変えていたのだ。そして、ディーアゴルゼの派生魔法ディーアシルバも創造し、蜘蛛の脚を白銀のブーメランに変えていた。此れらの品々を一番で売却するべく、俺は市場へ向かった。
売れ行きは上々だった。特に、白銀のブーメランは珍しかったようで、客の注目を集めた。そんな中、店にやってきたのは、大酒飲みで週に一度は二日酔いでダウンしているという噂の、眼鏡をかけた聖職者だった。
彼は白銀のブーメランをいたく気に入り、購入するやいなや、試し撃ちと称して店の外の木に向かって投げつけ始めた。ブーメランが木に当たると、そこから飛び出してきたのは、てっきりシラミのような魔物だと思った。だが、其れは魔物ではなかった。
其奴は魔族だった。名はクール。光線で人間を標本目的で収集したり、工業地帯を襲撃・壊滅させたりしているらしい。魔王軍ですら問題視している、厄介な存在だということがすぐに分かった。
クールはシラミを逆立ちさせた様な黒い風貌が特徴。シラミの腹部が頭部、6本の脚が腕、腹部と胸部の付け根に2つの眼が有り下半身は長い尾に成っている為に常に浮遊し、そして…其のまま…彼はブーメランを自在に操って脳部分を断頭されて一瞬で死亡したので有る。彼の名はハイターといい勇者ヒンメルの幼馴染で彼のパーティーメンバーで有る様だ。ヒンメルら他のメンバーは未だ眠っていてハイターは朝の運動に来た様で有る。 聖職者が投げつけたブーメランが木に当たった途端、飛び出してきたのは、シラミを逆立ちさせたような黒い風貌を持つ魔族、クールだった。腹部が頭部、6本の脚が腕、腹部と胸部の付け根には二つの眼があり、下半身は長い尾になっていて、常に浮遊している一瞬の隙。聖職者の投げた白銀のブーメランは、正確にクールの脳部分を断頭し、彼は一瞬で死亡した。
「ああ、すまないね。つい熱中してしまった」
涼しい顔でブーメランを回収する聖職者。彼の名はハイター。驚くべきことに、彼は勇者ヒンメルの幼馴染であり、そのパーティーメンバーだという。ヒンメルや他のメンバーはまだ眠っており、ハイターは朝の運動に来ていたらしい。
「有り難う御座いますっ!今後も御互いに此の世の為に頑張りますかっ!」
俺がそう言うと、ハイターはにこやかに
「ですねっ!」と応え、爽やかな笑顔を残して去っていった。
まさか、勇者パーティーの聖職者とこんな形で出会うとは夢にも思わなかったが、彼の力添えで厄介な魔族クールを排除できたのは確かだ。俺は彼の去っていく背中を見送り、再び自分の使命を胸に刻んだ。ハイターが向かった方向とは反対側の街へと歩き始めた俺は、すぐに異変に気づいた。街の入り口に近づくにつれ、人々の間に奇妙な声が響き渡っているのだ。
では次回も御楽しみに…