友達からの…   作:ちま

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本作でマリアはブラコンという設定です。


第一話 友達からの…

 

 

「マリア。あなたもレナ殿のことが心配で…?」

「うん。そうなのミネルバお姉様。」

二人の兄ミシェイルの部屋に向かう廊下で姉妹はバッタリ会って、お互い同じことを考えていたのだと理解する。

「ちょうどいいわ。二人で兄上の部屋を訪ねましょう。」

「うん!」

頷き合い、二人で兄の部屋へと向かった。

 

「兄上。ミネルバとマリアです。入ってもいいですか?」

兄の部屋のドアをノックした後、ミネルバが訊くと中から『どうぞ。』と返事があったのでドアを開けたのだが――

「きゃーーっ♡」

「……」

「どうした?何か用か?」

今まさにTシャツを着ようとしていた半裸の兄の姿にマリアが黄色い悲鳴を上げ、沈黙していたミネルバは些か怪訝な顔で口を開いた。

「着替え中ならそう言ってくれれば…」

「お前は兄の半裸に動揺するのか?」

「するわけないでしょう!あなたが“パンイチ”でも動揺なんてしませんよ!」

Tシャツを着終えたミシェイルが同じく怪訝な顔で問い返すとミネルバは怒って答えた。

「……で。用件は?」

ソファーに腰を下ろし、身振りで二人に向かいのソファーを勧めながらミシェイルが訊いた。二人はソファーに掛け、早速ミネルバが切り出す。

「…レナ殿のことです。」

「ああ…」

二人が自室を訪ねてきたことに合点がいったかのようにミシェイルが頷く。家同士の付き合い上、兄妹とレナはいわゆる幼馴染だった。

「父上はレナ殿を兄上の結婚相手に、と考えています。」

「そのようだな。」

『お前が学生のうちにパートナーを見つけられなかった場合、儂がお前の結婚相手を決めるからな。のんびりしていたら20代などあっという間に過ぎてしまう故。』

この春、社会人になったミシェイルは先日父から言われた言葉を思い出し、内心溜息を吐いた。ミネルバは続けて。

「また他人事のように……ですがレナ殿には恋人がいるのです。」

「ほお?」

「ええ。レナ殿の親御が父上の申し出を断れるわけがありません。そうなれば…レナ殿は恋人と別れさせられることになるでしょう。」

「何だ、そんなことを言いにわざわざ来たのか。」

心底呆れたように、ミシェイルが言う。

「そいつと別れたくないなら駆け落ちでも何でもすればいい。俺には関係ない。」

「兄上!」

興味がなさそうに言う兄にミネルバは声を荒げた。

「それが容易なことではないことはあなたにもおわかりでしょう!」

「………俺にどうしろと?」

ミネルバは一呼吸置いてから口を開いた。

「…レナ殿のことも心配ですが私は兄上にも好いたお相手と結婚してほしいのです。そしてあなたに交際相手がいればこの話は立ち消えとなります。少しは探すなり何なり……」

ミシェイルはその時初めて険しい目で妹を見返した。

「簡単に言ってくれるな。今まで俺が努力しなかったとでも思っているのか?」

「え…努力した、って兄様、まさかマチアプ…?」

マリアが驚き目を瞠る。彼女が続けて『マチアプは危険よ!』と言う前にミシェイルはかぶりを振って否定した。

「違う!何度かデートに誘おうとしたが一度もOKしてもらえなかったんだ!」

兄のその言葉を聞いて姉妹は驚き固まった。

「……兄様、好きな人がいるの…?」

先にフリーズが解けたのはマリアだった。

「ああ。俺だって人並みに恋くらいするさ。」

憮然とした様子でミシェイルはソファーに寄り掛かり長い脚を組む。

「誰、ですか?私たちの知っている人…?」

ミネルバが遅れて放心から回復して訊くと。

「お前は会ったことがないな。マリアは知っている人だ。」

「わ、私の知っている人…?」

兄の言葉にマリアの目が希望に輝いた。

 

 

「あーあ、高校生活もあと一年か…」

下校時、クリスがクラスの友達と歩いているとその中の一人であるルークが頭の後ろに腕を組み、独り言ちた。

「俺、一度も彼女できたことねえよ。」

「まだ一年あるじゃないか。」

「そうですよ。」

とロデリックが口を挟みライアンも頷く。四人は公立アリティア高校の三年生でクラスメイトだった。

「クリスも彼女欲しいだろ?」

二人の返しを無視してルークがクリスに話を振る。

「俺、そういうのにあまり興味は…」

「クリスの養父マクリルさんが厳しい方で、学校から帰ると武道の稽古で、だから恋愛する暇もないんですよね?」

と困ったような様子のクリスにライアンが助け舟を出す。

「ああ、そうだ。」

クリスは元々あまり恋愛に興味がなかったが、そう言うことにしておいた方が楽だと思い、頷く。クリスは幼少の頃にマクリルに引き取られた孤児だった。稽古は厳しかったが家族としての愛情もあり、クリスはマクリルに引き取られたことを後悔したことなどなかったのだが。

「はあ~~っ……お前も大変だよな。厳格な武道家の爺さんに引き取られてよ。」

とルークが盛大に溜息を吐いた、その時。

「クリス!」

女の子の声がして皆が振り返った。

「カタリナ…」

4人とクラスは違うが同級生のカタリナだった。

「今、帰り?」

「ああ。」

「今日、少しで良いの。孤児院に寄れないかな?」

カタリナが上目遣いでお願いする。マクリルに引き取られるまでクリスはカタリナと同じ教会の孤児院にいた。彼女とは以来ずっと疎遠だったが、高校に入って偶然彼女に再会してからは頼まれて時々孤児院を手伝っていた。

「いいけど…」

「よかった!ありがとうクリス。」

カタリナは嬉しそうに顔を輝かせた。

 

 

「実は今日、孤児院にマケドニア財閥のお嬢さんが来るの。」

「ああ。マリアさん?」

ルークたちと別れ、孤児院までの道のりをカタリナと歩きながらクリスが訊き返す。アカネイア有数の大企業”マケドニア”のCEOであるマリアの父オズモンドは以前から孤児院に寄付してくれており、マリア自身も教会のボランティアやイベントを手伝ってくれていたため、クリスも彼女と面識があった。

「ええ。何でもクリスに話しがあるとかで…来てもらえないか訊いてほしい、と言われてそれで…」

「俺に話し?」

面識があると言っても親しいわけではない。

――なのにどんな話があるというのだろう?

クリスは首を傾げた。

それから二人で学校のことなどを話しているうちに孤児院に着いた。二人を見るとすぐにシスター・エレミヤが駆け寄ってきて。

「おかえりなさい、カタリナ。いらっしゃい、クリス。マリアさんがお待ちよ。」

と言ってクリスを談話室に案内した。

 

「クリス…!久しぶりね、会えて嬉しいわ。」

「お久しぶりです、マリアさん。ひと月前の公園の清掃ボランティアの時以来ですね。」

談話室に入ると待っていたマリアが立ち上がってクリスを出迎える。二人がベンチ椅子に並んで座るとクリスに向き直り、マリアは話し始めた。

「……実はクリス、あなたにお願いがあって…」

「お願い?」

――財閥の令嬢であるマリアさんが一般人の俺に?

クリスはわけがわからなかった。金と人脈のある家柄の人の望みは大抵叶うと思っていたからだ。

「クリス…あなたに兄様の(一足飛びに恋人ではなくまずは)友達になって欲しいの。」

とマリアは両手を組み合わせて言った。兄がクリスに何度もデートの誘いを断られているというのを聞いての提案だった。実際に会って二人で時間を過ごせば彼の中で恋人になるという選択肢も現れるかもしれない、と踏んでのことだ。一方クリスの反応はというと。

「……………へ?友達?ミシェイルさんの?」

かなり混乱していた。マリアの兄であるミシェイルのことはもちろん知っている。彼と初めて会ったのは約二年前、クリスが高校一年の時だった。孤児院を手伝いに来ていたマリアを送迎しているのを見かけたのが最初だ。仕事の合間に来たのか、その時は高そうな黒のスーツ姿だった。それからは彼も妹とともに教会のイベントやボランティアを手伝うようになり、何度か話したことがある。が、ただそれだけだった。そもそも、友達というのは『なって?』といってなるものだろうか?だがとりあえずそこのところはひとまず置いておいて。

「…えっ…とマリア、さん、俺がお兄さんの友達、って無理があると思うんだけど…」

――片や財閥の御曹司、片やごく平凡な男子高校生では…

「そうだ!た、例えば、さ。グルニアのカミュさん、とかは?スペック的にも釣り合いが取れてると思うし、お兄さん、親しいんじゃないの?」

カミュというのはアカネイアの大企業である”グルニア”で代々要職を勤めている名門の出で、飛ぶ鳥落とす勢いの今のグルニアの繁栄も彼の手腕に依るところが大きいと専らの噂である。そんな彼は少し前にミシェイルと組み、”グルニア”と”マケドニア”のコンツェルンを実現していた。新聞にも載っていたことだから間違いない。二人でコンツェルンを実現するほどなのだから、余程の信頼関係にあると思ってのクリスの発言だったがマリアはムキになって。

「ビジネスパートナーと友達は違うわよ!」

と叫び、クリスは彼女の剣幕に怯んでハハ、と笑った。

「…そっか。わかったよ。マリアさん。俺でよければお兄さんの友達?になるよ。」

結局のところ、孤児院のパトロンからの(奇妙ではあるが)お願いだった。ついにマリアの頼みを引き受けたクリスだったが。

「本当に!?ああ、ありがとう、クリス!」

彼女が顔を輝かせながら両手をぎゅっと握ったところで一抹の不安を覚えた。

「ええと。でもお兄さんが何て言うか…」

――ミシェイルさん自身が難色を示すかもしれない。

だがマリアは自信満々に胸に拳を当て。

「全っ然、大丈夫よ。だって兄様自身があなたと友達(ゆくゆくは恋人)になりたがっているんだもの。」

「そ、そうなの?」

――ちょっと想像つかないな。

クリスはぎこちなく微笑った。――ところで。

「マリア。迎えに来たぞ。」

談話室の入り口の方から声が聞こえ、二人はそちらを見た。マリアの兄ミシェイルだった。今話題にしていた本人の登場にクリスは内心焦るが、

「ミシェイル兄様!」

と笑顔で兄の許へ駆け寄って行くマリアの後に遅れてついていく。

「兄様、やったわ、成功よ!クリスが兄様の友達になってくれるって!」

「……」

ミシェイルは信じられない、といった顔でクリスを見た。

「本当に?」

「ええ。俺で良ければ。」

「クリス…」

ミシェイルが嬉しそうに微笑む。彼の笑顔を初めて見たクリスはドギマギしてしまい。

「はは…まあ。これからよろしくお願いします?」

図らずも、顔が熱くなってくる。ミシェイルはそれを見て更に笑みを深くし、スマホを取り出すとクリスと連絡先を交換してマリアと共に帰って行った。

 

 

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