友達からの…   作:ちま

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作中に出て来るVIP席ですが、行ったことのある人に様子を聞いて書いたものの、細かい部分は想像・創作です。


第四話 ナイト・ドライブ

 

 

クリスがミシェイルの後についてスタジアム裏手の階段を上って行き、上階の外廊下に着くとそこには受付があった。ミシェイルはそこでチケットを見せて通り過ぎ、その先にある自動ドアの中へ入ったのでクリスも彼に続いて中へと入った。すると…

「え…」

そこは横長の広い部屋でマンダリンオレンジの絨毯床の上に座り心地の良さそうな4つの一人掛けソファーがセットされた正方形のローテーブルが十分な間隔で幾つも配置された、ホテルのロビーと見紛うような空間が広がっていて、クリスは驚いた。

「ここって…」

「VIPラウンジだ。」

「ビ…?」

「これはこれはミシェイルさんですね?ようこそおいで下さいました。」

ミシェイルに訊き返そうとしたクリスだったが、突如割り込んだ声に遮られた。声のした方を見ると髭を蓄えた威風堂々とした壮年のスーツ姿の男が友好的な笑顔でこちらへ近づいてくるところだった。

「初めてお目にかかります。チーム・アリティアを所有するアリティア・ホールディングス代表取締役のコーネリアスです。以後お見知りおきを。」

と言って流れるような所作で名刺を差し出したのでミシェイルも名刺入れを取り出し名刺を交換した。

「マケドニア・ホールディングスのミシェイルだ。よろしく。」

名刺を交換し終えるとコーネリアスを皮切りにして身なりのいい紳士たちが次々とミシェイルの許へとやってきては挨拶する。その度に丁寧に名刺交換をしていたミシェイルだったが、漸く解放されるとクリスを振り返った。

「ああ、すまない。俺の会社はチーム・アリティアのスポンサーで、定期的に親父宛てに招待券が送られてくるのだが、その送られた招待券を使う場合は事前に伝える必要があって、親父が俺と俺の友達が行く旨を伝えた際に現地で多くの人と挨拶を交わすことになるだろうと言われ、用意していたんだ。」

「……」

――だからスーツ姿だったのか。

クリスは合点がいった。ミシェイルは続けて。

「試合開始までまだ時間があるから飲み物でも貰いに行かないか?向こうのブースでは軽食も食べられる。」

「…えっ、ええ!そうですね、そうしましょう。」

自分には縁のないビジネスシーンを目の当たりにして放心していたクリスははっと我に返り、ぎこちなく微笑った。

 

 

そしてキックオフ。あちこちで応援旗が振られ応援用タオルが広げられるスタンドで数多の観客が声援を送る中、ついにチーム・アリティア対チーム・ドルーアの試合が開始された。

アリティア側のフィールドにはフォワードのカイン始め、ミッドフィルダーのアベル、ゴードン、ディフェンダーのフレイ、ゴールキーパーのドーガなど人気選手が、フィールド脇には厳しいと有名なジェイガン監督の姿が見える。

ファンたちの熱気と歓声に包まれ、優勢になったり劣勢になったりしながら試合は進行していく。

一方クリスは言うと。VIPラウンジにはフィールド側に横長のバルコニーがあり、そこに用意されたVIP用観覧席にミシェイルと並んで座って試合を見守っていたのだが、クリスは自分がこの場所にひどく不釣り合いな気がして落ち着かなかった。リュックに入れてもってきたミニメガホンもペンライトも、取り出して応援するような雰囲気ではなく(そこに居る人は誰一人として持っていない!)、隣のミシェイルを見ても長い脚を組んで静かに試合の様子を見ているだけだった。そんな中。チーム・アリティアのエースであるカインが先制点を決め、スタンドからワァッと歓声が上がった。

「やった!」

クリスは思わず椅子から腰を浮かせてガッツポーズを取ったものの、VIP席の観客(そのほとんどがスーツ姿の紳士だ)何人かがチラ、と彼を見ただけで反応は静かだった。

――やば。俺、浮いてる?

クリスは焦ったがミシェイルは彼に笑顔を向け、

「やったな。」

と言ったので多少は救われたような気持ちになった。が、やはり一般観覧席と温度差があるのは否めなかった。それでも時間が経つにつれ、クリスはファンの期待を裏切らずに活躍する憧れの選手たちや試合の進行を追うのに夢中になり、ほとんど気にならなくなっていた。

 

ついにゲームセット。試合はチーム・アリティアの勝利で終了し、ホームスタジアムでの勝利にアリティアファンの観客皆が沸き立った。クリスも感動のあまりフィールドを見つめたままバルコニーで立ち尽くしていると。

「お前の応援するチームが勝ってよかったな。…!」

とミシェイルが肩に手を置き、声を掛けてきたので思わず抱きついた。

「勝った…!勝ったんです!4-1の圧勝です!」

だがクリスはすぐに我に返り、気不味そうな顔で離れた。

「あ…すみません、俺、つい…」

「謝ることはない。友達なら嬉しい時に抱き合うのは普通だ。」

とは言いつつも今回ミシェイルは驚きのあまり硬直して抱擁を返せなかったのだが。その時。

「この後チーム・アリティアの選手たちがファンの皆様の来場と応援に感謝するためにトラックをパレードします。」

会場にアナウンスが響き渡り、クリスは顔を輝かせた。

「ミシェイルさん、選手たちを(フィールドより)近くで見られますよ!」

「ああ、楽しみだ。」

ミシェイルは実際はサッカーファンではなく、試合が終わればさっさと帰るつもりだったのだが、クリスの嬉しそうな顔に思わず微笑み、そう答えた。

程なくして試合後一旦退場していた選手たちが再び選手入場口から現れてパレードが始まった。選手たちはフィールド外側のトラックを練り歩きながら観客席の方を向いて笑顔でお辞儀し、廻って行く。そして彼らがVIP席のバルコニー前にやって来るとクリスは興奮気味に手を振り、ミシェイルは微苦笑を浮かべた後、彼に合わせて手を振った。

 

 

試合終了後、スタジアムから一斉に観客が帰り始めたことで道路は混んでいたが、高速に乗ってしまえば早かった。道路照明灯が白く照らす夜のハイウェイを黒のセダンが風のように走る。

「サービスエリアに寄りたいか?」

高速に入って間もなくミシェイルが訊いた。もしクリスが空腹だったら何か食べていこうと思ったからだが。

「え?いえ、特には…」

「そうか。それなら真っすぐ帰ることにする。お前の家がある辺りは道幅が狭いから家まで乗せては行けないが…周辺で降ろして欲しい場所はあるか?」

「うーん…それならセラ駅で。ロータリーがあります。」

「わかった。」

それきり会話は途切れ、車は静寂の中、走り続ける。

「…前にも一度、友達と4人で観戦に来たことがあって。」

ふと、クリスが口を開いた。ミシェイルはチラ、と彼の方を見た。

「友達の一人であるライアンはチーム・アリティアの選手、ゴードンさんの弟なんです。」

「そうなのか。」

「ライアンがお兄さんから青少年無料招待チケットをもらって、それで皆で行くことになって…」

クリスは片手を後頭部にやった。

「その時は電車とシャトルバスを乗り継いで行ったんだけど、…今日は、その、車を出してくれてありがとうございます。」

「別に。大したことじゃない。」

「あ…え…と、けれど、車を出してくれたお礼をしたくて…それにチケットのことも。だからその…よかったら今度、俺の家に遊びに来ませんか?」

「……」

――家だって?

クリスがどういう意図で言っているのか測りかねてミシェイルが沈黙する。

――まだデートも二度目でクリスは明確に俺と『恋人になる』とは言っていないし、そんな素振りもない。だがこれはもしかして、そういうこと、なんだろうか…?

鼓動が速くなるのを自覚しながら、その可能性を思い巡らすミシェイルにクリスが続けた。

「…それでまあ、あなたの口に合うかわからないけど、何か作ってご馳走しようかと…じいちゃんも俺の新しい友達に会えるのを楽しみにしているし…」

「……」

クリスの『じいちゃんも』という言葉を聞き、高鳴ったミシェイルの胸が一気に急降下した。

――まあ。いずれ恋人になるなら家族とも面識があった方がいいだろうな。

心の中で嘆息しながらもそう自身に言い聞かせて。

「礼なんて気にしなくてもいいのだが…お前がそう言ってくれるなら是非伺おう。」

とミシェイルは答えた。

「よかった…!それなら近いうちにまた連絡しますね。」

「ああ、待っている。」

それきり、再び会話が途切れたのだが。

「ふぁ…」

「…疲れているなら寝てもいいぞ。着いたら起こしてやる。」

クリスが欠伸をしたことでミシェイルが声を掛けた。遠出して観戦して確かに疲れており、更に応援するチームが勝ったことによる安堵と充足感に満たされていて、クリスは気を抜けばすぐに眠ってしまいそうだった。だから素直に。

「はは…ではお願いします。」

と言ってシートを倒した。案の定、眠りはすぐに訪れた。

 

「…おい、起きろ、クリス。着いたぞ。」

セラ駅に着くと、ミシェイルは背凭れを倒して寝ていたクリスの肩を揺すった。

「う、うーん…」

車内灯の明かりに眩しそうに眉を顰めながらクリスが身動ぐ。

「早く起きないと襲うぞ。」

いつまでも駅構内で停車していられないのは事実だったが、冗談(でも半分は本気)でミシェイルが言うとクリスはしぶしぶ目を開け。

「……揶揄わないで下さい。」

無造作に手を伸ばして運転席の裏側にあるフックに掛けてあった自分のリュックを(忘れずに)手に取り、不機嫌な顔でシートごと起き上がった。

「今日はありがとうございました。おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」

クリスが車を降りて助手席のドアを閉めると車は発進し、すぐに暗い道路の先に消えて行ったが、ふいに。今日という日のほぼ半日にあたる時間を共に過ごした存在が今はいないという事実にクリスは一抹の寂しさを覚える。まるで自分の隣の空間にポッカリと穴が空いたかのようだった。クリスは自身のその感情と感覚に戸惑い、無意識に黒のセダンが消えた道の先をぼんやりと見つめながら少しの間、佇んでいた。

 

 




ここまではノープロットで何となく書き進めましたが、第五話以降はさすがにラストまでの展開に目処をつけてから書かないと詰みそうなので、続きのUPめで少し時間がかかると思います。気長にお待ち下さい~~(^^;)
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