友達からの…   作:ちま

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今更ですがマリアは中学二年生という設定です。


第八話 団欒

 

 

「クリス、いらっしゃい!」

ミシェイルとクリスがロビーに下りるとちょうど玄関から入って来たマリアがキャリーバッグを放り出して駆け寄って来た。

「マリアさん。」

「君がクリス君かね?」

厳格な声に顔を上げると白いヘンプコットンシャツとチャコールグレーのストレートスクラブパンツを合わせた灰色がかった赤髪の紳士がマリアの後から家へと入ってくるところだった。彼の後ろには横側の前部分だけを長めにした赤髪のボブの女性が続く。クリスはきっとこの二人がミシェイルの父オズモンドと妹ミネルバだと確信し、丁寧な礼をした。

「初めまして、クリスです。この度はバカンスにお招きいただきありがとうございます。二週間よろしくお願いします。」

「ミシェイルの父オズモンドだ。こちらこそ、よろしく。」

片側の口端だけを上げて笑み、右手を差し出したのでクリスも微笑んでその手を握り返した。

「ミシェイルの妹ミネルバです。よろしく。」

「よろしく。」

次いで後ろの女性が前に歩み出てやはり手を差し出したのでクリスは嫋やかながらも力強いその手を同じように握り返す。

「ウォレンが食材を買い込んでおいてくれたから、早速夕食の準備をしよう。」

面識のない者同士の自己紹介が終わるとミシェイルが提案し、皆それに賛同した。

 

 

「とにかく皆お腹が空いてるから、手早く出来るものがいいわね。」

マリアの言葉にミネルバとクリスが頷いた。オズモンドとミシェイルはここキッチンにはいない。長時間の運転で疲れているだろうと気遣ってリビングで休んでもらっている(実際オズモンドはすぐに転寝し出した)。

「パンにハムにチーズ、ジュースはあるからあとはサラダとスープを作って、フルーツを切ればいいと思います。」

とクリス。マリアとクリスは教会のイベントで料理を作ることがあったため、それぞれがサラダとスープを担当してミネルバが食材を切ることにした。

「調味料も一揃い用意されてる。ウォレンさん、気が利くなあ。」

「ウォレンは毎年バカンスが終わった後、余った食材や開封した調味料を持ち帰って、次のバカンスの初めに新しいものを補充するの。定期的に別荘の掃除や換気もしてくれているわ。」

ミネルバが野菜を切りながら説明する。クリスは彼女に相槌を打って鍋にコンソメとカットトマト缶、水を入れて温め、切り終えた野菜にそのまま使えるレトルト豆、鶏肉を入れ茹でる。マリアはちぎって洗ったレタスを大皿に盛りつけている。

「最後に塩コショウして完成です。」

「私の方もあとは魚の缶詰を載せてドレッシングをかければでき上がりよ。」

「バゲットとハムとチーズとデザートのフルーツも切ったわ。」

三人は作業を終え、料理を次々とダイニングテーブルへと運ぶ。そしてすべての準備を終えた後、マリアが父と兄を呼びに行った。

 

 

円形のダイニングテーブルにまずオズモンドが座り、彼の両隣りに姉妹、斜め向かいにミシェイルとクリスがそれぞれ座り、皆で夕食を食べ始める。

「ふぅ…ミネルバと交替で運転して来たが、それでも疲れたわい。」

「来年は俺とミネルバの車を使うか?」

「その方がいいかもしれぬな。」

ミシェイルの提案にオズモンドが頷く。

「父様、サラダも食べて。私が作ったのよ。」

「おお、ありがとう、マリア。」

マリアが取り皿にサラダを取り分けるとオズモンドは感謝して受け取る。

「このスープはクリスが。」

ミネルバが言い添えるとオズモンドはスープを掬って口に運び、笑みを浮かべた。

「とても美味しい。薄味で食べやすくヘルシーだ。」

「「……」」

クリス(とマクリル)の料理を食べたときのミシェイルと同じ感想を耳にして二人が刹那、動きを止める。オズモンドは目を上げ改めてミシェイルの隣、自身の斜め向かいに座るクリスを見た。

「クリス君。今回は我が家のバカンスに参加してくれてありがとう。この別荘に客人が来るのは何年振りか。どうか自分の家だと思って寛いでくれ。」

「ありがとうございます。とても素敵な別荘で驚いています。」

「そう言えば、クリス君は武道をやっているのだったね。何でも大会で優勝するほどの実力だとか。」

「はは…確かに優勝はしましたが、かと言って達人の域というわけではありません。もっと精進しなければ…」

クリスがそう言って片手で後頭部を撫でた時、稽古の許可をもらうのに今がいい機会だと思いつく。

「え…とそれで、オズモンドさん。」

「何かね?」

「えと…皆さんは朝、何時頃に起きますか?」

「まあ8時頃だろうな。毎年そんな感じだ。何故?」

「このバカンスの間、早朝の海岸で武道の稽古をしたいんですが、よろしいですか?」

「ああ、いいとも。」

「では鍵はどうしたら…?」

まさか鍵をかけずに外に出るわけにはいかないと思い、クリスが尋ねる。

「それなら玄関にブレスレットキーホルダーにつけた予備の鍵があるから、それを使うといい。」

「わかりました。」

クリスは朝稽古ができることになって、ほっと胸を撫で下ろした。その後も他愛ない話や軽い笑い声が混じる夕餉の時は穏やかに過ぎて行った。

 

 

夕食を終え、(疲労でぐったりしているオズモンドを除く)めいめいが食器をキッチンに運び汚れを軽く洗い流してはビルトイン食洗機に入れていく。

「全部入ったわ。大容量を入れられるタイプは便利ね。」

マリアが言って専用洗剤を入れ、予約設定をして。

「これで朝方稼働し始めて朝食の準備をする時間までに洗浄・乾燥が終わる計算よ。」

腰に両拳を当て得意げに説明する。

「今日は移動で疲れているから皆もう寝んだ方がいいわね。」

ミネルバが言い、兄を見て。

「兄上。クリスはまだ高校生。恋人と一つ屋根の下にいるとは言え、くれぐれも…」

高校生と何かあればミシェイルの社会的立場上、スキャンダルになりかねない。

「わかっている。クリスが高校を卒業するまで待つつもりだから心配いらん。」

夕刻のバルコニーで熱烈な抱擁をしてしまったことは敢えて言わずに。

「今はおやすみのキスだけで我慢する。」

ミシェイルはクリスの腰を引き寄せ彼の蟀谷にキスをした。

「……」

――我慢している、って?ロディの言うように俺が性同意年齢に達していないから?

クリスはミシェイルに口にキスされることやそれ以上のことを想像してカーッと赤くなった。

「お、俺、もう寝ます。おやすみなさい!」

クリスは就寝の挨拶をすると慌ててキッチンから出て自分の部屋へ戻った。後には赤くなったクリスを見て首を傾げる兄妹が残された。

 

 

翌朝。AM6:00薄明の無人の海岸で。クリスは稽古着姿で武道の鍛錬を開始した。手早くウォーミングアップを済ませるとすぐに型稽古に入る。

「はっ、はっ、はあっ!」

基本の型から応用を経て仮想の相手をイメージしたスパーリングに入った。一心不乱に身体を動かし続けているとやがて自身が無になり、周囲の気の流れに溶け込んでいるかのように流麗なクリスの動きを道沿いをジョギングする人、そしてちらほら海岸にやって来始めた観光客たちが、好奇の目でチラチラと見る。そして…

ピピピピピ…

腕時計のアラームが鳴り、はっと我に帰ったクリスはくるりと踵を返し海岸から1、2分の距離にあるターコイズブルーの屋根と白い壁の別荘へと戻った。現在の時刻はAM7:30。皆が起床する8時に間に合うようにクリスは自室のシャワーブースで手早くシャワーを浴び、髪を乾かすのもそこそこに身支度を整え、途中ランドリーに寄って今しがた脱いだ稽古着などを洗濯機に入れてからリビングへと向かう。

「お早う。朝稽古の後シャワーを浴びたのか?」

「…わわっ」

ちょうど二階から下りて来たミシェイルがクリスを見て微笑み、まだ湿っている髪をそっと掻き揚げて額にキスをする。まだ彼しか起きていなかった。

――ミシェイルさんのスキンシップには随分慣れたつもりだったけど、朝一でこれとか。というか、よく考えてみれば二週間ずっと一緒に過ごすんだよな?

オズモンドのことばかりに気を取られていてその点には気が回らなかった。

「お、お早うございます。…?」

とりあえず挨拶を返したのだが、腰に両手を添えられたのに気づく。

「俺の部屋は朝、眩しい朝陽が差し込む。本当に明るい陽の光の中で目覚めるのは最高だな。」

クリスはそれが昨日、自身がバルコニーで言った台詞だと思い当たり、同調しようとして。

「…お前が隣にいれば、だが。」

続くミシェイルの言葉にフリーズした。

「……あ」

腰に添えられた手を後ろで緩く組まれ、微笑みながらそっと額に額を当てられて。間近でミシェイルの赤褐色の双眸を覗き込むことになり、クリスが息を呑む。

「ミ…」

それでもやっと声を出そうとした、その時。階段を下りて来る足音が聞こえて二人ははっとして離れた。

「「おはよ~」」

「お早う。」

「お早うございます。」

のんびりした声が聞こえ、ミネルバとマリアが二階から下りてきたのでミシェイルとクリスも挨拶を返した。オズモンドはまだ起きて来ない。

「やっぱり父様はまだ起きていないのね。父様が遅いのはいつものことだから、私たちでさっさと朝食を作っちゃいましょ!」

マリアが元気よく言い、皆で朝食の準備に取り掛かった。

 

 

パンとハムとチーズ、ドライフルーツ入りヨーグルト、カフェオレ、ポーチドエッグが載ったサラダの小鉢にオニオンスープ。栄養も量も十分な朝食を済ますと。

「皆で海に行きましょ!」

マリアが目を輝かせて言い、ミネルバとミシェイルがクリスを見た。オズモンドは一緒に行く気はないようで食後のコーヒーを飲みながら何かの雑誌を捲っている。

「え、ええ。もちろん。」

「じゃ、決まり!水着に着替えたらロビーに集合ね!」

マリアが言い、

――じいちゃんの言う通り水着を用意しておいてよかった。

と安堵するクリス含め皆が自室で着替えるため、一旦そこで解散する。クリスは途中ランドリーに寄って乾燥まで終わっていた稽古着を回収し自室へと戻った。

 

 

クリスとミシェイルが姉妹たちよりも早く着替え終えて先にロビーへとやって来た。クリスはネイビーの、ミシェイルはブラックのサーフパンツに、水色と白の綿のシャツ、黒のキャップに緩い顎紐が付いたベージュの日除け帽子、同じようなフラットサンダルをそれぞれ身に着けていた。そして…

「「お待たせ~」」

という声とともに姉妹が二階から下りて来る。ミネルバはローズレッドのブラジニアンビキニに薄桃色のショートパンツ、広いつばで薄茶色の麦わら帽子を、マリアはローズピンクの水陸両用スポーツブラとサーフパンツに黄色いリボンを後ろで結んだアイボリーの麦わら帽子を合わせ、二人ともフラットサンダルを履いて薄黄色の綿のシャツを羽織っていた。

「二人ともとっても可愛いです。」

クリスが感嘆して言うと姉妹は彼の賛辞に笑顔になった。

ミネルバとマリアでバスタオル、日焼け止め、水筒とスタッキングコップ、レジャーシート、ビーチボール、小銭が入ったペーパーバッグを、ミシェイルとクリスでビーチパラソルと折り畳みチェアを持って行くことにして。

「行って来まーす!」

オズモンドにマリアが元気に手を振ると4人は海岸に向けて出発した。

 

 




海外風の生活描写ですが学校制度は日本準拠です。何か入り混じっててすみません(・・;)
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