友達からの…   作:ちま

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このお話のマリアは中学生、ミネルバは20歳という設定です。


第九話 思い出

 

 

別荘の前の道路を渡ればもう砂浜という近さで、4人はすぐに海に着いた。既に大勢の人で賑わっている。午前中でまだ日差しもそれほど暑くなく、砂も温かい程度だった。早速砂浜の空きスペースにビーチパラソルを立て、2つの折り畳みチェアを置きレジャーシートを敷いた。

「はい、日焼け止め。」

ミネルバが人数分のチューブをペーパーバッグから取り出して手渡し、皆が日焼け止めを塗ろうと帽子とサンダルとシャツ(ミネルバはショートパンツも)を脱いだとき。

「きゃーーっ♡」

兄とクリスの半裸を見てマリアが黄色い悲鳴を上げた。

「は、はは…マリアさん、ガ、ガン見、しないで。」

「気にするな。いつものことだ。」

クリスがぎこちなく言うがミシェイルは特に気にせず日焼け止めを塗り始める。

「マリアもちゃんと日焼け止めを塗って。塗らないと酷いことになるわ。」

「はーい!」

ミネルバが自身に塗布しながら妹を促すと素直に擦り込み始めた。そんな中で。

「クリス。背中に塗ってやる。」

先に塗り終えたミシェイルが言い、クリスがお礼を言って背を向けると彼の大きな手が背中を滑り出す。

――わっ!?

最中、撫で下ろした手の指先がウエストバンドの内側を撫でたのでクリスは肩を撥ねさせた。程なくして背を塗り終えて。

「次は俺の方も頼む。」

ミシェイルが長い赤髪を縛って前側に垂らし、自身よりも背の低いクリスが塗りやすいように折り畳みチェアに横向きに座った。クリスが彼の背に日焼け止めを丁寧に塗っていくと、思ったよりも筋肉がついているのがわかった。

――硬い。何かスポーツをしているんだろうか?

「何かスポーツをしていますか?」

「ん?ああ、フェンシングと乗馬を少々。」

「へえー…」

今まであまりミシェイル自身のことを訊いたことがなかったものの、新たな一面を知って彼に興味が湧く。――が。

――ミシェイルさんのことを知ってどうなる、って言うんだ?たぶんこのバカンスの後、別れることになるだろうに。

そう思い、すぐに興味を失くす。

「こっちは塗り終えたわ。準備体操をして海に入りましょ。」

「さんせーい!」

クリスがミシェイルの背を塗り終えるのとほぼ同じタイミングでミネルバとマリアが言い、皆で軽く身体を解しストレッチをした後、海へと入った。海は風も波も穏やかで砂が見えるほど水も透明だった。

「冷たくて気持ちいーい!」

海水に浸かるとマリアが言い、皆が互いに離れすぎないように遊泳を楽しむ(ミネルバ以外の3人はサーフパンツを履いているがファッション的な選択であってサーフィンをするわけではない)。

――海なんて小学校のバス旅行以来かな。

クリスが感慨深く思い出していると。

「よし、じゃあビーチボールしましょ!」

暫く泳いだ後にマリアがザバッと立ち上がってレジャーシートの上に置いてあったペーパーバッグの中からビーチボールを持って来た。

「俺が膨らませよう。」

ミシェイルが言ってマリアからビーチボールを受け取り、瞬く間に膨らませる。

そして…4人で輪になりビーチボールをトスしながら小一時間ほど過ぎた頃。

「ちょっと休憩しましょ。」

マリアが言ったので皆が海から上がった(バカンス中の行動局面においてほぼ彼女がリーダーだ)。パラソルの処に戻るとミネルバが人数分のバスタオルをペーパーバッグから取り出し、手渡す。女性二人は折り畳みチェアに、男性二人はレジャーシートにタオルを敷いて座った。チェアに座ったままミネルバがスタッキングコップに水筒の水を注いでクリスに差し出したので彼はまず隣に座るミシェイルにそれを手渡し、次に自分の分を受け取る。

「海…久しぶりだ。小学校のバス旅行以来です。」

陽が高くなるにつれて段々と眩しくなっていく海と空を見ながらクリスが呟く。海風が快い。ミシェイルは彼の方を見た。

「家族で来たことはないのか?」

「ええ。家には車もないし、電車では遠い。」

「では毎年バカンスはどのように過ごしていたんだ?」

「バカンス…というか夏休みは武道の稽古に、学校のプール解放日は行って泳いで。あと地域の祭りや子ども会の行事や…たまにじいちゃんと日帰りで山とか温泉とか行ったり。」

「山に温泉…いいな。」

それ以外のことに馴染みのなかったミシェイルはとりあえずその部分に相槌を打った。

「だから…今夏のバカンス、とてもいい思い出になりそうです。」

まるで海に来るのはこれが最後のようなクリスの物言いをミシェイルは少しばかり不思議に思うが。

「それはよかった。」

とりあえずそう答えてから、はっとする。

――そうか。来年以降は俺の家族と一緒にではなく、この海以外の処で俺と二人で過ごしたいと言いたいのだろうか?

来年の夏は計画通りに行けばアンリ市で同棲しているはずである。彼が望むならそれもいいかもしれない、とミシェイルは思った。

それから。休憩を終え、再び皆で海に入り泳ぎ遊び、陽も高くなってそろそろお昼時だと判断した頃。4人は海から上がり、帽子とシャツ、サンダルを身に着け、パラソル含め、置いていたものを片付けると別荘へと引き上げた。

 

 

4人が別荘へ戻ると前庭のガーデンテーブル脇にハンギングパラソルが設置されていて、テーブルの上にポータブル電源に繋いだホットプレートが置かれていた。

「お、戻って来る頃だと思ったよ。」

その時玄関のドアが開き、肉と野菜を刺したバーベキュー串を載せたステンレス製の角型トレーを持ったオズモンドが出て来てにっこりと笑った。

「飲み物を持ってくるから焼き始めてくれるかい?」

オズモンドはトレーをテーブルに置くと再び家の中に入って行った。ビーチパラソルと折り畳みチェアをシェッドに片付けると言われた通り4人で串を焼き始めるが。

「これだけでは足りないだろう。俺がもう一品作ってくる。」

ミシェイルが言い、彼も家の中に入って行った。やがてオズモンドがライトグリーンのトレーに人数分の瓶とグラスを載せて戻ってきた。

「アップルタイザーを冷やしておいたんだよ。」

「素敵!父様!」

マリアが両手を組み合わせて歓声を上げる。どうやら彼女が好きな飲み物らしい。ミネルバは瓶の栓を次々と開け、ガーデンチェアが置かれているそれぞれの席にグラスと共に置いていった。ミシェイル以外の4人で座って雑談しながら串が焼けるのを待っていたが、串が焼けてもミシェイルが戻って来ないので様子を見に行こうとオズモンドが腰を浮かせかけたところ。

「あ、俺が様子を見てきます。」

クリスが言い、家の中に入って行った。キッチンに行くとミシェイルがフライパンで何かの料理を作っていた。

「こちらは串が焼けたけど…」

「もう少しかかるから先に食べていてくれ。来たついでに取り皿とフォークを人数分、あとトングも持って行ってくれるとありがたい。」

「わかった。」

クリスは言われたものを用意しトレーに載せて前庭に戻った。そして他の人にミシェイルの言葉を伝え、先に皆で食べ始める。

程なくしてフライパンと鍋敷きを持ったミシェイルが前庭に戻って来た。

「兄上、これは…」

「フィデウア。米の代わりにパスタを使用したパエリアだ。冷凍エビがあったから作ってみた。作るのは初めてだから出来は保証しないが。」

食卓に載った料理を見てミネルバが尋ねるとミシェイルが説明した。マリアが最初にフィデウアを小皿に貰い、口に運ぶと。

「美味しいわ!兄様!」

頬に片手を当て、幸せそうに微笑った。他の三人も次々に取って食べ、称賛する。皆の賛辞にミシェイルも満足げに微笑み、自身も食べ始めた。

そして…楽しく歓談しながら澄み渡る青空の下、前庭での昼食を終え、午後はどう過ごすか皆で話したところ。

「私は昼寝をしようと思う。」

「私も。ちょっと疲れたわ。」

とオズモンドとマリア。

「クリス。お前はどうする?」

「俺…も朝稽古と海で疲れたので少し寝て…それから勉強しようかと。」

「勉強…そうだな。それがいい。」

「兄上。よかったらベーカリーとか、一緒に買い出しに行きませんか?」

「ああ。ではそうするとしようか。」

ガッカリした様子の兄を気遣ってミネルバが申し出るとミシェイルは頷いた。

 

 

その日の夕食を準備する時間になって。

「お前たちが海に行っている間にウォレンが魚のお裾分けを持って来てくれたんだよ。」

そう言ってオズモンドが冷蔵庫に保存していた幾つかの魚を取り出した。

「まっ♡それならこの大きな魚をアクアパッツァ、十数尾の小魚を揚げ物にしましょ♪」

マリアが提案し、他にも野菜とウィンナーのコンソメスープとココットを作ることにし、昨晩とは違い今日はオズモンドもミシェイルも調理に加わったのでキッチンでわいわいしながらも楽しく料理を作ることができた。ストックからハム、チーズ、フルーツを切り、ティーを入れ、あとはミシェイルとミネルバが昼間買ってきたパンを加えれば十分だった。全ての準備が整い、皆が食卓に着こうとしたところ。

「ああ、そうだ。私は白ワインが飲みたいんだが、ミシェイル、ミネルバ、一緒に飲まんかね?」

そう言ってオズモンドが二人を見た。

「…私だけ付き合います、父上。兄上はやめておいた方がいいでしょう。」

「? 体調でも悪いのか?」

ミネルバが兄をチラ見したのにオズモンドが首を傾げるが。

「いや、そうわけじゃないんだが、今日は遠慮するよ。」

肩を竦めてミシェイル本人が断ったので、父親もそれ以上は誘わなかった。

それから皆で夕食を頂き、食べ終えた時。

「クリス。この後バルコニーで話さないか?」

皆で皿をキッチンに運びながらミシェイルがクリスに耳打ちした。

「え?ええ。もちろん。」

――何の話だろう?

クリスが不思議に思うが。

「それなら片付けが終わったら俺の部屋に行こう。」

ミシェイルが囁き、彼を追い越してキッチンに入って行った。

 

 

夕食の片づけを終え、クリスはミシェイルとともに彼の部屋を通りバルコニーに出ると…

「あ…?」

外壁に沿ってボール電球が等間隔についたコードが飾られていてバルコニーを柔らかいオレンジ色の光で照らしており、そこには緩いS字型の寝椅子が二つ、ぴったりくっついて並べられていた。

「昼間お前が勉強していて俺が寂しそうにしていたからか、ミネルバが寝椅子と電球ガーランドを用意してくれてな。飾りつけも手伝ってくれたんだ。」

ミシェイルはクリスの手を取って寝椅子へと導き、手を引いて寝椅子に座らせると自身も空いている方に座った。

「夕食の時、俺がワインを飲まなかったのは酔ってお前と二人きりになるのはまずいだろうという彼女の配慮だ。」

「……」

――ただ二人で過ごすため?話があるわけじゃないのか。

クリスは少し拍子抜けしたような気分になるが、嬉しそうなミシェイルの様子にどうでもよくなった。手はまだ握られている。

「寝椅子に寄り掛かるといい。楽だぞ。星空も見える。」

そう言ってミシェイルが寝椅子に身を沈ませたのでクリスも深く背を凭れ掛けさせた。頭上には夏の夜空が広がる。

「…綺麗ですね。」

何故か、今この瞬間の星空と手の温もりをきっとずっと忘れないだろうと、クリスは思った。

 

 

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