魔法少女リリカルなのは 黒の残響   作:世紀末ドクター

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 基本的に「リリカルなのは」のテーマって「絆」がメインになるので、それと真っ向から対立する「孤独」をアイデンティティとするキャラを主人公にしてみました。




無印編
第1話『失敗作の烙印』


 夜の闇が広がる中、焚き火の光が揺れている。

 ミッドチルダの僻地、スクライア一族の遺跡調査キャンプ。

 星々が瞬く空の下、焚き火から離れた岩場に一人腰掛ける少女がいた。

 10歳ほどの外見。銀がかったセミロングの金髪が、夜風に揺れる。幼い姿とは裏腹に、彼女の赤い瞳には深い孤独と、まるで刃のような鋭さが宿っていた。

 もし「魔法少女リリカルなのは」という物語を知る者がいれば、彼女をフェイト・テスタロッサに似ていると思うだろう。

 

 

「…失敗作、ね。ふん、笑わせるわ」

 

 

 少女――フェイルは小さく呟き、唇を歪める。その名は、彼女が生まれた意味を嘲る烙印だ。

 アリシア・テスタロッサのクローンとして創られながら、プレシア・テスタロッサに「失敗作」と呼ばれ、幼い頃に追放された。

 それでも、彼女は生き延びた。フェイルの側には、彼女の身長には不釣り合いな1.8mの黒い錫杖が地面に突き立っている。

 

 

 ――魔法デバイス「サンサーラ」――

 

 

 それなりにカスタマイズを施した今ですら、レイジングハートやバルディッシュのようなAIは搭載されておらず、標準的な魔導師にとっては、ただの金属の棒に毛が生えた程度の粗末なものだろう。だが、フェイルにとってそれは命綱であり、過去の呪いの象徴でもあった。

 

 

 彼女は目を閉じ、記憶の底に沈む。

 

 

 転生、追放、放浪――全てが、まるで昨日のことのように鮮明に蘇る。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ―――フェイルの意識は、遠い記憶へと滑り込む。

 

 

 前世――30歳の会社員だった頃。前世での名はもう思い出せない。だが、格闘技と武術に打ち込んだ日々は鮮明だ。

 少林寺拳法六段を基盤に、合気道、柔道、空手、ブラジリアン柔術、棒術、剣術などの多岐に渡る格闘技と武術を研究して来た。

 

 

「滝浴びとか山籠もり?目的や効果が曖昧な修行なんて時間の無駄」

 

 

 彼はそう考え、筋力、技術、戦術を合理的かつ徹底的に磨いた。総合格闘技のジムにも通ったし、アマチュア修斗の試合にも何度か出た。競技ではそこまで圧倒的に強い訳ではなかったが、その辺の不良みたいな素人が相手のストリートファイトなら無敵に近い自信があった。会社員としての平凡な日常を、格闘技と武術が彩った。

 

 大学時代、格闘技仲間の友人が「魔法少女リリカルなのは」のオタクだった。魔法、デバイス、ロストロギア、フェイト・テスタロッサ――熱心に語る友人を、半笑いで聞き流した。余りにも熱心に布教してくるから、貸してくれたDVDは一通り視聴したが、あの知識が、こんな形で呪いになるとは思わなかった。

 

 

 ある日、帰宅途中でトラックに撥ねられた。次の瞬間、目を開けると、冷たい実験室のベッドだった。鏡に映るのは、金髪の幼い少女。原作の「リリカルなのは」に登場するフェイト・テスタロッサに似た顔。だが、髪と瞳の色合いが微妙に違う。すぐに悟った。自分はアリシアでもフェイトではない。「失敗作」のクローンだ。

 

 

 目が覚めた後、彼女はプレシアの前に連れ出された。

 プレシア・テスタロッサの氷のような視線が、幼いフェイルを貫く。

 

 

「お前はアリシアではない。失敗作(Fail)だ」

 

 

 その言葉は、幼い心に焼き付いた烙印だった。

 プレシアの失望が、フェイルの存在を否定する。前世での「原作知識」がなければ、ただの子供として壊れていたかもしれない。

 だが、フェイルは知っていた。プレシアの狂気、フェイトの未来――そして、自分の「失敗作」という役割を。

 

 

「お前は必要ない。出て行きなさい」

 

 

 プレシアの声が響き、フェイルは実験室から引きずり出された。

 リニスと名乗る女性が、申し訳なさそうな目で黒い長杖を差し出した。

 

 

「せめて、これを持って行きなさい」

 

 

 それはまだこの時点では「サンサーラ」とすら名付けられていない、AIも碌な魔法も搭載されていない、ただの金属棒。

 レイジングハートやバルディッシュとは比べ物にならない粗末なデバイスだ。リニスの瞳に浮かぶ憐れみに、フェイルは吐き気を覚える。

 

 

(偽善にも程がある)

 

 

 手が震えながらも、杖を受け取るしかなかった。

 どことも分からない次元世界の荒野に放り出された。5歳の体、魔法の知識は皆無。頼れるものは何もなかった。フェイルは杖を握り、ただ歩き続けた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 放浪の2~3年は、フェイルの心を削り取った。

 放り出された僻地は、魔獣や盗賊が跋扈する死地だった。食料は木の実、川の魚、時には魔獣の死骸。

 寒い夜は岩陰で震え、雨に打たれながら歩いた。与えられたデバイスは、魔法の導体ではなく、ただの杖・ただの武器として握られた。

 

 最初は絶望しかなかった。5歳の体で、どうやって生きればいい?前世で鍛えた武術も、幼い体では限界がある。魔法なんて使ったこともない。

 

 だが、ある日、フェイルが住処にしていた遺跡に盗賊が侵入してきた。

 

 

「おい、ガキ!そこに隠れてても無駄だ!」

 

 

 盗賊の一人がナイフを振り上げ、フェイルを押さえつける。

 殺される――その瞬間、盗賊が放った魔法の輝きが、フェイルの目に焼き付いた。魔力の流れ、身体を強化する感覚。

 それが、彼女の中でカチリと歯車を噛み合わせた。

 

 

(ああ、魔力って、こういうものなのか)

 

 

 次の瞬間、フェイルは動いていた。

 魔力を本能で操り、身体能力を爆発的に強化。押さえつけていた盗賊を跳ね除け、瞬時に背後に回る。背後から首に手をかけ、躊躇なく捻じ折った。

 骨の砕ける音が響いて、ドサリと倒れた。

 

 

「なっ!?」

 

 

 首が回ってはならない位置まで捻転して倒れた盗賊に他の二人が驚愕する。

 それを無視して、フェイルは無言で地面に転がるサンサーラを拾う。棒術の型で構え、魔力を纏った一撃を放つ。風を切り裂く杖が、盗賊の顎を削ぎ飛ばした。次の突きの一撃が残りの鳩尾をぶち抜いていた。血と泥に塗れたサンサーラを握り、フェイルは息を整える。

 

 

「…生きる。それだけだ」

 

 

 だが、夜の静寂が襲うたび、孤独が心を蝕んだ。

 誰もいない。助けてくれる者も、話す相手もいない。プレシアの「失敗作」が、頭の中で反響する。

 しかし、それでも、彼女は止まらなかった。持前の徹底した合理性が彼女を突き動かし、生き残らせた。

 魔力を感覚で操り、超高速移動を編み出した。ただひたすらに生き残るための戦い方だけを追求した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 9歳の時、フェイルはスクライア一族と出会った。

 遺跡調査に来た調査員を、彼女は盗賊と間違えた。ボロボロの服、血と泥に塗れたサンサーラを手に、フェイルは10人の調査員を瞬時に制圧した。

 

 

「動くな!」

 

 

 フェイルはリーダーの男を少林寺拳法の仏骨投げで地面に叩きつけ、サンサーラを振り回して残りを薙ぎ払った。

 魔力強化された動きは、9歳の少女とは思えない速さと力だった。

 

 

「何者だ!?」

 

 

 調査員の一人が叫んだ。

 フェイルは無言でサンサーラを構え、殺意を滲ませる。生き残るために戦う――それだけだ。

 

 

「待て、落ち着け!儂らはただの遺跡の調査隊だ!」

 

 

 年配の男性が手を挙げ、フェイルを止めた。

 叫んだのは、スクライア一族の長老だった。

 

 

「お前…こんな子供が、一人で生きてきたのか?」

 

 

 フェイルは答えなかった。

 長老の目は、プレシアの失望やリニスのような憐れみではなく、理解のような光を帯びていた。

 長老は静かに続ける。

 

 

「…儂らはキミの敵ではないよ。キミが良ければだが、一緒に来るか?」

 

 

 フェイルは一瞬迷ったが、頷いた。

 食料と寝床があれば、生き残る確率が上がる。それから、フェイルはスクライア一族と一緒に行動するようになった。

 スクライア一族の遺跡の調査に同行し、そこで遭遇した魔獣や盗賊などをフェイルが倒す。その代わり、食料と寝床を得る。

 いつの間にか、一族に保護されてるのか、一族を護衛してるのか、よく分からない立ち位置に収まっていた。一族の誰とも少し距離を置いて、あまり深く関わりはしない曖昧な立ち位置。

 

 

 だが、彼らと共に行動するようになったことで、初めて体系的に魔法を学べた。

 そのことは確かに大きかったが――

 

 

(はっきり言って、大したことないな)

 

 

 学んだ結果、魔法という技術に関してそれ程凄いとは感じなかった。

 大規模な砲撃や大量の弾幕射撃は確かに脅威だが、そもそも撃たせなければ良いだけだ。

 フェイルが新たに覚えたのは、バリアジャケットと飛行魔法だけで、射撃系の魔法は覚えなかった。その代わりにスピードを徹底的に高めた。

 相手の懐に入りさえすれば、あとは自分の武術スキル・接近戦の技量差で確実に仕留められる。バリアジャケットは打撃の衝撃や魔力のダメージは軽減するが、関節技は防げない。バリアジャケットの防御がいくら堅くても、相手の肘や肩の関節、首の骨をへし折れば終わりだ。

 

 

「全く…とんでもなく、物騒な少女じゃわい」

 

 

 ひたすら戦うための能力を磨き続けるフェイルを見て、一族の族長はそう言っていた。

 だが、その一方で一族内の女性からは、こうも言われた。

 

 

「折角、可愛い女の子なんだから、せめて口調だけでも女性らしくしなさい」

 

 

 一族の女性たちから口うるさく言われ、フェイルは仕方なく「~わ」「~ね」を使うようになった。内心では「面倒くさい」と毒づいたが、妥協した。

 ちなみに、バリアジャケットも「ヒラヒラした女の子らしいデザイン」を強制されそうになり、先手を打った。前世で見た「ブラックロックシューター」の服装を参考に、黒のビキニ、ホットパンツ、長い裾のジャケット、黒ブーツを指定。「これでいいでしょ?」と皮肉に笑った。

 

 

 デバイスもこの頃に初めて本格的にカスタマイズした。

 装飾も何もないただの長杖だったのを錫杖の飾りをつけて、デバイスに「サンサーラ」の名前を付けたのもこの時だった。輪廻転生――転生者の自分への皮肉だ。

 スクライアの一族と出会ってから1年。10歳になる頃には、彼女の戦闘技術の基盤は、概ね完成したと言えた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ――遠い過去に沈み込んでいた意識が浮上する。

 

 

 フェイルは眼を開くと同時に傍に突き立てていたサンサーラを掴み取り、まるで居合の抜き打ちのように一閃する。

 

 

「ふっ!」

 

 

 超高速で動く姿は、まるで夜の闇に溶ける影。杖を振り、風を切り裂く。

 魔力を全身に巡らせ、残像を残す速さで突進。地面を叩き、衝撃波を起こす。

 彼女の動きは、武術と魔法の融合――生き残るために磨き上げた技術の結晶だ。

 

 

「まだやってるの?」

 

 

 幼い声が響き、フェイルは鍛錬の動きを止める。

 7歳の少年、ユーノ・スクライアだ。原作知識から、彼が2年後に「高町なのはの相棒」だと知っている。

 だが、フェイルにはどうでもいい。ただの一族の子供だ。

 

 

「何か用?」

 

 

 フェイルはサンサーラを肩に担ぎ、冷たく問う。

 もともと原作に関わるつもりなど一切無かったし興味もなかったが、以前に彼を魔獣から助けて以来、微妙に懐かれている。

 ユーノは少し照れくさそうに笑う。

 

 

「いや、ただ…フェイル、いつも修練してるなと思って」

 

 

 フェイルは鼻で笑い、岩に腰掛ける。

 

 

「一人でも生きていけるようによ。ここまで、私はたった一人で生き抜いた」

 

 

 彼女の声は淡々だが、どこか重い。

 ユーノは目を丸くし、だがすぐに微笑む。

 

 

「へえ、すごいね!フェイル、めっちゃ強いんだ!」

 

 

 フェイルの手が一瞬止まる。

 プレシアからの「失敗作」の烙印、リニスの憐れむ目、盗賊の敵意――誰も彼女を「すごい」と言わなかった。

 ユーノの純粋な言葉は、彼女の心のどこかを小さく揺さぶる。

 

 

「…当たり前よ。弱かったら、死んでるわ」

 

 

 フェイルは視線を逸らし、続ける。

 彼女の言葉には、磨き上げた強さへの自負が滲む。

 

 

「あの荒野をたった一人で生き抜いたんだ。―――少なくとも、弱いわけがない」

 

 

 ユーノは頷き、隣の岩にちょこんと座る。

 

 

「でもさ、なんでそんなに修練するの?今でも十分強いよね?」

 

 

 フェイルはサンサーラを手に、星空を見上げる。

 

 

「強さは、生き残るための道具よ。止めたら終わり。盗賊も魔獣も、待ってくれない」

 

 

 ユーノは少し考え、純粋に言う。

 

 

「そうだね。フェイルはほんとにすごいよ。お陰で僕らは安全に発掘調査が出来てるし!」

 

 

 フェイルの瞳が一瞬揺れる。

 ユーノの笑顔は、プレシアの冷たさや、放浪の夜の闇とは違う。

 彼女は小さくため息をつき、立ち上がる。

 

 

「…感謝なんていらないわ。役割を果たしてるだけ」

 

 

 だが、内心で、ユーノの言葉が小さく響く。

 フェイルはサンサーラを握り、訓練を再開する。

 

 

「もう遅い。子供は寝なさい」

 

「はーい!」

 

 

 ユーノは笑って手を振り、キャンプへ戻る。

 フェイルは彼の背中を見送り、ふっと唇を緩める。

 

 

「…バカね、あの子」

 

 

 彼女は再びサンサーラを振り、夜の闇に溶け込む。

 だが、その動きには、ほんの僅か――ユーノの笑顔が灯した温かさが宿っていた。

 

 




あとがき:

 魔法少女リリカルなのはの原作は「絆」がテーマですが、それと真っ向から対立する「孤独」をアイデンティティとするキャラがメインです。

 フェイルにとって、孤独は弱さではなく、誰にも頼らずに生き抜いた誇り。彼女にとって、孤独とは弱さではなく、強さの証明。だから、彼女の孤独を弱さや憐みの対象として同情を寄せて来たような相手にはブチ切れる。彼女の強さと誇りをそのまま認めてくれた相手には、ちょっとだけ心を開く感じのキャラで、結果的に、ユーノに対しては距離感を置きながらも、それなりに心を開くようになる。2年後の原作の開始時点ではユーノとは姉と弟みたいな関係になる予定。

 ただ、原作の主人公であるなのははフェイルに対しても、フェイトと同じような「可哀そう」的な対応をしてしまう所為で、徹底的に壁を作られて、とことんまでなのはとは対立する。特に原作の名セリフだった「名前を呼んで」は、失敗作の意味の名前を持つフェイルにとっては地雷も良いところで、フェイルの神経を逆撫ですることになる。多分、なのはの「名前を呼んで」に対して「私の名前を気安く呼ぶな」とか言っちゃう。

…という、コンセプトで、第1話だけ書いてみたんですがどうですかね? 気が向いたら続きを書くかも。
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