魔法少女リリカルなのは 黒の残響   作:世紀末ドクター

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第4話『揺れる心』

 

 

 ――海鳴市、高町家。

 

 フェイルと別れて自室へ戻った後、なのはは机に座り、待機モードのレイジングハートを見つめていた。待機モードのレイジングハートは赤い宝石の光を点滅させながら、自己修復を進めている。

 

 

「レイジングハート、破損しちゃったけど…大丈夫なの?」

 

 

 なのはの問いに、丸くなっていたユーノがフェレット姿のまま顔を上げる。

 

 

「ちょっとした損傷なら自己修復するから大丈夫だよ。多分、明日の夕方までには直るんじゃないかな」

 

 

 ユーノの言葉に同調するように赤い宝石が静かに瞬く。

 その光を見つめながら、なのはは昨夜のフェイルの言葉を思い返していた。

 フェイルの冷静すぎるほどの声――「虐待」という言葉は、今もなのはの心の奥に残っている。

 

 

「フェイルさんの言ってた虐待って…ホントなのかな…?」

 

 

 ユーノは困ったように目を伏せ、言葉を選ぶように答える。

 

 

「…分からない。でも、フェイルは徹底的な現実主義者だから、ハッタリや根拠のないことは言わないよ。それに、フェイル自身だって…」

 

 

 以前にフェイルから聞いた境遇を思い出すユーノ。

 フェイルがスクライア一族と一緒に暮らすようになる前は、生みの親に捨てられて、たった一人でサバイバル生活を続けていたと言っていた。

 ユーノは酷く苦々しい顔をしながら言葉を続ける。

 

 

「フェイルの事情は僕からは言わないけど…あの子の親がフェイルと同じだって言うなら、虐待っていうのは多分ホントなんじゃないかな…」

 

 

 なのはは目を伏せ、レイジングハートに手を添える。

 

 

「フェイトちゃん…今、どこで何してるんだろう」

 

 

 ベッドに横になった後も、フェイトのことが頭から離れなかった。

 

 

 翌朝――

 

 

 朝の支度を終えたなのはは、制服姿で玄関に立っていた。

 ユーノはフェレット姿のまま、玄関の棚の上から見下ろしている。

 

 

「気をつけてね、なのは。レイジングハートが直ったら、すぐに持って行くよ」

 

「うん。ユーノくんも、フェイルさんと一緒に気をつけてね」

 

 

 靴を履きながら、なのははふと立ち止まる。

 ドアの向こうに広がる日常の風景が、昨日までとは少し違って見えた。

 フェイルの言葉。フェイトの瞳。プレシアという母親の存在。

 それらが、なのはの胸の奥に重く沈んでいる。

 

 

(フェイトちゃん…本当に、そんな目に遭ってるの?)

 

 

 なのははドアノブに手をかけ、深く息を吸った。

 そして、静かに呟く。

 

 

「もし…本当にそうなら、私…やっぱり、放っておけないよ」

 

 

 ドアを開けると、朝の光が差し込んだ。

 鳥の声、通学路のざわめき、制服姿の友達の笑い声――それらが、なのはを日常へと引き戻す。

 だが、彼女の心はもう、ただの「日常」だけでは満たされない。

 

 

(フェイトちゃんに、届いてほしい)

 

 

 私の言葉も、気持ちも、全部。

 なのはは学校へと歩き出した。その背中には、まだ見ぬ戦いと、まだ語られていない物語が静かに重なっていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ──昼過ぎ。なのはがまだ学校に行っている時間帯。

 

 海鳴市の片隅、静かなモーテルの一室では、遮光カーテンの隙間から、うっすらと光が差し込んでいた。

 昨夜、カツアゲで現金を手に入れたフェイルは、日課である夜の訓練を終えた後、適当なモーテルに泊まっていた。

 フェイルはベッドの上で仰向けになったまま、意識を引き上げる。昨夜は繁華街でカツアゲした後、遅くまで訓練を続けていたせいで、眠りについたのは朝方だった。ようやく目を覚ました今の時間は、すでに太陽が傾き始めている。ベッドの上の彼女が身に着けているのは、白のスポーツブラとショーツの下着だけだ。ベッド脇のデジタル時計を確認し、フェイルはようやく身体を起こした。

 

 

(寝るのが遅かったとはいえ、少し寝すぎた…)

 

 

 小さく息を吐きながら、彼女は下着姿のまま洗面台へと向かった。

 顔に水を当ててから、濡れた手をタオルで拭き、ざっと髪をまとめる。鏡に映る自分の顔は、眠気で少し輪郭が和らいでいたが、すぐにいつもの冷静さが戻ってくる。

 そのとき、彼女の脳裏にユーノから念話の通信が飛んでくる。

 

 

「今から会えない?」

 

「…いいわよ。支度が済んだらね」

 

 

 フェイルは昨日と同じ簡素なシャツと黒い膝丈のスカートに着替えを済ませた。

 モーテルの自動精算機でのチェックアウトを終えると、フェイルは待ち合わせの場所へ向かう。

 昨日の夜と同じ公園。木々のざわめきが風に揺れる中、彼女はベンチに腰掛けて腕を組む。フェレット姿のユーノが向かいにちょこんと座ると、彼がぽつりと呟いた。

 

 

「…フェイルがバリアジャケット以外の格好してるの、なんだかすごく新鮮に感じるな」

 

「そりゃそうでしょ。普段は面倒だから、あればっかり着てるもの」

 

 

 常在戦場の心構えというか、魔力負荷を常に掛けることで、魔力を鍛える目的も一応あるにはある。だが、一番は服の汚れだとかを気にしなくて良いというズボラな理由で、普段のフェイルは寝る時以外の殆どをバリアジャケットで過ごしている。スクライア一族の女性陣からは「女の子なんだから、もう少しお洒落に気を遣いなさい」と評判は余り良くないが、フェイル自身は全く気にしていなかった。

 フェイルは髪をかき上げながら問いかける。

 

 

「…ま、私の恰好はどうでもいいでしょ。それはそうと、アナタの協力者…高町なのははどうしたのよ?」

 

「なのはは今は学校だよ。レイジングハートも修復中だけど、多分、今日の夕方までには直るはずだよ」

 

 

 ユーノの言葉にフェイルは目を細める。

 フェイルは嘲笑するように唇を歪め、皮肉混じりに聞き返した。

 

 

「つまり、まだ、ジュエルシード集めを続けるつもりなわけ? そのついでにフェイトも虐待から救ってみせるって?」

 

「そ、そんな皮肉な言い方しなくても…なのはは本気でフェイトを助けたいと思ってるんだ」

 

 

 皮肉がこもった言い方に、ユーノが困ったように眉を寄せる。

 そんなユーノに対して、フェイルは腕を組み直し、さらに冷たく問いかけた。

 

 

「助ける?一応、聞くけど、具体的に何をどうやって?そうした具体的なことを、あの子は何か言ってた?」

 

 

 少なくとも、プレシアがどうにもならない以上、フェイトが願う形での解決は不可能だろう。

 ユーノは言葉に詰まり、フェイルの鋭い視線から目を逸らす。

 

 

「…いや、正直、なのは自身もそこまでは考えてないと思う。ただ…フェイトと話したいって言ってる。気持ちを知りたいって」

 

「フェイトと話す? フェイトと話すことは何の解決にもならないって、昨日あれだけ言ってあげたのにバカなの?フェイトに何を言っても、あの子は“母親の命令を守る”ことしか頭にないわ。話すなら、フェイトじゃなくてその親――プレシアじゃないと何の意味も無いと思うんだけど?」

 

 

 フェイルの声には明らかに苛立ちが混じっていた。

 児童虐待の解決なんて行政ですら手を焼くことがザラだ。そして、基本的に児童虐待で問題があるのは親の方であって、子どもと話した所で解決などしない。敢えて言うなら、子どもから助けを求めるSOSを受け取ることで、行政の介入や一時保護などの切欠になる可能性はあるが、今回のフェイトの場合は、プレシアからの虐待も自分への「教育」と吞み込んで、助けを求めるようなことはしないだろう。

 

 

「フェイトと話す意味があるとしたら、せいぜい事実確認のための聞き取り調査くらいよ。ホント、問題の本質が何も分かってないわね」

 

「それでも、なのははフェイトの目を見て、何かを感じたんだと思う。だから、話したいって…それだけじゃダメかもしれないけど、それがなのはの第一歩なんだ」

 

 

 フェイルは鼻で笑い、首をわずかに振った。

 その仕草には、諦めと呆れが入り混じった感情が滲んでいる。

 

 

「…第一歩ね。その第一歩が、現実の地雷原に踏み込むってこと、分かってるのかしら」

 

 

 フェイルの言葉に、ユーノは思わず口を閉ざした。

 吐き捨てるようなフェイルの語調だったが、どこか静かな憐れみも宿っていた。風が吹き抜け、フェイルの髪が揺れる。日差しに透ける髪の色は、フェイトの金髪とは微妙に違う銀がかった光を帯びていて、孤独な輝きを放っている。

 彼女は遠くの空を見つめながら、静かに言った。

 

 

「…なのはの『話したい』って気持ちは否定しないわ。でも、プレシアの方が変わらない以上、少なくともフェイトが望むような形での解決は不可能よ」

 

 

 フェイルの言葉は重く冷たい。

 だが、その冷たさの裏に、避けては通れない確かな現実があることもユーノは理解していた。

 だからこそ、ユーノは勇気を出して訊ねる。

 

 

「じゃあ…キミだったら、どうすればフェイトを助けられると思う?」

 

 

 フェイルの赤い瞳が一瞬だけ揺れる。

 だが、すぐにその揺れを押し殺し、冷たく言い放つ。

 

 

「…だから、何をもって助けるって言うのよ?何とかしないといけないって言うけど、具体的にどういう形での決着を求めてるの?フェイトとプレシアが和解して親子として暮らせるようになるのが目標?それともフェイトに母親を求める気持ちを諦めさせて、二人の親子関係を断絶させる? そういう決着の形すら何も分からないで、ただ助けて欲しいって無責任じゃない?」

 

 

 ユーノは言葉に詰まり、フェイルの問いかけに何も答えられなかった。

 フェイルはその沈黙を見て、小さく息を吐く。

 

 

「…そもそも私がフェイトを助けてあげる義理なんて無いわよ。フェイトは与えられてる――魔導師として必要な技術も、AIが搭載された高性能デバイスも。…少なくとも、私よりはね」

 

 

 赤い瞳が少しだけ鋭さを増す。

 

 

「私は、魔法の知識も何も無いまま、荒野に放り出されただけ。自分の身を守る術も環境も、何一つ与えられなかった」

 

 

 言葉に感情が混じっていくのを、フェイル自身も少しだけ感じていた。

 だが、それでも口調は淡々としている。

 

 

「それでも私は、生き延びた。己の力だけで全部を捩じ伏せて、ここまで来た。――その私が、あの子に何かしてあげなきゃいけない義務でもあるのかしら?」

 

 

 ユーノは首を横に振る。

 

 

「義理とか義務だとか、そんなこと言ってないよ。誰がどうとか、比較する話じゃなくて…フェイトは今、傷ついてるように見える。だから――」

 

「見える、ね」

 

 

 フェイルは言葉を遮るように繰り返し、皮肉に笑った。

 

 

「見えたからって、『助けたい』って思うのは、ある意味傲慢よ。誰かを救うってのは、そんな甘いもんじゃない」

 

 

 ユーノは俯いたまま、小さな声で問いかけた。

 

 

「…フェイルは、フェイトのこと、なんとも思わないの? 姉妹だったら…」

 

 

 フェイルは少しだけ間を置いて答えた。

 

 

「…正直な話、私にとってフェイトは『姉妹みたいな存在』ではあるけど、実際に会ったのも昨日が初めてで、直接の面識も無い。私はプレシアの事情を知ってるから、あの子の立場と事情を想像できるだけよ。結局、私たちは――殆どただの他人だわ」

 

 

 フェイルはベンチから立ち上がると、スカートの裾を軽く払う。

 風がまた、彼女の髪を揺らした。

 

 

「昨日、アナタが『少しだけ、なのはのしたいようにさせてあげて欲しい』って言ったから、あの子がどう動こうと、よっぽどじゃない限りそれを止める気はない。…でも、あの子の理想論でどこまで踏み込めるか、見物ではあるわね」

 

 

 ユーノは少しだけ哀しげな瞳でフェイルを見上げていた。

 彼女の背には、過去の傷と冷たい現実の重みが、静かに浮かんでいる。

 日が少し傾き、空が夕暮れに染まり始める。

 

 

「…ひとまず、僕はレイジングハートをなのはに届けに行くよ。そろそろ直ってるはずだし」

 

 

 公園から立ち去ろうとするユーノに、フェイルは背後から言葉を投げかける。

 

 

「ユーノ、昨日も言ったけど――あなたの目的はジュエルシードの回収で、被虐待児の救済じゃない。私の役割も、あなたの護衛よ。そのことを忘れないことね」

 

 

 フェイルの言葉は静かで冷たい。

 だが、その奥には、揺れ動く何かがほんのわずかに灯っていた。

 

 

「ありがとう。キミが見守ってくれてるってだけで、僕は心強いよ」

 

 

 その言葉に、フェイルは応えなかった。

 ただほんの一瞬、唇の端が微かに動いたように見えた――それが微笑かどうかは、誰にも分からない。

 ユーノの姿が公園の出口に消えていった後、フェイルは人目が無いのを確認してデバイスとバリアジャケットを展開する。黒衣が風に翻り、軽く振られた錫杖型のデバイスから、シャランという音が鳴った。

 

 

「……まったく、見守るだけってのも楽じゃないわね」

 

 

 そう呟くと、彼女は飛行魔法を発動し、海鳴市の遥か上空へと向かう。

 そして、目的の高所にまで到達した頃には、黄昏の空が海鳴市を茜色に染め、遠くの海面には細かい波が夕日を映していた。

 

 

 ――夕暮れ時の海鳴市。

 

 

 おそらくレイジングハートとバルディッシュが共に修復を終え、原作の主要登場人物の二人がその胸の決意を新たにしている頃だろう。

 フェイルは、飛行魔法で海鳴市の上空を漂い、眼下に広がる街並みを監視していた。黒いバリアジャケットの裾と薄い色の金髪が風に揺れる。

 高空でジュエルシードの発動を警戒していたフェイルだが、ふと背後に何者かの気配を感じ、肩越しに後ろを振り返った。

 

 

「…ようやく時空管理局のお偉いさんがお出ましかしら?」

 

 

 フェイルが振り返ると、そこには黒髪の少年が浮かんでいた。

 黒いバリアジャケットに身を包み、デバイスS2Uを携える魔導師。

 

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。…すまないが、事情聴取のため我々に同行してもらえるか?」

 

 

 クロノの声は落ち着きながらも威厳に満ち、フェイルの反応を鋭く観察していた。

 

 

「もちろん、構わないわよ。…ただ、ちょっと来るのが遅いんじゃないかしら?」

 

 

 フェイルは軽い嫌味を込めて答える。

 フェイル自身はジュエルシードを巡る騒動にやましい点はない。時空管理局の聴取を受けることなど、彼女にとって問題ではなかった。

 

 

「協力に感謝する。詳しい話は次元航行艦アースラで聞くが、まずキミが何者かを――!?」

 

 クロノの言葉が途切れる。

 眼下の街角で、突如として異常な魔力の波動が炸裂した。ジュエルシードの発動だ。樹木を飲み込み、触手のような枝が周囲に無差別攻撃を始める。

 

 

「あれは!?」

 

「先に現場へ行くわよ、クロノ執務官!」

 

 

 フェイルは即座に反応し、ジュエルシードの光へ向けて飛び出す。クロノもS2Uを構え、彼女を追った。

 だが、現場にはすでに二人の魔導師が先着していた。フェイト・テスタロッサと高町なのはだ。金色の雷光と桜色の魔力光が交錯し、ジュエルシードの暴走体との戦闘が繰り広げられている。

 

 

「…あの二人も魔導師か。この管理外世界で何が起こっている?」

 

 

 クロノの声には困惑が滲むが、フェイルは冷ややかに答えた。

 

 

「それは後で説明してあげる。あの二人が封印に失敗したら私が動くわ。そのつもりでね」

 

 

 戦場では、フェイトの「アークセイバー」が地上から樹の根を切り裂き、なのはが上空から「ディバインバスター」を放つ。続けてフェイトの「サンダースマッシャー」が炸裂する。互いに意識しないまま、奇しくも共闘するような形でジュエルシードは封印されていた。前回のような暴走を避けられたことに、フェイルは内心で安堵する。

 

 

「よし、無事に封印されたな。さて、あの二人からも事情を――って、何だ?」

 

 

 クロノが困惑の声を上げる。

 封印されたジュエルシードを巡り、フェイトとなのはが再び対峙し、互いのデバイスを構える。共闘した二人だが、封印したジュエルシードの所有権を賭けて戦うつもりのようだ。さっきまで共闘し、傍目には仲間にしか見えなかった2人の対立にクロノは微妙に困惑していた。

 

 

「…事情がよく分からないんだが、あの二人の戦闘は止める。止めても…いいんだよな?」

 

 

 クロノはフェイルに確認するが、彼女の視線は戦場に向けたままだ。

 

 

「それにしても、あの二人のうち一人はキミに随分と似ているが…姉妹か?」

 

 

 フェイルは小さく笑う。

 

 

「あの子とは、ある意味で姉妹…でも、ほぼ他人よ。止めるならご自由に。私は白い魔導師の方に付き添ってるフェレット…スクライアの子の安全さえ確保できれば、他はどうでもいいわ」

 

「分かった。なら、ボクが彼らを止める。後で詳しい事情を聞かせてくれ」

 

「いいわよ。でも、私もあの子に聞きたいことあるし、私もついていくわ」

 

 

 クロノはS2Uを握り直すと戦場へ向かう。フェイルもまた少し離れてクロノの後を追った。戦場に飛び込んだクロノは、フェイトとなのはの間に割って入った。二人の杖を押さえつけ、動きを封じる。

 

 

「時空管理局執務管、クロノ・ハラオウンだ。…詳しい事情を聞かせてもらおうか?」

 

 

 クロノの声が戦場に響く。

 フェイトと、彼女のそばに浮かぶ使い魔アルフが即座に反応した。

 

 

「時空管理局…!?それに、昨日の…!」

 

 

 フェイトの瞳がフェイルに向けられ、警戒の色が濃くなる。

 アルフも低く唸り、クロノとフェイルを交互に睨む。フェイルはクロノとは少し離れた位置に立ち、静かにフェイトに問いかけた。

 

 

「…プレシアは私のこと、何か言ってたかしら?多分、聞いてみたんでしょ?」

 

 

 フェイトの表情が一瞬硬直する。

 

 

「母さんは…『私の娘は一人だけ。他の娘なんていない』って…」

 

「はっ、相変わらずね。ホント、どうしようもない女だわ。その身体の傷跡…鞭打ちでもされた?」

 

 

 フェイルは吐き捨てるように笑う。

 完全に予想通りの答えに、彼女の心は冷ややかに落ち着いていた。

 もはやこれ以上のことは何も聞く必要はない。

 

 

「この場の全員、即刻武装を解除しろ。抵抗すれば、力ずくで拘束する」

 

「は! 何が時空管理局だ!」

 

 

 戦闘停止と武装解除を求めたクロノに対し、アルフが咆哮し、魔力の爆発を巻き起こす。土煙が戦場を覆い、その隙にフェイトはジュエルシードへ向けて飛翔するが、クロノの反応はそれより速い。

 

 

「スティンガーレイ!」

 

 

 放たれた青い光の矢がフェイトを捉え、彼女のバリアジャケットを切り裂く。

 

 

「っ…!」

 

 

 フェイトが呻き、空中で体勢を崩す。

 意識が揺らぎ、落下しかけるその身体をアルフが支える。

 

 

「フェイト、しっかりして!」

 

 

 アルフが叫ぶが、クロノは無表情でS2Uを構え直し、次の射撃を撃とうとする。

 しかし、その瞬間、桜色の光がクロノの前に立ちはだかった。

 

 

「やめて!」

 

 

 なのはがレイジングハートを握り、フェイトを庇う。

 彼女の瞳には涙が滲み、しかし強い決意が宿っていた。

 

 

「フェイトちゃんは…絶対悪い子じゃない! 撃たないで、お願い!」

 

「くっ、フェイト、逃げるよ!」

 

 

 アルフは土煙の隙をつき、フェイトを抱えて一気に跳躍。

 フェイトも体勢を立て直し、一気に飛翔。金色の雷光が空を切り裂き、二人は瞬く間に姿を消した。

 

 

「逃したか…」

 

 

 クロノはS2Uを下ろして静かに息を吐く。

 封印されたジュエルシードを回収した彼の視線は、なのはとユーノ、そばに立つフェイルに向けられる。

 

 

「…まあ、いい。ひとまず、君たちから事情を聞かせてもらうぞ」

 

 

 夕暮れの海鳴市に静寂が戻る中、ジュエルシードを巡る戦いは新たな局面へと突入していく。

 フェイトの逃走、なのはの決意、そして時空管理局の介入――それぞれの想いが交錯し、次なる衝突の予感を孕む。

 この管理外世界で、運命はまだ誰も知らない結末へと動き始めていた。

 

 

 

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