魔法少女リリカルなのは 黒の残響   作:世紀末ドクター

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第6話『傷付くしかない運命』

 

 

 ――アースラの訓練室。

 

 その無機質な空間に、ただ一人、黒衣の少女が佇んでいた。

 彼女の動きは、静かで、鋭く、そして美しかった。錫杖型のデバイス「サンサーラ」を手に、フェイルは黙々と武術の型の動きを繰り返していた。

 その動きには、魔導師としての派手さはない。魔力を高める気配はない。だが、彼女の身体の奥底では、確かに魔力が研ぎ澄まされていた。それは、外からは見えない。彼女のそれは波紋すら起こさず、まるで深海のように深さと鋭さを増していく。

 

 一歩。踏み込みと同時に、サンサーラが宙を走る。

 

 風を切る音が、訓練室の壁に反響する。その一撃はまるで空間そのものを断ち切るような鋭さを持っていた。突き、打ち、薙ぎ、払い、受け、流れるように動きが変わり、彼女の振るう錫杖はまさに変幻自在の動きを見せる。彼女の振るう錫杖は、剣などとは違って、全ての部位が攻撃部位になり得る。たとえば、金輪のある杖頭側だけでなく、反対の石突側での打突。さらに手の内を巧みに滑らせることで持ち手の位置を変え、攻撃距離すら自在に変わる。それはまるで棒自体が伸び縮みしているかのように見えるほどだ。

 

 

「ふっ!」

 

 

 彼女の錫杖を振るう型の動きは流れるようでありながら、一切の無駄がない。繰り返される武術の型の動きの反復は、まるで神へと捧げられる儀式や舞踏のようでもある。

 そして、鍛錬を繰り返すフェイルのもとにクロノとリンディの二人が現れた。

 

 

「フェイルさん、少しお時間をいただけるかしら?」

 

 

 リンディの穏やかな声に、フェイルの動きがぴたりと止まる。

 彼女は後ろを振り返り、鋭い視線を二人に投げる。

 

 

「何? ユーノとなのはが何かやらかした?」

 

 

 フェイルの声には、どこか刺々しい響きがあった。

 

 

「いや、あの二人は順調だよ。ジュエルシードもトラブルなく回収できている」

 

 

 クロノが冷静に答えた。この10日間で、なのはたちが3つのジュエルシードを確保。一方、フェイトたちは管理局の追跡をかわしながら2つを手にしていた。

 

 

「で、用は? まさか私に礼を言うために来たわけじゃないよね?」

 

 

 フェイルの口元に皮肉な笑みが浮かぶ。

 クロノは一瞬眉を寄せ、静かに話題を切り出した。

 

 

「プレシア・テスタロッサについてだ。彼女の過去を調べた」

 

 

 その名に、フェイルの瞳が鋭く光る。

 彼女はサンサーラを腕輪型の待機状態に戻すと、腕を組んだ。

 

 

「ふーん。どこまで調べたわけ?」

 

 

 彼女の口元に、わずかに皮肉な笑みが浮かぶ。

 

 

「プレシア・テスタロッサ…かつてミッドチルダで次元航行エネルギーの研究を行っていた大魔導師。違法実験による事故で放逐された後、足どりが途絶えている」

 

 

 クロノが調べた内容を簡潔に説明する。

 だが、その内容を聞いたフェイルは鼻で笑った。

 

 

「それだけ? そんなの、ちょっと調べりゃすぐ分かる話でしょ。わざわざ私のところに来たってことは本題はそこじゃないわよね?」

 

 

 リンディは固い表情で本題へと切り込む。

 

 

「ミッドチルダの住民登録のデータベースに記録が残っていたわ。……彼女の娘の記録もね」

 

「へえ、よく調べたじゃない。…で、その記録は何年前? 娘の名前は?」

 

 

 フェイルの声は軽い調子だが、どこか探るような響きがあった。

 

 

「…15年前の記録だ。娘の名前はアリシア・テスタロッサ。当時5歳。もし生きていれば……今頃20歳前後のはずだ」

 

 

 クロノの言葉に、フェイルの表情は一瞬だけ硬くなる。

 だが、すぐにいつもの冷ややかな表情へ戻った。

 

 

「つまり、記録上のプレシアの娘と、私達は明らかに別人ってことね。でも、プレシアが新しい男でも作って、アリシアの後に私たちを産んだのかもしれないわよ?」

 

 

 フェイルの言葉は、挑発的だ。

 彼女の挑発的な口調にクロノが静かに応じる。

 

 

「…勿論、その可能性もゼロじゃない。だが、僕らは…別の仮説を考えている」

 

 

 クロノはフェイルをじっと見つめる。思えば、彼女はフェイトを『姉妹みたいな存在』と呼びながら、決して『姉妹』とは言わない。そのことをクロノは最初からずっと気になっていた。

 

 

「キミは…どこまで知ってるんだ?」

 

 

 クロノの声は静かだが、鋭い。

 ここまで聞いて来たということは、確実にほぼ全てのことに予想がついているのだろう。

 フェイルは一瞬目を細め、冷たく答える。

 

 

「全部知ってるわよ。私とフェイトがアリシアをモデルにした人造魔導師だってことはね」

 

 

「「……ッ!」」

 

 

 リンディとクロノが息を呑んだ。

 それと同時に予想していたことが確信へと変わる。

 

 

「…で、ユーノとなのはにも、私達がアリシアをモデルにした人造魔導師…アリシアのクローンだって話すつもり?」

 

 

 フェイルは肩をすくめ、軽く笑う。だが、その目は笑っていない。

 

 

「いや、あの二人には……伝えない。それよりも……フェイトはこのことを知ってると思うか?」

 

 

 クロノが苦い表情をして尋ねた。

 

 

「知ってるわけないわ。知ってたら、あんな風にプレシアに盲目的にすがったりしない。アリシアの記憶を転写されて、未だに本物の娘だと思い込んでるんだから」

 

 

 フェイルの声には、かすかな苛立ちと、どこか哀れむような響きがあった。

 

 

「…そうか」

 

 

 クロノは目を伏せて小さく呟いた。

 

 

「分かったでしょ?結局、何をどうしたってフェイトは傷つく。後の問題は、その傷をどれだけ浅くできるかってことじゃない?」

 

 

 フェイルの言葉は、まるで自分に言い聞かせるようでもあった。

 

 

「だから、キミはああ言ってたのか…」

 

 

 クロノの言葉には納得の他に哀しみの色が滲む。

 フェイルはずっと、フェイトを「次元犯罪者としてぶちのめして逮捕する」のが一番だと主張していた。それが、結果的に最も手っ取り早い「保護」の形だと。

 

 

「そうよ。ホントを言えば、フェイトが一番傷付かずに済む方法はね。フェイトには何も知らせないままプレシアの口を封じる…つまり、暗殺することよ。そうすれば、少なくともフェイトは母親に裏切られたって傷は負わずに済む」

 

 

 フェイルの声は冷たく、だがどこか寂しげだった。

 

 

「まさか……アナタがそれをしようと?」

 

 

 リンディが息を呑む。

 

 

「もし、アンタら時空管理局が来なくて、その機会が巡って来てたなら、そうしても良かったかもね。それが出来てたら、プレシアへの復讐も兼ねて一石二鳥だったわ」

 

 

 そう言って、フェイルは自嘲気味に笑う。

 本気とも冗談とも分からない彼女の発言にクロノとリンディは言葉が出ない。

 

 

「でも、今それをやったら、私が管理局のお尋ね者でしょ? だから、やらない」

 

 

 クロノが静かに問う。

 

 

「仮に…次にフェイトと遭遇した時、これを彼女に全部話したらどうなると思う?」

 

「全部ぶちまけるのも悪くないんじゃない? 信じる可能性は低そうだけど、もしフェイトがこっちの言葉を信じてくれたら、プレシアの元から離れて、自分からこっちに来てくれるかもしれない。ただし、その場合、なのはとユーノも知ることになるんじゃない? それでもいいの?」

 

 

 フェイルの目は、クロノとリンディを試すように光っていた。フェイトに全てを明かすというのは、確かに一つの選択肢だった。だが、それをした場合、なのはやユーノたちにも動揺を広げる可能性もあるし、何よりフェイト自身の反応の予想がつかない。

 

 

「…現時点でフェイトさんに真実を伝えるのは、リスクが大きすぎるわ。本人に伝えるとしても、フェイトさんを保護して落ち着いた後じゃないと…」

 

 

 リンディが慎重に言う。

 彼女の声には、息子を持つ母としての柔らかさと、提督としての冷静さが混在していた。

 

 

「それが妥当な判断よね。…でも、それだと結局、フェイトを叩きのめして逮捕=保護するっていう私の方針が正しかったってことだけどね?」

 

 

 フェイルは皮肉に笑う。

 

 

「…ま、アリシアのクローンっていう出自なんて、私にとっては今更どうでもいいわ。フェイトが真実を知って傷付くのも勝手よ。それより、プレシアがジュエルシードを集めさせてる目的は何か分かったの?」

 

「いや、おそらく娘のアリシアを蘇生させるための『何か』に関係してると睨んでいるが…まだ断定できる証拠がない」

 

「ついでに言うなら、私達がアリシアのクローンだっていう明確な証拠も無いわね。そのあたりの『やらされていた』っていう証拠がない限り、フェイトが法的に犯罪者扱いなのは変わらないってことでしょ?」

 

 

 嘲るようなフェイルの言葉。

 それに対して、クロノが苦い顔で応じた。

 

 

「…そうだ。つまり、後々の裁判を含めてフェイトを『犯罪者』でなく、『被害者』として扱うためには、確実な証拠を掴むか…もしくは黒幕のプレシアを捕まえる必要がある」

 

「何にせよ、プレシアの居場所が分からない以上、こっちがフェイトを確保するって方針は変わらないわね。自発的にこっちに来てくれるか、力尽くでこっちに来させるかの違いだけよ」

 

 

 フェイルがこの場での話の結論をまとめた直後だった。

 艦内のアラートが鳴り響き、すぐにブリッジからの通信が入る。オペレーターのエイミィの緊張を帯びた声が訓練室に響いた。

 

 

「クロノ執務官、リンディ提督! ジュエルシードの反応を確認しました!至急ブリッジへ!」

 

 

 三人とも急いでブリッジに向かう。

 フェイル達がブリッジに到着し、直後にユーノとなのはの二人もブリッジへ駆け込んで来た。

 

 

「フェイトちゃん!?」

 

 

 ブリッジのモニターには、フェイトが海上で巨大な魔法陣を展開し、膨大な魔力流を放ちながらジュエルシードを強制発動させる姿が映っていた。

 

 

「何て無茶なことを!」

 

 

 ブリッジは緊迫した空気に包まれ、クルーたちの視線がモニターに集中する。なのははモニターを食い入るように見つめ、拳を握りしめる。

 

 

「私、行きたい! フェイトちゃんを放っておけない!」

 

 

 その声には、抑えきれない決意が滲む。

 クロノとリンディが静かに、しかし厳しく制する。

 

 

「いや、その必要はない。放っておけば彼女は自滅する」

 

「なのはさん、今は待つのが最善よ。フェイトさんが自滅するのを待つか、力が尽きたところで捕まえる。…残酷に見えるかもしれないけど、これが現実」

 

 

 なのはは唇を噛み、うつむく。

 そして、その横で、フェイルが腕を組み、冷ややかな視線をなのはに投げる。

 

 

「現実ね。いい言葉だわ、リンディ提督」

 

 

 フェイルの声には皮肉が滲んでいた。

 なのははフェイルを睨み返すが、言葉に詰まる。フェイルの鋭い言葉が彼女の心に刺さったとしても、フェイトを助けたいという気持ちは抑えきれない。

 

 

(なのは、行って)

 

 

 その時、ユーノがなのはに念話で語りかけて来た。

 

 

(ユーノ君、でも…!)

 

 

 なのはがためらう中、ユーノは静かに笑う。

 

 

(なのはが困ってるなら、僕も力になりたい。なのはが僕にそうしてくれたみたいに)

 

 

 なのはの瞳に決意が宿る。

 そして、なのはが転送ポートへと駆け出そうとしたまさにその時だった。

 

 

「――ッ!」

 

 

 瞬間、フェイルのデバイス――錫杖「サンサーラ」の先端が、ユーノの眼前にピタリと突きつけられていた。

 

 

「…ユーノ、アナタがやろうとしてることをやめなさい。さもないと、アナタの頭ぶっ叩いて気絶させるわよ」

 

 

 フェイルの声は低く、抑揚のない冷たさで響く。

 彼女の瞳は鋭く、まるでユーノの心を見透かすようだ。

 

 

「フェイル…何とか…なのはを行かせてあげられないかな?」

 

「リンディ提督とクロノが話した方針を聞かなかったの?消耗した所を叩いて捕まえる。犯罪者の扱いだったとしても、結果的にそれがフェイトにとっても最善だわ」

 

 

 なのはがフェイルを振り返り、声を震わせながら叫ぶ。

 

 

「最善って何!?みんな、最初からフェイトちゃんを傷付ける、傷付くって前提で話をしてる! 私にはそれが嫌だ!」

 

 

 フェイルの眉がわずかに動くが、表情は変わらない。彼女はなのはを一瞥し、冷たく続ける。

 

 

「…あの子の運命は、傷つくか、もっと傷つくか、どっちかしかないのよ。無駄な希望で自分まで傷つける気?」

 

 

 リンディが静かに割って入る。

 

 

「…なのはさん、ユーノ君、約束します。たとえ、ここでフェイトさんを逮捕しても、決して悪いようにはしません。時空管理局としても最大限の配慮をさせてもらいます」

 

「でも…!!」

 

 

 なのはの声がブリッジに響く。

 彼女の瞳には涙が浮かび、だがその奥には揺るがない決意がある。

 

 

「フェイトちゃんがひとりぼっちで戦ってるの、見てられない! 私、フェイトちゃんに、ひとりじゃないって伝えたいの!」

 

 

 フェイルの瞳が一瞬揺れる。

 なのはの言葉は、彼女の孤独な過去――追放され、誰にも頼れず一人で生きてきた記憶を抉るようだった。

 

 

「綺麗事を…。この前の模擬戦で叩きのめしただけじゃ足りなかった? これ以上ゴタゴタ言うなら、アンタから――」

 

 

 なのはの叫びにフェイルの意識が向き、サンサーラの先端がユーノから一瞬外れる。

 そして、その一瞬の隙を突くように、ユーノは素早く転送ポートに魔力を送っていた。

 

 

「しまっ…!?」

 

 

 転送ポートが淡い光を放ち、なのはの姿が瞬時に消える。

 

 

「ありがとう、ユーノくん!ごめんなさい!後でたくさん怒られます!高町なのは、指示を無視して勝手な行動をとります!」

 

 

 なのはの声が転送ポートの光に飲み込まれる。

 フェイルの視線がユーノに向く。彼女の赤い瞳は、まるで氷のように冷たく、ユーノを射抜く。

 

 

「…やってくれたわね、ユーノ」

 

 

 ユーノはフェイルの視線を正面から受け止め、静かに答える。

 

 

「…ゴメン。でも、もしあの子…フェイトが傷付かずに済む方法があるなら、それが一番だっていうのは…そうなんじゃないかな」

 

 

 フェイルは苛立ちから、サンサーラの石突を床に軽く叩きつける。シャラン!と錫杖の音がブリッジに響いた。

 

 

「その方法が無いから止めたんだけどね。…ま、確かに、私のフェイトへの関わり方に口出しするなって言った以上、あの子のフェイトへの関わり方に私が口出しするのはフェアじゃなかったわ。…けど、ここで力尽くで逮捕してた方がマシだったって後で後悔しても知らないわよ」

 

 

 ユーノは「ゴメン」と小さく呟くと、なのはを追うように転送ポートへと飛び込む。

 フェイルは黙ってユーノを見送ると、クロノとリンディに皮肉を込めて呟いた。

 

 

「……あの二人にも、全部伝えとくべきだったんじゃない? そしたら、こんな無駄なことしなかったかもしれないのに」

 

「……無駄かどうかは分からないわ。なのはさんの説得で彼女が自分からこちら側に来てくれる可能性もゼロじゃない。実際、自分から来てくれるのなら、事件後の裁判でも心証的に有利になるのは間違いないもの」

 

「…そうだな。たとえ、青臭い理想論だったとしても、彼女の『傷付けることを前提で話してる』っていう言葉は、正直、グサッと来たよ。こうなった以上、僕らは彼女のサポートをするだけさ」

 

 

 やれやれと肩をすくめ、クロノもまた転送ポートへと向かう。

 

 

「…キミは行かないのか?」

 

「…行くわけないでしょ。この後にどうなろうと、もう私の知ったことじゃないわ」

 

 

 フェイルは明らかに不機嫌そうだ。

 クロノはそんなフェイルの硬い表情を見て、彼女の内に秘めた傷の深さを一瞬感じ取り、静かに目を伏せた。

 

 

「…知ったことじゃない、か。事情を考えれば、キミが苛立つのも無理はないが……あの二人は知らないんだ。仕方ないさ」

 

 

 そう言い残して、クロノも転送ポートへと消えて行った。

 フェイルが見つめるモニターの先では、フェイトとなのはの二人が協力して、ジュエルシードの封印に当たる様子が映っていた。

 

 

 ――手伝って、ジュエルシードを止めよう――

 

 

 フェイトに魔力の供給を行うなのは。

 

 

 ――二人できっちり、はんぶんこ!――

 

 

 そうこうしてる内に、なのはのディバインバスターが桜色の光を放ち、フェイトのサンダーレイジが金色の雷光を迸らせる。二つの魔法が交錯し、ジュエルシードの輝きを飲み込むようにして封印が完了していた。

 

 

「ジュエルシード、6個全ての封印を確認しました!」

 

 

 オペレーターのエイミィの声がブリッジに響いた。モニター画面上では、なのはとフェイトの2人がお互いに向き合っているのが映っている。

 

 

 ――友達になりたいんだ――

 

 

 なのははフェイトに思いを伝える。

 その言葉にフェイトの表情が優しくなるが、次の瞬間、空から雷光が鳴り響いた。

 

 

「次元跳躍砲!?」

 

 

 プレシアの次元跳躍魔法だった。

 アースラとなのはたちのもとに雷が降り注ぎ、フェイトは直撃を受けて悲鳴をあげ、助けようとしたなのはも弾き飛ばされてしまう。落下するフェイトを助けたアルフは、6個のジュエルシードへと手を伸ばすが、転送されてきたクロノがその手を止めた。

 

 

「そうはさせない!」

 

「てめぇ、邪魔すんなぁ!!」

 

 

 クロノを吹き飛ばすアルフだが、クロノはとっさにその場の半分…3個を手にしていた。

 

 

「ちっ!覚えてろよ!」

 

 

 アルフは怒りを爆発させ、フェイトを連れて次元転移で消える。

 

 

「エイミィ! 転移先を追跡できるか!?」

 

 

 通信越しのクロノの叫びに、エイミィが焦った声で答える。

 

 

「ダメです…!次元跳躍砲のダメージでセンサーが機能停止…!」

 

 

 雷が去り、海上には静寂が戻る。

 巻き上げられた海水が雨のように降り注ぎ、波の音だけが響いていた。フェイトとアルフに逃走され、アースラのブリッジは重い空気に包まれている。

 

 

「…リンディ提督?やっぱり無駄なことだったんじゃない?」

 

「…どうかしら。さっきのフェイトさんは、なのはさんの言葉に心を開きかけていたようにも見えたわ。…次の機会に期待しましょう」

 

「そんな『次』があるのかしらね…」

 

 

 フェイルは再びモニター画面に目を向けた。

 画面には、フェイトに返事を貰えないまま置き去りにされたなのはの姿が映っている。

 その映像を見ているフェイルの胸の奥では、何かが軋むように疼く。

 

 

(フェイトがどう傷付いても、もう私の知ったことじゃない…。こうなったら、もう私も好きにさせてもらうわ)

 

 

 モニターに映る海面は、まるで彼女の心を映したように、ゆらゆらと揺れ続けている。

 そして、それを見つめる彼女の赤い瞳は、不穏な光を宿していた。

 

 

 





あとがき:

 物語のクライマックスに向けて不穏なことを考える主人公。
 彼女からすれば、ここでフェイトを逮捕してた方がマシだったから止めたのに、それを台無しにされたら、そりゃあ気分は良くないでしょうなぁ。
 もっとも、彼女が本気でフェイトのために動くなら、なのはにやらせずに、自分がフェイトとアルフを叩きのめして捕まえればいいだけの話ではあるので、それをやらない時点でフェイトに対しては、そんなに「本気」ではないです。自分がフェイトに対して何かをしてやる義理や義務は無いと考えていて、元々そんなに本気じゃない。そんなに本気じゃないから、自分の邪魔をしたユーノに対しても、そこまで怒らなかった感じですね。

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