――暴走したジュエルシードの海上での騒動から数日後、
バニングス邸で傷ついたアルフを発見したというなのはからの報告がアースラに届く。
それを聞いた時、フェイルは思った。
(…結局、何も変わらなかったわね)
原作の流れだと、この後はフェイトとなのはの二人の最終決戦とプレシアからの真実の暴露。そのままプレシアの本拠地である『時の庭園』への突入へと一直線だ。
そして、今、ブリッジのモニターには、朝焼けの空の下、臨海公園で向き合うフェイトとなのはの姿が映し出されていた。初めて出会った時と同じように、再び巡り会う二人の魔法少女。
――それでも私は、あの人の娘だから――
アルフの必死の説得にも、フェイトは首を振る。
プレシアへの想い、親子の絆を信じたい一心で、彼女はなのはに立ち向かう。
モニターに映るその光景を、クロノ、リンディ、フェイルはそれぞれ複雑な思いで見つめていた。
――私たちの全ては、まだ始まってもいない。だから、本当の自分を始めるために……始めよう、最初で最後の本気の勝負!――
フェイトとなのはは、お互いが持つ全てのジュエルシードを賭けた戦いに挑む。
フェイルは二人の魔法少女が映るモニターを冷ややかな目で見つめ、鼻で笑う。
「…結局、ここで戦って捕まえるなら、最初から力尽くで逮捕してれば無駄な手間がなかったのにね。……馬鹿なの?」
クロノが冷静に答える。
「いや…キミの言う『虐待』はあくまで推測だった。アルフの証言を得た今、管理局としてもフェイトを『逮捕』じゃなく『保護』として扱える。これが大きいんだ」
行政機関の職員らしい模範的な言葉に、フェイルは眉を吊り上げ、不機嫌そうに返す。
「…前の時点で力尽くで逮捕してたとしても、結果は同じよ。逮捕後の事情聴取で分かるんだから。むしろ、そっちの方が絶対に良かったわ」
「どういう意味だ?」
クロノの問いに、フェイルは意味深に笑う。
彼女の赤い瞳には、諦めと冷笑が混ざっていた。
「さあ? でも、きっと今に分かるわよ」
彼女は再びモニターに視線を戻す。
夜明けの海上、二人の戦いは佳境を迎えていた。フェイトの最大魔法――フォトンランサー・ファランクスシフトが金色の光を放ち、矢の如く一斉射撃がなのはを襲う。だが、なのははそれを耐え抜き、ディバインバスターで反撃。桜色の魔力が彼女の全身から溢れ、さらに追撃で放った全魔力を込めた一撃――スターライトブレイカーが放たれる。膨大な魔力の奔流がフェイトを飲み込み、戦いは決着した。
だが――
「前と同じ魔力反応…!?次元跳躍砲です!」
エイミィの叫びに、ブリッジが凍りつく。
なのはに敗れたフェイトを再びプレシアの怒りの雷が襲う。バルディッシュは致命的な損傷を受け、フェイトが持っていた8つのジュエルシードが奪われる。
助けようとしたなのはも雷光に弾き飛ばされるが、こちらもプレシアが使った次元跳躍魔法をもとに、転送位置の割り出しに成功する。
「転送位置の割り出し、成功! 座標は…」
エイミィの報告に、リンディの声が響く。
「武装隊を編成。目的はプレシア・テスタロッサの捕縛。各員、出動準備を!」
武装局員がプレシアの本拠地『時の庭園』へ向けて出動準備を始める。ブリッジは緊迫感に包まれ、物語は決着へ向けて確実に動いていた。
◆
そして、武装隊の出動からしばらくして、なのはに連れられたフェイトがアースラのブリッジに現れる。
蒼白な顔に、傷だらけのバルディッシュ。だが、彼女の赤色の瞳には、かすかな決意が宿っていた。
「…無様に負けたわね、フェイト。」
部屋の壁に背中を預けたまま、フェイルの冷たい声が響く。
フェイルの姿を認めたフェイトは驚き、言葉を失う。
「アナタは……」
改めて落ち着いて対面する二人。
髪の色は微妙に違うが、自分とそっくりな容姿に、フェイトの胸がざわめく。
「フェイル、今、どういう状況?」
ユーノの問いに、フェイルは不機嫌そうに答える。
「プレシア逮捕のために武装隊が本拠地の『時の庭園』に向かったわ。…というか、なんでブリッジに連れてきたの? 母親が逮捕されるところをフェイトに見せるつもり?」
「いや、フェイトの希望で…」
ユーノが言いかけると、フェイトが静かに口を開く。
「…私は、自分の目で全てを見届けたい。母さんが…どうなるのか」
その言葉に、リンディが心配そうに言う。
「フェイトさん、別の部屋で待っていてくれると…」
「いいんです。私、逃げたくない」
フェイトの声は震えていたが、決意に満ちていた。
クロノが静かに頷く。
「本人が望むなら、止めるのも無粋だろうさ」
だが、フェイルは冷たく突き放す。
「…私は止めたわよ。これから何が起こっても、そっちの責任よ。もう全部、私の知ったことじゃない」
その言葉は、フェイトとなのは、そして自分自身に向けられたものだった。
「ところで、えっと…あの…前に、私のことを…姉妹って…?」
フェイトが遠慮がちに尋ねる。
フェイルと自分の似た容姿、過去の言葉が気になっているようだった。
「…私が言わなくても、多分すぐに分かるわ」
フェイルはモニターを顎で示す。
モニターには、武装隊が『時の庭園』の最深部に到達した映像が映し出されていた。
そこで武装隊が見つけたのは、生体ポッドだった。薬液に満たされたポッドの中、金髪の少女が浮かんでいる。フェイトやフェイルと瓜二つの顔。
「…フェイトちゃん達にそっくり…?」
全く予想外のものの発見に呆然と呟くなのは。
フェイルはまるで挑発するようにクロノに言う。
「…こういう形で出てくるとは、さすがに予想外だったかしら?クロノ執務官」
「キミは…これも知ってたのか!?」
「…予想してただけよ。確実に見つかる、確実に起こるって言い切れるものじゃない」
クロノの問いに、フェイルは冷たく笑う。
武装隊の誰かがポッドに近づいた瞬間――
「私のアリシアに触れるなぁぁぁ!!」
プレシアの咆哮が響き、紫電が迸る。電撃が武装隊を薙ぎ払い、悲鳴が重なる。サブモニターには倒れた隊員しか映らない。
「いけない!退避を急いで!」
リンディの指示で武装隊が転送で回収される中、フェイトはモニターを見つめ、震える声で呟く。
「母…さん…」
武装隊を全滅させ、肩で息をしていたプレシアが、サーチャーへと振り返った。
双方向のサーチャー越しに、プレシアとフェイトの目が合う。
「…捕まったのね、フェイト」
プレシアの狂気の宿った瞳を見て何かを察したクロノが叫ぶ。
「なのは! 今すぐフェイトをブリッジの外に連れ出せ!」
「は、はい!」
なのはがフェイトの手を引くが、彼女はその場から動かない。
そこへプレシアの声が冷たく響く。
「終わりにするわ。この子を亡くしてからの時間も…この子の身代わりの人形を娘扱いするのも」
その言葉に、ブリッジの全員が息を呑む。
フェイルだけが何食わぬ顔で冷静に立っていた。
「聞いている? あなたのことよ、フェイト」
プレシアは続ける。
「せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない、私のお人形」
ここまで来たら、どのみち説明するしかない。
リンディもクロノも、プレシアがここまでの狂気に囚われているとは思っていなかったのが本音だった。リンディは苦々しい表情で説明する。
「…最初の事故で、プレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くした。魔力炉の暴走事故に巻き込まれて…その後、彼女が行っていたのは、使い魔を超えた人造生命の生成…」
クロノが言葉を引き継ぐ。
「…記憶転写型特殊クローン技術、プロジェクトF.A.T.E」
プレシアが狂気を滲ませて笑う。
「その通り。よく調べたわね。でも、失ったものの代わりにはならなかった。作り物の命は、所詮作り物…。アリシアはもっと優しく笑ってくれた」
彼女の視線がフェイトを刺す。
「でも、今日で終わりよ、何もかも。私とアリシアは旅立つの…失われた楽園、『アルハザード』へ!」
「なっ!?」
ここでようやくプレシアの目的が判明する。
彼女がジュエルシードを集めさせていた目的。それはジュエルシードを起動させ、次元震を起こして、アルハザードへの道を開くことだった。
「フェイト、あなたは私の娘じゃない。だから、もういらないわ。どこへなりとも消えなさい!」
フェイトの身体が震えが大きくなる。
「やめて! やめてよ!」
なのはが叫ぶが、プレシアの言葉は止まらない。
「ああ…良いことを教えてあげるわ、フェイト。私はね…あなたを作り出してから、ずっと…あなたが大嫌いだったのよ」
フェイトの心が砕け散り、膝から崩れ落ちた。
その場に倒れ込んだフェイトをなのはが咄嗟に支える。
「フェイトちゃん!」
フェイルは冷めた目でその光景を見下ろしていた。
「だから、前の時点で力尽くで逮捕してた方がマシだって言ったのにね。…前の時点で逮捕してたのと、今の状況、どっちがマシだったかしらね、高町なのは?」
「…っ! そんな言い方…!」
フェイルの言葉に思わず反発しそうになるが、今のフェイトの状態になのはは何も言い返せない。
「フェイルは…最初から知ってたの?」
躊躇いがちに訊いてきたユーノにフェイルは肩をすくめた。
「知ってたわ。私とフェイトが同じアリシアのクローンだってことはね。…ま、今さら私にはどうでもいいことよ」
呆然とした状態であっても、自分と同じというフェイルの言葉に少しだけ反応するフェイト。
「アナタも…私と、同じ…?」
まるで縋るようなフェイトの虚な瞳。
一方、フェイルの赤い瞳には切り裂くかのような鋭さが宿っていた。
「そう。私もアンタと同じ、アリシアのクローン。アンタの数年前に生まれたから、ある意味、姉になるのかしら」
「だから…あのとき、姉妹って…」
「ある意味、よ。姉と呼びたいなら止めはしないけど…私に縋るのはやめなさい」
フェイルはさらに冷たく続ける。
「そもそも、あんな女に否定されたくらいで何? その程度で立てなくなるなら、そのまま一生寝てなさいよ、フェイト」
「お前! 傷ついてるフェイトに何てことを!」
激昂したアルフがフェイルに掴みかかるが、フェイルは瞬時に合気道の投げ技で返し、アルフを床に押さえつける。
「ぐっ!?」
「犬は黙ってなさい。今は犬の出る幕じゃないのよ」
自分の使い魔が制圧されてもフェイトは殆ど無反応。彼女の虚ろな瞳に、フェイルはさらに苛立ちを募らせる。
「フェイト…アンタに同情する気持ちがないわけじゃないけどね。でも、それ以上に私はアンタを見てると苛立ちが沸いてくる」
フェイルの脳裏に、5歳で追放された孤独な過去が蘇る。何もない荒野で、生きるか死ぬかの過酷な日々。アリシアのクローンという出自を悩むことすら、彼女には贅沢だった。
「私みたいに、本当に一人で…5歳で何も持たず放り出された人間に比べたら、アンタはマシよ。アンタは与えられてる。リニスもアルフも、AI搭載の高性能なデバイスも、ちゃんとした魔法の訓練も。それで立てないなら、それこそアンタが弱いだけよ」
フェイルの余りの迫力に、なのはもユーノも、アルフも誰も言葉を返せない。
ブリッジに重過ぎる空気が満ちていたところで、クロノが静かに割って入る。
「…言いすぎだ、フェイル。キミの気持ちも分からなくはないが、それ以上はよせ」
フェイルはクロノを一瞬睨むが、何も言わずに引き下がった。クロノは出動準備を整え、皆に告げる。
「…僕はプレシアを止めるため出動する。キミたちはどうする?」
プレシアは、集めたジュエルシードと「時の庭園」の駆動炉を暴走させることにより、アルハザードへの一か八かの航行を実行しようとしている。止めなければ、この世界そのものが危ない。クロノのその言葉に、なのはとユーノは時の庭園へと向かうことを決める。
「私も行くわ。あの女に勝ち逃げさせるのだけは許さない」
フェイトを医務室へ残し、フェイル達は時の庭園へと向かうのだった。
◆
医務室に残されたフェイト。
虚無感に支配され、呆然としたまま、彼女はベッドで横になっていた。
母を信じ、母のために生きてきた自分。認めてもらうことだけが全てだった過去。フェイトはアルフや「白い服の少女」との出会い、戦いの日々を振り返る。
「わたし、生まれてきちゃ、いけなかったのかな…。アルフ…それにあの子…なんて名前だったっけ…ちゃんと教えてくれたのに。何度もぶつかって、わたし、ひどいことしたのに。話しかけてくれて、わたしの名前を呼んでくれた。何度も…何度も…」
そして、迷う心の中に、フェイトは戦いの中でなのはが自分に伝えてくれた言葉を思い出した。
――私たちの全ては、まだ始まってもいない――
傷だらけのバルディッシュを手に、フェイトは呟く。
「…バルディッシュ。私、まだ…何も、始まってすらいなかったのかな…?」
バルディッシュが微かに起動し、「Get set.」と答える。
どんなに傷ついても戦う意思を捨てない愛杖に、フェイトは涙をこぼす。
「…そうだよね。バルディッシュも、ずっと私のそばにいてくれた…。このまま終わるなんて、嫌だよね…」
ずっと私のそばに居てくれた。
自分で口にしたその言葉が頭に引っ掛かり、フェイルの言葉が頭をよぎる。
――私みたいに本当に一人で…5歳で何も無いまま放り出された人間に比べたら、アンタはマシよ――
ある意味で自分の姉のような存在。
――それで立てないなら、それこそアンタが弱いだけよ――
「…弱いだなんて、言われたくないよね。私も、バルディッシュも」
《Yes, sir.》
傷ついたバルディッシュの光に涙を落とし、フェイトは決意する。
運命から逃げるでも、信じたものを捨てるでもなく、弱い自分と決別する覚悟を決める。
「私たちの全ては、まだ始まってもいない…。だから、本当の自分を始めるために、今までの自分を……終わらせよう」
フェイトもまたバルディッシュを手に、『時の庭園』へ向かうのだった。
◆
転送により『時の庭園』に到着した一行。
重く歪んだ魔力の波動が漂う空間に、各々が自分の思うことを呟く。
「…すでに次元震の予兆が起こり始めてるな」
「ここが…フェイトちゃんのお家で、プレシアさんのいる場所…」
「…7年ぶりの里帰りね。愛着も何もないけど」
「あの鬼婆…フェイトを傷付けた落とし前は付けさせてもらう」
プレシアはジュエルシードを暴走させ、次元震の予兆が起こり始めている。
リンディが入り口でディストーションシールドを張り、次元震を抑えてくれているが、急がないと間に合わない。
「来たぞ!」
魔方陣から現れた金属製の傀儡兵。
フェイルはサンサーラを振るい、一閃で複数の傀儡兵を両断。切断面は鏡のように滑らかで、彼女の戦闘技術の凄まじさが際立つ。
「…凄まじい切れ味だな」
「ただの修練の結果よ」
クロノが感心するが、フェイルの反応は素っ気ない。
その時、アースラから通信が入る。
「クロノ執務管!フェイトさんが医務室から抜け出して、そちらに向かったみたいです!」
「フェイトちゃんが!?」
なのはが驚く中、しばらくするとフェイトが合流して来た。
顔色は良くないし、バルディッシュも傷付いたままだが、それでも彼女の瞳には決意が宿る。
「フェイトちゃん、大丈夫なの!?」
なのはが駆け寄ると、フェイトは震える声で答える。
「うん…ありがとう。私は…やらなきゃいけないことがあるから」
「フェイト、あのまま休んでても…」
アルフが心配そうに言うが、フェイトは首を振る。
「アルフ、ありがとう。でも、私…母さんに、ちゃんと伝えたいことがあるの」
フェイルはフェイトを一瞥し、冷たく言う。
「…無駄よ。プレシアに何を言っても、あの女の心は動かない」
「フェイル…姉さん…」
フェイトの縋るような視線に、フェイルは目を逸らす。
「…ま、どうしてもって言うなら、好きにしなさい。私は後ろを気にしなくていいように、ここの傀儡兵を片付けてから向かうわ」
「この数を一人でなんて…」
なのはが反論しかけるが、ユーノが肩を押さえる。
「なのは、フェイルなら大丈夫。急ごう!」
一行は二手に分かれる。
なのはとユーノは駆動炉の封印へ。クロノ、フェイト、アルフはプレシアの元へと向かう。
「『フェイルなら大丈夫』、ね…。信用されてるんだか、されてないんだか…」
フェイルは一人、傀儡兵の大群を相手にサンサーラを振るい続ける。
◆
辿り着いた『時の庭園』の最深部。
プレシアがジュエルシードの魔力を操り、虚数空間の裂け目を開く。空間が歪み、次元震の予兆がさらに強まっていた。
「そこまでだ、プレシア・テスタロッサ!アルハザードなんて御伽話だ!無駄なことをやめて大人しく投降しろ!」
クロノの声に、プレシアは嘲笑う。
「無駄? アルハザードへの道は存在する。私は全てを取り戻すのよ!私とアリシアが失った過去と未来を!こんなはずじゃなかった世界の全てを!!」
彼女の言葉には、実験の失敗、愛する者の死、暗鬱な人生への執念が滲む。
「そのためなら何をしても構わないと言うつもりか!?」
「当たり前よ!私はアリシアを取り戻す!たとえ次元断層で世界が滅びても構わないわ!」
「ふざけるな!世界はいつだって『こんなはずじゃなかった』ことばかりだ!だが、他人を巻き込む権利は誰にもない!」
「何を言われても、私は止まらない!」
虚数空間が拡大する中、フェイトが前に出る。
「…母さん」
プレシアの冷たい視線がフェイトを捉える。
「今さら何の用? アリシアの偽物が、私に何を言えるの?」
フェイトはバルディッシュを握りしめ、震える声で言う。
「私は…アリシア・テスタロッサじゃない。あなたが造った人形かもしれない。でも、フェイト・テスタロッサは、あなたに産み出され、育てられた、あなたの娘です」
プレシアの目が一瞬揺れるが、すぐに冷笑に変わる。
「…だから何? 今さら娘と思えと言うの?」
フェイトの瞳に涙が滲む。
「あなたがそれを望むなら…私は世界中の誰からも、どんな出来事からも、あなたを守る。私があなたの娘だからじゃない。あなたが私の母さんだから…!」
迷いを捨て、真っ直ぐに己の意思を示して差し出されたフェイトの手。
だが、プレシアは冷たく笑い、その手を取ることは無かった。
「…愚かな子ね。アリシア以外に、私に娘などいないわ」
フェイトの涙が溢れる。
アルフが「フェイト!」と叫び、クロノが前に出ようとするその瞬間――
「全く…健気にも程があるわね、フェイト」
冷たく響く声と共に、フェイルが現れる。
彼女の赤い瞳は、プレシアと、背後に安置されたアリシアを収めた生体ポッドを鋭く捉えていた。
「アナタ…?まさか、昔に捨てた…失敗作?生きてたの?」
プレシアが不愉快そうに目を細める。
だが、不愉快なのはフェイルにしてみれば、お互い様だ。彼女はゆっくりとプレシアの方へと歩を進める。
「…お陰様でね。そんなにアリシアに会いたいなら、蘇生するんじゃなくて、自害して後を追えば良かったのよ」
フェイトが「姉さん…!」と叫ぶが、フェイルは無視し、プレシアに近づく。
「本当は、アンタを殺してあの世でアリシアと再会させてあげようかとも思ったんだけど、未だにアンタを母親だと言ってるフェイトの前でそれはね…。それに病気で長くないんでしょ? だから、代わりに…こっちを壊させてもらうわ」
「何を…!?」
誰もが反応すら出来なかった。
苛立ちで乱れ切った心だったとしても、それでも圧倒的な技の冴えだった。
まるで空間を裂くような鋭さで、魔力の奔流も、感情の叫びも、すべてを置き去りにして、彼女の一閃が通り抜ける。その一閃でアリシアの遺体の首を生体ポッドごと刎ね飛ばし、さらに二つに分かれた生体ポッドを中身の遺体ごと虚数空間の裂け目へと蹴り飛ばした。
「アリシア! 私のアリシア!!」
プレシアが発狂したように叫び、魔力を集中させてフェイルに襲いかかる。
「貴様ぁぁぁぁあぁ!!!」
だが、プレシアの攻撃が形になる前。
攻撃の出先を潰す形でフェイルはカウンターを叩き込み、その一撃でプレシアを気絶させる。
「…これで終わりよ。これでもう誰もアリシアに囚われずに済む」
フェイルの声は静かだが、どこか寂しげだ。
フェイトは呆然と立ち尽くし、駆動炉の封印を終えてちょうど駆けつけていたなのはとユーノも、目の前の光景に言葉を失う。
「なんて…こと…」
こうしてプレシアが逮捕されて事件は決着した。
しかし、その結末は、誰の心にも傷を残す後味の悪いものになったのだった。
あとがき:
フェイルも死体損壊罪の罪に問われそうですが、プレシアの精神に最大ダメージを叩き込む方法はどう考えてもこれでした。
ショックな結末であるのは事実ですが、プレシアが逮捕されて管理局に確保されたので、結果的にはプレシアがフェイトの前から消えずに済んだとも言えます。フェイトとプレシアが和解する可能性が僅かでも残っている?プレシアが虚数空間へ消えた原作の展開と今回の展開は、フェイトにとって、どっちがマシな結末なのでしょうか?
この後は事件の事後処理的なところを描いて無印編は完結の予定です。そして、最後の最後になのはが主人公の地雷を踏み抜くイベントが待ってますが、作品のテーマ的には今回以上にクライマックスかもしれないですね。
主人公のイメージ図(生成AIで作成):
【挿絵表示】