羽沢先輩がヤンデレ?ハッハッハ、御冗談を 作:コントラポストは全てを解決する
羽丘ピカピカ2年生である
家から近くて雰囲気がオシャレ。なんとなくコーヒーを嗜んでおくだけで背伸びができる。ケーキも美味しい。あとはマスターをやってる男性と話がよく合い、半分知り合いの家へ遊びに行く感覚で店に足を運んでいる。
加えて、看板娘がめちゃくちゃ可愛い。ドチャクソタイプな女性だった。
しかし、秋には女性経験がない。なので仮にアタックをしても、加減がわからずキショい態度を取り嫌われる未来が容易に想像出来た。なので、件の女性とは軽い雑談くらいのコミュニケーションしか取れていない。
そうして、一年生の時から気持ちを燻らせていた秋。今日も喫茶店の看板娘──羽沢つぐみと軽く談笑をして終わってしまった。一年かけてやっとこの距離感である。
「ご馳走様でした。新作も美味しかったです。羽沢先輩が任されたっていうメニューの方も今度いただきますね」
「う、うん!待ってるね!」
おまけに最近はつぐみが秋に対してぎこちない。このように会話するだけでアワついてしまうのだ。流石に一年間毎日通うのはキモかっただろうか……と、今更になって後悔が芽生える。
だが、それはそれとして今日のキョドり方は度が過ぎている気がした。
「……羽沢先輩、何かありました?」
「えっ……い、いや、なにもないよ ! !!」
「隠し事が下手すぎる……まあ、倒れることがないなら何でも良いですが。蘭先輩達には話したんですか?」
「う、うん!だから大丈夫!」
隠し事の内容が酷く気になった秋だが、幼馴染たちに話が通っているなら大丈夫だろうと譲歩をした。
「ご、ごめんね秋くん……。でも、そのうち話せると思うから……」
「はい。なら気長に待ってます。卒業までには聞かせてくださいね、約束ですよ」
「流石にそこまでは長引かないよ!」
「ハッハッハ、なら良かった」
羽沢つぐみは忙しい。生徒会にバンドに店の手伝いと予定がいっぱいなのだ。そして、そのタスク能力の高さと天使と言っても過言ではない人柄から、ついた敬称は良妻賢母。
しかし、秋の中では人柄と多忙さで倒れた危険人物。頑張ってる彼女の邪魔にはなりたくないが、それはそれとして不安だった。
「あっ、そうだ。何に困ってるかヒントだけ貰えませんか?お金ーとか、家計がヤバいーみたいな。少しは力になれるかもしれませんし」
「もう……秋くん、冗談でもそういう事は言っちゃだめだよ。秋くんただでさえ一人暮らしなのに」
「楽器の修理業でなんとかなってますし、いざとなれば沙綾パイセン家かはぐちゃん先輩の家でバイトでもしますよ。ありがたい事にお誘いはいただいてますし」
「……えっ、誘われてるの?バイトに?秋くんが?」
「?……はい。あとはこころお嬢様のボディーガードをやんないかーとか、専属のバイオリン修理職人をやって欲しい、とか。あとは……あぁ、大和先輩に機材メンテの求人票をいただいたりもしてます」
だからお金は心配ないと胸を張って笑った秋だが、対するつぐみは余計に様子がおかしくなった。
「羽沢先輩?大丈夫ですか?」
「秋くん、家でバイトして」
「えっ、どうしたんですか急に。無理しなくて良いですよ?」
「違うよ。私、秋くんをどうやってアルバイトに誘おうか悩んでたの。迷惑じゃないかなって」
「迷惑だなんてそんな。ありがたくお受けしますよ。じゃあ、来週までに履歴書とか色々準備して持ってきますね」
「大丈夫。明日から来て」
光の速さでスピード採用され、最近よく聞く人手不足という単語が頭を過った秋。思えばここには人気アイドルがバイトとして働いているのだ。人手が足りなくなって当然である。
◇
翌日、自慢がてら学校の先輩である蘭のところへ近況を報告しに行った。
「あぁ……そう……ついに捕まったんだね……」
しかし、報告を受けた蘭は祝うでも悪態をつくわけでもなく、ただげんなりした表情を見せるのみ。その様はまるで生贄の子供を見る村人Aの顔だった。
「なんですか捕まったって。人聞きの悪い」
「……まあ、秋からすればそうか。とりあえず女の子から連絡先を貰う時は気をつけて」
「まず機会が来ないので、蘭先輩が心配するような事にはなりませんよ。今の知り合いだって全部羽沢先輩経由で出会ったんですし」
「それとその羽沢先輩って言うのもやめて。あたしやモカは名前呼びだからたまに詰められ──つぐみが不安がってよく相談しにくるから」
「そういえば羽沢先輩だけ苗字でしたね。丁度いい機会ですし変えてみます」
「そもそも、なんでつぐみだけ名前で呼んであげなかったの?」
「前に呼び方を変えようとした事があったのですが、なんだか照れくさくて。今の呼び方に慣れていたから、なのかもしれません」
そんな秋の言葉に蘭は溜息を一つ。
「さっきから失礼な反応ばっかしますね」
「あんた、危機感なさすぎ」
「危機感を抱くポイントがないですし。それともなんです?羽沢珈琲店は人肉を使ってるとかがあるんですか?」
「……行けばわかるよ」
「否定しましょうよ……」
ポヤポヤした雰囲気を漂わせ、無知な子供のように首を傾げる秋を前に、蘭は再度溜息をついた。