羽沢先輩がヤンデレ?ハッハッハ、御冗談を 作:コントラポストは全てを解決する
「アヤ先輩の頭を見てると、イチゴのかき氷を食べたくなりますよね」
「初めて言われたかな……」
「ピンクのわたあめとかは?」
「ないかなぁ……」
パスパレの母校収録の下準備として、羽丘と花咲川に番組のスタッフが赴いた。両方が滞りなく話が進み、話が円満集結したと同時、事件が起こった。
財力と行動力と想像力のお嬢様が、番組スタッフを見つけてしまったのだ。
そうしてあれよあれよと話が大きくなり、最後には『おかえりパスパレ祭り』として企画そのものが変わってしまった。
「それにしても、相変わらずこころちゃんの影響力はすごいね〜。1時間も経たずに出店がやってきて、そのまま収録まで始まっちゃって。しかも、撮影期間が2日も延びちゃったし」
「良いじゃないですか。こうして和牛のお好み焼きが安く食べられますし」
「安いって言っても2000円ぐらいしたよねそれ?秋ちゃんってお金持ちなんだね、普通の学生なのに」
「短発でお嬢様の小間使バイトがあるんですけど、めっちゃ給与良いんですよ。一回受けると九万入ります」
「なにするの?」
「皆にバレないようにお嬢様の家でミッシェルを修理したり、迷子のカノちゃん先輩を保護したり、かおちゃん先輩語の翻訳だったり、はぐちゃん先輩と野球チームでスポーツしたり」
「秋ちゃんだから出来る仕事だね。引っ張りだこで羨ましいな〜」
「それを言ったらパスパレのボーカルなんてアヤ先輩にしか出来ませんし、そのパスパレは人気アイドルですし、先輩もお忙しい人では?もう日本一のアイドルになったようなものじゃないですか」
「え〜?そうかな〜???」
でへへでへへと簡単に調子に乗った彩。相変わらずチョロすぎて将来が心配になる。
「パスパレで思い出したんですけど、千聖先輩ってどこにいるんですか?花咲川ですしこっちにいる筈ですよね?」
「あぁ、何か準備?があるんだって。明日絶対に外せない用事があるって言ってた」
「やっぱり忙しいんですねぇ……。久々に声が聞けると思ったのですが」
「そういえば千聖ちゃんも『最近秋に会えてない』ってぐったりしてたな〜」
「ラインでなら毎日やりとりしてるんですけどね」
「流石にそれはノーカンじゃないかな?私だって三日に一回秋ちゃんと電話してるけど、今度遊びに行きたいな〜ってよく思うし。なんていうか、ワガママが言い足りないって感じ?」
「アヤ先輩のワガママですか。聞いてみたいですね」
「気分の話だよ?……あぁ、でも、毎日秋ちゃんの作るご飯が食べたいとかはよく考えるかなー」
「そんな事で良いならいくらでも──」
「いや、やらなくて大丈夫。流石にこれ以上秋ちゃんのお世話になると、年上としての威厳が……」
年上の矜持とは保つのが難しい物なのだと、彩を見て学ぶ秋。
とはいえ、部屋着がダサいのと部屋が汚いくらいしか欠点はないし、彩の魅力ならそれも可愛さや威厳……というより人望になるので、さして危惧するような物ではない気がする。
少なくとも、秋はそう感じているのだが。
「まあ、そういう事だから、近い内に千聖ちゃんに会ってあげて欲しいな。知ってる?千聖ちゃんってさ、秋ちゃんに会える時だけすごく活き活きするんだよ」
「活き活き……ですか?」
「うん。なんというか、子役をやる前の千聖ちゃんはこんな子だったんだろうなーって分かるの。中々見れないレアな姿だね、あれは」
「へぇ……良いなあ……俺も見たい……」
所謂年相応という姿だろうか……秋の前の千聖は、いつだって余裕綽々で、はしゃぐ子供を眺めるような目で秋を見てくる。
前に出かけた時も率先して前を歩いたけど、結局犬と飼い主の散歩みたいな雰囲気になってしまった。
千聖は楽しみの笑顔さえ大人だから、つくしとタメで喧嘩をする秋には到底届かない大きい存在なのだ。早く大人になりたい。
「秋ちゃんの前だと取り繕ってるのかな?」
「そ、そうなんですかね……?一応、悩みを打ち明けたりはしていただけてるので、千聖先輩なりに素直にしてるとは思うんですよ」
「へぇ……千聖ちゃんが、お悩み相談……。どんな話だったの?」
「えっと、小さい頃から演じるのを義務付けられて……自分の心が分からなくなったらどうする……とか。あとは、もしも私に心がなかったら……みたいな話もされました」
「む、難しそう……」
思い返せば、彩も以前『演技をする時は役に入りすぎないようにね』と千聖からアドバイスを貰っていた。きっと、演技とは自分をあやふやにするものなのだろう。
「秋ちゃんはなんて答えたの?」
「いや、難しすぎて答えなんて出せませんでしたよ。頭をぐるぐるさせてたらタイムリミットでした。アヤ先輩ならなんて答えます?」
「えっ、こう……頭の科学がどうこう……みたいな?メンタリズム?とかそういうの」
「俺が一番苦手なやつじゃないですか……」
「私もだよー……」
同類のシンパシーか、お互いの知恵熱を感じ合う感覚を覚えた秋と彩。
「こうして話してみて思ったのですが、あの時の俺、もしかしたら千聖先輩を怒らせてたのかもしれません。真剣に悩みを話したのに、答えがわからないと投げてしまって」
「うーん……それは大丈夫じゃないかな……?千聖ちゃんって秋ちゃんが関わると、どんな事があっても機嫌が良くなるし。あれは好きじゃないとできない反応だよ」
「なら、あの質問はからかいの意味もあったんですかね?」
「かもしれないね。私もよくからかわれるし」
「なるほど……つまり、あの時の楽しそうな顔は、怒りの笑顔でもなんでもなかったと」
「楽しそうだったの?」
「はい、すごいニコニコしていて……。くっ……!いたずらだったならもっと楽しめる答えを出すべきでした……!」
彩と話してるうちに思い出したあの時の一幕。
真剣な面持ちで尋ねて来たので、ついつい『心とか分からないけど、今の千聖先輩の楽しそうな顔、すごく好きです。だから自信持ってください!』と熱く語ってしまった。答えも出さずに自分は何をしていたのだろうか。
「力が欲しい〜」
「あはは、秋ちゃんは相変わらず世話焼きさんだね」
「からかわれてるとはいえ、やっぱり千聖先輩の笑った顔は可愛いですから。こう……普段は綺麗とかそういう方向なので、ギャップがあるというか」
「秋ちゃんにもそういうのあるんだね。女の子の笑顔は全部好きーとか言ってそうなのに」
「俺のことをなんだと思ってるんですか……」
「女の敵……?」
「なら、アヤ先輩は男?」
「いや、私はノーカンじゃない?秋ちゃんと付き合ってる姿が想像できないし。それに前だって、週刊誌に撮られて熱愛報道ーとかなったけど、snsで犬の散歩って言われて勝手に収まっちゃったもん」
「まあ、アヤ先輩ってプードルみたいな雰囲気がありますしね」
「秋ちゃんも柴犬みたいだし」
「「……ん?」」
お互いに相手が犬、自分が飼い主だと思い込んでいた二人。そのまま数分威嚇しあった後、彩の腹の音と共に犬と飼い主の勝負はどこかへ吹っ飛んだ。彼らは同類であった。
「そういえば今日、お昼食べてなかったな……。あ〜、でも、今食べると夕飯に響くな〜」
「俺のお好み焼き、半分あげましょうか?小腹を紛らわすなら丁度いい量だと思いますし」
「良いの!?」
「はい、あーん」
「あ〜ん」
そのまま永遠彩に食べさせていたら、彩を迎えに来た千聖にバレ、二人まとめてしこたま叱られた。
おかしい、犬と飼い主だから問題ないはずでは。