羽沢先輩がヤンデレ?ハッハッハ、御冗談を 作:コントラポストは全てを解決する
───ゴロゴロッ……ビッーーー
その光と共に、鼓膜がなくなりそうな轟音が響く。
秋と彩と千聖のてるてる坊主の効果は乏しかったようで、外では雨が振り、雷が鳴り始めた。
「わっ、すごい雷だったね〜。初めてじゃない?ここら辺でこんなに大きな雷が鳴るの」
「そうね、これは一層気持ちを込めて作らないと。秋もモクモクと作って──」
「千聖ちゃん?どうしたの──えっ、あれ、秋ちゃんは!?」
つい3秒前まで、手錠に繋がれながら千聖の隣に座っていたはずの秋が消えていた。
一瞬わけが分からず混乱した2人だが、秋が机の上に残していった答えの手紙を読む事で謎が晴れた。
『
彩先輩、千聖先輩へ
つぐみ先輩が心配なのでお暇します。それと、久々に千聖先輩の声が聞けてうれしかったです。今度、パスパレの事務所に伺いますので、その時にまたいっぱい話しましょう。
秋より
追記
彩先輩、ほっぺに青のりが付いてますよ。
』
その書き置きと、ピッチキングによって開かれた手錠の片側。
秋は雷が鳴った瞬間、光の速さで羽丘へと走り始めていたのだ。
「しまった……秋の行動力を見誤っていたわ……」
「あはは……。どんまい……で良いのかな……?」
「本当に欲しい物ほど手に入らないのって、なんでなのかしらね」
「秋ちゃんに関してはしょうがないと思うよ。ほら、倍率すごいし。宝くじを当てる方が確率が高いんじゃないかな?」
「はぁ……。私も、つぐみちゃんのお店でバイトしようかしら」
「つぐみちゃんの気が休まらないから、やめてあげて欲しいな……」
そうして、無事に戦う前に負けた千聖は、ため息混じりにてるてる坊主を作り続けた。
◇
日菜の目に、見た事のない勢いで雷雨が迸った。何の比喩でもなく世界が終わりそうな勢い。
遠くに落ちた雷ですら、日菜を怖がらせるには十分な迫力を持つ……それくらいには酷い雷雨だ。
「うぅ゛……やだよぉ……雷゛こわいよ゛ぉ……う゛ぇぇ……しゅ゛ーく゛ううぅぅん゛……」
当然、つぐみはしこたまビビり散らかしていた。
若干の汚い悲鳴と共に、幼児が如き声音でつぐみは秋を求め続けていた。
「つ、つぐちゃん?ほら、シューくんの写真だよー?これ持ってれば怖くないよー?」
「しゅ゛ーくんじゃなき゛ゃやだー……!」
部屋中に響く彼女の癇癪。大粒の涙を流し、ズビズビと鼻水を啜り、部屋の隅でうずくまって幼児退行をし始めた。
「はぁ……しょうがないか……」
かくなる上は……と、日菜は洋服の袖をまくり、花咲川から秋を攫うことを決意する。
「──すいません!つぐみ先輩いますかッ!!!」
日菜はびしょ濡れにならずに済んだ事に心から安堵した。これほど心から待ちわびた秋の声があっただろうか。姉と一悶着した時以上に秋の声を欲していた気がする。
「シューくn──」
「しゅ゛ううううう゛くうぅぅん゛……!!!」
秋の方へと駆け寄ろうとした日菜の隣を、何かが突っ切った。何かというかつぐみだけど。
「う゛ぅ……怖゛が゛っよおお゛……」
「はい、よく頑張りましたね。もう大丈夫ですから。ほら、チーンしてください」
「うん……」
見たことないスピードで秋にかけより、涙と鼻水を垂らしながら介抱されるつぐみ。先輩としても恋する乙女としても、その醜態は晒して良いのか日菜には分からなかった。
「日菜先輩もすいません。面倒かけちゃったみたいで」
「あー……ううん、大丈夫。というか元はと言えば──あっ、そっか。これをひっくり返せば良いんだ」
何か合点がいったように、日菜は逆さのてるてる坊主を見つめた。
「えっ、なんですかこの大量のてるてる坊主。しかも逆さまですし。なにかのおまじないですか?」
「えーっと……強いて言うなら、雨乞い?ちょっと野暮用で必要になってね」
「雨乞い……あぁ、それでこんな天気に。効果あるんですね。これも天文学ですか?」
「いや、全然オカルトだけど。というか学問でもなんでもない恋のあれこれで……まあ、ざっとまとめるとシューくんのせいかな!」
「ざっとまとめ過ぎでは……」
「はっはっは。まあ、細かいことは後にして。つぐちゃんの事、お願いね」
「はい、最初からそのつもりです」
つぐみを背中に背負い、秋は早退する気満々の姿勢を見せる。
「大胆な事するようになったね〜。お持ち帰りってやつ?」
「つぐみ先輩の家まで送るだけです──」
羽沢家に帰す。そう告げた瞬間、背中に背負ったつぐみが落ちない程度に首を絞めて来た。
「しゅうくんの家が良い……」
「えっ。それは流石に……」
「やだ……しゅうくんの家……」
「お母さんとお父さんと一緒にいる方が安心するのでは?それに、俺の家って一人暮らしですよ?静かすぎて落ち着かないと思います」
「しゅうくんといたい……」
弱った声のまま耳元で囁かれると、断るに断りきれなくなる。秋は意を決してつぐみを家に連れ込む事を決意した 。
「……分かりました。そこまで言うなら」
「うん……」
「というわけなので、俺達はこれで失礼します」
「うんうん。ちゃんと狼になるんだよ」
「日菜先輩?」
「はっはっは、冗談だよ〜」
日菜から茶化しを貰いながら、秋はつぐみを背負ったまま生徒会室を見た。
すました顔で日菜と話していたが、内心ではもう心臓が爆発しそうである。
────
学校の下駄箱を抜けたところで、秋はモカとパレオに出会った。どうやら2人もつぐみを心配していたらしい。
「秋さん!つぐみさんは……あんまり大丈夫じゃなさそうですね」
「疲れて寝ちゃったけど、まだちょっとうなされてる」
「かわいそうに……。パレオちゃんにタクシー呼んで貰ったから。つぐのことお願いね、秋くん」
「お任せください。パレオちゃんも、ありがとね」
「い、いえいえ!」
最後にモカからお見舞いのパンを受け取り、秋はタクシーに乗り込んだ。
つぐみの隣で自分の家の住所を告げるのは、 なんとも耐え難い羞恥プレイだった。つぐみが起きていたら爆発していたかもしれない。