羽沢先輩がヤンデレ?ハッハッハ、御冗談を 作:コントラポストは全てを解決する
朝、目が覚めたら好きな男の胸の中で寝ていた。
なにが起こっているのか分からず、思考がフリーズするつぐみ。
しばらくして、頭が段々と覚めていき、つぐみは昨日のことを思い出した。
「うぁ………わぁああぁ……やっちゃった〜……!」
時間帯、服装、シチュエーション、景色やムード。
全てがロマンティクスとはほど遠い、秋には刺さらないであろう不正解を引きまくってしまった。
「うぅ……秋くんに絶対はしたない人って思われた……」
あんな……痴女も良いとこな詰め寄り方をして……体を密着させ、ハニトラと変わらない痴態を晒してみせた。
「そ、そうだ……今すぐ家に帰って、全部夢オチって秋くんに説明すれば──」
まだ間に合う可能性を見つけ、秋の寝顔を横目に急いで帰り支度を……
「も、もうちょっとだけ……寝顔、見てても良い、よね……?」
しかし、安らかかつ穏やかな秋の寝顔に体が引っ張られてしまう。
ベッドから上がりかけていた体を再度秋の隣に置き、つぐみは秋の胸の中に戻る。見上げれば、今までに体験した事がない距離に秋の顔があった。
「秋くんの顔って、こんな感じだったんだ……。ちゃんと見てたはずだったんだけどな……」
ペタペタと頬を触り、秋の顔を身体に覚えさせる。こんなチャンス、二度とないだろうから。
きっと、昨日のは酔っぱらいの妄言くらいにしか思われていないだろう。相手はあの秋なのだから。
「……でも、ほっぺにキスくらいなら、してもいいよね……?」
こんな……脈アリが確定しまった朝に、秋の家で目覚めて二人きりなのだ。浮かれたくもなってしまう。
だから、ちょっとくらい失礼しても──
「……あの、つぐみ先輩……くすぐったいのですが……」
つぐみは秒速0.5秒でベッドから飛び出た。
「し、しししし、秋くん?!?!!いつから……あっ、あの、これは違くてね!!!」
「えっ、はい。何が何だか分かりませんが、おはようございます」
「お、おはよう……」
どうやらバレてないことを知り、つぐみは胸を撫でおろす。
「あの、つぐみ先輩。朝ごはんを食べたら、少し散歩に付き合ってくれませんか。昨日の約束、ちゃんと果たしたいので」
「……へっ?」
撫で下ろした胸が暴れ始めた。
「し、秋くん……?」
「と、とりあえず朝ごはんにしましょう!」
照れくさそうにしながら、秋は部屋を出ていってしまう。つぐみの心臓は今にも爆発しそうだ。
◇
朝食を食べ、身支度を整え、人の少ない散歩道を2人で歩いた。会話なんて一言もなく、気まずい雰囲気が2人の間に流れる。
けど、決して居心地が悪いわけではなかった。
「……つぐみ先輩。話の前に、一つだけ謝らせてください」
「う、うん。聞かせてほしいな」
「今までずっと、つぐみ先輩の気持ちに気づけなくてごめんなさい」
「い、いや、大丈夫だよ!私も、秋くんの気持ちをこれっぽっちもわかってなかったんだし」
まさか、秋に好意を持たれているなんて、誰が予想できようか。
つぐみ本人としは、自分はめちゃくちゃに懐かれているだけの先輩で、本命は日菜なのかと勘違いをしていた。流石に好意ゼロで宇宙まで同行するなんて出来ないだろう。
それに、第二候補に蘭がいた。蘭があそこまで素をさらけ出したなら、それはもう付き合う寸前だと言っている事に変わりないのだ。
「秋くんが蘭ちゃん達とよくいたの、もしかして恋愛相談が理由だったり?」
「お恥ずかしながら……。友達より先の進め方が分からなくて。ずっと、皆の手を借りていました」
「……そっか。私と一緒だったんだね」
「つぐみ先輩もですか」
「うん。ずっと、秋くんとどうやって距離を縮めようかって考えてた。バイトに誘ったのもそれが理由」
それでも依然として距離感が変わらなくて、何が足りないのかつぐみはずっと悩んでいた。
その間にも秋の周りの女の子は増えるので、焦りに焦って気持ちが重くなったのが昨日までのつぐみだ。
まさか、悩みの答えが『縮める距離がなかった』だとは夢にも思わなかったけど。
「でも、そっか。私達、ずっと前から両思いだったんだ……ごめんね、秋くん。私が臆病だったばっかりに」
「い、いえいえ!むしろ、俺からもっと積極的に行くべきでした!」
「ううん、秋くんは悪くないよ」
「ですが……」
「秋くんのことだもん。私が怖がらないように……みたいな感じでさ、私の事を考えてくれてたんでしょ?」
たしかにつぐみの言う通りな部分が秋にはあった。しかし、振られた時の『もしも』を怖がって、動けなかったのもまた事実。
「良いんだよ、秋くん。秋くんは穏やかなのが好きな優しい子なんだから」
「でも、俺ばっかり気遣われて、つぐみ先輩の気持ちは……」
「そんな秋くんだから、私は隣にいられたんだよ」
「そ、それは過大評価というか依怙贔屓な気が……」
「過大評価でも依怙贔屓でもないよ。秋くんの隣が落ち着くから、私はここにいるの」
晴れた日の秋風のような心地良い居場所。
だからこそつぐみは……というより、秋の周りの女の子は、秋を好きになった。
「私も、秋くんの事は全部分かってるつもりだった。でも、結局こうやって甘えちゃってたみたい。居心地の良さに寄りかかって、秋くんに穏やかさを捨てさせようとしてた」
「そ、そこまで大げさな事じゃないですよ!」
「うん、でも……私の気が収まらないからさ。告白の時くらいは──」
「そ、それもダメです!俺から伝えるって昨日決めたんですから!」
「──へっ?あ、あぁ、そっか……でも、やっぱり私からしたいなー……なんて。ダメかな?」
信念を曲げたくない秋の気持ちも分かるが、やはりここは年上らしく行きたい。
それに、散々待たせてしまった分こちらから行きたいと、つぐみはワガママを言ってみた。
対する秋は、ウンウンと頭を捻らせている。つぐみの気持ちと自分の気持ち、どちらを優先させるべきか戸惑っているのだろう。
「あはは……困らせちゃってごめんね?一緒に考えよっか」
「はい……。すみません、ワガママで……」
「それはお互い様だよ」
商店街から少し離れた場所にある公園のベンチに座り、一緒にウンウンと頭を悩ませた。
お互いが一歩引けば良いだけなのだが、何故かお互いに今だけの強情さを見せていた。
そうして頭を捻ること数十分。2人は同時にため息を吐く。
「改めて考えると、この話自体が告白な気がしてきた」
「奇遇ですね、俺もです」
「それに、こうして気持ちを伝えても、あんまり距離感が変わらないし」
「今までなにをしても距離感が変わらなかったわけですね」
「でも、それだけ秋くんと相性が良いってことだし。理想の旦那様、見つけちゃった」
「流石にプロポーズの時は俺から伝えますからね」
「うん、待ってる」
もっとロマンティックな雰囲気になるものだと2人は予想していたが、思いのほかあっさり片が付いてしまったようだ。
「そういえば、秋くんって誰かとキスしたことある?」
「な、ないですよ……。そもそも、女の子とそこまで親密になった事自体ないですし……」
「へぇ……」
「えっ……そんな怪しむほどのことです……?」
じとぉ……っと、呆れを超えた感情の眼差しを向けてくるつぐみ。
「まあ、秋くんのファーストキスが残ってるならいっか」
「男のファーストキスなんて、価値あります……?」
「あるよ。秋くんのは特に。帰ったら教えてあげる」
「お、お手柔らかに……」
一瞬、つぐみの目が狩人のようになった気がして、秋は反射的にたじろいでしまった。
「さてと、やらなきゃいけない研修も増えたことだし、そろそろ帰ろっか」
「……帰る前に、少しだけこっちを向いてくれませんか」
「ん?どうしたの──」
秋に呼ばれ振り向いた瞬間、そっとキスをされてしまったつぐみ。爆発しそうになった。
「──へっ……ぁ、し、秋くん……?」
「す、すいません……キスに価値があるって言わたので、早くつぐみ先輩に渡しておこうと……他の人にあげるのは、その……アレなので……。あ、あはは……顔、熱いですね」
「〜〜〜ッ!!!し、秋くん!!!ほんとにそういうところだよ!!!!」
「ご、ごめんなさい……!」
顔を真っ赤にしながら、頑張って攻めてくれた彼氏を前につぐみは吠えた。外じゃなかったらぶちお菓子を決めていたところである。