羽沢先輩がヤンデレ?ハッハッハ、御冗談を   作:コントラポストは全てを解決する

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2.罪を積み重ねます。はい、詰みです

 

 

『私、秋くんをバイトに誘いたい!』

 

 半年前、羽沢つぐみがその相談を持ちかけた時は幼馴染全員が苦笑いを浮かべた。荒上秋の人生を差し出せと言われてるようなものだったから。

 

 確かにつぐみと秋は相性がいい。というより、つぐみを男にしてより頼りがいを持たせたような人物が荒上秋という男であった。なので、つぐみがここまで秋を気にいるのもわかる話なのだ。

 

 しかし、そのつぐみが秋に対して、病を疑うほどの好意を持っているとなると話が変わってくる。

 

 いくら相性が良いとはいえ、いくら似た者同士とはいえ、それだけで秋の事を死ぬまで支えたいという目標を持つのは無理だと言えよう。

 

 秋が風邪を引けば看病をすると学校を休み、秋が怪我をすれば保健室顔負けの手当をし、秋が昼を忘れようものなら嬉々として自分の弁当を上げようとする。極めつけは秋が他の女の子と話していると、電話やラインで「店についての相談」という名目で秋を誘い、そのまま掻っ攫っていくのだ。

 

 もちろん幼馴染達も黙って見ていたわけではない。やんわりと穏やかさを要求したり、秋にも自由を与えた方が良いと説得もしたりした。

 

 だが、それでもつぐみを止められず、恋する暴走乙女のまま走り貫き轟かせてしまった。穏やかさを持てと止めはすれど、皆つぐみを尊重したい気持ちはあったから。

 しかし、今のつぐみはどう見ても攻め方を見誤ってるのだ。いきなりその勢いで貫かれたら、誰であろうと怖さで逃げてしまうだろう。だからこそ、幼馴染達は大人しさを要求したのだ、

 

 だが、それでもつぐみを止める力にはならなかった。ここまで来るともう秋に頼るしか道はないわけだが、幼馴染達には秋を頼れない理由があった。

 

 何を隠そう、秋はモテるのだ。

 

 補足として、秋を目にした女子が黄色い歓声を上げるような、そんな行き過ぎたモテではない。いわゆる普通のモテ。バレンタインに一人二人から本命チョコを貰うような、そして、義理チョコを5個くらい貰ってくるような。

 しかし、結局のところモテはモテ。なので、仮に秋からつぐみにアプローチが出来るようセッティングをしたとしても、二人が巡り合う道中で絶対に秋が女の子に声をかけられてしまい、その後は…………まあ、色々がアレコレして目も当てられなくなる。

 

 だから、秋とつぐみに口酸っぱく注意することが関の山だった。幼馴染達は二人の交際を切に望む。

 

 

 ◇

 

 

 

 初バイトが入った日の昼、緊急招集と称して秋はひまりに呼ばれた。そして、待ち合わせ場所のカフェには、酷く思い詰めた顔をしたひまりが待っていたのだ。

 

「私ね、秋に隠してたことがあるんだ。ずっと前から」

「体重についてならモカ先輩から筒抜けてますよ?」

「真面目な話だからちゃんと聞いて!」

「はいはい、それで?」

「情報化社会ってあるでしょ?」

「なんでもかんでもインターネットってやつですよね」

「うん。でね、その情報化社会はさ、ヤンデレまで情報化しちゃったんだよ」

「つまり?」

「相手の家に行っても壁中に写真は貼ってないし、盗聴器の受信機も置いてない」

「侘び寂びがなくて寂しいですね」

「そうじゃなくて!」

 

 カフェのテーブルをだん!と大きく叩いて身を乗り出すひまり。蘭といいひまりと言い、最近の幼馴染'sは秋に対して反応が忙しなさすぎる。おまけに失礼極まりない。

 

「この際だから言うけど、つぐはヤンデレだよ。もう漫画で見るようなコテコテのヤンデレ」

「誰に対して?」

「秋に対して」

「羽沢先輩が?ハッハッハ、御冗談を。一年経っても距離感が変わらなかった俺にヤンデレ?ないない」

「そりゃ出会って五日で私達並みの距離感になったからね。つぐとの相性の良さ自覚してる?」

「いまいち……?」

「はぁ……」

「蘭先輩共々失礼な人ですねぇ……」

 

 この心配が分からんのかとひまりは訴えたが、秋には伝わらなかった。ここまで言って駄目なのかと、ひまりはヤケ食いでケーキを口に突っ込む。

 

「そもそも羽沢先輩がヤンデレなら、今までこうして俺とデートして来たひまり先輩が生きていないと思うんですけど。よってノーギルティー」

「鳴りを潜めてるんだよ。ひとまずバイトが始まったらつぐに告白して。相思相愛ならなにも問題ないから」

「なんだか実験みたいで嫌です。俺は然るべきベストなタイミングで最高の告白を──」

「その前に押し倒されるから今日告ってきな」

「羽沢先輩をなんだと思ってるんだ……」

 

 小学校以来の旧友に対して失礼極まりない評価を下すひまりに、それでも幼馴染なのかと秋は憤慨しかける。

 

「秋、ちゃんと聞いて。これは秋の将来を左右する大事な話なの。つぐに色々奪われるか、純愛ラブコメハッピーエンドを掴めるかが賭かってるんだよ」

「ほんとに羽沢先輩をなんだと思ってるんだ……」

「それくらい大事な話なんだってば!!!」

「えぇ?そんな事言われても……今まで包丁で襲われるみたいな事とかなかったですし……一応、弁当でお出迎えされたことなら何度かありますけど……」

「まずそれがカジュアルヤンデレなんだよ」

 

 流石にそれは判定が厳しすぎるんじゃと童貞なりに訝しんでみた秋だが、その様子を見たひまりに再度ため息をつかれてしまう。

 

「秋。女の子っていうのはね、好きな人のためだけって理由で、そう何度もお弁当を作って来れる生き物じゃないんだよ。それこそ幼馴染レベルでやっとって感じなの」

「でも俺、たまに他の人からも貰いますよ?それこそ友希那先輩ガチ勢のリサさんからとか。けど、絶対友希那先輩よりは順位が下だと思うんですよ」

「待って、そんな事してたの?つぐに狙われてる身で?」

「羽沢先輩をなんだと──」

「それはもう良いから!」

 

 再度テーブルをダンっ!と叩きながら、ギャンブルで詰みかけた中毒者の形相で詰めてくるひまり。そして、最後には盛大なため息をついてしまった。蘭の時もそうだったが、幼馴染というのはため息で呼吸をする生き物なのだろうか……なんて疑問が秋の中に芽生える。

 

「はぁ……もう……ほんとに秋はさぁ……。一応聞くけど、他にもそういう事してる人っている?」

「日菜先輩にご飯を奢ってもらったり、あとはつくしーのお家にお呼ばれしてご飯食べたり、イヴちん先輩の家で寿司握ったり、こころんお嬢様の花見パーティーに誘われたりとか……あとは、パスパレのライブに行くと毎度千葉から参戦してる女の子と相席するんですけど、その子からコラボカフェじみたパスパレ飯を貰ったりくらいですかね」

「えっ、ギルティーの塊じゃん……」

「そこまで言います……あっ、貰ってばっかりじゃないですよ?ちゃんとお返しもしてます」

「そういう事じゃなくて──待って今お返ししてるって言った???」

「はい。流石に貰うだけじゃ礼儀に欠けると思って。ぶっちゃけ日菜先輩とは奢り奢られの関係ですし、なんなら奢るだけなら彩先輩に大分してます。つくしーちゃんだって家にお誘い返ししたり、イヴちん先輩の時は出来るだけネタを持っていくようにしています。こころんお嬢様の時はその時だけミサキ先輩の代わりにこころんお嬢様のブレーキ役を買ってますし、千葉の子の時は作ったお菓子をトレードしたり──」

「あぁ……うん、ありがと……もう大丈夫……」

 

 ペラペラと罪状をひけらかす秋を見て、ひまりはもう手遅れなのを悟った。

 

「ふぅ……よし、解散!」

「えっ、いきなりすぎませんか?」

「このあともうバイト何でしょ?時間もいい頃合いだし。解散解散」

「いつにもましてテンションがジェットコースターですね。さっきまで子を心配する親のようだったのに」

「崖から突き落とすのもまた教育なんだよ」

「ひまり先輩が頭良さそうなこと言ってる」

「喧嘩なら買うけど?」

「うへー」

 

 誰のせいでこうなったのかと、誰を心配してこうなったのかと、帰り支度をしながら愚痴愚痴と、ひまりは秋の隣で不満を漏らし続けた。

 

 そして、秋はそれをあしらいながらナチュラルに会計を全おごりし、その一切を悟らせないまま羽沢コーヒー店までひまりをキャリーしてみせた。ひまりはカフェを出てからずっと喋り続けていたのだ。これが聞き上手。

 

 瞬間、『こいつはもう、ダメだ』とひまりは悟ってしまった。御冥福をお祈りする。

 

 

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