羽沢先輩がヤンデレ?ハッハッハ、御冗談を   作:コントラポストは全てを解決する

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4.井戸端と、たちまちあやまち、立ち話

 定例の荒上秋攻略会議(つぐみの愚痴会)が、今宵も昼休みの学校で開かれた。

 

『どうしよう……秋くん、想像以上にモテる……雇ったら安全だと思ったんだけどなぁ……』

 

 屋上で弁当片手にぐったりとうなだれるつぐみ。流石の一同も同情でつぐみの肩を撫でてしまった。

 

『で、でも、秋くんから名前で呼んでもらえるようになったし、これで皆と同じ……あぁ、そっか、やっと皆と同じなんだね……』

 

 瞬間、怪しげな何かにスイッチを入れたつぐみを見て、全力でフォローに入った幼馴染達。流石に加害的なあれこれはしないと分かっているが、それでもこれは命の危機だと確信できた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ライブハウスサークル。そこでは一人の少年が無償労働を課せられていた。

 

「まりなさん、俺一応客なんですけどね」

「あっはっは。ごめんねー、急にバイトの子が体調不良になってさー。バイト代は弾むし親戚の好ってことで、ね?それに秋の家って何でも屋でしょ?」

「じいちゃんの仕事ですよそれは。俺は前に使ってた店を家として貸してもらってるだけです」

「まあまあ、将来はおじいさんを継ぐんだし。よっ、未来の万屋ー」

「何でも屋はドラえもんじゃないですよ」

 

 祖父の弟の妻の姉の家系の女。それが月島まりなであり、秋の中でだらしない大人ナンバーワンをキープしているある種の才女。家に行くとだいたい惣菜弁当の空パックが山積みになっており、シンクには酒の空き缶とツマミを入れていた皿がタワーを作っている。

 

「何でも屋で思いだしたんですけど、この間まりなさんの部屋を片付けた時の代金ってまだ貰ってないですよね?」

「えっ、あれお金取るの……?」

「まりなには厳しくしとけーってじいちゃんに言われてるんですよ。飴をあげるとすぐ甘えるからって」

「ぐっ……なにも言い返せない……」

 

 バツが悪そうに目をそらす、そんなどこにでもいる仕事に生活を押されるアラサー間近の女。世間一般では当たり前なのだろう。

 しかし、秋にはつぐみというバリキャリの化身がいるため同情は出来なかった。

 

「まったく、仕事は完璧なのになんで私生活はボロボロなんですか」

「仕事が出来る代償……みたいな?ほら、等価交換。得意不得意があってこその人だからね」

「なら、せめてハウスキーパーを雇うくらいはしましょうよ。親戚とは言え、他人として結婚しても反論ないくらいには遠い親戚なんですし。それに、高校生に部屋の掃除をさせてる大人って評価が下がりませんか?」

「まあ……普通はそうなんだけど……秋って世話焼きだし、人懐っこいし、何より年上ウケが良いからさぁ……」

「だからなんなんですか……」

「いやー……だから、その……ね?」

 

 含みある顔ですべてを察せと語るまりな。秋からすれば意味不明の塊である。

 

「じゃっ、そういう事で!受付よろしくねー!」

「あっ、ちょ……」

 

 まりなの意思を汲もうとすべく頭を捻っていたら逃げられてしまった。しょうがないので受付業務に徹する事にする。

 

「おっ、今日は秋がやってんのか。またまりなさんの手伝い?」

「巴先輩……聞いてくださいよ、あの人また俺を罠にはめてですね」

「たはは、相変わらず仲良いんだなー」

「3ヶ月ぶり5回目ですよ。あの人、俺が高校に上がった瞬間にはもう吹っ掛けて来てましたからね。法が味方した瞬間にあれです」

「まあ、嫌ならちゃんと言えば良いんじゃないか?」

「別に嫌ではないんですよ。あの調子で大丈夫なのかなって不安になるだけで」

 

 ぶーぶー垂れながらも根本は人の心配であることに秋らしさを感じ……その秋らしさを見るたびにつぐみが滾る姿を思い出し、巴は苦笑いを浮かべてしまう。

 

「そうだ、受付しないとですね。巴先輩だからアフグロで……あれ、予約より一時間も早いじゃないですか?皆となにかあったんですか?」

「あー……まあ、あったというかなんというか。一人で考え事したくて」

「へぇ、巴先輩をそこまで本気にさせるとは……すごい案件なんですね」

「いや、まあ……秋の事なんだけど……」

「えっ、俺ですか?」

「その……最近調子はどうかなって。人間関係とか」

「お父さんみたいなことを聞いてきますね」

 

 ぎこちなく気まずそうな顔。それはまさしく、子供の成長は気になるが、仕事の忙しさで子供に構ってあげられない父親のそれだった。

 

「どうと言われても、順風満帆としか。つぐみ先輩にバイトに誘われて、やっと懐に入り込むことが出来ましたし。一年でこれと考えると、やっぱりつぐみ先輩ってガードが硬いんですかね」

「お前……すごいな……」

「いえいえ、俺なんて交際経験どころか初恋がつぐみ先輩の恋愛よわよわ男児ですよ。多分、相性いい人なら3ヶ月でここら辺まで来るはずです」

「充分すごいと思う。うん」

「えー?褒めても何も出ませんよー?」

 

 秋の反応を見ていると、つぐみの暴走は自分の夢だったのではないかと勘違いしそうになってしまう。今日の昼休みに自分の命を危機に晒して来たはずなのだが。

 

「それとですね、今日の夕方からつぐみ先輩の家で新人研修やるんですよ」

「まぁ、バイトならするだろうな」

「でもですね、その研修泊まりなんですよ。一泊二日の」

「……は?泊まり?」

「はい、泊まりです。しかもこの研修、俺だけしか受けないらしいんです」

「……そ、そうなんだな……。まあ……男のバイトなんて初めてだろうし、つぐも戸惑っているのかも知れないな。も、もしもの時は助けてやってくれ……?」

「なんで疑問形なんですか……」

 

 つぐみと秋の恋路を邪魔せず、かつ秋には一定の警戒心を持たせ、なおかつ円滑で穏便に事が済むような案をだそうと何とか頭を捻った巴だが、無事キャパオーバーとなり秋をつぐみへと差し出してしまった。

 

「その……ごめんな。もしかしたら秋の夢を壊す事になるかもしれない」

「よ、よくわかりませんが……まあ、大丈夫ですよ。もしもの時はちゃんと巴先輩達に連絡しますから」

「あはは……」

 

 その『もしも』を察知できない秋を前に、巴は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

 

「でも、大丈夫ですよ。モカ先輩達からもたくさん心配されたので、ちゃーんと危機感は持つようにしてます。ほら、さっきここに来る前に買った安全祈願のお守りだってありますし」

「そういうことじゃないんだよなぁ……」

「巴先輩までつぐみ先輩は危ない云々言うんですか?」

「あからさまだしな……アタシでも分かるくらいだし、相当だぞ?」

「とは言っても、本当に俺から見たつぐみ先輩って昔と変わりませんし。やっぱり幼馴染だからわかるんですかね?」

「いや……幼馴染とかは関係ないと思う……」

「えっ……じゃあ、俺って好きな人の大きな違いの一つにすら気付けないノンデリって事ですか……?ど、どうしましょう……つぐみ先輩が一番嫌うタイプだと思うのですが……」

「すごいな、お前……」

 

 勝手にピンチに陥り、弱った小動物のような態度でオロオロしだした秋に対し、巴は生まれて初めてジト目を作った。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 怯えた秋が不安や焦りを語り続け、それを受け止めつつ慰めていた巴。気づけば予約時間の十五分前になっており、巴はあまりに早すぎる時間の経過に驚いてしまった。

 

「わ、悪いな秋。長話しちまって」

「いえ、ほとんど俺のお守りでしたし。それに運よく誰も来ませんでしたから、気にしないでください」

 

 店として客の影がないのは如何なものかと疑問に思いつつ、秋は部屋の鍵を巴に渡し、巴もまりなもいない一人だけの暇な時間へと足を踏み入れた。

 

「あれ、秋くん?まりなさんのお手伝い?」

「つぐみ先輩、こんにちは。ご覧の通り、また駆り出されました」

「あはは……お疲れ様」

 

 孤独な受付レジに天使が降臨した。

 

「巴先輩が先に受付して部屋入ってますよ?」

「そうだったんだ。いつも私が一番なのに……なにかあったのかな?」

「いや、なんか俺の事で色々頭がいっぱいになっていたらしくて。俺の人間関係がどうとかアドバイスをくれました」

「巴ちゃんが……秋くんを……?」

「はい。防犯意識を持てーとか、恋愛がらみのいざこざに気をつけろーとか。一時間近くみっちりと」

 

 一瞬様子がおかしくなりかけたつぐみを前に、秋は何食わぬ顔でノホホンと語り続けた。

 

「そ、そっか。ごめんね?巴ちゃん、たまに面倒見の良さが裏目に出ちゃうことがあるから……嫌だっらちゃんと言っていいからね?」

「ああ、いえ。そういう本気のものじゃなくて、半分雑談というか。俺も楽しくて、気づいたら一時間経ってました」

「……そうなんだ。楽しかったんだね」

 

 また薄っすらと様子のおかしい……というより、どこか陰りのある顔をするつぐみ。秋はバイトの日に見たつぐみの顔を思い出す。

 

「つぐみ先輩。バイトの時も言いましたが、疲れているならちゃんと休まなきゃ駄目ですよ」

「あはは……秋くんは相変わらずだね……ほんとに」

「はい、昔から変わってませんよ。皆を尊敬する気持ちも、心配する気持ちも。全部、昔からの変わらず者です。だから、なんでも言ってください」

 

 具合が悪いなら早く言って欲しい……そう言外にアピールした秋だが、眼の前のつぐみは余計おかしくなってしまった。もしかしたら体ではなく心の体調不良だったのかもしれない。

 

「……じゃあ、さ。もしも……もしもの話だよ?」

「はい、もしもですね」

「もしも私が、『他の女の子と話すのをやめて』って秋くんに言ったら、秋くんはやめてくれる?」

「えっ──」

 

 ジト……っと、なにかどんよりした何かを感じ取った秋。返答を間違えたら縁が切れる。そんな雰囲気の纏った圧だった。やはり自分はノンデリだったのかと不安がぶり返してしまう。

 

「──い、嫌です……絶対に……!」

「……そっか。理由、聞いても良いかな?」

 

 つぐみがなにかを伝えようとしている事理解できた。しかし、秋はつぐみが何を言いたいのかまでは察する事が出来なかった。

 

「だ、だって!他の女の人と話せなかったら!喫茶店のバイトが出来ないじゃないですか!あの店、女の人だって来るのに!」

「──へ?」

「そ、それに !適当な道でも通学路でも挨拶のために話しますし、学校でもたくさん女の人と話します!それをやめちゃったら、家から出られなくなっちゃいますし、そうなったらつぐみ先輩にも会えなくなっちゃいますっ!!!!」

「ぇ、あっ、ちょっ──ちょっと待って!少し落ち着いて、ね?」

 

 つぐみが何を言いたいのかが分からない秋なので、とりあえずつぐみを心配する気持ちで対抗してみた。しかし、どうやら重く受け止めすぎていたらしい事を、眼の前のあたふたする先輩を見て知った。

 

「す、すいません……ずっと、なにか思い詰めているような顔をしていたので……励みになれたらと……」

「うん、私もごめんね。変に追い詰めちゃって。秋くんって女の子と一緒にいることが多いから、もしも女の子と喋れなくなったらどうなるんだろうって……少し気になってただけなんだ」

「そ、そういうことでしたか……」

「でも、ありがとう。私のこと、そこまで考えてくれて」

「へ……ぁ、はい……つぐみ先輩にはお世話になっていますので……」

 

 あのじっとりした雰囲気も、思い詰めた顔も、ただの勘違いだった。結局丸く収まりはしたものの、つぐみの心情を汲み取れなかった事に悔しさを感じてしまう。

 

 こんな有り様で良いのかと一瞬悩んだ秋だが、つぐみの機嫌がすこぶる良くなったので気にしない事にした。

 

 

 ───

 

 

 あの後、無事に蘭たちとも合流し、秋もアフグロの練習が幕引きしたのと同時に手伝いから解放された。が、何故か蘭とひまりとモカに捕まってしまった。なんだか気迫の籠った顔をしている。

 

「えっ、なんですか三人がかりで……カツアゲドッキリ……?」

「いや……つぐがすごい機嫌良かったからさ、秋となにかしたんじゃないかって……」

「えっ、何かってなんですか?」

「ナニとか〜?」

「ねぇ、ほんとに何もされてない?とりあえず今日一日のこと全部話してよ。あんた、あこより騙されやすいんだからさ」

 

 そうして、顛末と言うには些か大げさなつぐみとの一幕を話してみると、三人はあれよあれよと怪談を聞いた時のような顔を披露した。

 それが幼馴染に向ける顔かと最後に説教をしてみた秋だが、なぜかキレられた挙げ句、そのあと三人にラーメンを奢るという謎オプションを付けられた。どうやら些かでもなんでもなく、三人からすれば大げさな話だったらしい。

 

 

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