羽沢先輩がヤンデレ?ハッハッハ、御冗談を   作:コントラポストは全てを解決する

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6.春夏秋冬、朝昼晩。花咲けパッカンつぐみの蕾──後之巻

 

 幼馴染達のラインの中に、アフグログループラインと言うものがある。用途は普通のグループラインと同じ。

 しかし、このアフグログループラインには、アフグログループライン(秋つぐ支援用)なる別バージョンが存在する。秋とつぐみは知らない、幼馴染四人が入ったライングループ。つぐみの監視と秋の教育プランを話し合うためのものだ。

 

 そして、そこに危機感がピキーン!と働いた幼馴染'sがたまたま集合。震える手でキーボードをフリックした。

 

 ひまり:どうしよう皆、なにかすごい嫌な予感がするんだけど……。なんか、こう……ただ押し倒される方がマシみたいな、複雑に感情が絡み合うすごいアレなやつ……。

 

 巴:とは言っても、確認のしようがないしな……。

 

 モカ:シューくんに聞いたら、つぐに膝枕して貰ってるって〜。研修の一環らしいよ〜。ちゃんと襲われてるね〜。

 

 蘭:ちょっ……モカ、あんたなにしてんの……。

 

 モカ:いやー、あたしも気になっちゃってさ〜。

 

 巴:モカにしてはすごいアグレッシブだな……。

 

 ひまり:過保護すぎじゃない?

 

 モカ:皆はこれより酷いよ〜。

 

 そこから発展し、モカを頼りにした秋の研修実況スレが始まった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 つぐみに女性客対応研修(膝枕、頭撫で、連絡先譲渡の断り方、口説き文句の実演、etc)を叩き込まれ、パーフェクトな柴犬と化した荒上秋。

 

「秋くん、膝枕されるの好きなんだね。初めて知ったよ」

「昔からじいちゃんの膝でよく寝ていてですね。あまりに好きすぎて、膝枕は仕事の手伝いを頑張ったら〜って条件をつけられた時期もありました。すいません、カッコ悪いところを」

「ふふっ、良いよ。皆の知らない秋くんの一面だもん」

「そんなお宝みたいな扱いをしなくても」

「お宝だよ、私にとっては」

 

 優しく頭を撫でながら、つぐみは優しく語りかける。まさか1日でここまで秋と親密になれるとは夢にも思わなかった。

 

 秋と出会い早1年。出会って5日で皆と同じくらい大切に想えるようになった存在。

 それだけ相性が良い、正しく運命の相手。しかし、幼馴染以上の関係がなかったつぐみには、『その先』への進め方が分からなかった。

 

「つぐみ先輩って、誰にでもこういう事をするんですか?」

「しないけど。ひまりちゃんやモカちゃんくらいかな、した事がある人」

「……そうですか」

「むしろ、秋くんの方が皆に膝枕を頼んでるんじゃないかって、私は不安だよ。隠れてこっそり……女の子の心を射止めちゃったり」

「そ、そんな事してません。俺は──」

「俺は?」

「……いえ、忘れてください」

 

 珍しく煮え切らない態度を見せる秋。問い詰めたいが、ここで強く出ると秋が警戒してしまうため、つぐみはグッと堪えた。後日要調査である。

 

「あと、すいません。今更な質問なのですが……」

「うん、良いよ。何でも聞いて?」

「これって、本当に研修なんですか……?なんだか、ただの仲良しお泊まり会な気がして」

「……嫌だったかな?」

「い、いえ。仕事に関わる……というより、つぐみ先輩のお家に関わる事ですし、もっと厳しいアレコレをした方が……コーヒーを淹れる機械の使い方を覚えるとか」

「あはは、秋くんは真面目だね」

「だ、だって、つぐみ先輩の生活に影響するかもしれませんし……」

「ありがとう。でも、今日はこれで良いの。こうして秋くんの事をもっと知れたから。親睦会?って言うのかな。ただの先輩後輩って関係じゃない、家の事を手伝ってくれる仲間として、仲が深められた。だから、これで大丈夫 」

「な、なんだか言いくるめられてませんか……?蘭先輩にも騙さられやすいから気をつけろって言われてますし……」

「あはは、気にし過ぎだよ」

「ほ、本当ですか?」

「ほんとほんと」

 

 研修の成果か、犬の危機管理本能か。秋はようやく人を怪しむ事を覚えたらしい。

 

「──でも、そうだね。半分嘘をついたのは本当だから、秋くんも間違ってはないよ」

「な、なぜ嘘なんか着くんですか……。つぐみ先輩の頼みなら俺は何でも聞くのに……」

「秋くんがそういう優しい子、だからかな」

「え、えぇ……?良い子にしてるのが駄目なんですか……?難しいですね……」

「秋くんの優しさはさ、やろうと思っても中々出せる優しさじゃないんだよ。相手の好きな物や趣味をすぐに試して、そのまま一緒に楽しんでくれる。それって、とっても凄いことなんだよ?」

「な、なるほど……?」

 

 そう語ってみても、やっぱり秋には理解しがたい内容だったようだ。顔に『わからない』と書いてある。

 

「け、結局、それとつぐみ先輩の嘘になんの関係が……?」

「そうだねー……秋くんは人から好かれやすい。それで、仲のいい人がどんどん増えていって、そのうち一人一人に使える時間が減っていく」

「そこまで増えちゃうんですか……俺の交友関係……」

「多分だけどね。それでさ、きっとそのうち、皆とも会う時間が減っていって、私と会う時間も無くなるんだろうなって思ったから」

「ま、待ってください!流石にそこまで極端な事には……」

「あぁ、もしもの話だよ。秋くんにはそれくらいの人望?があるから」

 

 いつかの将来、秋はきっと、魅力的で個性豊かな人達に囲まれることだろう。そうなったらきっと、自分と関わる時間はなくなってしまう……そう語るつぐみに、秋は全力で待ったをかけた。

 

「だから、もし秋くんと会えなくなったら……って事を考えちゃって、一緒にいる時間を増やしたかった。それで、こうやってバイトの研修って建前まで用意して、秋くんとの時間を作ったんだ。ごめんね、嘘ついちゃって」

「……つぐみ先輩から見た俺、そんなに冷たい人に見えますか……?」

「えっ……?ぁ、そ、そうじゃないよ!ただ、私が勝手に不安になってるだけっていうか」

「不安……?なんでですか?」

「私、普通だから。ほら、前に秋くんに話した、魅力的な個性が欲しい……みたいな話、覚えてる?あれの続き」

「お、覚えてますけど。でも、あれはただの愚痴って……」

「うん、ただの愚痴だよ。私のアイデンティティとしては、ただの愚痴。でも、秋くんの隣にいられるかって話になると、これはまだ悩みの種なんだ」

「え、えっと、つまり……どういう事ですか?」

 

 先程も見せたジトッとした雰囲気。つぐみが何か精神的な無理をしている……そこまでは秋でも察せるようになった。しかし、やはり根幹の部分が見えてこないのだ。

 

「私は普通で、地味な人だから、あとどれくらい秋くんに構って貰えるかなって考えると、また悩んじゃうの」

「と、友達なんですし、構うとか構わないの問題ではないと思うのですが……」

「うん、分かってる。分かってるけど、一回悩むとずっと気にしちゃうのが私だからさ。それで、焦っちゃったり、秋くんと離れたくないな、とか。秋くんと話す女の子が増えていくのが嫌だな、とか。ずっと考えてた。ほんとに、ずっと前から」

「そ、そうでしたか……」

 

 まるで自分に惚れているような、可愛い独占欲を見せるかのようなつぐみに対し、秋は場違いな気分の高揚を覚えてしまう。

 今はつぐみがデリケートな悩みを打ち明けてくれている時なので、秋の高揚は本当に場違いだった。

 

「ごめんね?秋くんを困らせるだけなのに。ただ、たまに怖くなっちゃうんだ。秋くんと一緒にいれなくなったらどうしようって」

「お、お気になさらず……。そこまで想って貰えるのは男冥利につきるので……」

「ありがとう、やっぱり秋くんは優しいね」

「いえ……優しさというか本心と言うか」

 

 やはりちょっとした独占欲にしか見えないため、どう答えようかと頭を捻らせる秋。

 

「あの、ごめんなさい。あんまりしっくり来なくて上手い答えが出せないのですが……」

「ううん、大丈夫。聞いてくれただけで充分だから」

「そ、そういうわけでもなくてですね……なんと言えば良いか……」

「あはは、無理しなくていいよ」

「ほ、ほんとにそういう事ではなくてですね!」

 

 つぐみとのテンションの違いのせいか、秋の頭の中には愉快じみたラフな答えが駆け巡っていた。しばらくかけてウンウン唸ってはみたものの、結局残ったのは言葉を捻り出せない結果のみ。

 

「めんどくさい先輩でごめんね」

「い、いや、めんどくさくないですよ。むしろ相談してくれた事がすごい嬉しいですし」

「そ、そうかな?でも、付き合ってもないのに他の女の子といないでーなんて、めんどくさい以外になんて言えば良いのか分からないと思うけど」

「つぐみ先輩からすればそうかもしれませんけど、俺はここまで頼ってもらえて嬉しかったです」

「……そっか」

 

 手と幻覚の尻尾をブンブン振りながら、全力で自分を慕ってくれる秋に対して申し訳なさが芽生えた。

 つぐみは知っているのだ。秋が好む『普通』というものは、秋が思う以上に地味で、探せばどこにでもあるという事を。本当は秋が目を輝かせるほど、立派な物ではないということを。

 

「ありがとね、秋くん。でも、やっぱり私はまた不安になっちゃうと思う。秋くんの事を盗られちゃうって、めんどくさい事も言うと思う」

「良いですよ。何回だって付き合います」

「良いの?他の皆といた方が楽しいかもよ?」

「はい。前も言った気がしますが、俺はつぐみ先輩の隣が一番好きですので」

「……ほんとに、後戻りできないよ?」

「戻るもなにも、そもそもそこまで進んでないじゃないですか。普通の友達というか」

「……そっか、普通の友達じゃ嫌なんだ」

「ぁ、いえ……言葉のあやというか、嫌だったら忘れてください……」

「忘れないよ。絶対」

 

 どんよりジトジトした雰囲気から、一気にいつもの明るさを取り戻したつぐみ。何が響いたのかはわからないが、つぐみを傷つけずに済んで良かったと秋は安堵した。

 

「ねぇ、秋くん。寝る時さ、一緒に寝て良い?」

「……へっ!?い、一緒って……布団、ひ、一つしか──」

「大丈夫だよ。まだ余りがあるから」

「そ、そそ、そうですよね……あはは」

「秋くんのえっち」

「んな!?だ、だっていきなり一緒に寝ようなんて言われたら──」

「ふふっ……あははは!」

 

 生まれて初めてつぐみにからかわれた。どうやら友達から一歩前進したらしいことを実感しつつ、嬉しいような恥ずかしいような不思議な気持ちが秋の中に芽生えてしまう。

 ひとまずつぐみのフォローは出来たので、次はちゃんと寝れるかどうかの懸念を胸に、秋は残りの時間を過ごした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日、過去に類を見ないほどの爆睡を決め込んだ秋。これで良かったのかと今更ながら不安にかられるが、家を出る時のつぐみが酷くご機嫌だったので、それを信じて気にしないことにした。

 

「あれ?しゅーちゃん?」

「ん?あぁ、はぐちゃん先輩ですか。こんにちは」

「うん、こんにちはー。元気なさそうだけど、大丈夫?」

「あぁ、いえ、疲れているだけなのでお気になさらず」

「疲れてるなら休まなきゃダメだよ!しゅーちゃん、いつも忙しそうにしてるし!」

「大丈夫ですよ。疲れてるって言っても、スポーツ終わりみたいなものですから」

「はぐみも昔同じことを皆に言ったけど、疲れてるなら休まなきゃダメって言われたよ!だから休む!そうだ、家に来てよ!とーちゃんとかーちゃんも会いたがってし!」

「あはは……では、お言葉に甘えさせていただきますね」

「うん!」

 

 孫娘系先輩に誘われて家に行ったあと、結局そのまま実家のようにくつろいでしまった挙げ句、一泊までしてしまった秋。

 やましいことはしてないはずなのに、何故か悪寒が走り身震いしたので、念の為皆には黙っておいた。この寒気は何なのだろうか。研修で変な能力を身に着けてしまったのかもしれない。

 

 1週間後、全てが幼馴染先輩'sにバレてしこたま怒られた。しかし、なぜ怒られたのかが分からない。危機の寒気ならそこら辺も察知できるようになっていたら良かったのに。不便な能力である。

 

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