羽沢先輩がヤンデレ?ハッハッハ、御冗談を 作:コントラポストは全てを解決する
『つぐみ先輩!日菜先輩が来ます!』
秋がそう告げたと同時、校内放送でつぐみが呼ばれた。
わけもわからず呼ばれた通りに生徒会へ行くと、そこには氷川日菜……もといパステルパレットの大学組が勢揃いしていたのだ。
一体全体どういう事かと事情を聞けば、母校の取材系番組をやるとの事で、これから羽丘と花咲川を回るとのことだった。
皆が卒業して一、二ヶ月しか経ってないのに、そのネタを使って良いのかは定かではないが、来てしまったものは仕方がない。
つぐみはそう諦観し腹をくくった。そもそも日菜がいた頃に比べれば、こんな物は小学校のおゆうぎ会みたいな物である。
「そういえばつぐちゃん、シューくんには告白できたの?」
「へ?い、いや、まだですけど……進展はしてますよ」
「ふーん……卒業の時に言った約束、忘れてないようで良かったよ」
「……えっ、あれって冗談だったんじゃないんですか!?」
「そうだ!あたし、シューくんのところに行って来るから!打ち合わせ終わったら呼んでね!」
「えっ、ちょ……日菜先輩!?」
本場のアグレッシブが放つ格の高さ。つぐみはここで暴れ馬を乗りこなす手が鈍っていたことを自覚した。 この力が衰えるのは痛手すぎるのだが。
◇
「しゅうううううぅぅぅぅくーーーーーーんっ!!!!」
放課後限定レインボーサンドイッチを買ってホクホクしていたモカと秋。瞬間、秋が何かに轢かれた。
「いった…………えっ、日菜先輩!?なんでここに!?」
「大学の単位が足りなくてさ、高校に戻されちゃったんだー。飛び級って下向きにもするんだねー」
「だから言ったじゃないですか。あんなムズそうな大学やめときましょうって。こう……学費とかお金回りは大丈夫なんですか?紗夜先輩も心配するでしょうし……」
「嘘だよー」
「……日菜先輩!!!」
「あははは!やっぱり彩ちゃんみたいで面白いねー、シューくんって」
今見せた深刻そうな顔はなんだったのかと咎めたい気持ちだが、これくらいの振り回しは日常茶飯事であるため、秋も長くは引きずらなかった。
「シューくん大丈夫〜?日菜さんもあんまり無茶はしないでくださいね〜」
「うん、ありがとー。久しぶりに皆に会えたからるんって来ちゃって。モカちんとシューくんは何してたの?」
「デートですかね〜。今は放課後買い食い中で〜す」
「へ〜、良いな〜。あたしとは全然デートしてくれなかったのに」
「日菜先輩はアイドルじゃないですか……」
「相変わらず真面目だねー」
頬を膨らませ、ほんのりふてくさた姿を見せる日菜。パパラッチを気にしてないのがなんとも日菜らしいが、アイドルとして少しくらいの警戒心は持っていて欲しいと秋は思う。
「それで、日菜先輩はなぜここに?」
「うーん……なんていうかこう……有名人の母校を撮ろう、みたいな番組があって、それの……下見?スタッフさんがさ、学校に許可貰ってる最中なの」
「それ、日菜先輩が来る必要あります?」
「えー、なんかシューくん冷たくなーい?せっかく愛しの先輩が会いに来てあげたのに」
「日菜先輩はやる事成すこと全部が危なっかしくて怖いんですよ。大怪我しそうで」
「あはは、相変わらずまっすぐだねー。いつものシューくんだ。懐かしいなぁ」
「日菜先輩が卒業してから、2ヶ月くらいしか経ってませんけどね」
「それでも懐かしいものは懐かしいんだよー。ねえねえ、天文部行こうよ!あたし、シューくんと部活したい!」
「あっ、ちょ……」
レインボーパンとモカをその場に置き去り、秋は日菜に攫われた。呆気に取られたモカの顔、なんだか申し訳ないことをした気分である。
────
天文部。日菜が在学していた時は秋と二人きりの部活だった。そして、今は秋一人である。
「わぁー、全然変わってないや。あたしがいた頃のまんまだね」
「まだ2ヶ月ですし」
「懐かしいなー……あっ、ここの隠しゲーム機ってまだ残ってたんだ」
「いや、日菜先輩が卒業した次の日に俺が見つけて、学校に頼んで残してもらったんですよ」
「えっ、よく分かったね。三重底にしといたから半年はバレないと思ってたんだけど。シューくん、すごい鼻が効くじゃん。さっすがあたしの後輩」
「これくらいなら分かりますよ。一年も一緒にいたんですから」
「あっはは、そうだねー」
心底面白そうに笑う日菜を前に、流石に笑い過ぎじゃないかと訝しむ秋。もっと笑える出来事なら、過去に何度も起こっていたはずだ。
「やっぱりシューくんの隣はるんってするね。なんでこんなに落ち着くんだろう。相性良いのかな?」
「相性って言うほどじゃなくないですか?これくらいは紗夜先輩もやってますし」
「逆に言えば、おねーちゃん以外だとシューくんしかあたしに合わせられてないって事だよ。なんだかるんって来るでしょ?」
「うーん……買いかぶりな気がします。はい、お茶入りましたよ」
「ありがとー」
「お茶菓子は日菜先輩が在校中に買った、よく分からない味の煎餅です。責任持って食べてくださいね」
「これるんって来ないからシューくん食べていいよ」
「俺もあんまり好きな味じゃないので遠慮しておきます」
手近にある『アメリカンティラミスミント味』と書かれたよくわからない煎餅を取る。部室でこの菓子を開けるたびに思うが、どこでこんな物を買ってくるのだろうか。
「うー……相変わらずるんって来ないよ〜……」
「一緒に食べてあげますから我慢してください」
「昔からそうだけど、シューくんってあたしにだけやたら厳しいよねー。言いたい事があるなら言って良いんだよ?嫌ったりなんかしないし、あたしとシューくんなんだから」
「文句があるわけじゃないですよ。ただ、さっきも言った通り、危なっかしいから少しだけ落ち着きを持って欲しいってだけで。日菜先輩だって、紗夜先輩が落ち着きを知らない暴れ馬だったら心配の一つや二つするでしょう?」
「あはは、なにそれー」
「例えですよ、例え。俺から見た日菜先輩はそんな感じって事です」
「それくらい心配なんだ。出来た後輩であたしも鼻が高いよ」
「日菜先輩にみっちり鍛えられましたからね。ある時は北海道で雪合戦、またある時は沖縄でハブ取り。あとは番組の企画か何かで、大気圏付近まで行ったこともありましたっけ。シャトルでバーっと」
「なんだか良い思い出みたいに語るね」
「?……良い思い出ではあるじゃないですか。確かに疲れはしましたし、事前連絡なしだったので痛手でしたが。でも、出来ればまた行きたいと思ってますよ。それに、あの一時だけなら日菜先輩の『るん』を理解できますし」
「シューくん、そういうとこだよ」
「えっ、なにがです?」
最近よく聞く言葉が日菜から出てきたため、秋は酷く困惑してしまった。どこから情報が漏れたのだろうか。
「やっぱり相変わらずたね。つぐちゃんが苦労するわけだ」
「日菜先輩だってつぐみ先輩のお世話になってたじゃないですか。先輩なのに」
「シューくんもあたしのこと言えないよ」
「いや、日菜先輩と同じは無理があるかと……。まず、俺一人じゃ東京から出るようなイベントを起こせないですし……」
「そんな子が自分のために宇宙まで来てくれたら、誰だってるんってしちゃうでしょ。そういう事だよ」
「かおちゃん先輩みたいなことを言われても……」
「はぁ……あたしの後輩なだけはあるね……」
ため息混じりに呆れた目を見せてくる日菜。そんな複雑なものが混じった目を見せる人じゃなかったのに……そんな困惑が秋の内を占める。
「シューくんがもうちょっと人の気持ちを理解出来るようになれたら、あたしも安心なんだけどなー」
「や、やっぱり俺ってノンデリなんですか……?」
「あはは、ノンデリではないよ。シューくんは……なんていうんだろ、バくーって感じのやつをたくさん知った方が良いと思う」
「また知らない擬音が出てきた……」
「いつも通り解読お願いね!」
「一回やるのに最低2週間はかかるんですけど……」
「はっはっは、がんばれ若人よ」
読み解けるだけ大したものだと内心で評価しつつ、眼の前でウンウン唸る可愛い後輩を眺める日菜。
こうして懸命に自分の後ろを着いてくる姿は、まさにつぐみと瓜二つ。つぐみが惚れ、つぐみに惚れるわけである。
「あーあ、シューくんが隣の家に住んでたらなぁ」
「そこまで行くならもう姉弟の方が早くないですか?」
「シューくんのばーか」
「えっ、ひど……」
ほっぺをつんつんしながら、なにも分かってないであろう秋をからかった。あいも変わらずのからっきし具合。そして、無垢で可愛い日菜の後輩。
────
モカ:パンが湿気ちゃうよ〜
日菜にしこたま遊ばれた秋。帰りにモカから入ったラインで、モカが自分を待っていたことを知る。どうやら中庭のベンチで大事にパンを守ってくれていたらしい。
「おー、やっと来たかー。待ちくたびれたよ〜」
「ごめんなさい、モカ先輩。楽しみにしてたのに」
「良いよいいよ〜。シュウくんが罪な男なのはいつもの事だからね〜。それに〜、日菜さんの気持ちも少し分かるし〜」
「でも、俺にだけあんな時間を使っちゃって良かったんですかね?皆とも話したい事があったでしょうに」
「それだけシュウくんを気に入ってるんだよ〜。やーい、ギルティー男爵〜」
「知らない単語を増やさないでください……」
ひとまずモカに預けたパンを受け取り、それを食べながら新日菜語の解読に勤しむことにした。
「なんだか、普通のパンですね」
「だね〜。あーんでもする〜?」
「前にそれやって顔を真っ赤にしてたじゃないですか」
「え〜、覚えてな〜い」
「そういえばあの時、つぐみ先輩にめちゃくちゃ怒られてましたよね。なにしたんですか?」
「え〜、覚えてな〜い」
本当はめちゃくちゃ覚えているモカ。想像以上に異性への免疫がなく、わけも分からず赤くなってしまったのだ。それがつぐみにバレ、つぐったつぐみにしこたまつぐられた。つぐり方の詳細は、モカの人権を尊重し伏せておく事にする。
「シュウくんもさー、あたしにかまけてないでつぐにアピりなよ〜」
「つぐみ先輩、テレビの色々で駆り出されてるんですよ。生徒会の人ですし。だから、モカ先輩と一緒に待っていようかと」
「あたし、つぐの代わりにされてる感じ〜?」
「そうだとしたら、もっと雑な使われ方をしてると思いますよ」
「シュウくんってさ〜、たまにIQ高くなるよね〜。慌てて欲しかったんだけどな〜」
「日菜先輩に会ったあとですからね。あの人といると頭使いまくりですから」
「それにしたってさ〜、振れ幅が大き過ぎないかな〜?」
普段より何割か賢そうに見える秋。言うなれば膝枕される側ではなく、膝枕をする側。犬から人。秋から犬成分を抜いたらもうただのホストではないか。
「はぁ……相変わらず危なっかしい後輩だね〜」
「日菜先輩とどっちが危なっかしいですか?」
「どっちもどっちかな〜。類友ってやつ〜?」
「類友ですか。まあ、日菜先輩にも『相性良いのかも』って言われましたし、本当に似た者同士なのかも知れませんね」
「あはは、流石のシューくんだ〜」
日菜にとって、『普通の友だち』でいてくれる秋がどれだけありがたい存在か、モカにはなんとなくわかる。
漫画やアニメのような特別な出来事なんて何もなく、たまに喧嘩して、翌日には仲直りをしている。そんな普通の友達。日菜からすればアイドルの名声や大金より、ずっと欲しくてたまらなかったものだろう。
それを与えた秋が日菜からどう見られ、どれだけ大切に思われているかなんて、想像するまでもない。
「モカ先輩?何してるんですか?俺の膝になにか付いてます?」
「いや〜?こうしてごろーんって寝るためのポジショニングだよ〜。だから気にしないで〜」
「な、なぜ急に膝枕なんてものを……しかも男の……」
「なんかさ〜、思い出に浸ってたら眠くなっちゃって〜。少しこうさせて貰うね〜」
「思い出って?」
「昔にさー、すご〜く夢中になっものがあったんだ〜。でも、三日坊主で飽きちゃってね〜」
「モカ先輩、飽きる時はほんとに一瞬で空きますからね。でも、三日坊主は早すぎません?最低一週間は保っていたのに」
「まあね〜。でも、この時はなんというか……争奪戦に負けたーって感じでさ〜。そしたら、なんか飽きたーってなっちゃったんだー」
日菜の気持ちをエミュしていたら、昔一瞬だけ秋を好きになっていた時を思い出してしまった。本当に気の迷いと言うか、魔が差したと言っても過言ではない気まぐれ。いつ思い出してもどうかしていたと思う。
でも、恋は盲目だからか、あの三日の間だけ、モカは本気で秋を取りに言っていた。結局、ちょっとデートをしたたげで終わったのと、つぐみには勝てないと一瞬で悟ったためお開きになったが。
「……シュウく〜ん?なんで撫でるの〜?今は別に落ち込んでなんかないよ〜?」
「はい。だからなんとなくです。俺の趣味と言うことにしていただければ」
「シュウくんの鼻も腕が落ちたね〜」
「あはは……警察犬じゃないんですから……」
相変わらず鼻の効く犬だと、モカはパンを一口かじながら目をそらす。
いつもそうだった。どれだけ平静を装い、幼馴染でさえ騙せる苦労隠しを使っても、この犬の鼻は騙す事が出来ない。どれだけ隠そうとしても、本能の嗅覚で見抜き後ろを着いてくる。それで、一時コロッと言ってしまったのだ。
「まあー?あたしを気に掛ける暇があるなら、ポッケのスマホを気にかけて欲しいかな〜。ブルブル震えて寝にくいよ〜」
「えっ──うわ、ホントだ……すごい通知の数……」
「誰から〜?」
「ろっくんからですね。バンド練とポピパの電撃ライブがダブって、練習を蹴ろうとしたら学校までリーダーが攻めて来た……らしいです」
「行ってあげないの〜?」
「中庭にいるからおいでーって送っておきました」
「パシリなんて性格悪〜い」
「モカ先輩のお休みを邪魔するわけにも行きませんし。最近は何でしたっけ、あこちゃんのラーメン屋巡りに付き合ってあげてたんですよね?休まないと倒れますよ?」
「…………良い性格してるね〜」
ホスト売上ナンバーワンコの"そういうとこポイント"が溜まる瞬間を拝んだモカ。これで何度目だろうか。
そんな風営法の化身にジト目を向けながらパンを貪っていると、モカと秋の前にバンドメンバーに追い回されている最中の六花がやって来た。
「あ、荒上くん……た、助けて……」
「ちょっとロック!いい加減にしなさい!!!今日は外せない練習だからって何度も──あら?シューじゃない。あとは……あっ、アフターグロウのモカ青葉!」
「あれ、チューちゃん?へぇ、ろっくんのバンドメンバーってチューちゃんだったんだー」
「こんちゃ〜」
「HELLO……じゃなくて!ロックをなんとかしないと……」
「チューちゃん直々に動くなんて中々だね。一人で来たの?」
「NO.もう一人いるけど、今は自販機よ」
そうチュチュが告げると同時、奥から飲み物を携えたパレオが走って来た。
「ちゅ、チュチュ様〜!パレオを置いていくなんて──えっ……ぁ、秋さん!?!?!?」
ご主人を目に映し、ロックを、目に映し、モカを目に映したのち、パレオは固まった。
「えっ……だれ……?」
そして、秋も固まった。