羽沢先輩がヤンデレ?ハッハッハ、御冗談を   作:コントラポストは全てを解決する

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9.倒せ(セイント)おねーさん。走れビヨンドレッサーパンダ

 秋の知り合いに、こんはカラフルの擬人化みたいな子はいない。カラフルを題材にしたアイドルと、その強火追っかけの子となら知り合いだけど。

 

「あら、パレオも知り合いなの?」

「……へっ?いや!全然まったくこれっぽっちも!!!パレオは秋さんの事なんて知りません!!!」

「お〜、わけありっぽいね〜」

「?……パレオさんの知り合いの、秋さん……あっ!いつもライブで一緒になるって言ってた人が荒上くん──」

「ロックさん!しー!しー!」

「──もしかして、れおなちゃん?」

 

 名前を呼んだ瞬間、パレオもといれおなの体がピタっと止まる。そのあと、ギギギっとしたぎこち無い振り返りと、ぎこち無い笑顔を見せながら、れおなは秋へと挨拶を返した。

 

「ご、ごきげんようです〜……あはは……」

「いやー、びっくりしたよ。気づけなくてごめんね?」

「い、いえいえ!この格好には私の思う可愛いのすべてを詰め込んでますし、普段の地味な私しか見てない秋さんでは気付けないのも無理はないかと!!!」

「いや、でも……」

「……シュウく〜ん、せっかくだし皆のお茶菓子買ってきたら〜?」

「それもそうですね。ちょっと行ってきます」

 

 訳アリの中でも重めの訳アリっぽかったので、秋には退場して貰った。はてさて、一体どんな事情が眠っているのか。

 

「とりあえず〜、シュウくんにどこまで伝えてるかを聞いても良い〜?」

「…………パレオのことどころか、バンドを組んでいる事自体、秋さんは知りません……」

「二人って友達なんだよね〜?」

「そうですよ!せっかくですしライブに来てもらえば──」

「そ、それだけは絶対にダメなんです!!!何卒!!!!!」

 

 見たことない角度で頭を下げてくるパレオを前に、なんだか罪悪感が湧き上がってくる一同。

 

「はぁ……パレオ、全部話しなさい。シューと関わりたくないならそれで良いわ。こっちでなんとかするから」

「そういう事じゃないんですよッ!!!!」

「お〜、力強い否定だ〜」

「でら怖い……」

 

 ひとまず秋と不仲ではないことを知る一同。となると、残る候補はいつもの『そういうとこ』系。モカは胃がぐるぐる鳴るのを感じ取った。

 

「パレオちゃんってさ〜、シュウくんのこと好きでしょ〜?」

「へっ!?!?い、いや、好きというかなんというか……ほら、秋さんにはつぐみさんがいますし、そんな横取りするような真似など到底できるわけが……」

「好きか嫌いかで言えば〜?」

「…………めちゃくちゃ好きです」

 

 恥ずかしさのあまり、両手で顔を隠してその場にうずくまってしまうパレオ。モカはその背中を撫でて慰めた。

 

「うんうん、気持ち分かるよ〜。シュウくんってかっこいいし、気遣い上手だし、でも可愛いところもあるから、好きになっちゃうよね〜」

「けど、そのBest friendに他人のふりはよくないんじゃないかしら?」

「わ、私もそう思います。せめてバンドで東京に来てることくらいは伝えても……」

「違うんです……」

 

 ずびーと恥ずかし泣きの鼻水をかんだあと、複雑そうな面持ちで胸に詰まったたくさんの気持ちを思い出すパレオ。

 よほどの気持ちがこもっているのがうかがえたので、モカはゴクリと息を呑んだ。

 

「秋さんって、地味とか普通とかが好きじゃないですか……」

「そうだね〜。波風が苦手で、だからああいう風してる。でも、パレオちゃんもれおなちゃんも、地味とは程遠いと思うけど〜?」

「ありがとうございます……。でも、昔の私はホントに地味の申し子で、個性とかオンリーワンみたいなものとは無縁の存在だったんです。ほんとに……クラスメイトに名前を忘れられるほどには……」

 

 なんだかどこかで聞いたことのある話に、モカは胸の内にじわじわと嫌な予感が溜まるのを感じた。

 

「それでですね……まあ、紆余曲折あってパスパレの初ライブに行くじゃないですか……?私が行ったのは幕張のライブなんですけど……。そしたらいたんですよ、あの人が。しかもその日以降、絶対に相席しますし、なんかやけに人当たり良いしで、仲良くなって……友達で、電話とか交換しちゃって……」

「うんうん、分かるよ〜。シュウくんって人誑しの権化だからね〜」

「はい……それで、もう相席にも慣れた頃に……相談、しちゃったんですよ。地味から抜け出したいって……でも、秋さんは『なにを言ってるのか分からない』って顔をしていて……」

「あー……まあ、だろうね〜……」

「どうしてか伝わらなくて、何度も訴えたんです。私って普通ですよね、とか。影薄いですよね、とか。そしたらあの人、『ライブを見てる時のれおなちゃん、誰よりもキラキラしてて、星みたいなんだけどなぁ……』とか、『れおなちゃん、遠くから見ても分かるくらい結構ハッキリしてるよ?』とか言ってくるんですよ……!正気を疑いました」

「あ〜……いつものシュウくんだ〜」

「………それに、『れおなちゃんって可愛いと思うんだけど……モテないの……?月1で告白とかされてそうなのに』とか本気でハテナを浮かべていて……なんというか、運命感じちゃうじゃないですか……」

「お、お〜……」

 

 語るうちにどんどん素をさらけ出し、ついには一人の女の子として照れ始めたパレオ。

 

「それで、そこまで言われちゃったら、元の地味な私だけで勝負したくなるじゃないですか……。それが全ての理由です……」

「あ〜、だから正体を隠してたんだね〜」

「そ、それで、荒上くんとの関係は……?」

「まあ、お察しの通り……それにあの人、千聖ちゃんまで落とす垂らしぶりですし……恋愛強者すぎてついて行くのがやっと……という具合で……」

「千聖……あぁ、あの女優の。別に恋愛の一つや二つなんて誰でもするものでしょう?弱気になるなんてパレオらしくないわね」

「違うんですよチュチュ様!千聖ちゃんは子役時代から鍛えた鋼の警戒心でずっとその純潔なイメージを守って来たお方でして!ほんとに!パパラッチどころか男といる所を見たことないとまで言われるほどなんです!」

 

 熱心に語るパレオを前に、千聖が男とイチャコラする姿を想像してみるモカ。確かに全くと言って良いほど想像ができなかった。

 その相手が秋になった瞬間、いくらでも光景を想像できるようになるわけだが。罪な男である。

 

「それがですよ……!秋さんになった瞬間に『あの一般男性に気がある』だの、『デートしているところを見た』だの、ドンドンネタが出てきて!しかも千聖さんもsnsでやんわりと匂わせをしていますし!誰が勝てるんですかこんなのッ!!!!」

「そ、そう……。あなたも苦労しているのね……」

 

 予想打にしなかった角度からとんでも無い情報が殴り込まれてきた。チュチュが棘を出さず、一歩引いて慰めるだけに収まっているので相当なのだろう。確かに千聖は強い。

 とはいえ、モカが見た範囲では、千聖と秋の間に関係の影など微塵もなかったのだが。今になって雲行きが怪しくなってきた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『雨天中止で撮影を止めれば、秋くんを盗られずに済みますよね!?!?!?』

 

 そんな自暴自棄な発言をしながら、逆さのてるてる坊主を生徒会室の窓に飾るつぐみ。そして、それを冷めた目で見守る日菜。

 

 事の発端は、日菜がつぐみに『秋との進展』を具体的に尋ねた事からだった。

 ここに来た際に、つぐみから進展はしていると聞いてはいた。なら、どれくらい進んでいるかを聞きたくなるのが人の性という物だろう

 

 結果、出てきたのは『秋くんを家のバイトに誘った』だの、『秋くんをからかえるようになった』だの、『1日家に泊めた』だの。

 日菜が秋と出会い一ヶ月で終えたイベントを、つぐみは今やっと後追いしていたのだ。

 

 流石にこれは不味い……と思い至り、日菜なりに応援をしてみたのだ。

 

 具体的には、『千聖ちゃん、秋くんのことが好きだし、なんならこの収録が終わったら告白するつもりだよ』と発破をかけた。

 

 結果、こうなった。

 

 ただひたすらに、てるてる坊主を作り窓に吊るす。繰り返し、繰り返し、今はてるてる坊主の数が100を迎えたところだ。

 

 つぐみは人への害し方が余りにも下手だった。例えるならレッサーパンダの威嚇。ヤンデレなら包丁でドスッと行くくらいはして欲しい。

 

「てるてる坊主を飾るよりさ、秋くんに告白するのが先じゃないかな〜って、あたし思うんだけどな」

「そ、そういう簡単な話じゃなくてですね!」

「え〜?つぐちゃんにならシューくんを任せられる〜って思ったから、シューくんを諦めたのに。つぐちゃんと付き合わないなら、あたしが貰いたいんだけどなー」

「そ、それはダメです!!!」

「なら、頑張らなきゃだね!」

「うぅ……こんな急に……」

 

 しょげた様子で110体目の逆さてるてる坊主を飾るつぐみ。

 

「あたしとの約束、ちゃんと覚えてるんだよね?」

「お、覚えてますよ……。私が卒業するまでに秋くんと付き合えなかったら、日菜先輩が秋くんを貰うって……」

「千聖ちゃんからシューくんを盗るなんて、つぐちゃんには絶対できない。あたしもシューくんを渡したくない。なら、やる事は一つじゃない?それともシューくんを盗っていいの?」

「ひ、日菜先輩は誰の味方なんですか!」

「シューくんの味方だけど。気持ちはつぐちゃんと同じなんだし。つぐちゃんだって分かってるでしょ?」

「うぐっ……」

 

 涙目であたふたして、焦って迷って明後日の方角に走って。自分のわがままはあるけど、それはそれとして相手の幸せも天秤に乗せてしまう、昔と変わらない可愛い後輩。

 

 口では厳しく語ってみたが、本当は何があろうとつぐみと秋の味方でいると日菜は心に決めている。ただ、恋愛になるとつぐみはチキりやすいのだ。流石にスパルタを発動せざるを得ない。

 

「どうする?秋くんを盗られるか、勇気を出すか」

「そ、それは……」

 

 じーっと強い目でつぐみを見つめ、日菜は決意を問うてみる。

 

「うぅ……わ、わかりましたよ!やります!やってみせます!」

「よし。なら、さっそく行ってみよー!」

「そ、その前にこのてるてる坊主を吊るしてから……」

「つぐちゃーん?」

 

 本当に大丈夫なのか、もう既に幸先が不安である。

 言い訳をつぶすために、日菜も一緒にてるてる坊主を吊るした。

 

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