ふわふわ宇宙世紀   作:十二分間

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手垢がついた妄想だろうけど、一年戦争が起きなかったら、彼らはどう過ごしたのか?というのをすごくふわっとした感じで書いてみたいなと。こんなんオリジナルでやれ、と言うのはごもっともですが、どうかご寛恕のほどをお願いいたします


始まりかも?

 人類が、その人口の9割を地球の周りに築かれた人工都市、コロニーに居を移して約1世紀。

 半世紀前に独立を果たしたサイド3、ムンゾを筆頭に、各コロニー群は何やかやしながらもそれなりの日々を送っていた。

 

 

 時に宇宙歴0079、1月5日 地球軌道防衛艦隊旗艦にて

 

 

「では、官邸(ラプラス)への報告はお任せします……」

『ああ、その、ゆっくり休んでくれ……』

「ありがとうございます、総司令もお早く……」

『ああ、こちらも報告が終わったらゆっくりと休ませてもらう。これから8時間、何もないことを祈ろう』

 

 それから自室までの記憶が全くないまま、彼はベッドに腰を下ろした。

「疲れた、本っ当に、疲れた……もう今年は働きたくない……」

 おそらく人類史上最大の作戦を成功させた結果か、緊張がどうしても緩む。

 退役という単語に、どうしようもない魅力を感じてしまう。

 この3年間ほぼ休みなしで任務にあたっていた疲れが、今になって押し寄せてきていた。

 無意識でつけたニュース番組が能天気な声で、娘の留学先の天気予報を流している。

『今日もシドニーは快晴、夜には季節外れの流星群が見られるかもしれません。連邦艦隊の尽力に感謝ですね』

 おう、大いに感謝してくれ、ああそうだ、下の連中の休暇も、いやそれは本部が……

 とりとめのない思考が脳内をぐるぐると動き回る。

 とても眠気に耐えられない、とベッドに横倒しになったところで、ビデオレターが端末に届いていることに気が付いた。何とはなしに再生させると、オペラハウスを背景に年老いた女性と少女が話し出す。

『パパ!大変なお仕事お疲れさまでした!ちょっと遅れちゃったけど新年おめでとう!』

『お仕事ご苦労様、だけどもう少し孫への連絡はこまめにしたほうがいいわよ』

『もう、お祖母ちゃんったら。パパはここ最近ずうっと忙しかったんだから。そうそう、おまけで近所の子たちと開いたニューイヤーパーティーの映像を送ります。暇なときに見てね。あと……』

 娘の楽しげな声を聴きながら、彼はそのまま意識を失った。

 

 

 発端は宇宙歴0072に発見された天頂方向から接近する恒星間天体群、それ自体は珍しいがそれだけのもののはずだった。しかしながらその軌道が地球近傍をかすめるということが明らかになると、人類社会に激震が走った。

 人類が地上でだけ生活していた旧世紀なら、最悪でも地表に数キロメートル程度のクレーターが幾つか出来る、無論大惨事ではあるがその程度で済んだ天体現象だっただろう。

 しかしラグランジュ点にまで生存圏が広がってしまった宇宙世紀の人類社会にとっては、存亡の危機だった。

 最悪の場合、各サイドの半分、現生人類の約3分の2が死滅するとされた試算がリークされたときパニックに陥りかけた人類に対して、サイド3の元首相、ジオン・ズム・ダイクンが結束を呼びかけた。

 彼の提言によって、旧世紀の神話にちなんで終末をもたらすもの、ヘイムダルと名付けられたそれ、に対する迎撃計画並びに技術開発が推進、実行されることとなったのだ。

 そして0076から3年をかけて危険な大きさのものは砕き、あるいは逸らし、あるいは回収しと地球圏に存在する宇宙機材のほぼすべてがこの大事業に投入され続けた。

 その過程でザク、モビルスーツと呼ばれる大型高軌道用作業機の実用化、他にも旧世紀には夢としか思われなかったような各種技術も実用化された。

 延べ人数で軽く億を超える人員が参加した、歴史上類を見ない一大計画の実務面の一切を取り 仕切ったゴップ大将は作戦終了の報告を受けて

『あと2年は宇宙人の襲来は勘弁してほしいね。もう一滴の推進剤だって在庫はないよ』

と述べたという。

 

 

 同日、サイド3、1バンチの港の発着場を見下ろすラウンジ、そのVIPルームで二人がテーブルをはさんで話し合っている。

 一人は白髪交じりの頭にひげを蓄えた壮年の男性、もう一人は怜悧な光を宿す青い目に金髪の

美形、と言い切ってもよい整った顔立ちの、まだ青臭さが抜けない男性。

「だから父上、わたしはあなたのあとは継ぎません。この二年で私は現場のほうが向いていると

思い知りました」

「何を言う。お前には人の上に立つ器と才覚がある。あたら才能を無駄に……」

「才能はあるかもしれません。ですが大衆を導こうという心と覚悟が持てないのです」

「そういったものは立場につけば自然に身につくものだ」

 そう告げると壮年の男性は頭痛を抑え込むように額を指で押さえる。

 そのしぐさを見た金髪の男性は首を振り

「それについてはガルマを身近で見続けて確信したのです。そういったものは生来のものなの

だと。後付けで私に身につくとはとても思えません。ともかくわたしは外に出て自分の力で生き

たいのです」

「家に残る気はない、ということか」

「今生の別れ、とするつもりはありませんが、そういうことです」

「…………わかった。お前が選んだ道なら仕方がない。だが、あの子にはきちんと状況は伝え  なさい」

「ありがとうございます、父上。どうかご壮健で」

 頭を下げる金髪の男性に、壮年の男性は微笑みながら冗談めかして言った。

「なに、孫の顔を見るまでは死ぬつもりはない。いつか嫁さんの一人でも連れてこい」

「なるべく早く見せられるように頑張りますよ」

その言葉と共に二人は立ち上がり、固く握手をして別れを告げた。

「そういえばこの先、どうするつもりだ。何かしら伝手はあるのか?」

「先の作戦中に顔見知りになった方がいますので、自分の力でなどと言っておいて厚かましいですが彼らに頼ろうかと。確か、今はサイド7にいるはずですのでそちらに」

 

 

サイド3、ムンゾ防衛軍、士官学校校長室

 

 

 顔に大きな傷のある大柄の、いかにも軍人然とした男性と、まだ顔に甘さが残る若者が机に  向かいあって、ヘイムダル阻止作戦、その中でも一際大がかりであったヘイムダルβ破砕作戦、

人手が少しでも必要であろうと士官候補生たちも志願という形で複数参加したため、その最終報告が行われていた。

 一通り報告が済んだところで家族の語らいが始まる。

「お前はキャスバルの見送りに行かなくて良かったのか」

「兄さん、今日旅立つのはキャスバルの知り合いで、私が破砕作戦中に再会した旧友のシャア・

アズナブルですよ」

「ん、そうだったな。だが、名前を変えてまで、なあ」

「仕方がありません。ダイクンの名は今回の事件で大きくなりすぎましたから。このままでは

彼が望むような生き方はできないでしょうし」

「望むような生き方、か。まあ確かに。奴はザクを操っているときが一番生き生きしていた

からな。同僚と現場で揉まれているほうが、パーティーなどで見かけた姿よりも楽し気では

あった」

 少しだけ含むようなところがある表情で若者が応える。

「彼は良き友人であり、良き同僚、あるいは兄弟分として"は"申し分ない男ですから」

「何か奴に言いたいことがありそうだな」

「そりゃあありますよ。確かにいい奴ではありますが、上に立つには能力がありすぎて、他人に

任せるよりも自分がやったほうが上手くいくからで、つい他の人のことまで手を出していっぱい

いっぱいによくなっていましたから。そのクセ見た目がスマートで余裕綽々に振舞うから余計に

タチが悪いんですよ。あれでは上に登れば上るほど、本人も周りも苦労しますね。それに結構

思い付きで行動して、上手くいかせてしまえるから、下についた人間からしたらたまったモノ

ではないでしょう」

「言うなあ。オレの目にはそう見えてはいなかったが、そう言われると存外に意外と思わんな」

「破砕作戦に士官候補生も志願しよう、となって現場に到着したら、しれっと『わたしにはやる

べきことがある』と言って休学していたはずのあいつに、現場作業員の姿で出迎えられました

からね」

「ジオン・ダイクンの息子に危険があってはならん、と遠ざけられるのを避けるためだろうが

それにしても大胆なやり方だ」

「大胆すぎますよ。大体、サングラスかけて名前を変えたぐらいで乗り切ろうとするとか。もう

少しフォローするこっちの身にもなって欲しいものです。ザビ家の四男と彼がどうやって知り

合ったか、カバーストーリーを考えるのにどれだけ苦労したか」

 そう言って若者はがっくりとうなだれる。

「ただ、彼のおかげで士官学校組も現場の人間に、ボンボンの道楽と思われず受け入れられました

から、その点では感謝していますけどね。腕っぷし、腕前、度胸が揃っていて、年かさの人にも

受け入れられている人間があいだに入ってくれるだけで、あそこまで変わるとは。軍でも先任軍曹が新米少尉に着けられるわけです」

「正直士官候補生たちが来ることでいらんトラブルが起きるんじゃないかと、指揮官連中も恐々と

していたから、その点については本当に感謝だな。しかしそうやって考えるとやっぱり……」

 それを聞いて若者は首を振った。

「いえ、ここで私が見送りに行ってしまえば折角の彼の意思を無為にしてしまいますし。それに

言ったでしょう。彼は友人としてはいい奴だと。落ち着いたときに会いにでも行けば、きっと気軽に何事も無かったように出迎えてくれますよ」

「なるほど。まさしく親友、というやつだな」

「ええ、それに関しては彼もそう思ってくれていると思います」

 

そんなこんなで各人の宇宙世紀0079は始まった。

 

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