前年度までに行われたヘイムダル阻止作戦の際用いられたモビルスーツ、ザク
作戦終了によってそのザクたちは民間へと払い下げられ、汎用作業機械として活躍することに なった。
しかしそれに伴いモビルスーツを使用した犯罪、通称モビルクライムの急激な増加に業を煮やした地球連邦、並びに各サイド政府は共同で特殊機動犯罪対策課、モビルパトロール部隊を発足。
通称モビパトのたんじょ……う……で……
宇宙歴0079 9月18日 サイド7、ノア、1バンチ
「なんだか、妙な夢を見たな」
そう言って金髪の男性、シャア・アズナブルはベッドから身を起こし、伸びをする。
「あ、ようやく起きられたんですね、旦那様」
ガチャリとドアを開けて入ってきたピナフォア、俗にいうエプロンドレスとヘッドドレスを身に 着けた褐色の肌の少女がからかうように声をかけた。
時計を確認すると朝、というにはかなり遅い時間を示している。
「そう言うんなら起こしてくれてもよかったじゃないか、ララァ」
「あら、せっかくのお休みなんですもの。旦那様の安眠をお邪魔するわけにはまいりませんでしょ」
(昨日、フラゥ嬢と一緒に古典映像を見たとか言っていたな。その影響か?友人が増えるのはいいことなんだが、アムロ君などに見られたら、またいらぬ疑いをかけられてしまうのでは?)
寝起きのぼんやりとした頭で考えを巡らしていると、玄関の呼び鈴が鳴った。
「わたしが出ますから、旦那様はごゆっくりなさっていてください」
そう言ってパタパタと駆け出していく。
休暇で地球に降りたとき、誘われるように立ち寄った街で出会った少女。
その占いはよく当たる、と評判だった彼女に、戯れに己の未来を占ってもらった。
『あなたの将来は……いつも友人と家族に囲まれている、特段悪いことが起こらない平凡な人生を送るでしょうね』
彼はその結果を聞いてなぜか、底が抜けたような大笑いをしてしまった。
彼女の身の上を聞くと身寄りのない孤児で、宇宙に出たい、という希望を聞いた。
だったら、ということで身元引受人となり今に至る。
その顛末を聞いた上司のテム・レイは呆れながら
『大人としての節度を保って生活したまえ。く、れ、ぐ、れ、も間違いなど犯さないように。 こんなことでわが社の最優秀パイロットを失いましたなんて勘弁してくれよ』
その息子には
『あなたがそういう人だったなんて……』
と虫でも見るような目で見られたのはいい思い出、いい思い出なのか?
しかしそういう彼らだって節度を保って生活している、とはとても言えないと思うのだ。
そしていざ生活を始めよう、となったとき住み込みで働くと言い張った彼女を何とか説得しようと激戦が繰り広げられた。
儚げな見かけによらず恐ろしく頑固だった彼女を説得した決め手は、このコロニーに移り住んで知己を得た女性の一言だった。
『一緒に住むだなんて冗談じゃありません。地球に旅行に行って女の子ひっかけて帰ってきたっていうタダでさえゼロに近い彼の評判が、マイナスまで振り切りますよ』
(そう言って反対してくれたボゥ家の御母堂には感謝せねば。さすがに社会的に死ぬのは勘弁してほしい)
ならば彼が家賃を払って借りた家に、という意見には
『ミドルティーンの愛人を囲っているようにしか見えませんよ』
という強すぎる正論があり、結局ララァはボゥ家にホームステイ、という形で収まった。
彼女の生活費全般を負担する、という意見に対しても
『あなたはまず、肉親でもない女の子に男性がお金を渡す、という行為が世間から二人がどう見られるかということを学ぶべきです』
と彼が生まれ育った世界では教えられてこなかった常識を授けられた。
彼が今までのことを思い出していると
(そういえば、アルテイシアは元気にしているだろうか。ここ最近は連絡をすっかり怠ってしまったが)
玄関先から聞き覚えのある声がする。
「だから、ここは、兄さんの家なんでしょう!なぜ会えないの?あなたは誰?」
「申し訳ございませんお嬢様、ご主人様は先程……」
何故か爆散するザクが脳裏に浮かんだ。
「ちょっ!?」
思わず彼の喉から声が漏れる。
慌てて今まで来ていたものを脱ぎ散らかし、適当に引っ掛けておいたシャツを羽織って
玄関口まで駆け出すと、想像した通りの顔と光景がそこにあった。
「ま、待て!アルテイシア!これには訳が……」
「この状況にどういった訳があるというんです!大体その恰好は何ですか!」
彼はシャツしか羽織らずに表に出てきてしまっていたのだ。
パンツ一丁である。
それを見たララァが顔を赤らめて
「まあ、旦那様ったら」
「ララァ、これ以上状況を面倒にするのはやめてくれ!あと頼むからもうそのシチュエーションはいったん忘れよう!」
「兄さん!面倒ってどういうこと!?シチュエーションって!?」
そう叫ぶと彼の妹、アルテイシアはシャアの襟元をつかんで、猛烈な勢いで揺さぶり始めた。
熟練のバーテンダーにシェイクされているような状況の中、彼は
(アムロ君教えてくれ!どうすればいい!どうすればこの場を切り抜けられる!?)
神様でもない少年に助けを求めていた。
時間は少しさかのぼり、シャア宅のお向かいさん宅で、パンツにランニングシャツという
格好の少年があくびをしながらリビングの扉をくぐって表れた。
そんなだらしない格好をした少年に向かって、まるきり同じ服装で眼鏡をかけた中年の男性が
トーストをかじってからあくびまじりに声をかける。
「アムロ、いくら休みだからといって、もう少し早く寝るかしたほうがいいと思う。もう昼前 だぞ」
「父さんだって似たようなもんじゃないか。父さんは何時に寝たのさ」
「父さんはこれから寝るんだ。イヤ言いたいことはわかってるぞ。だが寝ようとしたときいいアイデアが浮かんでだな……」
アムロはため息を一つつくと
「わかってるよ父さん。だけど体を壊したら意味がないんだから気を付けてよ」
「ああ、わかってるよ、アムロ。そうだ、悪いが表の郵便受けを見てきてくれないか?注文した本が届いてるかもしれん」
アムロが着替えもしないまま表に出るとお向かいの様子が何やら騒がしい。
(金髪の女の人?すごいきれいな人だ。シャアさんの元カノかな?ララァはまた変な格好して)
シャアは男としても見惚れるような顔ではあるし、彼女の三人や四人いてもおかしくはない。
実際、ヘイムダル阻止作戦で父親に(こっそりと)ついて行ったとき彼と知り合ったが、彼が 基地を歩いているとしょっちゅう女性から声をかけられていた。
もっとも彼自身は現場のおっさん連中と飲みに行ったり、スポーツ中継にヤジを飛ばしたりの ほうが楽しそうではあったが。
ともかく黙っているだけでも女性から放ってはおかれなかったが、彼はそういった状況でも上手くかわしていて、アムロは、なるほどスマートなハンサムというのはああいうものか、と憧れの ようなものを抱いていた。
(そういう人なのに家にまで来られるって何かやったんだろうか?結婚の約束を破ったとか?)
そうこうしているうちに金髪の少女がシャアをシェイカーの親戚のように振り始めた。
「ちょっと、何やってるんですか!あなたは!」
コレはマズい、とアムロは慌てて駆け出し、少女を羽交い絞めにしようとして後ろから抱き付くかたちになってしまう。
抱きしめた瞬間、男所帯では決して嗅ぐことがない、女性らしさと淡い高級そうな香水、そして清潔感のあるシャンプーの香りがアムロの鼻腔をくすぐった。
話は少しそれるが、アルテイシア・ソム・ダイクンは筋金入りと言っていいお嬢様である。
父は元連邦議会議員にしてサイド3の元首相、母もまあそれなり以上の家柄であった。
遅くに出来た子供であったことから父からは特にかわいがられてきたし、悪い虫が付かないようにお嬢様専門の女学校に通っていた純粋培養と言ってもいいお嬢様で、男性への免疫がほぼない ような状態で育ってきたのである。
そんな少女が突然背後から男に抱きしめられたのだ。
「キャアァァァァァアア――――!!!!!!」
当然のように甲高い悲鳴を上げた。
そしてそれまでの精神的な負荷も併せて、限界を超えた彼女の意識は吹っ飛んだ。
彼女の悲鳴を聞きつけてテムがトーストを片手に持ってパンツ一丁の恰好のままで飛び出した。
彼の目に映るのは、パンツ一丁の金髪の男の首元に手をやったまま気を失っている金髪の少女を後ろから抱きかかえているパンツ一丁の我が子。
アムロの傍に駆け寄ると問い詰める。
「アムロお前、何をやった?どういう状況なんだこれは」
「僕にもさっぱりわかんないよ。とにかくシャアさんを助けないとって」
「テムさん。アムロ君を責めないでやって欲しい。ちょっと立て込んでいたのを助けてもらったのです」
気絶してしまった彼女をどうするべきか、とわちゃわちゃしているとエレカが停まりフラウ・ボゥが降りてくる。
最悪のタイミングだった。
「ララァ~もうじきお昼……ってアムロにおじさん、ララァまでシャアさんちの玄関先でを?
って…………け、警察……」
「あ、おはようフラウ」
「おはようじゃないわよアムロ!あなた達どうなってるの!?」
「待ってくれフラウ嬢、とにかく説明させて欲しい」
「説明って、ナニをどう説明するって言うんですかシャアさん!」
パンツ男三人に気絶した少女、そしておまけにインド人メイド少女、コレをいい感じ具合に説明 できる人などいるのだろうか。
「まぁまぁ、落ち着き給えフラウ君」
「落ち着き給え、じゃありません!大体何で三人ともパンツ姿なんですか!?」
「それに関しちゃ僕ら親子はいつも通りだし、事情があるのはシャアさんだけだと思うけど」
アムロは何とか状況からの切り離しを画策するが、もちろんフラウは逃がさない。
「アムロ、自分は無関係です、みたいにしない。あといい加減その人を……ってここじゃまずい
わね。とりあえずエレカに乗せてちょうだい。私の家に連れていきます。この人の気が付いたら
しっかりと理由を聞かせてもらいますからね」
アムロとフラウ・ボゥのやり取りを見ながらそれ以外の三人はホッと息を
「それとそこの三人!逃げ切った、みたいな顔しない!あなた達にもしっかりと事情を聞きます」
つかせてもらえなかった。
(((まさか心を読まれているのか!?))しら?)
「そんなもの顔を見たらわかるわよ!ララァ、あなたはこっちに乗って。一度帰るわよ」
そう言うと二人はエレカに乗って去っていった。
残された三人は顔を会わせて
「どうしよう、父さん、シャアさん」
「そうだな、正直他人のご家庭の事情に踏み入るのはなあ。しかし彼女に普段お世話になっている以上呼ばれたら行くしかないし」
「そうですね。お二方には申し訳ないが付いて来てもらえないだろうか。私だけでは上手く説明
できないと思う。それと……」
まずはズボンを穿こう、ということになった。