三人とも一度家に帰って人前に出られる格好に着替えた。
そのまま合流しボゥ家に向かうエレカの車中で、ある程度の事情のすり合わせを行おうという ことになった。
「そういえばシャアさん、さっきの女の人って知り合いなんですか?なんだか似たような雰囲気でしたけど」
「彼女か、まあ、うん、私の妹なんだが、ここのところ連絡を取ることを忘れていてな。サイド3に住んでいるはずなんだが、何でサイド7に」
「妹さん!?」
アムロは思わず、といった声を上げてしまう。
「そんなに意外かね?」
「すいません。でもシャアさんって、雰囲気からしててっきり一人っ子だとばっかり」
シャアは苦笑しながら返す。
「一人っ子の雰囲気と言われてもな」
それまで黙っていたテムが口を開いた。
「とりあえず、ララァ君とシャア君の馴れ初めについてだが、そのまま話すのは流石にやめよう。彼女には刺激が強いだろうし」
「そうだね父さん。まさか、ねえ」
ぶらっとインド行ったらなんかビビッと来たので連れてきました、なんて言えるはずもない。
「まあ、私がたまたま旅行中に出会って世話になったついでに、身の上話を聞いて同情した、と いうことにして欲しい」
「それが無難だろうねえ」
細かいところを話しているとエレカがボゥ宅前に到着した。
玄関の呼び鈴を鳴らすとフラウ・ボゥの母親が三人を出迎えた。
「あら、みなさんいらっしゃい」
「ボゥ夫人、今日は
頭を下げるシャアに対してボゥ夫人は軽く手を振りながら微笑んで言う。
「別に気にしなくていいですよ。あなたみたいなハンサムさんならいつだって大歓迎よ」
客間に通されるとシャツにハーフパンツ姿のララァ、ちょうど自身の部屋から出てきたフラウ・ボゥがいた。
「あ、フラウ、彼女は?」
声を潜めてアムロが尋ねると、同じように声を潜めてフラウは答えた。
「さっき目を覚ましたところ。事情を話したらすぐに受け入れてくれたし。大分落ち着いたわね」
それを聞いたシャアが少し考えてから話しかける。
「そうか……フラウ嬢、いきなりで悪いが彼女を連れてきてもらえないだろうか。あまり時間をかけてもそちらの迷惑になるだろうし、誤解は早めに解いておきたい」
「それなら構いませんけど……」
そう言いながらフラウは自分の部屋へと戻る。
中の人物と二、三、言葉を交わしているのだろうか、少しの時間が経つ。
そのあいだに三人はララァに先ほどのすり合わせの内容を伝えておいた。
しばらく後、連れだって部屋から二人が出てくると、金髪の少女は恥ずかし気にアムロに向かって頭を下げた。
「先ほどはすいませんでした。すっかり慌ててしまって」
「い、いや、こちらこそ、あんなことしてしまってすいませんでした」
その様子を興味津々にフラウは見ていたが、彼女の母親に引っ張られていく。
「ほらフラウ、あなたはこっち。あんまりよそ様のご家庭の事情に首を突っ込むわけにもいかないでしょう」
二人が見えなくなるのを待ってから、テムが切り出した。
「一つずつ状況を整理していこうか。まずは自己紹介からだね。私の名前はテム・レイ。そちらのアズナブル君とは阻止作戦の初めのほうにメカマンとパイロットという形で知り合ったんだ。作戦終結後に再会して今は上司と部下の、いや、どちらかというと同僚のような関係だね」
「あら、あなたが。テムさんのことは昔から常々伺っておりました。メカマンとしても、設計者としても一流で深く信頼している、彼が手掛けた機体なら安心して命を預けられると」
「いやあ、面と向かって褒められると面映ゆいね」
テムは気恥ずかし気に頬を掻いた。
その様を見ていたセイラは何かに気付いた様子で語り始める。
「あ、すいません。私ったら無作法で。まずはこちらから名乗らなければいけないのに。私の名前はセイラ・マスと申します。そちらの、えっと、シャア、とは、その、生き別れの、兄妹だと思ってくださいますか」
セイラ(仮)の受け答えのぎこちなさから、嘘をつき慣れていないのだろうということがその場にいる人間にはありありとわかった。
ファミリーネームが違う段階で訳アリです、と言っているようなものではあるが、誰も気にしていない。
「次は僕ですね。僕の名前はアムロ・レイ、シャアさんとは阻止作戦のとき、去年だけですけどお世話になりました。先輩と後輩……みたいな関係でしょうか」
「アムロ……?アムロ・レイ?あの、最年少で阻止作戦に志願した、あの、天才モビルスーツパイロットの?私の学園でもあなたの話で持ち切りだったんですよ。あの歳で命の危険を顧みず、人類の命運をかけた作戦に参加するだなんて、なんて使命感と勇気にあふれた方なんでしょうって」
それを聞いてアムロは気恥ずかし気に頭をかきながら、少しだけ誇らしげな顔をした。
「え、えへへ。そんな風に言われてたんですか。照れちゃうなあ」
「アムロ、やったことは兎も角だ、きっかけはあんまり褒められたことじゃないからな」
「わかってるよ父さん。僕だって今思えば無謀なことをやったなあって反省してるんだから」
「ならいいんだ。次やるんなら、せめてきちんと手続きを取ってやりなさい」
「何をやったんですの?」
セイラは顔に疑問を浮かべてテムに尋ねた。
「こいつったら私の仕事が気になるからって、こっそりと艦に忍び込んだんですよ、セイラさん。最終加速前に見つかってなかったらどうなっていたか。それで今更戻すこともできないからって、なし崩しで基地の下働きみたいなことをやらせていたらパイロットたちに気にいられてね」
呆れ混じりにテムが言う言葉を聞きながら、何かを懐かしむようにシャアが続けた。
「シミュレータをやらせてみたらすぐに動かせるようになってな。試しでモビルスーツに乗せてみたら生半可なパイロットよりも筋がいい、ということで宇宙での作業を手伝うようになったんだ。すぐに主力の一人に数えられるようになったがね」
「まあ、アムロったらそんな大胆なことをやっていたなんて、なんで教えてくれなかったの?」
「父さんが言っただろ、ララァ。あんまり褒められることじゃないって。実際見つけてもらえなかったら最終加速でぺちゃんこになってたかもしれないし」
思い出話に花が咲きそうになるのをテムが修正する。
「おっといけない。次はララァ君だね」
「ええと、ララァ・スンです。シャア、さんとは彼が地球旅行に来た時に知り合いまして。つい身の上話をしてしまったら親身になっていただいて。厚かましいですけれど、ご厚意に甘える形で。今はこちらのボゥさんのお宅にご厄介になっておりますの」
「はぁ、もう兄さんったら。ごめんなさいね、ララァさん。あなたにご迷惑をかけていなければいいのだけれど。この人ったら思い付きで動いて周りを振り回すんですもの。悪意があってのことじゃないのはわかるんですけどね」
それと、とセイラは続けて言う。
「先ほどは失礼しました。往来なのにあんな大声で騒いでしまって」
はしたないことをしてしまったとセイラは顔を赤らめた。
「いいえ、そんな。私こそつい調子に乗ってあんな格好で。それに迷惑だなんて。見ず知らずの私にこんなに親切にしていただいて。そのうえ宇宙に上がる夢も叶えていただけるだなんて。ご恩を返すために少しでも、とハウスキーパーの真似事をさせて頂いているんです。でもシャアさん、こんなに美人の妹さんがいるのになぜ教えてくださらなかったのかしら」
「いやララァ、アル……あ~セイラ、も、イヤ、とっくに教えたつもりになっていたんだ。それに関しては本当にすまなかった」
そう言ってシャアは頭を下げる。
「いいですよ。ただ、それはそれとしてここ最近、連絡が途切れていた理由は教えていただきますからね。お父様はともかく、お母様は本当に心配なさっていたんだから」
もうすでに生き別れ設定が崩壊している。
それを聞いてテムが手を上げた。
「それについては私から謝罪しよう。ここのところ仕事が立て込んでいてね。かなりの部分で彼頼りになってしまっているところが多くてオーバーワーク気味になってしまっていたんだよ。言い訳するわけではないんだが、彼はほら、優秀なうえに立ち振る舞いがスマートだろう。だからついつい甘えてしまってね、だが家族との連絡が疎かになってしまうほどだったとは、割り振りをきちんと考えないとな」
「いえ、テムさんのせいではありませんよ。もとはと言えば自分が無精したことが原因なわけですから」
いやいやこちらが、いやいや私が、とテムとシャアがやり合っていると、ふと何かに気付いたという顔でシャアはセイラに尋ねた。
「そういえばセイラ。サイド7までは一人で来たのか?さすがにサイド3から女の一人旅だなんて、父上たちが許さないだろう」
サイド7はサイド3から見れば月、地球を挟んでちょうど真反対の位置に存在している。
実戦中の戦闘艦でもない限り、全行程を最大加速で艦が翔ぶわけもなく、そうそう気軽に来られるような場所ではない。
「それについてはご心配なく。十月からラルさんがこちらのコロニーで働くことになったじゃないですか。夫人も安定期に入ったので、ということでご一緒させていただきましたから」
「そういえば半年ぐらい前にそう言っていたな。あとで顔を見せに行くか」
「それがいいでしょうね。二人とも兄さんのこと心配していましたし」
しばらく近況報告のようにしていると、入るタイミングを見計らっていたのだろうか、ボゥ夫人が入ってきた。
「もうお話合いは終わりということでよろしいかしら。それだったら少し遅いけれどお昼、食べていかれますか?」
テムが断ろうとすると、誰のものだろうか。大きな腹の虫が空腹を主張した。
「あ~、すいませんけれどもボゥ夫人。ご相伴に与らせてもらいますね」
そう言って遅めの昼食会となった。
昼食が終わるとシャアは
『ラル夫妻にも会いたいし、セイラはこのまま私が送っていこう』
とエレカを捕まえ、セイラと二人、連れ立って帰っていった。
それを見たレイ親子も昼食の礼を言ってボゥ家を後にした。
後日、アムロと小柄な少年、ハヤトが連れ立って歩いていると、やや不良ぶった雰囲気を持つ 少年、カイが近寄ってくる。
「なあ、今日は君たちにとっておきのニュースを教えてやろうじゃないの」
「どうしたんですかカイさん、そんな勿体ぶって」
「ふっふっふっふ、それはだな……」
ハヤトがカイの言うことをつまらなさそうに聞き流していると一人の少女がハヤトの目に飛び込んできた。
「うわ、あの金髪の人、すごい美人だな。アムロ」
そう言ってアムロの服のすそを引っ張った。
「話の腰を折るんじゃないよハヤト君、まあ、彼女のことさ。いや~あんな美人とお近づきになりた……」
「あ、セイラさ~ん。どうしたんですか?もうサイド3に帰ったとばっかり」
大きくアムロが手を振ると、セイラもそれに応えて手を振り返す。
「アムロ君、それなのだけれどね、実家のほうに連絡したら、お母様から『しばらくそちらに留学してらっしゃいな。お父様にも子離れしていただかないと』ですって。これから兄共々仲良くしてくださるかしら。お友達二人もよろしくお願いしますね」
そう言うとセイラは彼らから離れていった。
「オイオイオイオイ、アムロ君、どういうことだよ。なんでもう知り合ってるんだ?」
「カイさん、不躾だよ。でもアムロ、どういうことか教えてくれよ」
「ハヤト、カイさんも。あの人、シャアさんの妹さんなんだよ。このあいだちょっとしたことで知り合ってさ」
それを聞いてカイはややひがんだ声を上げた。
「かぁ~、やっぱ美形の家系には美形が生まれるもんなんだなあ。そしてアムロ君はそういう人と何故だか縁があると」
ハヤトが冗談めかして言った。
「カイさんもそういうところ直したら縁が生まれるかもしれませんよ」
「なんだとハヤト~」
こうして何の変哲もないコロニーの日々は過ぎてゆく