片田舎の剣聖、TUBAMEを斬る。 作:you are not
道場の隅の剣鬼
その爺さんは、いつの間にか俺の道場にいた。
ただ、俺が物心ついたころにはすでに道場の隅で剣を振ってたのは覚えている。朝一番に道場の前で素振りをしている変わった人だった。年季の入った木刀を握り、誰にも教えるでもなく、誰にも見せるでもなく。ひとり、黙々と素振りをしていた。
親父に聞いても兄弟子たちに聞いても、爺さんのことは詳しく知らなかった。俺が生まれた頃くらいに村の外からやって来て、住み着いていたらしい。そのころから、場所を借りるだけ借りて、剣を素振りしていたそうだ。
周りは、そんな爺さんをただ剣が好きで、多少覚えがあるくらいにしか認識していなかったが、俺は違った。
――――その剣には、執念が宿ってた。
剣が好き?あれはそんなもんじゃない。剣の為に生きて、剣の為に死ぬ。そう覚悟した奴だけがたどり着ける剣技だ。
気づけば俺は、爺さんの剣を目で追うようになっていた。わからなかった。何がどう凄いのか、理屈じゃ言えなかった。でも、どこか俺はそんなあり方に憧れていた。
「ベリル。」
親父から声をかけられ振り返る。
「あの剣を追うのはやめとけ。あいつみたいな変態は一人で十分だ」
笑ってるようで、笑ってない声だった。親父はたぶん、あの爺さんの剣を本当は理解してた。
けど、剣術家として、師範として、父として――たぶん言いたかったんだろう。
「あれは人の道じゃない」って。
でも、俺は目を逸らせなかった。あの剣には、何かがあると思った。血じゃない。才能でもない。そう、言わば積み重ね。
誰にも見られず、誰にも評価されず、それでも振り続けた剣。
そう思うと、余計にその素振りに魅入られた。
―――
ある日の早朝、まだ霧が立ち込めて、空も白んでいない時間。道場の戸を開けると、爺さんがいた。いつもと同じように、誰に見せるでもなく、剣を振っていた。
けど、その日は――違った。
空気が張りつめていた。風もないのに、周囲の草がざわりと揺れた。俺は思わず、その場に立ち尽くして、その姿にくぎ付けになる。本能がそうさせた。これは『見なきゃいけない』そう感じた。
爺さんは、息を整えて、一歩踏み出した。
剣が振るわれる。完全同時の三連撃。いや、連撃という言葉は相応しくない。本当に全く同時に放たれる三撃。二撃目と三撃目が遅れる形でも続く形でもない。剣筋が同時に存在する、物理法則を超越した秘剣だった。
息をするのも忘れていたのか、動いていないというのに呼吸が荒くなる。原理がまったくわからなかった。気づいた時には、同時の三連撃が道場の柱に、細く鋭い切り傷をつけていた。
直線じゃない。違う角度から、一度に刻まれたとしか思えない三本の斬撃。爺さんは何事もなかったように木刀を納めると、その傷を眺めて、満足そうに、それでいて何処か不満げにしていた。
「なぁ、爺さん」
俺は思わず、声をかけた。すると、先ほどの剣鬼としての気迫が消える。
「なんじゃ、坊主」
「そんな、すごい剣を編み出して何を斬るつもりなんだ?」
ベリルにはあの剣技の道理が分からない。だが、恐ろしい程の執念が、労力が、時間が、あれを編み出したということだけは理解できた。なら、秘剣の刃が向かう先とはいったいどれほどの相手なのだろう?
「なぁに、ただのTUBAMEさ」
「へ?」
俺は耳を疑った。だって、燕なんてそこら辺を飛んでいるだけのただの鳥じゃないか。あんな技を編み出さなくても切れるはずだ。
「だから、TUBAMEだ。分身するし、瞬間移動する。TUBAMEだ。」
「いや、それ魔物だろ。」
思わず、突っ込んでしまうが無理もないことだった。ベリル以外でも、そう聞けば同じこと言っただろう。
しかし、爺さんは、こちらの戸惑いなど気にも留めず、ひとつあくびを漏らしてからぽつりと言った。
「のう、坊主。わしの代わりに斬ってくれんか?」
俺は何を言われたのか、わからなかった。
「いや、無理だろ。俺の実力じゃ」
「若いもんが、自分を信じんで何を信じる。それに教えてやるよ、俺の剣を」
その言葉に俺は顔を上げる。俺もまたどうしようもないくらい剣に狂ってるらしい。
「もう年じゃ。今の一撃もな……体がついてこん」
そう言って、爺さんは自分の右腕をさすった。細い。枯れ枝のようなその腕が、あの神業を放っていたとは思えなかった。
「わしの剣は完成した。……あとは、託すだけじゃ」
その目は、静かで、どこまでも澄んでいた。
きっとこの時からだろう。俺がこの人を師匠と呼んだのは。
爺さんはただの一般通過転生者。チートなしで燕返し再現したバグ。おっさんに教えたせいで原作崩壊起こしてる。なお、対人魔剣は大体再現できる模様。