片田舎の剣聖、TUBAMEを斬る。   作:you are not

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やっと、TUBAME戦だよ。ちょっといつもより長め。


片田舎の剣鬼、TUBAMEを斬る。

 

 レベリス王国南部。

 

わずかに草木の残る岩肌の麓に、数百の戦力が集結していた。

 

副団長が指揮するのは、レベリス王国騎士百名。その隣には、紅と紺の装束を身に纏った魔術師たち、ルーシーの率いる魔法師団四十名が陣を敷いていた。

 

そして、王都からの要請に応じ、ベリルを含む腕利きの冒険者十五名も参戦していた。

三者三様の立場と実力を持つ彼らは、互いの緊張感を肌で感じながらも、ひとつの目的――スワロー討伐――のために動いていた。現在は、補給と負傷者の治癒の為の前線基地を作っているところである。

 

戦場は山の上――特殊討伐指定個体一体とワイバーンの巣窟となったダンジョンである。

 

騎士団が先鋒を担い、魔法師団が後方支援として術式を展開する。冒険者たちは斥候、奇襲、突破口の確保など、自在に動ける遊撃として任されていた。

 

「話には聞いてたが、ほんとに大所帯だな」

荷物を運びながら、ベリルは呟く。複数立てられた簡易なテントの間を多くの人々が右往左往していた。

 

「当然じゃろう? ここは王国が金と人を惜しまず整備しとる、貿易路の要じゃ。街道が通れば金が流れ、人が集まる――じゃが、それもワイバーンどもが巣くっとる今のままでは夢のまた夢よ」

その呟きに、隣で書簡を抱えていたルーシーが答えた。

 

「なるほど、だから王国も本気ってわけか」

ベリルが腕を組んで頷くと、ルーシーはさらに声を潜める。

 

「前にも言ったが、この山に巣食う《スワロー》――あやつはただの魔物ではない。これまでに、ブラックランクの冒険者を二人、王国騎士団の団長までも退けておる。……いわば、王国の威信を砕いた象徴のような存在じゃ」

ルーシーの視線が、遠く山の頂を見据える。

 

「故に、この戦いはレベリス王国の威信をかけた総力戦と言ってもよい。じゃから――負けてくれるなよ?」

「当たり前だ。今日まで勝つために鍛えてきたんだ」

二人のやり取りを最後に、騎士団が進軍の開始を宣言した。

 

 

―――

 

 

ベリルは冒険者部隊の中で、先行する斥候の一員として山道を駆けていた。彼の背には、同じく腕利きとされる冒険者たちが十数名、無言のままついてくる。

 

そして──

 

「接敵!」

先頭の斥候が叫ぶや否や、瓦礫の陰から飛び出した灰色の影が、鋭く唸りながら斬りかかってきた。

「ワイバーンか、いや……小型の変異種!」

 ベリルは即座に抜剣し、振り下ろされる鉤爪を剣で右に受け流し、足が地面に着いた瞬間を狙って股下から内臓を突き刺す。一瞬で倒したベリルだが、普通の個体よりも骨格が太く、闘争心も強いワイバーンの変異種はまだまだ多く。

 

数匹、いや十数匹。前衛の騎士団と合流する前に、こちらが囲まれていた。

 

「囲まれたぞ、全員距離を取って戦え! 魔法の援護はまだか!?」

後方の冒険者が叫ぶ。そこへ、上空から蒼く光る魔法弾が炸裂し、ワイバーンの一体を吹き飛ばした。

 

「援護は来ておる、続け!」

 ルーシーの声が山肌に響く。魔法師団が後方から視認し、支援を飛ばしてくれたようだ。

ベリルは背後を見ず、目の前の敵を正確に捌いていく。振り抜き、切り払い、踏み込み、切り上げ──手が止まることはない。

 

しかし、そんな中。

 

空が──「鳴いた」。

 

風切り音とは違う、まるで天そのものが裂けるような音だった。

 

誰もが、自然と顔を上げた。そして──その『翼』が降り立った。漆黒と緋の鱗を持つ、ワイバーン。それは他のどの個体よりも巨大で、しなやかで、美しかった。

 

その目は、確かにはっきりとベリルを見ていた。

背筋に寒気が走る。それは殺気ではない。だが確かに、強者のみに許される『沈黙の圧』だった。

 

「ツバメ!」

あのワイバーンたちの王。王国の騎士団を打ち破った怪物。そして、何より師より託された願い。師を超える挑戦にして、自らの剣の道その最果てを見つけるための好敵手。

 

互いに殺し合ったことも、相対したこともない。

だが相互理解は必要ない。俺はヤツを獲物としか見なさない。ヤツも同様、俺を獲物としか見ていない。

 

これ以上ないほど対等だ。

 

―――俺たちはもう、十分に分かり合えている。

 

ベリルは剣を、TUBAMEは己の牙を互いに向けあう。

 

しばしの沈黙。先に動いたのはベリルの方だった。

「行くぞ‥‥!」

ベリルは剣を顔の横に構え、燕返しを構える。しかし、ただの燕返しではない。

 

「三段突き」を、燕返しに乗せるのだ。

 

同時に六つの斬撃を放ち、内三つを重ねることで、多重屈折現象と事象飽和現象。その二つを同時に発生させる奥義――

 

―――『秘剣・燕返し無明の段』

 

剣を振りぬいた刹那、音もなく三つの斬突がツバメを襲う。その威力、その速さ、その精度。どれも、過去の自分を遥かに凌駕していた。

 

だが、

 

「キィィ……ッ!」

 

ツバメの翼が、空気を裂いて弾けるように動いた。

 

 一閃目──左の斬撃を、左翼を犠牲に受け止め。

 

 二閃目──右の突きを、右翼を犠牲にする。

 

 三閃目──真正面の一点を、身体をひねって、致命傷を防ぎ受けきる。

 

翼はもがれ、肩から左足にかけて切られている。しかし、TUBAMEは尚も、死することなく地面に立っていたのだ。

 

その光景にベリルは思わず、笑みを浮かべてしまう。

そうだ。それでいい。

この程度で死なないでくれ、剣を交えるその一瞬のために、俺はここまで来たのだ。自分はまだこの戦いを終わらせたくない。

 

この瞬間を永遠に、続けていたい。巻き戻せるなら、きっと何度でも!

 

―――だから、もっと、もっとだ!もっと俺の全力を受け止めてくれ!

 

熱くなる衝動と体に身を任せ、もう一度斬りかかろうとした時。

 

―――重力に引かれるように、ツバメはその場に崩れ落ちた。

 

「は‥‥?」

呆けた声を上げ放心するベリルをよそにツバメは静かに、ベリルの方を見る。

 

その目には、怒りも痛みもなく、ただ──満足が宿っていた。

 

ベリルは駆け寄る。

 

だが、ツバメはすでに動かない。

 

――死んでいた。

 

傷は浅い。致命傷ではない。明らかに老衰だった。近くで見ると、翼の骨は細かくひび割れていた。鱗の光沢もどこか薄く、闘志よりも、使命感が勝っていたのかもしれない。

 

「ふざけるなよ‥‥」

ベリルは思わず、声を出す。まだ、満足していない。まだ、満たされていない。

 

―――まだ、あの日見た剣に届いていない。

 

だというのに、相手は動かない。酷く裏切られたような気分だった。

 

ベリルはその場に座り込む。

 

―――俺は、これからどうすればいい?

 

燃え尽きた灰のような粗熱だけが空っぽの自分を燻ぶらせる。




TUBAME「いやぁ、見事なり!余は満足である。ほな、お先に(絶命)」
殺したかったけど死んでほしくなかったベリル「ふざけるな!!ふざけるなっ!!馬鹿野郎!!!うわぁーーーーー!!!!」

この後、称賛される模様。
良かったなベリル、『何かを成す』ことが出来たぞ?どうした喜べよ?
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