片田舎の剣聖、TUBAMEを斬る。 作:you are not
「ルーシー。聖杯はどうした?司教は?」
ベリルは、少し早口でルーシーに問う。握られているロングソードは剛力に震えている。
「‥‥もぬけの殻じゃった。恐らく、すでに逃げられておる。じゃから、その男は重要参考人。殺されては困る」
ベリルは拘束されている男を見ながら返事をする。
「殺す?俺が、こいつを?」
「違うか?」
その言葉に反論出来なかった。
事実、あのまま戦っていたら、恐らくどちらかが死ぬまで戦っていただろう。
それほどまでに
―――楽しんでいた。
「わしを怒るか?」
ルーシーは、不安げにベリルの方を見る。
「ふぅー‥‥いや、いい。助かった」
深呼吸をした後、剣を納め、火照った心を再び抑える。
あのままだと、帰ってこれる自信がない。
「どうやら、決着はつけられぬようだな。剣士よ」
両足と胴体を魔術のツタでグルグル巻きにされた無手の男は、タイミングを見計らったように声を発する。
「うむ。そういうことじゃ。ここで、洗いざらい知っておることを話せ。そうすれば、多少減刑を口添えしてやっても良いぞ?」
すると、男は顔を背け、口から血の塊を吐き出す。
「何を‥‥」
ベリルが問う前に、男は返答する。
「口封じの術を解除した‥‥安心しろ。こうなった以上、俺は捨て駒。知っていることを全て話してやろう。代わりにこちらの質問にも答えてもらいたい。構わんだろう?」
「構わんが、こちらの質問に答えてもらう方が先じゃ」
男は、無言で頷く。拘束されたままの姿で、わずかに首を傾け、薄く笑みを浮かべる。
「まず、『聖杯』とやらの詳細を話せ。お前らがやっていたのは、ただの誘拐ではなかろう?」
「……ああ」
男は小さく息を吐いた。
「俺たちが狙っていたのは、かつて神代の魔術師が造ったとされる伝説の願望器。名を『聖杯』。本来なら、強大な魔力を使用し、『願い』を叶える万能の道具。もっとも、俺たちが手に入れたものは――不完全品だった。」
「不完全?」
ルーシーの眉がぴくりと動く。
「ああ。構造だけは完成していたが、肝心の『リソース』、つまり中に溜める魔力が足りなかった。願いを一つ叶えるには、王都全土の魔力を注ぎ込んでも足りんくらいだと、司教は言っていたな。……だからこそ、霊脈が必要だった」
「霊脈……土地の魔力の流れそのものを、か?」
ルーシーは驚いたような声を上げる。ベリルには、何のことかさっぱりで置いてけぼりだった。
「そうだ。霊脈の上に『聖杯』を設置し、魔力の流れを強引に吸い上げる。土地がどうなろうと構わないらしい。次に奴が狙うのは、魔力がもっとも満ちる霊脈――旧レベリス銅山だ。」
「まさか……一週間後……」
ルーシーの顔色が変わった。魔法師団として把握していた霊脈の周期と、重なる日があることに気づいたのだろう。
「……つまり、聖杯は完成していて、足りないのは魔力だけ、ということか」
ベリルが呟くと、男は無言で肯定のように目を細めた。
「お前は、その計画に乗っていたのか?霊脈を枯らすほどの術を使えば、この国の土地は枯れ、不作と飢饉が襲い掛かることになる。」
ルーシーの声に、男は首を振る。
「……俺はな、最初からあの司教の理念に賛同していたわけじゃない。俺の望みはただ一つ。『強者と戦うこと』だ。聖杯も、司教の願望も、どうでもいい。ここにいたのも、傭兵として、雇われた分だけの仕事をしただけのこと。」
「そのロザリオは?」
ベリルが問うと、男はきょとんとした顔をする。
「あぁ、これか。司教から渡された身分証代わりだ。」
――――
「知っておることはそれだけか?」
「あぁ、司教の計画についてはこれ以上は知らん。」
質問を答え終わった男はベリルに視線を向けた。
「聞く限り、お前たちは聖杯を止めるために動いているようだな。」
その瞳には、敵意ではなく、まるで同類を見るような寂しさと共感があった。
「それがどうした?」
ベリルが返す。なぜだか、答えてはいけないような気がした。
「確かに、道理は通っている。国の一大事なのだからな。だが、その正しいだけの在り方、貫くのは容易ではあるまい」
そう言って、男はゆっくりと口を開く。
「最後に、答えてくれ。お前も、『聖杯』に何か願いを求めている口だろう?」
「それは‥‥」
ベリルは、図星を突かれたように言葉を詰まらせる。
「武を求める者ならば、欲はそうそう捨てられまい。‥‥願いが叶うという抗いがたい誘惑、お前に斬って捨てられるか?」
「‥‥‥‥」
沈黙するベリルは、無意識にしまった剣の柄を握りしめる。
すると、教会の扉が開かれる。
「通報があって来ました。騎士団の者です!教会で暴れているという男がいると!」
武装したレベリス騎士二人がずかずかと、礼拝堂の中に入って来て、男を見つめる。
「おー!こいつじゃ!誘拐事件の関係者じゃ、慎重に頼むぞ?」
「はっ!」
騎士たちがそれぞれ左右から男の肩を掴んで持ち上げる。
「どうやら、時間切れだ。答えられぬなら、それもよい。だが、いつまで見て見ぬ振りが出来るかな?」
そう言って、男はルーシーに呼ばれた騎士たちに連行され、大人しく留置所へ送られていった。
先ほどの言葉が、ベリルの頭の中をどうしようもなく木霊する。呪いのように、祝いのように。
ちょっとした、フラグ回。
☆蛇足(読まなくてもいいよ)
聖杯が未完成なのは、この世界に人理もアラヤもいないため、英霊システムがなく、聖杯があっても英霊が呼べず、聖杯戦争が出来ないため。そもそものテクスチャが合わないから
あと、神代の魔術師は「聖杯戦争してなぁ‥‥」と言って聖杯作ったNOUMINの魔術師です。