片田舎の剣聖、TUBAMEを斬る。   作:you are not

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やっと、聖杯とベリルを鉢合わせられるよ!やったね、たえちゃん!


選択の時、来たれり

 

 王都の夜は静かだった。だが、異変は音もなく、忍び寄る。

 

ベリルはいつものように、借りている宿の窓際に腰かけ、外をぼんやり眺めていた。空には雲がかかり、月の光が薄い。

 

 ―――ゴンゴン!

 

激しいノックの音が、静寂を破った。

 

「ベリル、起きておるか!」

 

聞き慣れた声に、ベリルはすぐに立ち上がり、扉を開ける。そこには息を切らしたルーシーの姿。ローブの裾に土が跳ね、肩で荒く息をついていた。

 

「どうした、ルーシー」

 

「旧レベリス銅山の霊脈――警備との連絡が途絶えた。今夜が満ちるタイミング……間違いなく、司教が動いた!」

 

その一言で、すべてが理解できた。

 

「行こう」

 

二人は互いに頷き合い、すぐさま早馬に跨り、旧鉱山へと駆け出した。

 

 

――――

 

 

風を切るように、馬が闇を駆ける。深夜の山道は冷気を帯び、夏だというのに頬が痛むほどだった。

 

「……霊脈が満ちるまでは、あとわずか。急がねば手遅れになる」

ルーシーの声はいつになく焦っていた。だが、その横顔には一切の迷いがない。

 

旧レベリス銅山。かつて栄えた鉱山跡は、今では荒れ果て、立ち入り禁止となって久しい。騎士団と魔法師団が監視を敷いたはずのこの場所に、灯火一つ見当たらなかった。

 

「……おかしいな。誰もいない」

ベリルが馬を降り、周囲を見渡す。警備との連絡が付かなくなったと聞いた時点ですでに死んでいてもおかしくはないとは思っていたが、死体一つない様子に気味の悪さを覚えた。

 

「気をつけろ。敵は、奥におるぞ」

ルーシーがローブの下から、宝石のような刀身をしたナイフのような杖のようなものを取り出す。

 

二人は無言のまま、銅山の内部――霊脈の集中地点へと足を進めた。崩れかけた坑道を抜け、やがて開けた中央広間へ辿り着く。

 

そこには、異様な光景が広がっていた。

先ほどまで暗かった洞窟内だったというのに、この広間に足を踏み入れた瞬間、空間全体が山吹色の光に照らされていた。

 

その原因は明らかだった。空間の中央に位置する場所には、台座のようなものが設置され、強い光を放つトロフィーのような盃が置かれていた。ベリルとルーシーはその輝く器を見た時、すぐに理解した。

 

あれこそ、万能の願望器

 

―――聖杯。なのだと。

 

そして、その手前に立つのは、黒い祭服を着込んだ初老の男。事件の黒幕、司祭であった。

「もう、追手が来よったか」

司祭は、忌々しそうに口を開く。

「観念しろ司祭。どの道、死刑は免れん」

「だから何だというのだ。元より、スフェン様に裁かれる覚悟はできておる」

聞く耳持たずだと判断して、ベリルが一歩踏み出そうとした瞬間――

 

―――ずるり

 

地面のあちこちから、影のようなものが起き上がった。動きの止まった護衛の騎士、魔術師団の若者、さらには年老いた村人のような姿まで。

 

死んだ者たちの、死体。いや、死体だったもの。

「死霊魔術か!司教貴様、どこまで外道なのじゃ!」

「知れたこと。この身尽きようとも足らぬさ」

司教が聖杯に手を近づけると、動く死体たちの体に変化が起こる。

 

死体たちが変化した姿は、影がそのまま質量を持ったようだった。人型のシルエットだけがその場に存在しているともいえる。だが、その魔力量、強さの圧は間違いなく強者のそれだった。

「あやつ……聖杯の魔力を使って、死体たちを強化しておる!」

ベリルはルーシーの言葉を聞きながら、死体の一つを六つの燕返しの刃で粉みじんにするが、すぐに再生してしまう。

「‥‥みたいだな。しかも、色んな意味でもう死なないみたいだ」

関係ない人間を利用されている司教に腹を立てながらベリルは返す。

 

「それも、聖杯と言う大きな供給源があるが故、成り立っておる。なら、操っておる司教を叩くしかあるまい」

ルーシーは短剣のような宝石の塊の杖を構える。

「お主は先に行け! わしが食い止める。あれだけの死霊軍、全員まとめて足止めせねばならん!」

「‥‥任せてもいいのか?」

「わしを誰じゃと思っとる。それに、研究の成果を確かめたいと思っとってな!」

彼女が剣を振ると、光の塊が刀身に現れ、一閃の光が死霊たちの群れを切り裂いた。空間そのものを削り取るような斬撃だった。

 

ベリルは一言、息を吐いた。

「‥‥任せた。すぐ戻る」

「あぁ、早くいけ。わしの攻撃に巻き込まれるぞ」

返事を待たずして、ベリルは縮地を発動。死体たちの間を駆け抜け、中央の祭壇へ向かって走る。

 

「させる――」

司教が何かを唱えようとしたその瞬間――

 

―――ギィン

 

風鳴りの音と同時にベリルの剣が振り上げられ、同時に地と空から、三つの斬撃が襲いかかる。

 

『秘剣・燕返し』

 

空間が裂けた。

 

一歩踏み込んだベリルの剣が、宙と地を、そして時間すらも断ち切る。

 

三つの刃が同時に存在し、司教を通過した瞬間――男の姿は、既に崩れていた。

 

「……つまらんな」

 

ベリルは、微かな苛立ちを押し殺すように呟き、ゆっくりと聖杯の前に立った。

 

そこへ、死霊の群れを焼き払ったルーシーが、息を切らして現れる。

「一瞬じゃったな」

「あぁ、予想よりも弱かった」

二人はしばし、その場に立ち尽くす。だが、ルーシーが額の汗を拭いつつ、聖杯を眺める。

 

「‥‥とんでもないことをしてくれおった」

ルーシーはため息をつく。

「どうした?」

「聖杯に無理やり魔力を詰め込んだせいで、下手に動かせば爆発するぞ。ここ一帯が蒸発しかねん」

その言葉にベリルは目を見開いた。

「じゃあ、どうすれば?」

「封印する。こんなこともあろうかと、魔導書を用意しておいた。これに封じ込めた後で……壊す」

ルーシーは重厚な魔術書を開く。中には複雑な封印術式が刻まれていた。

「ベリル、聖杯をこの本に押し込んでくれ」

「‥‥あぁ」

魔導書を受け取り、ベリルは聖杯に手を伸ばす。

 

(……このまま、俺が聖杯を魔導書に入れれば、聖杯はなくなる。こんな事件は二度と起こらない。王国の平穏も守られる。ルーシーも無事だ。人として、それが正しい道で、選ぶべき正しい結末だ。)

 

 

「…‥‥‥‥」

 

 

 

―――()()()

 

 

 

その疑問が、心の奥底から浮かび上がる。

指先が震える。

 

俺は、聖杯を――




補足しておくと、ルーシーが使った短剣のような武器は、宝石剣ゼルレッチです。前話で風邪ひくまで研究してたのはこれです。何で再現できんだよ。

あと、ルートどうすればいいんや!このまま聖杯壊させないで可惜夜ルートか、それとも聖杯(願い)を壊させる怨讐の炎ルートか。心が二つあるぅ~!
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