片田舎の剣聖、TUBAMEを斬る。   作:you are not

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思ったより伸びて嬉しい作者です。やっぱ、みんな燕返し好きなんやな。




対人魔剣の極地

 

―――燕返し。

 

爺さんはあの技をそう呼んでいた。俺もそれにならって、そう呼ぶことにした。

 

一振りで、三つの斬撃を同時に放つ剣。物理法則をねじ伏せるそれは、俺にとって目指すべき理想だった。難しい、なんて次元の話じゃないのはわかってる。

 

―――それでも、やりたい。

 

それは恐れ知らずの願望で、同時に終わりなき渇きだった。

 

 

道場の隅で、朝露を踏みしめ、俺は木刀を握る。理屈じゃわかってる。筋力、重心、手の軌道、意識の分裂、それらが全部そろって初めてあの三連撃が生まれる。剣を振る速さだけじゃ足りない。

 

「―――シッ!」

 

木剣を二体の藁人形にそれぞれ当てる。

 

 

「‥‥違う」

 

それを見ていた。師匠が横から口を出す。

 

「そうではない。必要なのは、『速く振る』ことではなく、『同時』に出そうとする『意識』そのものだ。」

 

言っていることはわけがわからなかったが、考えるよりまず、体を動かして感覚を掴むことにした。

 

当然、親父の稽古にも参加する。それが終わったら、また燕返しの鍛錬を開始する。来る日も来る日も、同じことを繰り返した。手のひらの皮が剥けても、腕の筋肉が悲鳴を上げても続けた。

 

おかげで、異常な集中力が身に付いたが、未だあの剣には到達する気配が全く起きなかった。

 

 

―――

 

 

そんな生活を送って早三か月。いつものように、剣を構えていた時。体は妙に軽かった。いつもは程よく感じる剣の重さが、心地よく、頭がさえわたるような感覚だった。その感覚に身を任せて、剣を振るう。

 

―――ズバッ!ズバッ!

 

的になっていた藁人形は二つ斬られていた。俺は一度しか、剣を振っていなかった。

 

「二撃‥‥同時‥‥」

 

始めて達成した感覚に、全身の血管の流れが速くなり、産毛まで熱くなる。

 

「正直、驚いたわい」

師匠の眉が、初めてピクリと動いた。

「わしがそこまで行くのに十年はかかったというのに‥‥」

 

「じゃから」

そう言うと、師匠は腰に下げていた。なまくらに手を掛ける。それは近所の鍛冶屋が処分する予定の剣だった。

「見せてやろう。わしが至った極地を‥‥お主が到達すべき完成形を」

 

構えたのは、あの燕返し――ではなかった。

 

無言で、呼吸さえ感じさせずにその場に佇む。刹那、師匠の姿がいつの間にかズレる――次の瞬間、残っていた藁人形に六つの刃が、一度に、全方位から降り注いだ。藁人形は原形を残さず上半身を破壊され、わずかな藁の塊だけが残っていた。同時に、師匠の持っていた剣は粉々に砕けている。

 

ベリルの天性の観察眼には、はっきりと映っていた。常人ならば残像すら捉えられぬであろうその動きが、彼には確かに見えていた。師匠は、初動を悟られない踏み込みで、藁人形に近づき、一本の刀で燕返しを二度打ったのだ。そして、その増えた斬撃一つ一つに三回分の斬撃が載っているように感じた。

 

 

―――凄まじい

 

まさに、絶技の中の絶技。まさに、幼いころに誰もが想像する、剣聖の技。

 

―――だからこそ、

 

―――ものにする。

 

少年ベリル・ガーデナントは心の中で決意する。この、荒野の先を目指すことを。例え修羅の誘惑が待っていようとも。




書きたいこと書いてたら、YAMA育ちの爺さんがおかしいやつになったし、おっさん(この時十代若者)が天才になってた。まぁ、いいや。

☆捕捉
・無名
対人魔剣を極めた老人が至った必殺の一撃。無形(fateの斎藤一の宝具)で近づきながら、無明三段突き(fateの沖田総司の宝具)の斬撃版を乗せた燕返しを行う。それは防御も回避もなすことが出来ない絶対の剣。されど、その技の向かう先は虚空にして、刃を握る手はやつれていた。故にこの技に名はない。
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