片田舎の剣聖、TUBAMEを斬る。 作:you are not
数日後、師匠は村の共同墓地に葬られた。
意外なことに、道場の多くの人が師匠の死を悼んでくれた。寡黙だが、剣に真っ直ぐな人だったからだろうか。
俺も、墓前で黙礼する。
もう、悔いはない。――いや、ある。だからこそ、行く。
ツバメを倒す前に、けじめをつけなければならなかった。
「‥‥来たか、ベリル」
道場で待っていたのは、俺の親父――モルデナ・ガーデナント。俺にとって超えられぬ壁である剣士。俺は親父を呼びつけていた。決着をつけるために。
「勝ち逃げはさせねぇよ、親父」
「‥‥曲芸ごときに負けてたまるかよ」
その言葉を皮切りに俺たちは剣を抜いて、戦いの火ぶたを切った。
父と俺は無言で相対した。
道場の中心、床板がきしむ。互いに構えは違えど、張り詰めた気配は同じだった。
先に踏み込んだのは俺だった。師匠直伝の『無形』を意識して、わずかに重心を揺らして視覚を惑わせる。そのまま一太刀、左から斬りかかる。
だが――打ち返される。
「甘い」
親父の声が低く響き、すばやく強烈な正面打ちが襲い掛かる。俺は剣を頭上で斜めに構えることで受け流す。
そこからは、地獄のような攻防だった。
力でも速さでも親父にはまだ敵わない。何度も何度も斬り込んでは捌かれ、返される。それでも俺は俺の剣で親父に勝つ。
体を半身にして、剣を水平に保ち、相手の目を隠すように顔の横に構える。
『秘剣・燕返し』
同時に放つ三撃の剣。まだ未完成。だが、確かに同時に二撃が走り、その内の一方の一撃目がその背を追った。
「ッ……!」
初めて、親父の顔に驚きの色が宿った。だが、やはり届かない。三撃目は止められ、間合いを戻される。
息を切らしながら、俺は剣を構え直す。すると、親父が口を開いた。
「ベリル。まさか、あいつの剣を再現しやがるとは‥‥」
「あぁ。俺が継いだ。俺の必殺技だ」
「そうか」
一瞬の静寂。
―――床がきしむ音がする。
そして次の瞬間、俺と親父は、互いに踏み込んでいた。全力の一太刀、真っ向からぶつける最後の斬撃。俺はこの打ち合いに勝てないと悟っている。
だから、一手打つことにした。
俺は未だに燕返しを二撃同時に放つことしかできない。だから、一つに集めることにした。同時に同じ場所に、燕返しを放つ。それは単純に二撃分の威力を持つ一撃となる。
この時、ベリルは知らなかった。その技は次元を曲げ、世界が修正しようとして、あらゆる物質を破壊する一撃であることを。名を。
『無明三段突き』。その斬撃版である。
―――
「引き分け、か」
俺は悔しさをにじませながら、そう呟く。俺と親父の手には、それぞれ粉々になった木剣が握られていた。
「あんなことされて、そんなこと言われちゃ俺の立つ瀬がねぇよ」
親父が怪訝そうに返す。だが、そうだ。俺は確実に近づいている親父に。もう、高い壁は見えない。
「なら、次は勝つ」
「やめてくれ、俺は負けず嫌いなんだ」
それは、父親からの祝福だった。
その日の夜、俺は荷物をまとめて家を出た。
道場の門の前に立つと、もう一度だけ、あの墓の方向へと頭を下げた。
「行ってくるよ、爺さん」
そうして俺は、王都へ向けて歩き出した。あの剣に到達することを夢見て。
次回からは、冒険者編。たぶん、原作キャラ出てくる。