片田舎の剣聖、TUBAMEを斬る。 作:you are not
「……換金、お願いします」
早朝。まだギルドが開いたばかりの時間帯、一人の少年が受付カウンターの前に立っていた。十代後半ほどの年頃。だが受付嬢は知っている――この少年こそ、たった一年で〈プラチナムランク〉へと昇格した異例の冒険者だということを。
「はい。お預かりいたしました」
彼が持ち込んだのは、丸々一体のワイバーンの死骸。それだけで、一般市民の月収にも匹敵する大金が手に入るというのに……この少年――ベリル・ガーデナントは、まるで惰性でそれをやっているかのようだった。
金に興味などない。ただ、強くなるために。
剣のために生きている。自分とは、まったく違う「あっち側」の人間なのだ――と、受付嬢は思った。
「おい、あれ見ろ」
ギルドの酒場では、他の冒険者たちが依頼書を手にしながら噂話に興じている。
「ああ、『竜殺し』ベリル・ガーデナントだ。ここ数ヶ月、依頼でもねぇのにワイバーンばっか狩ってやがる変人だよ」
「確か、ワイバーンが棲みついてる山のダンジョンに、一人で潜ってるって話じゃなかったか?」
「いや、それだけじゃねぇ。何度も死にかけてんのに、一度も諦めてねぇらしいぜ。どんだけ頭イカれてんだよ」
そんな噂話も、当の本人――ベリル・ガーデナントの耳には届かない。というより、興味がないのだ。
今、彼の頭にあるのはただ一つ。
――『燕返し』の完成。
(……まだ、足りねぇ)
あくび交じりに、ベリルはそう思う。
何度も繰り返したワイバーンとの死闘。その中で、かつて見た“三本の斬撃”を再現することには成功した。だが、それでは足りなかった。
師匠は、あの時さらにその上を見せてくれた。
その剣を――ぶつけられる相手がまだいない。
あの日交わした、たった一つの約束。
――『TUBAMEを倒せ』。
その特別討伐指定個体の手がかりすら、まだ掴めていない。だからこそ、今日もまたベリルはワイバーンを狩ろうと、今日もダンジョンアタックをしようと考えていた。
換金された金貨を布袋に押し込むと、彼は黙ってギルドをあとにした。その背には、乾ききらぬワイバーンの血で染まった上着。そして、腰に携えた一本のロングソード――この一年で最も「手に馴染んだ」剣だった。
―――
ある日の昼下がり。ベリルは、モンスター退治を切り上げて食事をとっていた。腹が減っては戦ができぬというように、食事は強くなるうえで大事なのだ。と言っても、簡単に食べられるハムとレタスを挟んだだけのサンドイッチを三個ほど食べているだけなのだが‥‥
「そこなお主」
ベリルがサンドイッチを選んだのは、栄養バランスと手軽さを兼ねているからだ。
「お主。おい待たぬか」
その時間が惜しいのだ。無論、美味しいものを食べることが嫌いなわけではないのでちゃんとした食事は週に一回は食べるようにしている。自分に対するご褒美と言ってもいいだろう。
「無視するでないわッ!!」
「うわあ!?」
背後から声をかけられベリルは、サンドイッチを飲み込みながら振り返る。
「なんだよ、子供。迷子か?」
そこに立っていたのは、せいぜい十歳前後の少女。腰まで届く金髪を揺らし、太ももや肩を大胆に露出させた、短めのローブ姿。周囲の視線をまるで気にしていない様子からも、ただ者ではない雰囲気が漂っていた。
「迷子ではないわ! まったく、最近の若いもんは礼儀がなっておらん」
少女――否、少女の姿をした何かは、むすっとした顔で胸を張ると、ベリルに向き直った。
「お主、ベリル・ガーデナントという冒険者を知っておるか?」
「……俺だけど?」
そう言って、自分を指差す。
少女の顔に、一瞬ぽかんとした表情が浮かんだ。
「ほう……思ったより、若いのう。いや、童顔という意味ではなくてだな」
何かをごにょごにょと呟いたあと、少女はふっと表情を切り替える。
「わしの名はルーシー・ダイアモンド。レベリス王国魔法師団の団長を務めておる」
そう名乗った彼女の顔には、年齢不詳の好奇心が浮かんでいた。
「お主の『増える剣技』、ぜひともこの目で見せてもらえぬか?」
少年ベリルが、プラチナランクになったのはワイバーン狩りのせいです。
冒険者が評価される基準(片田舎のおっさん、剣聖になる外伝竜双剣の軌跡より抜粋)
・社会貢献の高さ→剣キチになっても中身はベリル
・珍しい素材の採取→ワイバーンの鱗など
・凶悪な魔物の討伐→ワ イ バ ー ン 1 0 0 体 斬 り