片田舎の剣聖、TUBAMEを斬る。 作:you are not
※一部加筆修正しました。
静かな朝だった。
ベリルは、いつものようにモンスターをニ、三匹狩ってから、冒険者ギルドに顔を出す。
「さて……何かあるかな」
ギルドで適当に依頼をこなそうかと、掲示板を眺めていると不意に受付嬢からそう声をかけられた。
「ベリルさん。貴方に指名依頼が来ております。」
「俺に?」
思わず聞き返してしまった。
基本的に、自分に回されるのは誰でも受けられるような依頼のはずで、『指名』なんて、まずないことだ。
「誰からなんだ?」
たしかに、自分はプラチナムランクだ。実力もそれなりに認められている。
小規模とはいえ、ダンジョンの攻略経験もある。だが――それだけで、名指しされるほどの存在だとは思っていない。
受付嬢は書類をめくりながら、淡々と答えた。
「魔法師団長ルーシー・ダイアモンド様からです。」
「は?」
言葉を失った。昨日、戦ったあの女。首筋を斬り落とす寸前だった、あの魔導師。まさか、そんな相手から『依頼』が来るとは――
―――
「おー、待ちくたびれておったぞ!」
バルトレーン南城門の前。
朝靄がまだうっすらと残るその場所で、ルーシー・ダイアモンドは実に気軽そうに手を振っていた。
その後ろには、魔導師らしきローブ姿の面々が数人。それぞれの顔には疲労と緊張の色が混じり、馬車に荷物を積み込む手つきもどこかぎこちない。
「……なんだ。団長自ら先頭かよ」
ベリルは眉をひそめながらも歩み寄る。それに対し、ルーシーはあっけらかんとした笑みを浮かべていた。
「当たり前じゃ。お主に依頼したのは、このわしじゃからな。出迎えくらいせんと、筋が通らぬじゃろう?」
「まあ……そうかもな」
ベリルは半ば呆れながらも、その『筋の通し方』には妙に納得していた。
「で、案内役って話だったが……。なんで魔導師団が、俺がよく潜ってるダンジョンなんかに?」
「ふふ、それはのお……まあ、道すがら話すとしよう。そうじゃろ?」
はぐらかすように笑いながら、ルーシーはひらりと馬車へ乗り込む。その後に続くようにと、軽く手招きした。
「はぁ‥‥」
ベリルは溜息をひとつ吐いた後、魔導師たちの視線を軽く受け流しながら、無言で馬車に乗り込んだ。
その背には、かつて幾度となく潜った『南の山岳ダンジョン』が、今や別の意味で不穏な影を落としていた。
ゴトゴトと、車輪の振動が身体を揺らす。
馬車の中にはベリルとルーシー二人だけだった。明らかな作為をベリルは感じざるを得なかった。
「ベリル、ひとつだけ言っておきたいことがある」
「ん?」
ベリルが眉をひそめると、ルーシーは小さく息を吐いた。
「昨日の――いや、初対面の時のことじゃ。わし、喧嘩腰だったろう? あれは……すまなかった。お主が悪かったわけでもないのに、つい」
「……ああ、そのことか」
ベリルは、すっと目を伏せたあと、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「気にしてない。こっちも殺る気だったしな」
「ふむ……ま、わしもな」
ルーシーが照れ隠しのように鼻を鳴らす。
「けど、正直……殺り合えて良かったと思ってる。」
「お主も、好きものよな」
ふたりの視線が、数秒だけ重なった。
「まあ、謝られたところで、俺としては気まずくなるだけだ。ああいうのは、忘れてくれた方が楽だよ」
「……そうか」
少しだけ肩を落としたルーシーだったが、それでもどこか安堵したように、目を細めて微笑んだ。
「なら、これで清算じゃな。過去に囚われるほど、わしらヒマじゃないしの」
「そういうことだ」
車輪の音が再び、木々に吸い込まれていく中、馬車はゆっくりと進み続ける。
「――それはそれとして、面白いものが見れた。」
「俺の剣を面白いって‥‥」
ベリルは、眉をひそめる。ルーシーは口元を緩めた。
「そうであろう。そうであろうよ、魔法とは異なる理で、世界を越えて、斬撃を『増やす』など、会得するのは並大抵のことではないじゃろう。現にわしすら真似できぬ」
彼女は呟くように、しかし確信を持って言った。
「だからこそ、思ったのじゃ。何がお主をそこまで駆り立てるのか」
「別に……ただ、倒さなきゃいけない相手がいるんだ」
その言葉に、ルーシーはすぐさま食いついた。
「ほぉ?」
瞳が細くなる。静かに、けれど鋭く、ベリルの胸奥を探るような声音が続く。
「なるほど。倒すべき相手……聞けばお主、あのダンジョンへ足繁く通っているそうじゃの?」
「それがどうした?」
「なに、そこにお主が夢中になる『敵』がいるのだろうと思ったまでじゃ。しかも、特別討伐指定個体じゃな? あのダンジョンにはワイバーンしか生息しておらん。そして、ワイバーンの中で特別討伐指定を受けておる個体など――『スワロー』、ただ一匹のみ」
沈黙が落ちる。ベリルはふっと目を細めると、無造作に言った。
「……ああ、TUBAMEって、そんな名前だったのか」
その一言に、ルーシーの肩が小さく揺れる。
「……ベリルお主、まさか、名も知らずに戦い続けておったのか」
笑うような、呆れるような、けれどどこか――嬉しそうな声だった。
やっと、TUBAMEについて触れられたよ。あと、アンケートとります。