片田舎の剣聖、TUBAMEを斬る。   作:you are not

8 / 22
順調に評価が増えて行って嬉しい毎日。

※一部加筆修正しました。



TUBAMEの名

 

 静かな朝だった。

 

ベリルは、いつものようにモンスターをニ、三匹狩ってから、冒険者ギルドに顔を出す。

 

「さて……何かあるかな」

ギルドで適当に依頼をこなそうかと、掲示板を眺めていると不意に受付嬢からそう声をかけられた。

 

「ベリルさん。貴方に指名依頼が来ております。」

 

「俺に?」

 

思わず聞き返してしまった。

基本的に、自分に回されるのは誰でも受けられるような依頼のはずで、『指名』なんて、まずないことだ。

 

「誰からなんだ?」

たしかに、自分はプラチナムランクだ。実力もそれなりに認められている。

 小規模とはいえ、ダンジョンの攻略経験もある。だが――それだけで、名指しされるほどの存在だとは思っていない。

 

受付嬢は書類をめくりながら、淡々と答えた。

「魔法師団長ルーシー・ダイアモンド様からです。」

 

「は?」

言葉を失った。昨日、戦ったあの女。首筋を斬り落とす寸前だった、あの魔導師。まさか、そんな相手から『依頼』が来るとは――

 

 

―――

 

 

「おー、待ちくたびれておったぞ!」

バルトレーン南城門の前。

朝靄がまだうっすらと残るその場所で、ルーシー・ダイアモンドは実に気軽そうに手を振っていた。

 

その後ろには、魔導師らしきローブ姿の面々が数人。それぞれの顔には疲労と緊張の色が混じり、馬車に荷物を積み込む手つきもどこかぎこちない。

 

「……なんだ。団長自ら先頭かよ」

ベリルは眉をひそめながらも歩み寄る。それに対し、ルーシーはあっけらかんとした笑みを浮かべていた。

 

「当たり前じゃ。お主に依頼したのは、このわしじゃからな。出迎えくらいせんと、筋が通らぬじゃろう?」

「まあ……そうかもな」

ベリルは半ば呆れながらも、その『筋の通し方』には妙に納得していた。

 

「で、案内役って話だったが……。なんで魔導師団が、俺がよく潜ってるダンジョンなんかに?」

「ふふ、それはのお……まあ、道すがら話すとしよう。そうじゃろ?」

はぐらかすように笑いながら、ルーシーはひらりと馬車へ乗り込む。その後に続くようにと、軽く手招きした。

「はぁ‥‥」

ベリルは溜息をひとつ吐いた後、魔導師たちの視線を軽く受け流しながら、無言で馬車に乗り込んだ。

 

その背には、かつて幾度となく潜った『南の山岳ダンジョン』が、今や別の意味で不穏な影を落としていた。

 

ゴトゴトと、車輪の振動が身体を揺らす。

 

馬車の中にはベリルとルーシー二人だけだった。明らかな作為をベリルは感じざるを得なかった。

 

「ベリル、ひとつだけ言っておきたいことがある」

「ん?」

ベリルが眉をひそめると、ルーシーは小さく息を吐いた。

 

「昨日の――いや、初対面の時のことじゃ。わし、喧嘩腰だったろう? あれは……すまなかった。お主が悪かったわけでもないのに、つい」

「……ああ、そのことか」

 

ベリルは、すっと目を伏せたあと、口元にわずかな笑みを浮かべた。

「気にしてない。こっちも殺る気だったしな」

「ふむ……ま、わしもな」

ルーシーが照れ隠しのように鼻を鳴らす。

 

「けど、正直……殺り合えて良かったと思ってる。」

「お主も、好きものよな」

ふたりの視線が、数秒だけ重なった。

 

「まあ、謝られたところで、俺としては気まずくなるだけだ。ああいうのは、忘れてくれた方が楽だよ」

「……そうか」

少しだけ肩を落としたルーシーだったが、それでもどこか安堵したように、目を細めて微笑んだ。

 

「なら、これで清算じゃな。過去に囚われるほど、わしらヒマじゃないしの」

「そういうことだ」

車輪の音が再び、木々に吸い込まれていく中、馬車はゆっくりと進み続ける。

 

「――それはそれとして、面白いものが見れた。」

「俺の剣を面白いって‥‥」

ベリルは、眉をひそめる。ルーシーは口元を緩めた。

 

「そうであろう。そうであろうよ、魔法とは異なる理で、世界を越えて、斬撃を『増やす』など、会得するのは並大抵のことではないじゃろう。現にわしすら真似できぬ」

彼女は呟くように、しかし確信を持って言った。

 

「だからこそ、思ったのじゃ。何がお主をそこまで駆り立てるのか」

「別に……ただ、倒さなきゃいけない相手がいるんだ」

その言葉に、ルーシーはすぐさま食いついた。

「ほぉ?」

瞳が細くなる。静かに、けれど鋭く、ベリルの胸奥を探るような声音が続く。

 

「なるほど。倒すべき相手……聞けばお主、あのダンジョンへ足繁く通っているそうじゃの?」

「それがどうした?」

「なに、そこにお主が夢中になる『敵』がいるのだろうと思ったまでじゃ。しかも、特別討伐指定個体じゃな? あのダンジョンにはワイバーンしか生息しておらん。そして、ワイバーンの中で特別討伐指定を受けておる個体など――『スワロー』、ただ一匹のみ」

 

沈黙が落ちる。ベリルはふっと目を細めると、無造作に言った。

「……ああ、TUBAMEって、そんな名前だったのか」

その一言に、ルーシーの肩が小さく揺れる。

「……ベリルお主、まさか、名も知らずに戦い続けておったのか」

笑うような、呆れるような、けれどどこか――嬉しそうな声だった。




やっと、TUBAMEについて触れられたよ。あと、アンケートとります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。