片田舎の剣聖、TUBAMEを斬る。 作:you are not
読んでくれてありがとう‥‥それしか言う言葉が見つからない‥‥
あと、アンケートはルーシーヒロインに決定ですね。一応、今週までは投票可能にしておきます。
霧のような湿気が、南の山岳地帯の空気にまとわりつく。
足場の悪い岩肌を踏みしめながら、ベリルは先頭を歩いていた。背後にはルーシーを含む魔法師団の選抜メンバー。いずれも寡黙だが、ただならぬ緊張感が背中から伝わってくる。
「‥‥この辺りは霧が深くて、見通しが悪い。いきなり襲撃されることもあるから気を付けて欲しい」
振り返りもせずにベリルが告げると、後方から軽い声が返る。
「頼もしいのう。伊達にこのダンジョンを何度も潜っておらんというわけじゃな」
それは誰でもない、ルーシーだった。だが彼女の声も、どこか引き締まっていた。遊びではないのだと、周囲に伝えるように。
ベリルは、先ほどの馬車の中の会話を思い出す。かつて師匠が追い求め、倒せなかった相手、ツバメがこのダンジョンにいると前々から睨んでいた。だが、ルーシーがそれを明言したことで、ベリルのやる気は過去最高潮に達していた。同時に、ベリルの冷静な部分が声を上げる。
「なぁ、ルーシー。一つ聞いてもいいか?」
「なんじゃ?」
「なんでわざわざ魔法師団が、このダンジョンを調査するんだ?」
その問いに、ルーシーは一拍の沈黙を置いてから答えた。
「簡単な話じゃ。件の『スワロー』とやらに、ブラックランクの冒険者が何人も返り討ちにあったそうで、それを不審に思うたレベリス騎士団の団長すら、深手を負って戻ってきた」
その言葉に、ベリルは驚愕する。ブラックランク冒険者やレベリス騎士団の団長などといった、名だたる実力者ですら勝てないとは‥‥いや、だからどうした俺は戦わなくちゃいけない。
「それで?」
「うむ、その事実に王国はただ事ではないと判断したようでの、わしら魔法師団、副団長率いるレベリス騎士団、そして実力のある冒険者、それらすべてを動員して、『スワロー』討伐作戦を決行する運びとなった。今回の調査はその作戦の前段階というわけじゃ」
そんなもの、まさしく王国の戦力の全投入のようなものだ。そんな作戦が水面下で動いていたとは。
「何度も入り浸ってる俺が言うのもなんだが、よく立ち入りが禁じられなかったな?」
「そもそもこの辺り、誰かが管理しておるわけでもないからのう。下手に封鎖すれば、今度はモンスターが山を越えて、バルトレーンにまで流れてしまうやもしれん。まぁ、幸いにも、どこかの誰かがモンスターをある程度減らしてくれているようじゃがな」
「ただの鍛錬なんだけどな」
ベリルは、頭をかきながらぼやく。
「そんな鍛錬をするもの、お主以外おらんじゃろうよ」
―――
険しい岩場をさらに進むことしばし、魔法師団の若い団員がふと足を止めた。
「……団長。こちらを」
腰を屈めて、何かを拾い上げるような仕草。すぐにルーシーが近づき、それを手に取る。掌に収まるのは、掌サイズの黒く硬い鱗――明らかに、他のワイバーンの赤い鱗とは異質だった。
「ほう……これは」
ルーシーの表情が一変する。真剣さが増し、瞳が鋭く細められた。
「ふむ……間違いない、報告通りならば、これはスワローの鱗じゃな。通常の個体なら赤い鱗じゃが、こやつは黒。おそらく代謝で剥がれ落ちた皮の一部じゃろう。」
「鱗があるってことは、近くにいる可能性があるな」
「十分にあり得るじゃろうな。」
ベリルの言葉にルーシーは肯定する。
そのとき――
突如、空気がひときわ重くなった。
風の音が消え、岩陰から、黒い影が滑るように姿を現す。
「あそこにいる……!」
誰かが指さす先――岩山の尾根の上、黒き影が静かに動き出す。その輪郭は、獣のようでありながら、禍々しい威容を纏っていた。漆黒の鱗、無数の傷跡、そして赤い頭部がこちらを一瞥することなく、空を駆けていく。
その場にいた皆が、その存在感に圧倒され、呆然と空を見上げる。ただ一人、ベリルの体が、意識に先んじて動いていた。見えた瞬間、地を蹴っていた。
――あれは、間違いない。TUBAMEだ!
だが、突如として目の前にワイバーンが現れる。まるで、王を守る近衛兵のように。
「敵襲じゃ!!」
ルーシーの一言に、凍り付いていた魔法師団の団員達は一斉に魔法を放つ体勢に入る。ベリルは、空を舞うスワローと、眼前に立ち塞がるワイバーンたちを一瞬のうちに見比べた。
(――追える、いや、護衛……)
僅かに歯噛みして、刀を抜く。
「くそっ……今はこっちだ!」
ベリルが決断した時には、スワローは深い山中へと消えていった。