ーー夜桜家…それは裏社会において最強のスパイ一家である。
そこには8人の兄弟が存在する
毒、医術、薬学のスペシャリストの四男、夜桜七悪
夜桜家10代目当主である四女、夜桜六美
変装の達人で自由人な三男、夜桜嫌五
機密情報をも盗み出す凄腕プログラマーの三女、夜桜四怨
どんな武器でも自在に扱う次男、夜桜辛三
近接格闘最強で合気の使い手である次女、夜桜二刃
実力、知力ともに最強であり最凶の長男、夜桜凶一郎
そして…
最速で最強のスパイの長女、夜桜初
朝野太陽は混乱していた。昼休みに六美としゃべっていたら昼川教頭先生に呼び出され、六美への愛を語り始めたと思うと、ナイフを突きつけられて脅され、恐怖していたところに女性の声が聞こえて気を失い、気づいたら六美と知らない人達に囲まれていた。
「おはよう太陽。無事でよかった」
六美が普段の様子でそう話かけてくる。
あまりの唐突さに驚きが止まらない。
「紹介するね。私たちの兄弟よ、長男以外のね。あと、犬のゴリアテ」
そこから始まる六美の家がスパイ一家だというカミングアウト。そして六美が夜桜家10代目当主であり、長男の妹への行き過ぎた愛ゆえに、太陽を始末しようとしていること…そして確実に生き延びるには六美と桜の指輪を交換し、結婚しなければならないということ…
突如そばに置いてあるライトが点滅する。
「おっと噂をすればだね。たった今凶一郎がこの家に帰ってきた。あんたにとどめを刺すつもりだろうね」
白いゴスロリの服に身を包んだ少女、二刃が言う。
「話し合いの通じないアイツを止めるには力ずくしかない。ここで奴を迎え撃ってボコボコにするよ」
「最も、勝算は低いけどね。初姉さんがいたら楽だったんだけど」
ピンクがかった紫色のショートボブヘアーで気だるそうな雰囲気の女性、四怨がそう言う。
「しかし、そうと決まったら長男ボコボコにするぞー」
「「「「「「おーーー」」」」」
刹那
「ふーん。誰をボコボコにするってー?」
そこにはいるはずのない凶一郎がソファに座ってジュースを飲んでいた。
「一度だけ忠告するよ凶一郎。あの二人から手を引きな」
「やだね。そいつが無害である保証はないし、六美のためにも疑わしきは罰するのが俺のやり方だ」
机に立ちながらそう忠告する二刃など意に介さずに、ジュースを飲む凶一郎。
「文句あるなら夜桜らしく力ずくで・・・」
「そうさせてもらうよ。さぁ、兄妹喧嘩の時間だ」
そうして二刃がネクタイをもって凶一郎叩きつけたのが兄弟喧嘩の始まりだった。
しかし、ほかの兄弟の抵抗もむなしく、残ったのは六美のみ。
「お兄ちゃん・・・もうやめて・・・!」
六美がナイフを構える
「フゥ、わかった、彼に手を出すのはやめよう」
「・・・・・・!お兄ちゃ━━━━━━」
「そしてお前を家から出すのもやめよう」
そこから溢れるのは六美への狂気的な愛。
「外に出るから変な虫がつく。これじゃお兄ちゃん失格だ。これからはもっともっとちゃんとお兄ちゃんがお前を守ってやる」
「お兄ちゃん・・・!?」
「危ないから外には出なくていいし、ネットも危ないからスマホもいらないな。いっそお前を危険に晒す可能性のあるものは全てなくそう。学校も友達も遊びも恋愛も全てなくそう。余計なものを全て排除した安全で平和な家族の団欒・・・ああ、想像しただけで心が躍るな。お前を失いかけたあの日、この子を守るためならどんな痛みを受け入れると誓った」
そう言って凶一郎は自分からナイフを刺す。
「愛しいお前を守れるなら、俺は命もいらないよ。さあ六美、彼のことは忘れて二人で平和に暮らそう」
「・・・うん・・・っ。わかったよ、お兄ちゃん・・・」
「六美を放せ」
突如覚悟を決めた表情で太陽が隠し部屋からでてくる。
「太陽!?出てきちゃ・・・」
「お前にもう用はない。家族のことに首を突っ込まないでくれ」
「六美、姉さんが言ってた俺とお前を守る方法、やらせてくれ」
「・・・・・・でも・・・」
「俺は大丈夫だ。いなくならないって、お前が約束してくれたから」
「うん・・・!」
六美が指輪を外して太陽に向かって投げる。しかし太陽が前に駆け出し手を伸ばし掴み取る直前、太陽の体と指輪が止まった。
「惜しかったな。二刃め余計な入れ知恵を。だが万が一にもそんなことさせるワケには・・・」
しかし太陽はあきらめない。強引に指輪へ手を伸ばす。手が血だらけになるが,そんなの関係ないとばかりにつかみ取る。
「!?」
「俺がお前を・・・守るんだ!!」
「必ずあんたから六美を守って見せる・・・!よろしくな、凶一郎義兄さん・・・!」
「・・・馬鹿な・・・ッ」
初めて見せる凶一郎の動揺した表情。
そこへほかの兄弟たちがやってくる。指輪を勝ち取った太陽にみんな感心している。
その瞬間この場の誰でもない声がする。
「やるじゃないか、六美のお婿さん。凶一郎を出し抜くとは」
「初姉さん!?海外での任務じゃなかったの?」
顔にバケツを被り、白衣を着た巨大な体の七悪がそう驚く。
「思ったより早く終わってね。それよりも君が太陽君か。私はこの夜桜家の長女、夜桜初だ。よろしく」
高くも低くもない身長で輝くような銀髪を肩まで伸ばし、全てを圧倒するようなオーラを放つ、夜桜初。
「姉さん、帰ってきていたのか。そんなことより、こんな奴が六美の夫なんて...」
凶一郎がこの世の終わりのような顔をする。
それを見て初は笑う。
「フフッ…素直じゃないね、凶一郎」
二刃が凶一郎の背を叩く。
「残念だったね凶一郎。だが落ち込んでいる暇はないよ。あの子たちに教えてあげなきゃね。六美を守る、その本当の意味について」
凶一郎は段々と燃え尽きた灰のようになる。
「さぁ、忙しくなるね…」