あれからしばらくっがたった。太陽もいい加減この家に慣れてきたようだ。
すでに一般人ではありえないようなスキルが身についている。順調で何より――いや、驚異的と言ってもいいかもしれない。
私は五感が鋭い、さらに空間把握能力も高いし、殺気も敏感に感じられる。
まあ、何が言いたいのかというと、今この家で何が起きているかをすべて察知することができるのだ。
今、太陽が何をしているのかと、意識を太陽の部屋へと向けると「週刊スパイ」のバックナンバーで勉強をしているようだ。ベッドの上には雑誌が散乱し、黙々とページをめくる気配。ふむふむ、真面目だな。そこに、彼の声が小さく聞こえてくる。
「『潜入にぴったりお弁当レシピ50戦』『毒草も作れるガーデニング特集』なんかこうゆるいんだよなぁ・・・」
そんな一言にくすりと笑う。太陽も裏社会に慣れてきたのかなと感じながら、見守り続ける。
その時、太陽の部屋に近づく人の気配を察知する。兄弟たちではない。
(屋敷のセキュリティが作動してない?四怨が突破されるとも考えられないが、とにかく行くしかないか・・・)
一瞬で太陽の部屋に移動すると、今まさに太陽を襲おうとしている人物にナイフを突きつける。
本気で突きつけるわけではない、相手を殺すことが目的ではない。とはいっても、そこそこの速度で動いたのにも関わらず、相手は軽やかによける。
(なかなかやるな・・・!!こいつはッ)
ここで相手が何者かを認識する。
こいつは「運び屋」花輪、人も運ぶ運送サービス「フラワー便」がクチコミ一位のプロのスパイ。
運び屋ということはつまり、だれかから依頼を受けて襲撃したのだろう。
ここで太陽が初めて襲撃者に気づく。
「えっ・・・なに、誰?っていうかなぜ初姉さんがここに?」
太陽の方へ振り向くと、太陽が何かを思い出したような表情をする。
おそらく「週刊スパイに」花輪がのっていることを思い出したのだろう。
相手に向き直り、尋ねる。
「目的はなんだ?太陽か?それとも・・・六美か?」
「さすが夜桜家長女、夜桜初。ご名答だ。私たちの目的は夜桜当主だよ」
驚いたように花輪が答える。
「依頼主は?」
「さすがにそこまで口は軽くないさ」
まぁ、期待はしていなかった。
「なぜ屋敷のセキュリティが作動しない?」
ここで気になっていたことを聞く。
「先日、そちらの学校に送り込んだ先生が孤立させた指輪から、セキュリティ情報を事前に盗んでいたんだ」
「なるほどな、そんなことがあったとは」
「ッ・・・まさか堅井先生は・・・!?」
「いや、その先生はたぶん一般人だろう。業界の人間だと警戒されるし、必ず足も付く」
私はそう答える。
聞きたいことは聞けた。ここからが本番だ。
「最初に聞いたときは驚いたよ。まさか一般人が夜桜に嫁ぐとは。だが、タンポポはどこまで行ってもタンポポだ。ヒマワリほど大きくはなれないしユリのように香り高くもなれない。たとえ最良の土と肥料を与えられたとしても。現に今も君はそこの長女が守ってくれるまで私に気づかなかった。果たして、君という種は夜桜という大樹に見合う花をさかせられるのか?」
花輪の言葉に太陽は押し黙る。どことなく暗い顔をしているようにも感じる。
「部外者は黙ってもらおうか」
私は静かに告げる。
「太陽はもう夜桜家の家族だし、わたしの大切な
雰囲気を感じとったのか、花輪がハサミを取り出し構えをとる。園芸用だろうか、なかなか殺傷性の高そうな武器だ。
だが、関係ない。
私が一瞬で間合いを詰める。反応する隙も与えない、速攻で終わらせる。
勢いそのままにハサミを持った手に回し蹴りを入れる。花輪はハサミを手放し、体勢を崩して、手放したハサミは矢のように飛んで行って壁に突き刺さる。これで終わりではない。そのまま追撃を行う。体勢を崩した花輪の首元をもって床にたたきつけ、これ以上何もできないよう首元にナイフを突きつける。
「クッ・・・!」
おそらく花輪は何をされたのかも理解していないだろう。
「さすがは最速のスパイと言われているだけはある。やれやれ、対化物用のサービスまではサービスがなくてな」
ようやく理解が追いついたのか、苦まぎれににそんなことを言う。
だが、花輪の目には絶望もあきらめも見られない。
そのとき、外からヘリの音が聞こえてくる。一台ではない何台ものヘリがこちらへ向かってきている。
「チッ、めんどくさい」
私はそう溢す。
ヘリ小隊を相手することはそこまで大変ではない。しかし、太陽を守りながらというと少し厳しい。私のバトルスタイルは速さで圧倒するというものなので、誰かを守りながらだったり、広範囲の破壊だったり制圧だったりがあまり得意ではない。「開花」を使えば話は別だが、それを今ここで使うつもりはない。そして、今ここで一番優先されることは、太陽を敵に奪われないことだ。おそらく花輪は太陽を誘拐し、六美と交換するつもりなのだろう。幸い、ヘリの目的は太陽を力づくで拉致することではなく、花輪を救出することのようだ。今手を出しても徳はないとかいう結論に達し、太陽に意識を向けるのみに留める。
「やはり夜桜は化物だらけだな。割に合わない」
そういって花輪は去っていく。
「すいません初姉さん。俺のせいで迷惑をかけてもらって」
太陽がそうすまなそうに謝ってくる。
「気にすることはない。別に太陽いなくてもあいつらは六美に手を出していたよ。とにかく家族全員に今のことを話さないと」
夜、家族に今日の出来事を話す。
みんなそんなことがあったことに驚き、凶一郎に至っては六美が狙われていたということを知って激怒している。
「これから家族全員で『運び屋』花輪を壊滅させる。夜桜に手を出して黙っているわけには行かない。そして太陽」
凶一郎が太陽の方向を向く。
「お前は俺についてこい。ここでより六美にふさわしい男に生まれ変わるんだ。お前の成長速度は予想以上だがまだまだ三流以下、一流を知るにはその心と体に直接刻み込むのが一番早い。覚悟はできているか?」
おそらく太陽は花輪に言われたことが引っかかっているのだろう。それでも、覚悟を決めた表情で答える
「よろしくお願いします。凶一郎義兄さん・・・!」
凶一郎が、口角を少しだけ上げた。
花輪にはうちに手を出したことを後悔させなければ。
そう、強く思いながら、私たちは花輪の拠点へ向かう。