花輪が侵入してきた事件から数日、私たち兄弟はそれぞれ各地に点在する花輪の拠点にやって来ていた。六美に万が一があってはならないと、二刃は屋敷で彼女と共に待機。太陽と凶一郎は太陽の鍛錬のためにいっしょにに行動するようだ。
そして私はというと、現在花輪の拠点の前まで来ていた。この拠点は主に空輸のための拠点となっており、上空ではひっきりなしにヘリや飛行機が飛び回り、貨物搬出入のオペレーションが黙々と進んでいる。。
ちなみに、ここに私が選ばれたのには理由がある。四怨があらかじめ花輪のシステムに侵入し、情報を集めていたのだが、私が担当するこの拠点に核ミサイルが運ばれていることが分かったのだ。「赤ん坊から核ミサイルまで」まさに闇社会の血と心臓である。ゆえに、危険度が一番高いためここに私が派遣された。
そんなこんなでここにいるのだが、
「さぁ、どうするか・・・」
とはいえ前も言ったとおり、私は広範囲の殲滅、制圧が得意ではない。さらに、中には核ミサイルもあるのだ、下手に刺激して爆発させれば悲惨なことになってしまう。とりあえず、、核ミサイルを無力化しなければめんどくさいことになるだろう。
ここで今一度四怨から事前にもらった拠点の詳細を見る。
拠点の設計図には、地下に厳重に格納された「特別貨物エリア」が示されていた。四怨の解析によれば、そこに問題の核ミサイルが保管されているらしい。
その周囲には監視用のドローン、熱感知センサー、音響センサー、そして「侵入者用殺傷ユニット」が設置されている。まさに要塞。
(……やれやれ、さすが“運び屋”ってところか。『商品』の管理もばっちしだ。)
しかしここであることに気づく、殺傷性の高いセキュリティなのだがその中には商品を守るためだろうか、大多数を想定した大規模な攻撃を行えるものが少なく、流通影響を考えて各ブロックごとに独立してセキュリティサーバーがあることが分かった。つまり、どこかで暴れてもその隣のブロックのセキュリティは作動しないのだ。
この仕様を利用してここを攻めようと考える。その攻め方とは単純、一ブロックごとつぶしていくのだ。一ブロックの殲滅なら造作ないことである。むしろ私の武器である「速度」を生かせる。
そうと決まれば早速実行する。
地面を軽く蹴り、一瞬で拠点の入り口に到達する。門の両脇にいるか見張りの背後に一瞬で回り、両者の首筋にナイフの柄を当てて気絶させる。誰にも気づかれず、誰にも知らせず。
扉のロックを破り、施設内部へと潜入する。中は無機質なコンクリートとスチールで組まれた典型的な兵器運搬拠点だ。貨物用レールの上を無人トロッコが時折ゴウンと音を立てて通り過ぎる。
熱感知センサー、監視カメラ、ドローンの巡回――どれも悪くはないが、私を止めるには足りない。
私はで滑り込むように移動し、あらかじめ四怨から送られていた各ブロックの中枢セキュリティサーバーを探し出す。
(あれか)
壁面パネルの裏、冷却ユニットの奥。電子錠を解除し、基板へアクセス。四怨のプログラムを注入すれば――
《セキュリティ制圧完了》
(これでこのブロックの監視は全停止。あとは――)
ブロックの中央にいる武装兵たちに向かって跳び込む。
「誰だ――」
その声が終わる前に、私は5人の喉を斬り、2人の銃を弾き、1人の足元を蹴り砕く。
1秒もかからない。
一撃必殺ではない。全て急所を外している。目的は“殺すこと”ではなく“無力化”。
(……次)
私は即座に次のブロックへ移動する。
道中、巡回ドローンが2体、天井をなめるように監視していた。だが私は照明の死角、影と影の間を滑るように抜け、感知されることなく進んでいく。
途中、通路を塞ぐように現れたのは自律型兵器ユニット。二足歩行で、金属の手に火器と刃を備えている。
(……さすがに面倒くさいな)
私はジャケットの裏から、辛三特製の特殊電磁ナイフを取り出す。
ボタンを押せば刃の側面に電気パルスが走り、機械への干渉が可能になる。
そのまま跳躍し、ナイフの刃がユニットの首元をかすめ、制御中枢を断ち切る。火花が散り、ユニットはバタンと崩れた。
こうして次のブロックの制圧を完了する。
その後も同じ手順で次々とブロックを制圧していく。私の体は、初速からトップスピードへ一瞬で到達し、次の瞬間には静寂の中にいる。まるで一陣の風のように。
そして、地下にある「特別貨物エリア」に到達する。
核ミサイルのある部屋には防衛システムが設置されていないようだが、その部屋の周りは分厚い壁でおおわれており、見張りやドローンなども大量に飛んでいる。
(まぁ、この程度なんの障害にもならない)
これまでと同じように、鮮やかに敵を倒しいていく。こうして数十秒もたたないうちに全滅させた私は厚い壁を向井見る。そして、目にもとまらぬ速さでナイフを一閃すると、まるで豆腐のように壁は切り取られ人一人分ほどの穴が出来上がる。その穴をくぐって、部屋の内部に入ると中央には巨大な銀色の核ミサイル鎮座していた。
緊張の糸が張り詰める中、ポケットから着信の音が鳴る。スマホを取り出し要件を確認する。
(・・・来たか)
どうやら待ち望んだ人物が到着したようだった。私は部屋の天井に向けてナイフを構えると、そのまま天井を切り裂き地上に出る。
そこには慣れ親しんだ顔がいた。
黒のショートヘアにスーツ姿、かけた眼鏡の奥には冷たい瞳に知性の光。
「急に呼び出したと思えばなに?・・・核ミサイルの処理をしろだなんて。公安は便利屋やじゃないんだぞ」
あった途端に文句を言うのは私の中学からの親友、千英だった。
「それに、『花輪』を壊滅させたっていうのは本当?夜桜に誘拐を仕掛けるやつも馬鹿だけど、少し世界があれそうだ」
千英はとてもダルそうだ。けど要望は聞いてくれたようで、後ろからぞろぞろと公安の人員がやってくる。彼女は仏頂面のまま、後ろから続く公安部隊に合図を送る。
「いつもすまないな。今度ご飯おごってあげるから」
「甘いもんでよろしく。でっかいパフェとか」
ちなみに千英は無類の甘党だ。
「じゃあ、あとはよろしく」
あとは公安にまかせてこの場を去る。
彼女らならうまくやってくれるだろう。
私は小さくつぶやく
「ミッション完了」
だが頭の片隅には、ぬぐえぬ疑問が残っている。
ーー花輪の依頼主が誰なのか
そんなことを考えながら帰路につく。