TS魔法少女、悪友チャラ男ニ雌落チス 作:ラッダイト
両親が「強そうだから」と名付けたクソみたいなDQNネームにより、親ガチャハズレから始める底辺生活が約束されたものと思われた。
しかし禍福はあざなえる縄がごとし。
戦車が五歳のころ、クソみたいなダブル不倫の果てに低偏差値の両親は離婚し、彼は比較的まともで裕福な母方の祖父母に引き取られ育つことになったのだ。
こうして戦車はまっとうな人生を歩みなおすチャンスを得た――そう思われた。
最初のつまずきは祖父母に「それは娘がお前に与えたものなのだから」と改名を認められなかったことだった。
孫として可愛がってくれるものの、だからこそ少し頑固な彼らの説得は戦車には荷が重い。
次に日に日に実父(クソ
DQNネームの強面になれや、と世界がそう望むなら「やってやろうじゃねえか!」と抵抗をあきらめたのである。
さよなら普通の青年、こんにちはチャラ男。
かくして開き直った戦車は体を鍛え、ファッションもそちらに寄せていく。
祖父母は女を寝取ってそうな雰囲気に変わっていく孫を心配しながらも、トレーニング器具やプロテインを買い与えてくれた。
そうしてはやくも十五歳にして
その存在感ゆえに多くの場面で人から距離を取られてしまう一方で、明確な実利もまたあった。
公共の空間でときおり発生する
けれど心は満たされない。
最終的には色黒で身長百八十五センチ体重九十キロ超の細眉金髪マンバンヘアという絵にかいた竿役的風貌になる戦車だが、感性はごくごく一般的な陰キャよりなのだ。
正直むなしい。
なんだかな、だ(でも童貞は中学卒業前に捨てた)。
そんな風に内心やさぐれていた戦車に人生で三度目の転機が訪れる。
祖父母の願いと援助でなんとか滑り込んだ大学で、求めていた普通――理解ある友くんとめぐりあえたのだ。
戦車と同じく
多数の講義かぶりと名前いじりがあった同学科同学年の二人が、入学早々互いを友と認めたのはごく自然な流れだったのである。
そんな友人の名前には「世界一の顔面になってほしい」という両親の願いが込められているらしい。
そして彼はその由来を語っても笑って許されるくらいに名前負けしない美男子だった。
名は体を表すにも限度があるのでは? とタンクとあだ名されたこともある戦車は思う。
ともあれそんな戦車と世界一の組み合わせはとにかく目立った。
野獣と美人、剛と柔、マッチョとモデル体型、黒と白――そしてその正反対の性質ゆえに二人でいるとモテのコンフリクトが発生してしまう。
たとえば戦車を好む女子は世界一とはやや不釣り合いだし、世界一を好む女子はケダモノがごとき戦車を嫌悪した。
チャラ男がハートに傷を負う軽い事故はありつつ、モテの労苦も知る青年たちはこの互助関係を大いに
それこそ「あの二人付き合ってるんじゃ?」とうわさされるほどである。
無論、過去に見た目を生かして要領よく童貞を捨てている二人は異性愛者であり、噂は根も葉もないまったくの風評被害――そのはずだった。
「なぁ、ユニ」
「おう、なに」
互いをチャリ、ユニと呼び合う二人だ。向かいあっての食事は、文字通り日常茶飯事。
いまさら戦車が世界一の顔面に気後れする理由もない。
ないのだが。
「お前……趣味、変わったか?」
内心の緊張から戦車は慎重に言葉を選んで聞いた。
小さなサンドイッチにサラダと女子みたいな(偏見)食事を済ませた世界一は、ラメ入りの黒いネイルを塗った指先をもてあそんでいる。
顔に薄くメイクをしているのは以前から、左下がりのアシメなパッツン前髪も、伸ばしている長めの襟足も変わらない。
しかしピチっとしたノースリーブにタイトジーンズ、だぼだぼのカーディガンで肩出しスタイルは、出会った当初と比べなんというか女子っぽい。
「どこが? どんなふうに?」
しかし当の世界一は指先から視線を外さぬまま、不思議そうに問い返してきた。
「どこがってそりゃ……」
戦車が言いよどむ。
なにも女装しているわけではないのだ、そもそも素で女子と間違われることもある世界一のことだから問題なく似合ってはいる。
そうやって二の句が継げずにいると、長いまつ毛に縁どられた黒目勝ちの目が面白そうに細められた。
眼力勝負では負けたことがない戦車がその挑発的な視線をまっすぐに受け止めると、世界一はテーブルの上に肘をつき、組んだ両手の上に頬を乗せて笑う。
「まぁ、暑くなってきたし? 暑苦しいのもそばにいるし? そのせいじゃね」
色白の細い首がかたむくと、つややかな黒い髪がさらりとこぼれた。
同性をも魅了する(数例実証済み)その動きに、戦車はふんっと鼻息で答える。
「そーかよ」
「そーだよ……っと」
通知音が鳴り響き、世界一がスマートフォンを手に取る。
すっと画面をフリックすると、表情を真剣なものに改めて彼はリュックを手に立ち上がった。
「おい、もうすぐ三限」
次の講義がある建物とは別方向へ向かう彼を慌てて呼び止める。
しかしそれに世界一はひらひらと手を振って応じた。
「トイレ。間に合わなかったらピ逃げしといて」
「あぁん?」
ぽん、と放られた学生証を受け取って戦車の中で疑惑が深まる。
軽い気持ちでやってる連中も多い中で、世界一は不正を好まなかった。
何かがあるはずだ、その感覚に従って戦車は遠ざかっていった彼の背を追う。
もし友人が本当にトイレだったなら、ただ自分の同性愛疑惑が深まるだけ――そんな軽い気持ちでの尾行だった。
しかし、剛田戦車は不幸な男なのである。
「なんか変な音がしてねえか――!?」
宣言通りに世界一が男子トイレ――あまり人の出入りのない棟の二階、落ち着いて用を済ませたい陰キャにとってのオアシスだ――に入るところを見届けた戦車は、直後にトイレから響いてきた音に小声でそう漏らさざるを得なかった。
なんかこう変身バンクで使われるような、しかし聞き覚えはない軽快な音楽が鳴り響いている。
さらに昼でもわかるほどの強烈な青い光がトイレから廊下へ漏れており、加えて「ビシィン!」とか「ガシィン!」とか「シャラァーン!」とか言い逃れようのない効果音も聞こえてきた。
(絶対変身してるだろこれ――!!)
こらえきれず戦車は入り口から中をのぞき込む。
「「あ」」
そこにちょうど個室から出てきたフリッフリでフワッフワな白と青の衣装をまとった魔法少女(成人女性)と目が合った。
「――ちょ、なんでチャリがいんの? うわ……」
短いスカートのすそを気にしながらでっけえ乳の谷間を見せつけるその魔法少女は、戦車の親友とまったく同じ顔で、どうしようもなくメスの表情をしていた。