TS魔法少女、悪友チャラ男ニ雌落チス   作:ラッダイト

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十二手 へえデートかよ

「チャリ」

 

 講義が終了し話しかけてきた女子を適当にいなしていた剛田(ごうだ)戦車(チャリオット)は親友の声に振り返った。

 左下がりのパッツン前髪、バンドTシャツにメッシュパーカー、スリムジーンズに厚底スニーカーとややパンキッシュな服装の門倉(かどくら)世界一(ユニバース)が、ちょいちょいと人差し指で手招く。

 ふん、と戦車は鼻から息を漏らして女子をかき分けるとそちらに向かった。

 

「やっぱり――」

「できてる――」

 

 いまいち声を潜めようという努力の感じられない声には聞こえない振りをした。

 戦車が入り口に立っていると空いてるスペースにかかわらず通行止めになってしまうので廊下に出る。

 それをわかっている世界一も何も言わずについてきた。

 

「おう、どした」

「今日さ、ライブ行かない?」

 

 言って世界一は右手に持っていたチケットをひらひらと振る。

 手作り感のある、シンプルなデザインだった。

 

「当日とか急だな……」

「おれも今日知ったんだよ、ノルマ足りてないから来てくれないかって」

「ほー」

 

 チケットに書かれている会場は、戦車でも知っている老舗のライブハウスだ。

 

「ジャンルは?」

「ロックじゃない? 知らないけど」

「幅広すぎんだろ。まぁいいや、いくらだ?」

「え、いいよ。おれが誘ってるんだし」

「なんでだよ。普通に出すわ」

「――じゃチケは千円、あとワンドリ制ね」

「あいよ」

 

 尻ポケットの財布から千円札を取り出して押し付け、かわりにチケットを受け取る。三つならんだバンドらしき名前に見覚えはなかった。

 

「知り合いのバンドだよな?」

「うん、高校の先輩がベースやっててその人経由」

「へえ、……なんだよ?」

 

 じいっと湿度を感じる視線にそうたずねると世界一はゆっくりと首を横に振った。

 ただ期待するように上目遣いで()()を訴えている。

 それにうながされて続けて聞いた。

 

「――仲良いのか?」

「そこそこかな」

「なのにわざわざノルマつきあったのかよ。イジメか?」

「まぁちょっと恩があるからね。バンドやってるだけあってクズい人だけど*1

「なんだよ、恩って」

「おれに寄ってくる女子をそれとなく持って行くの上手くてさ。こっちがフラレた感じになるのだけアレだけど、結構助かったんだよね」

「あぁ、そういう……」

 

 お前も結構アレでは、と言わなかったのは戦車にも似たような経験があるからだった。

 自分たちが相手にしないことで、そういった女子に彼らがつけこむきっかけとなっていたと考えれば非難もしづらい。

 頬を指でかいていると、壁に寄りかかった世界一は脚を組みなおす。

 

「それだけ?」

「それ以上なにかあんのかよ」

「んー……」

 

 面倒くさい彼女みたいなムーブをする友人は、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「その先輩って、結局痴話げんかで刺されちゃってさ」

「お、おう?」

「そっから男の方がいいやってなったらしくて」

「流れ変わったな」

 

 それを懸念してボディガード代わりにしたいという話だろうか、それくらいならチケットを買わなければと思うが――

 

「――デカくてがっちりしたのがタイプなんだよね」

「払った金はいいから行くのやめていいか?」

「ウソウソ、大丈夫。今はちゃんと()()()()いるらしいから」

「結局人怖(ひとこわ)からジャンルが変わってねえんだよ……!」

「まーまー、別にあわなきゃいけないって話でもないし」

「ならなんで話した……!」

 

 もしかしてメス堕ち分野でも先輩なんじゃねえだろうな、と思いつつ戦車は世界一に引かれるまま歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

「ドリンク六百円でーす、ご用意おねがいしまーす」

 

 スタッフの間延びした声を聴きながら入場チケットともにドリンク料を払って引換券を受け取る。

 ぱらぱらとまばらな人の流れに乗って、薄暗いライブハウスの中に足を踏み入れると、何とも言えない匂いが鼻腔をくすぐった。

 最後方をのぞいて立ち見の段差をつけられたフロアでは、観客が思い思いの場所で開演を待っている。

 ステージ脇のスピーカーから、聞き覚えだけはある洋楽が流れていた。

 

「ドリンクどうする?」

「おれは後でいいや。そんなに混みそうにないし」

「おけ、んじゃ俺は今いっとく」

 

 もうちょっと声を落とせや、と思いつつ戦車は世界一と別れ、フロア後方のカウンターでプラコップに入ったコーラを受け取った。

 せいぜいファストフードのLサイズ程度で六百円は冷静に考えれば法外だが、実際にはチケットとは別の入場料みたいなものだ。

 いっきに三分の一を飲み干して、友人を探すと早くも声をかけられていた。

 相手は同年代の男女二人組、世界一が応じてることから見るに知人だろう。

 ならいいか、と壁際によって座り込み、ちびちびとコーラに口をつける。

 すっと周囲から人が離れてスペースが生まれた。

 快適であると同時にほのかな疎外感を覚える。

 

(そういや右衛門(うえもん)は来てねえのか?)

 

 普段ならそろそろ認識阻害の効果に頼って、適当に話しかけてきそうなものだが、と 世界一の相棒、魔法少女のサポート役である謎の白いネコ型生物を探す。

 それらしい気配は周囲になかった、いつも探せばすぐ出てくることを考えれば今日は別行動をしているのか。

 いやフロアの隅、緑の誘導灯が主張する非常口の前になにやら黒いわだかまりが――

 

「チャリ」

「ん」

 

 それの正体を確かめるより早く、親友の声に呼ばれた。

 表情にはなにやらわずかに不機嫌そうな色がある。

 

「戻ってこないとおもったら何してんの」

「いや、なんか知り合いと話してただろ」

「別に声かけてくれればいいじゃん」

「知り合いの知り合いと話すの一番ダルくねえ?」

 

 主に人間関係的な推論で。

 心からの言葉だったが、世界一が納得するほどの説得力は発揮できなかった。

 

「友達と来てるって言ったのに放置されるよりマシでしょ」

「悪かったよ」

「ならコーラひとくち」

「自分のもらって来りゃいいじゃねえか」

「ひとくちでいいんだって、帰りにこっちも分けるからさ」

 

 あきらめてプラカップを差し出すと、世界一はじいっと目を凝らす。

 そうして戦車がフチを噛んだあとを見つけると、ためらわずそこに口をつけて飲んだ。

 

「お前だいぶキショイぞ*2

「ごほっ!」

 

 世界一がむせる。幸い、コーラは飲み終えた後だった。

 

「ごほっ、ごほっ――な、なにが?」

「言わなくても分かんだろ……」

 

 カップを引き取り、背を撫でてやると世界一は恨めしげな視線を向けてくる。

 

「さっきのお前女子のリコーダー舐め()*3みてえだったぞ」

「そこまでひどくないだろっ!? ペットボトルでまわし飲みしたときとか何も言わなかったじゃん!」

「普通にしてれば何も言わねえけどよ、あんだけ意識してやられりゃさすがにキショいわ」

「き、キショいって言うなよぉ……!」

 

 涙目で言われても戦車としては感想は変わらなかった。

 

「まぁ誰にも言わねえから反省しろよ」

(言ったらまとめてホモ扱いされるだけだしな……)

「せっかくのデートなんだからちょっとくらいいいじゃん」

「おい待てェ、勝手にデートにするな。油断も隙もねえな」

「は? デートでしょ」

「知らねえのか、友人同士だと成り立たないんだよ」

「それは定義の方が間違ってる」

「傲慢……!」

 

 あんまりな物言いに戦車が目をむいたところで、間もなく開演のアナウンスが入り観客がちらほらと前へと移動を始める。

 

「前行くか? つか先輩のバンドって何組目だよ」

「トリだって。別にそんな興味ないし、ここでいいよ」

「もうちょっと声を下げろ……!」

 

 なんでこっちが気を使わなきゃいけないんだと思いつつ立ち上がる。

 すると世界一が戦車の横にすっと移動してくると、肩に頭を預けてきた。

 ――こりゃ閉演後が勝負だな、と戦車は覚悟を決めた。

 

*1
あくまで個人の意見です

*2
ドン引き

*3
実在する妖怪




簡単な人物紹介

剛田(ごうだ)戦車(チャリオット)
大学生。非童貞。百八十五センチ、九十キロ超
筋骨隆々の金髪マンバン強面チャラ男
物理的にも性的にも強い、好きな飲み物はコーラ

門倉(かどくら)世界一(ユニバース) = マジカル★ユニバース
大学生。非童貞。処女。百七十四センチ、体重不明
前髪をななめパッツンにした黒髪ウルフボブの細身の中性的なイケメン
魔法少女的な意味と顔面が強い、好きなタイプは頼りがいのある人

姫島(ひめしま)月光(ムーンライト) = マジカル★ムーンライト
大学生。童貞。処女。戦車たちの一つ年上、身長百六十センチ、体重:軽い
金髪ロングのメスガキ顔男の娘、非変身時にも体の女性化が進んでいる
猫かぶりとメスガキムーブが得意、好きな動物はペットのクレステッドゲッコー

右衛門(うえもん)
イケボの白いネコ型生物、詳細不明
プラナリアとダイオウグソクムシよりしぶとい
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