TS魔法少女、悪友チャラ男ニ雌落チス   作:ラッダイト

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十三手 フロアぶち上げ

 音には圧がある。

 それを体感したのは高校の時だったか。

 心を揺さぶるような音楽なんて表現があるけれど、その前に音には物理的に働きかける力があるのだ。

 数百人で満員になる程度のフロアなら、最後方でもそれははっきり実感できる。

 しかし――

 

(なんつうかフツーだな)

 

 一組目のスリーピース、そして二番手の五人も、戦車(チャリオット)の心に訴えかけてくるほどのものはなかった。

 下手というわけではない。

 ただ、彼らの曲を知らないものにも及ぼせるほどのパワーを感じないのだ。

 カバー曲もまた悪いことに戦車は知らないものばかりだった。

 ちら、と横を見れば門倉(かどくら)世界一(ユニバース)は、リズムに合わせてわずかに体を揺らしながらも、顔は全くステージに向いていなかった。

 何を見ているのかと視線を追えば、その先にいたのはいちゃつく男女だった。

 

「――――ん」

 

 戦車が自分を見ていることに気づいた世界一は、顔を向けるとくいとあごをあげた。

 

「なんでだよ」

 

 小声で言って、キス待ち顔の額を小突く。

 むう、と口をとがらせながらも少し楽しげだった。

 今日はとことんかまってちゃんな気分らしい。

 そこで二組目の演奏も終わった。

 戦車たちも拍手を送る。

 中々の音量が示すように、二人と違いフロア全体の熱気はそれなりのものだった。

 戦車はわずかに残っていたぬるいコーラを流し込む。

 しみこんでいった水分が汗となってじわりとにじみだす、そんな気がした。 

 

「途中で百均でもよってタオル買っときゃ良かったな」

 

 ライブはやはり当日の思い付きで行くイベントじゃない、そう思いながら額の汗をぬぐう。

 

「使う?」

 

 一方でこちらは涼しい顔の世界一がハンカチを取り出した。

 少し考えて、首を横に振る。

 

「いや、いいわ」

「拭いたげるからこっち向きなよ」

「聞いてたか??」

「聞いてる聞いてる」

「聞いてねえだろ……」

 

 言行不一致に有無を言わさず世界一の手が戦車の首をグキって振り向かせる。

 首筋にふれたの彼の手は驚くほど熱かった。

 

(あ”ぁ~、フローラルな香り~……!)

 

 甲斐甲斐しく手が動くたび、花の香りが漂う。

 むず痒いような何とも言えない空気に戦車はしばし耐えた。

 

「よし、いいよ」

 

 ひととおり顔と首筋を拭きおえた世界一が言う。

 不快感はかなりマシになっていた。

 

「サンキュな。洗って返すか?」

「いいよ、めんどいし」

「キショいことに使わねえよな?*1

 

 恩を仇で返すようだがこれだけは戦車としても聞かずにはいられなかった。

 

「使わない使わない」

 

 先と違ってまったく返事に動揺が見えないのは、本当にその気が無いからなのか、あるいは心構えができていたからなのか。

 じいっと見つめていると困ったように世界一は笑った。

 

「しないって。そんなに疑うならチャリが洗ってくれてもいいけどさ」

 

 言いながらハンカチを突き出す。

 ここまでされるとこれ以上疑うわけにもいかなかった。

 

「いや、いい。信じるわ」

「うん」

「信じてるからな?」

「信じてないやつじゃん」

「でっ」

 

 念押しの言葉に肩パンがかえってくる。

 そこでおー、とフロア前方から声が上がった。

 機材の入れ替えも終わり、最後のバンドがステージに現れたのだ。

 

(ベース、って言ってたか)

 

 上手のスタンドに置かれた白黒のエレキベースを手に取ったの、ロン毛を赤く染めたタンクトップの男だった。

 細身で、遠目にもごつい黒のチョーカーがやたらに目立っている。

 戦車のチャラ男としての本能が、その所作や服装から()がばっちりメス堕ちしているのをかぎ分けた。

 なるほど、これと比べれば世界一はまだまだ()()()もいいところだ。

 あれはそうとうやってる、と一人うなづいた。

 チッチッチ、とドラムが三度スティックを打ち鳴らすと、ギターがどこかオリエンタルで耳に残るフレーズを奏でだす。

 それは戦車も知っているバンドの曲だった。

 

「お、デカカン」

 

 少し前に音楽モノのアニメでオマージュされていた00年代のバンドだ。

 アニメからはずらしてきたが、曲は戦車たちも知るものである。

 自然と縦ノリでリズムをとっていた。

 

「――――」

 

 ボーカルはオリジナルと違い癖のつよいハスキーボイスだったが、声量と安定感は今日一番だった。

 少し聞く姿勢に集中しようと戦車が考えた途端、腕が引かれた。

 

「なんだよ――」

 

 また()()()()かと思った親友は、真剣な表情をしている。

 

「チャリ、あそこ、あれ見える?」

「なにが――っ!?」

 

 世界一が指さしたのはフロア後方の非常口。

 戦車自身も先ほど少し違和を覚え、そのまま見逃したそこに、折れているとしか思えないほどに首を右に傾げた黒一色の人影がはっきりと見えた。

 

「人型の、ヴォイド」

「チャリにも見えるなら間違いないね」

 

 それは、ついこの間まで世界一が手出しを禁じられていたような強敵のはずだ。

 

「なんだってこんなところに……どうする。右衛門は?」

「――多分、来ない」

「なんで? なにやってんだアイツ」

「いや、デートの邪魔になりそうだからしまってきた」

「なにやってんの??」

 

 どこにとかどうやってとか湧き上がってきた疑問を抑え込む。

 それどころではない。

 

「ユニ、お前ひとりでやれんの?」

「多分ね、もう戦って勝てない相手じゃないとは思う。でも一気に決めないとまずいかも」

 

 その言葉で思い出す、人型などのヴォイドが手ごわい理由――でかくて賢い。

 シンプルゆえに厄介なその性質、しかも場所は多数の人が集まった閉鎖空間だ。

 時間も情報も、相手に与えるわけにはいかない。

 

「よし」

 

 剛田(ごうだ)戦車は心を決めた。

 

「俺が隙を作るわ、変身して一発で決めてくれ」

「……チャリ、自分が何言ってるかわかってる?」

「自慢じゃねえが現国は得意科目だったぞ」

 

 主に祖父母のおかげである。

 軽口に世界一は肩をすくめた。

 実際、話し合っている余裕があるかは怪しいところだ。

 

「わかった、任せる。怪我したら責任取って俺が介護するよ」

「不安になること言うんじゃねえ……!」

「なんで!?」

 

 まさか謀殺する気じゃないだろうなと、と覚えた悪寒を振り払う。

 意気がしぼまないうちに非常口へと向かった。

 ヴォイドがその姿を現しているからか、周囲は戦車たちの動きに注意を払わない。

 どころかいつの間にか、観客もカウンターのスタッフも前方へと移動しフロア後方にはぽっかりと無人のエリアができていた。

 

(都合がいいやな)

 

 そう思いながら「よう」と戦車はヴォイドに声をかける。

 中肉中背、人間ならそう評する体格だ。

 だらりと右にかしいで折れた頭がこちらを見た、そんな気がした。

 直後、二つの動きが激突した。

 猛然と戦車にとびかかるヴォイドとそれを読み切っていたドロップキックである。

 

「シャオラッ!」

 

 綺麗に靴裏でヴォイドの頭をとらえた戦車の脚がぐいと伸びる。

 ダメージよりも運動エネルギーの伝達を第一とした蹴りに、ヴォイドは見事仰向けにひっくり返った。

 すかさず戦車は跳躍して両足で踏みつけにかかる。

 しかしこれはぬるりと滑るように起き上がった動きでかわされた。

 

「来いよオラ、来い!」

 

 挑発に乗って再びヴォイドがつかみかかってきたのを右腕のアーム・ホイップで投げ飛ばす。

 再び仰向けに倒れたヴォイドはわけがわからない、と言う風に頭を振る。

 そこを逃さず、今度は戦車がとびかかった。

 

「!?」

 

 ヴォイドの頭を左わきに抱え込み、右手で腰の部分をつかむ。

 

「ウォォォー!」

 

 吠える。身を起こす勢いを使って、引っこ抜くようにヴォイドの体を持ち上げる。

 上下さかさまでもがく相手に一切構わず、ホールドした頭を叩きつけるために戦車は尻もちをついた。

 

「シャオラッ!!」

 

 それは人に使うにはあまりに危険な古のフィニッシュホールド。

 さかさまに抱えた人の体を、頭部を下に垂直に落とす投げ技、すなわち――オリジナル・ブレーンバスター(脳天砕き)*2

 ずん、という何とも言えない手ごたえがヴォイドを抱えていた戦車の手に伝わる。

 フロアの床と二人分の体重によって、決して曲がってはいけないものが折れた、その確信があった。

 すかさずカウントを取るように戦車はヴォイドの体を押さえこみ、叫ぶ。

 

「――ユニ! やっちまえ!」

「え、うん」

 

 そうして変身を終え準備万端備えていたマジカル★ユニバースのフープが、当初とは逆の方向へ折れたヴォイドの頭を胴から切り離した。

 黒い体は宙に溶けるように消えさっていく。

 それを見届けて、魔法少女はぽつりと漏らした。

 

「――これ、おれって必要だった?」

「当たり前だろ、なに言ってんだ」

「そうかなぁ……?」

 

 変身を解き、ヴォイドによる認識阻害が終わって周囲に人が戻ってきても世界一は首をかしげていた。

*1
ex)嗅いだり吸ったり

*2
ガチ危険なので決して真似しないでください




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