TS魔法少女、悪友チャラ男ニ雌落チス   作:ラッダイト

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後手 チェック

「――で、何してんの『銀河魔法少女マジカル★ユニバース』ちゃんはよ? まさかフリフリミニスカ衣装で実名プレイとは恐れ入ったぜ」

 

 互いに気まずい正体バレのついでに、謎の敵対存在をマジカルパワーで撃退する親友の雄姿を見届けた戦車(チャリオット)はカフェで一息ついたあとにそう切り出した。

 周囲はそこはかとなく戦車たちに視線を向けるのを避けている。

 鍛え上げた肉体と生来の顔面による領域展開、圧倒的パーソナルスペースだった。

 

「それ言うなよ……」

 

 戦車の言葉に世界一(ユニバース)の端正な顔がゆがんだ。

 変身を解除した姿は、中性的ではあってもメスの雰囲気は無い。

 今まで通りの世界一である。

 

(本当か? 本当にそうか? なんか妙にモジモジしてないかコイツ?)

 

 内心で湧き上がるそんな不安を、戦車はなんとか蹴飛ばす。

 少年はみな、見て見ぬふりを覚えて大人になるものだ。

 戦車もまたその誰もが通る通過儀礼(イニシエーション)を終えた男である。

 具体的に言うと両親ともに血液型がA型なのに本人はB型な高校時代のクラスメイト。

 

「自分で決めれるなら、おれだって別の名前にしたよ」

「ほぉん――そういや、マスコットはいねえの? 魔法少女にはつきものだろ、マスコット」

「食いつくとこそこかー? そこ大事かー」

「事情の説明とかそういうのってマスコットの方が詳しいことねえ?」

「はぁ……右衛門(うえもん)、ちょっといい?」

 

 世界一の呼びかけに応じて、どこからともなくテーブルに飛び乗ってきたのはネコに似た白い生物だった。

 

「うお」

 

 ネコとの違いはまず第一に顔が大きい。

 二頭身どころか一・五頭身くらいのバランスの悪さである、それにあわせて脚も太く、短かった。

 自然の生物とは違う姿ながらそこまで不気味さを感じないのは、体のバランスに合わせてぬいぐるみのようなデフォルメの効いた造形をしているからか。

 ただ大きな青い目には生気が薄く、ガラスのように光を返している。

 

「いいじゃん、裏切りそうなツラしてんな」

「初対面の知性体にそのような態度を取られるのは、礼節の面でも相手への心情的にもあまり良い対応ではないと思われますよ」

「ぬお」

 

 戦車の率直で失礼な感想に返ってきたのは慇懃(いんぎん)で流ちょうな日本語だった。

 一応は可愛らしいと言える見た目に反し、声は完全なイケボである。

 しゃべるところまでは想定していてもこの声質には戦車も驚きの声を上げた。

 

「まあ同種間紛争が未根絶のレイヤーにいらっしゃる人類の方にとって、まったく別種の存在とのコミュニケーションが難しい事情はお察ししますが」

「――おい、ユニ。小賢(こざか)しいぞコイツ」

「やめとけ、おれら程度の頭じゃ倍は言い返されて(へこ)まされる」

「正しくご理解いただけているようで何よりです、門倉(かどくら)さん。あなたのご友人も同様に賢明でいらっしゃれば良いのですが」

 

(小賢しいわあ)

 やはり何事も暴力、暴力で解決するのが一番では?

 戦車が握りこぶしを示すのに、世界一が黙って首を横に振る。

 謎生物はそんな二人の動きを全く無視して、その大きな頭を下げた。

 

「さて、改めてはじめまして、右衛門と名乗らせていただいております。世界一さんの協力者です」

「……剛田(ごうだ)戦車だ、ヨロシク」

 

 言いながら戦車は不承不承に右手を差し出す、祖父母の教育の成果である。

 お手でもするように重ねられた右衛門の右前足は、なめらかな硬さとしっとりとした柔らかさが同居する不思議な感触だった。

 

「では剛田さん、とお呼びします。なるほど見た目通りに力強いお名前ですね」

「含みあんぞぉ、オイ」

「しかしチャリオットという名前はおおよそこの地で人類につけられるものとは思えませんがいったい……?」

「俺の心情が最悪なんだが初対面での礼節はどこにやったネコ助」

 

 あと世界一(お前の相棒)はどうなんだよ。

 

「失礼。すでに挨拶も済みましたので、ちょっとした小粋なジョークで互いの仲を深めようと思ったのですが……そちらのレイヤーを考慮できず申し訳ありません」

「ユゥゥニィィィィイ……!」

「まともに相手するなって。こういうやつなの」

 

 我慢の限界を超えた戦車が低く吠えると、世界一は疲れた声で右衛門の頭を軽くはたいた。

 

「あいたっ」

 

 大きな頭が赤べこのように揺れて、ガラスのように光る目の中で瞳孔ががぐるりと回る。

 そのコミカルな動きに、戦車のいら立ちも少しだけまぎれた。

 

「ひどいですよ門倉さん」

「なにが『あいた』だよ。それっぽい反応してるだけでお前痛覚ないだろ」

「衝撃を感知する機能と発生した情報の処理作業に思うところはありますよ」

「ハイハイ」

 

 と思ったらなにやら物騒なことを言っている。

 なるほどこういう(・・・・)やつか。なんたらインターフェイスとかなんとかデバイスとか、黒幕というか真の狙いが存在するタイプ。

 

「それで、魔法少女の説明、した方がいいか?」

「ああ、頼むわ」

 

 もう少し深掘りして考えようとしたところになされた世界一の提案に頷いて、戦車はコーヒーに口をつける。

 その間も右衛門のうつろな目がじっと戦車を見つめていた。

 

 そうしてときおり右衛門に補足を挟まれながら世界一が語った内容に、特に驚きはなかった。

 ようはよくある変身ヒロインもののフィクションだ。

 放っておくと世界に悪影響を与える存在がいて、右衛門の同類たちに選ばれた人間たちが「魔法少女」に変身し、陰ながらそれを退治し人々の暮らしを守っている。

 世界一はお人よしにもその話にのってボランティアの真っ最中というわけだ。

 そして彼以外にもそれなりの数がいるというコスプレ女が騒ぎになっていないのは、一に素質が無い人間には敵対存在――『ヴォイド』と呼んでいるらしい――も魔法少女も認識阻害魔法によってそこにいながら認識されなくなっていること。

 さらに戦いの際には位相のズレたフィールドに突入し、物的な被害はほとんど出ないこと。

 そして万一素質がある人間に目撃されても、やはり認識阻害の効果により、変身時と普段の姿を結び付けられなくなっていること――

 

「――で、俺にその認識阻害が効かなかったのは?」

「さすがになんでもかんでも変身すれば解決ってほど無法じゃないんだよ」

「だいぶ無法に聞こえたけどな」

「剛田さんの場合は、事前にそこにいたのが門倉さんだという認識があったのに加えて『変身』という想定をされていたのも原因ですね。門倉さんはお顔はほぼそのままですから」

「ほぉー」

「しかしお手洗いというのは断っておけばまず人がついてこないところだとうかがっていたんですが認識を改める必要があるのでしょうか」

「そこはかとなく人をストーカー扱いしてねえか?」

「いや、冷静に考えたらおれも引いたわ」

 

 普段と違う世界一の様子が気になったから、という動機だったが、それを馬鹿正直に言っても結局心証は変わる気がしない。

 

「ふん」

 

 戦車は太い腕を組んで考え込むような素振りを取る。

 そうして唸って見せれば、大抵の人間は声をかけられない。

 これまでも数々の言及を避けてきた伝家の宝刀だった。

 もっとも短期間で親友と呼べるまでに距離が近くなった世界一には通じない。

 

「でさ、チャリ。おれが魔法少女やってるっていうのは――」

「あぁ、それは誰にも言わねえよ。ってか俺の正気が疑われるわ」

 

 みなまで言わせず戦車はうなずく。

 何一つ偽ることのない本心からの言葉だった。

 しかし世界一と右衛門はいぶかしげに顔を見合わせる。

 

「――なんだよ」

「いや、右衛門とはいろいろシミュレートしてたんだけど、想定してない返事だったから」

「信用ねえな、てか認識阻害があるんだろ? 俺が言いふらして意味あんの?」

「状況と手順次第ですね。この場合、門倉さんと剛田さんの親しさを、暴露された対象がどのように受け止めているかが重要になってきます」

「――俺のせいで正体バレする可能性はあるってことか」

「はい、ご賢察(けんさつ)の通りです」

 

 意外と賢いですねこのゴリラ、と言わんばかりの態度にイラっと来つつ戦車は世界一に視線を移した。

 正直うさんくささの具現化みたいな謎生物のことはどうでもいいのだ。

 親友がどうとらえるか、ソレ次第でこれからの付き合いが変わってくる。

 がらにもなく緊張しながら戦車は世界一の言葉を待った。

 

「……あとくされなく、タダマンさせてやるから黙っててっつったらどうする?」

 

 そうして親友は世界一の顔面にうっすらとした羞恥と本気とも冗談ともつかない色を乗せてそう言った。

 戦車が視線で「誰と?」と問うと、当然のように世界一は今は平たい自分の胸を指さす。

 

「ま……」

「ま?」

「マサイの戦士だまされない、タダより高いものはない」

「ならいくら取れば納得すんだよ――あ、逃げんな! おいチャリ!」

 

 畳みかけてくる友人に対し圧倒的フィジカルを活かして剛田戦車堂々逃走ス。

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