TS魔法少女、悪友チャラ男ニ雌落チス   作:ラッダイト

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三手 5八戦車

「――違うんだよ」

 

 昼食中、そっぽを向いて気まずげに切り出した世界一(ユニバース)をちらりと見やったあと、戦車(チャリオット)はカツ丼に意識を移した。

 男子大学生という食欲のバケモノのために、四百五十円という低価格で提供されるそれは卵こそ少なめだが肉は厚め塩気強めで食いでがある。

 味噌汁もついてさらにお得、足りないものと言えば上品さくらい。

 つまり戦車にとってはパーフェクトだった。

 

「聞けよ」

「……飯食ってんだろ。勝手に話せよ」

 

 湿度高めの友人の声にどんぶりから顔を上げて戦車は応えた。

 世界一はガチギレ気味の、それでいてバツが悪そうな表情で視線を反らした。

 

「――あれはさ、違うわけ。わかる?」

「うんうん、それはクソ猫が悪いね……じゃあ、食べるね」

「聞けって」

「だから勝手に話しとけって」

 

 何かを言おうとしながらも煮え切らない態度に、戦車はふたたび食事に集中することにした。

 先日まで友人の変貌ぶりにやや気後れしていたが今や立場は完全に逆転している。

 要はあれだ、魔法少女の変身により女体化した影響で普段の振る舞いも多少メスっぽくなっていた――そんなところなのだろう。

 

(大問題じゃね?)

 

 ふっと冷静になってしまったが、それでもとくにできることはない。

 カツとともにコメの塊を箸でつまんで口へと放り込んだ。

 こんな風に簡単に片づけられてしまえばいいのだが、と思いつつ。

 戦車があくまで食事を優先するつもりなのがわかったか、世界一が視線をこちらに戻した。

 

「あのさ、チャリがもし女の体になったら何するよ」

「……」

 

 咀嚼(そしゃく)しながら質問の答えを探す。

 

「胸触るだろ?」

 

 答えを出すよりも早く世界一に同意を求められた。

 童貞力高い発想だなとは思うものの、これを否定はできない。

 ある日突然女体化してしまったとしたらチンコないのを確かめて、乳をもむ――誰だってそうする、戦車だってそうする。

 素直に戦車が頷くと「だろ?」とばかりに世界一が形の良い鼻をふんと鳴らす。

 

「それと一緒だし」

「どういうことなの……」

 

 おそらくこの一連の流れは先日のタダマン発言についての釈明(?)なのだろうが、論理が飛躍してやしないだろうか。

 味噌汁のお椀を手に取って、一気に半分ほどを流し込む。

 少しぬるくなっていた。

 

「だからあ――好奇心と、実益の一致ってやつ?」

 

 襟足を指先でもてあそびながら、世界一が唇を尖らせて言う。

「俺のチンコだいぶデカいが正気か?」と伝えたらどんな反応するだろうなコイツ、と一瞬頭に浮かんだ考えを振り払った。

 やたらに女子っぽいしぐさと、デカ乳メス顔の記憶で流されそうになったが親友は普通に男なのだ。

 今はちょっと可変式になっているらしいとはいえヤるのはマズい。

 危ないところだった、という思いで首を振る。

 

「なんっも変わらなくね?」

「違うね、全然違う――ああもう」

 

 通知音を立てたスマートフォンの画面を確かめて、世界一が苛立たしげに唸り、テーブルを片付けはじめる。

 

ネコ助(右衛門)か?」

「そ、ちょっと行ってくる」

「待った、俺も行くわ。アイツに聞きてえことあるし」

 

 四六時中そばにいるわけではない――というかあの態度で普段は熱心にパトロールしているらしい。

 言って戦車はかつ丼の残りをかきこむと、噛むのもそこそこに味噌汁で流し込んだ。

 世界一がいやそうな表情で眉をあげる。

 

「遊びに行くんじゃないんだけど?」

「ヤバそうならとっとと逃げるから安心しろ」

「そりゃ頼もしい――あんま見んなよ」

 

 羞恥心発揮するところ違くねえか? と思いながら戦車は頷いた。

 

 

 

 

 

 

「――銀河魔法少女、マジカル★ユニバース! ただいま参上!」

 

 青と白を基調にポイントで金が入ったフリッフリ&フワッフワの魔法少女姿で世界一がびしりとポーズを決める。

 ノリノリだった。やっぱ呪われてるだろこの世界。

 手には先日はなかった直径一メートルほどの謎素材のフープを持っている。

 中が星空のように輝く半透明のそれがどうやらマジカル★ユニバースの武器らしい。

 それを華麗に振り回しては、ぽこぽこと地面から沸き立つように現れる影――ヴォイドを文字通り蹴散らしていく。

 短いスカートのすそからはみ出した白いフワッフワがひるがえり、ときおり肌色がのぞく。

 

「――なぁ右衛門(うえもん)サンよ」

「いかがされましたか、剛田(ごうだ)さん」

 

 そんな親友の雄姿を離れて眺めていた戦車は、いつのまにやらそばにちょこんと座っていた白いデカ頭ネコ風味マスコットに問いかけた。

 ガラスのような青い目が戦車を見上げる。

 

「魔法少女の変身ってユニの体になんか影響あったりしねえの?」

「ただちに健康に被害はありませんよ」

「安心させる気ねえやつだろそれ……」

 

 想像以上に物騒な返答に、ヤンキー座りで視線をあわせる。

 転んだ子供の様子を見ようとして何度か泣かせたことのある、自傷ダメージ付きの伝家の宝刀だった。

 

「くわしく説明してくれねえか?」

「そのためにはまずこの世界の成り立ちについて、人類の認識の間違いから話すことになりますが……長くなりますよ?」

「かいつまんで頼むわ、このとおり」

「きゃー」

 

 がしりと右衛門の頭に手を置いて、自分と同じタイミングで頭を下げさせる。

 以前触れた前足と同じ、なめらかな硬さとしっとりとした柔らかさの同居した何とも不思議な手触りだった。

 

「私のデータベースにはない依頼方法でしたが剛田さんの郷里の風習ですか?」

「お前いま俺を未開の部族扱いしたろ」

「いえ、とんでもないことです。もともと人類全体が我々からすればそういうレイヤーに属した存在ですので」

「それ否定してないよなあ」

「ごもっともな指摘です、やはり意外に賢くいらっしゃいますね」

「直球で来たな……」

「あ、あー、いけません。戻らなくなります、あー」

「あっ」

 

 戦車が頭をつかむ指に力をこめると、みしりときしむ気配がしたあと右衛門の大きな丸い頭部にクリームパンのように凹凸が生まれた。

 なかなかシュールでほのかにグロいことになってしまったが、当人(?)はさして苦しそうでもない。

 

「ひどいですよ剛田さん。せっかく人類との円滑なコミュニケーションのために構成した愛されボディが台無しです」

「お、おう……すまんかった?」

 

 まっとうな抗議に謝罪しながら、元に戻らないかと摘まんでみる。

 無駄な努力だった。

 まったく、とネコもどきがため息をつく。

 

「それで、ええと変身についての話でしたね。剛田さんはそもそも、魔法少女の力がどこから来ていると思います?」

「……そりゃ、想いの力とかじゃねーの?」

 

 ニチアサっぽい回答にグローブ型の頭が張り子の人形のように揺れる。

 声は上がらないがどうやら右衛門は笑ったらしかった。

 

「千切っていいか?」

「千切る……? いえ、詩的な表現をされるなと思っただけで他意はありません」

 

 含みありまくりの態度にあとでちょっとバスケゴールにでも叩きこもうと戦車は決める。

 

「おおむね、正解です。魔法少女の力の源は想いの力――人類の感情、そのうちの羞恥心とスケベ心です」

「――なんて?」

「羞恥心とスケベ心と申し上げました」

 

 聞き間違いではなかった。

 信じたくなかった、魔法少女の力の源が愛と希望じゃなかったなんて……!

 

「どうされました剛田さん、急に地面に手をついて。なにか思わぬ真実を知らされて多大な精神的衝撃を受けたようでいらっしゃいますが」

「お察しの通りだよ……」

「なんだよ、人が仕事してる間に。ずいぶん仲良さげにしてるじゃん」

 

 世界一の拗ねた声に戦車は顔を上げる。

 青いパンプス、白いオーバーニーソックス、白いフリルで縁取られた青いスカート、金で縁取られた白いコルセット、深い胸の谷間、その上で白い顔をほんのりと赤く染めて世界一は口をとがらせていた。

 

「――なんだよ」

「スケベェ……」

 

 フープが顔に縦で来た。

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