TS魔法少女、悪友チャラ男ニ雌落チス 作:ラッダイト
ドム、ドムとバスケットボールがコンクリートのコートで音を立てる。
ゴールから右四十五度の位置で一度ボールを手におさめた
ボールは吸い込まれるようにゴールへ飛びこむ。
ネットが揺れるぱさりという音が戦車は好きだった。
「うし」
手首を振りながらコートの隅に転がるボールの回収に向かう。
そこに背から聞こえたぼふぼふというなんとも言えない音に戦車は振り返った。
「お上手でいらっしゃいますね」
いつの間にかコート脇のベンチの上にいた
例によっていちいち裏がありそうな
音もなくベンチを飛び降りると静かに近寄ってくるネコっぽい姿の謎生物に問う。
「バスケわかんのか?」
「人類文化の主だった知識はありますよ。
「知ってんじゃん」
端的に本質をとらえたその言葉に苦笑する。
バスケットボールは百八十五センチの戦車が、日本のプロリーグでも平均以下になる体格という才能が支配する世界だ。
「ユニは? どうした?」
「
「ほーお」
ドム、ドムとふたたびドリブルの音を響かせて先ほどより遠くスリーポイントラインの外へ、放ったシュートはリングに嫌われた。
ち、と舌打ちしてあとをついてくる右衛門を振り返る。
「――で、なによ」
「剛田さんにはもう少し詳しい事情をお話ししておこうかと思いまして。興味はおありでしょう?」
「そりゃ、おありでいらっしゃるけどよ。なんのためにそんなことすんだ?」
「現状を把握していただくことで、より積極的なご協力が期待できるのではないかと考えました」
「ほぉん」
協力をあおぐためにまず情報を開示する。
実にまっとうな判断だ。相手が相手だけにうさんくさくもあったが。
「協力ってのはユニにか? それともお前に?」
「魔法少女としての門倉さんをご支援いただければ、それはそのまま私どもの利益となります」
「逆だとそうはならないのかよ」
「まったくならないとは言いませんが常にそうであるとも申し上げられませんね。私どもの活動すべてが門倉さんの利益につながるわけではありませんから」
続く説明もまた誠実と言えるものだった。
なによりよくしゃべる、これでは何か疑問に思ったところで回答の真偽を察せられそうにはない。
それなら目に見える
「わかった、聞かせてくれ」
「感謝いたします」
ベンチへ戻り、ボールを脇に置いて腰かける。
右衛門は戦車の前でコートに腰を下ろした。
「さて、以前も少し長い話になるとお伝えしましたが――そうですね、もし明日世界が滅ぶと言われたら、剛田さんはどう思われます?」
「……そんなに、やべえ状況なのか?」
さらりと出てきた言葉に思わず喉が鳴る。
しかしうつろな青い目をした右衛門は顔の前で否定するように右足を振った。
「いえ、現状はそこまで悪いものではありません。これは本題につなげるためのあくまで仮定の話ですよ」
「そうか。ならまぁ、冗談だろって思うわな」
「でしょうね。ではもう少し小さな規模で明日、自分かあるいは親しい誰かが死ぬと言われたらいかがです?」
ふっと頭に浮かぶのは祖父母、
祖父母はそこまで高齢でもなければ、持病もない。
戦車自身をふくめて、そうなるかもしれないと判断する合理的な理由はない。
「冗談はやめろ、次言ったら知らねえぞ。ってところだな」
「なるほど。おおむね平均的な反応ですね。ああ、もちろん、これも説明のための仮定の話です。ご心配なく」
「ありがてえ話だ、安心したよ」
それで、と続きを視線でうながす。
わかっていてももし彼らに何かあればと想像させられたのは愉快ではなかった。
「人類はその大多数が、今日とそう変わらない明日が来る、少なくとも想像の範囲に収まるものになる、とお考えです。これは文明社会を築き上げるために必要な鈍感さであり、また確率の面でもそれほど非合理な思考というわけではありません」
「あーはん?」
「ヴォイドとは
「つまり、あー……放っておくとやべえってこと?」
「すばらしい、剛田さん個人の見地からすればその理解でまったく問題ありませんとも」
「いま俺のこと馬鹿にしたか」
「邪推はやめてください。ちゃんと危機感を覚えていただいている点で、むしろ上澄みのレイヤーであると評価しておりますよ」
上からの評価じゃねえか、と思いながらも少々ひねた言い方だったのも事実。
ふん、と鼻息を漏らしてそれを飲み込む。
そういえばきっちりと丸みを取り戻している右衛門の頭が揺れた。
「つまりはこの世界は人類が考えているよりもずっと不安定で、『世界の危機』は陰ながら今も確かにそこに存在しているということです」
「なんかSFっぽい話になってきたな……魔法少女ってわりとそんなもんか?」
「ファンタジーとSF、両方の要素を兼ね備えていることは多いですが、異なる次元や世界というのは定番の要素でありますね」
「語るじゃん」
「候補者への説明がもっとも最初の大事な仕事になることを考えればご納得いただけるかと」
そりゃそうかと納得して、戦車はボールをつかみハンドリングをはじめる。
「前置きは多分理解したわ、で説明は終わりか?」
「そうですね、そんなヴォイドに対抗するために私どもは魔法少女を導いています。そしてそのためには剛田さんのいうところの想いの力が必要になるというわけです」
「そこに繋がんのな……」
あまり考えたくない事実、フリッフリのフワッフワの魔法少女は羞恥心とスケベ心をその力の――
「待った、そもそもなんで男を魔法少女にしてんだ? 誰でもなれるってわけじゃないとは言ってたけどよ」
自分自身でも今更すぎると思えた問いに、右衛門はふかぶかと頷いた。
「まさしくそこなのです、剛田さんの協力が必要なのは」
「どういうこった」
「成人男性をなぜ魔法少女に変身させるのか、疑問に思われるでしょうが、答えは簡単です。そういったレイヤーの方こそが魔法少女に相応しいからですよ」
「なんで急に説明下手になんだよ、わかりやすく話せ」
「思い出してください、魔法少女の力の源は羞恥心とスケベ心なんですよ」
「それが?」
「私の説明ではなく剛田さんの察しが悪くなっていることに気づいていただきたいんですが……例えば、ローティーンの女性と成人男性、魔法少女を名乗って
「そりゃ決まって、あ――」
くるくると指の先で回していたボールがコートに落ちる。
「剛田さんはスカートをはかれたことはおありですか?」
「ねえよ、ンなもん」
「そうですか、でもズボンと比べてどう思うかはご想像いただけるでしょう。ちなみに門倉さんいわく『スースーして落ち着かない』だそうです」
「つまりユニの生き恥姿はそのためってことか――!?」
「本人にはお伝えしないでおきますが、そういうことです。我々に協力してくれるような人物はおおむね使命感と良識をお持ちだ。思春期前後の女性を選べば、魔法少女の衣装は許容できる範囲、人によってはむしろ嬉しいかもしれませんね」
「あ、あぁ……」
もっともな話だった。
ニチアサ女子部門のグッズにあこがれるのはせいぜい小学生までかもしれないが、コスプレに憧れる中学生は確実にいる。
まして魔法少女になることを受け入れるような人物なら、たしかにテンションがあがるだけかもしれない。
「くわえて未成年の少女を性的な視線にさらすのは、その後を考えればあまり好ましいものでもありません。魔法少女育成していたはずができあがったのは裏垢女子だった、では笑い話にもなりませんし」
「変なところで良識的なこと言いやがって」
「その点で成人男性の性癖が多少捻じ曲がったところでまぁ事故の範囲でしょう」
「急に雑になったな……」
「男の娘という概念も、だいぶ一般化されてきているようですし。剛田さんも一度くらいご覧になった覚えがあるのでは?」
「やめろ、想像させんな」
女装、SNS、自撮り、TLに流れてきて事故ったことは確かにある。
「――いや、待て待てこの話の流れ、じゃあ俺の協力うんぬんは……?」
「はい、門倉さんを意識させる他人の視線になっていただきたいという話です。不特定多数と、知人とどちらがより効果が高いのかには個人差がありますが――」
「馬鹿じゃねえの?」
「まぁもともと魔法少女の素質とは『こんな姿生き恥だよお♡ みんなのために頑張るけど、もし正体がばれちゃったら……♡』と思えるかどうかと言い換えられるわけですが、友人関係の中でそれが完結できるならそちらの方がよろしいかと」
「馬鹿じゃねえの??」
(やっぱ悪魔かなんかだろ、こいつ)