TS魔法少女、悪友チャラ男ニ雌落チス 作:ラッダイト
「――そう言や結局変身の身体的影響ってのはどうなんだ?」
「ただちに健康に被害は――」
「そりゃもういいんだよ。実際的な話を頼むわ」
以前も聞いた定型を途中でさえぎり、
「より懸念されるのは精神的な影響になりますね。
「着ぐるみ着てると動きが陽気になる、みてえなやつか」
あるいはVR空間のアバターにひっぱられてメンヘラ化するような。
「そのようなものです、普段の振る舞いが
「自分らで変身させといて、マッチポンプな気もするけどなぁ」
「それはひどい誤解ですよ、
「そうなのか」
「はい、もちろん。ただ長く続けられるほどに契約解除率は下がっていきますね」
「聞きたくなかった事実だな……」
女体化の果てしなく闇を感じる。
それはもう完全に中毒とかそういうのでは?
右から左へ、手慰みに転がしながらはぐらかされたところへ踏み込む。
「で、身体的な影響は」
「ヴォイドの対処時に変身してるくらいの頻度ではほぼ影響は認められません。多少気分の上下がある程度です」
「……それ以外で、日常的にも変身できるのか?」
「可能です。ですので『変身後こそが自分の正しい姿だ』などと考えだすと少々危険ですね。変身それ自体は可逆的な変化ですが、あまりに長時間続けていると本来の肉体にも影響が残ります」
聞きたくねえなあ、と思いつつもみずから乗り掛かった舟だった。
「具体的には?」
「
「ユニのやつは――」
「剛田さん相手とは言え、プライバシーもありますので詳細はお話しできません。とはいえ他の例と照らし合わせても門倉さんはただちに問題となる段階ではありませんよ」
「そうか」
「ご安心いただけましたか?」
「ああ、ありがとよ」
(ダチにタダマン提案する程度じゃ、ただちに問題となる段階じゃないわけだ)
「でしたら良かったです。ですので剛田さん? そろそろ頭から手を放して――あー、いけません。がっちりホールドしなおすのはいけません。ゴールに向かってダッシュはもっといけません。剛田さん? 冗談ですよね剛田さん?」
「V1、ローテート」
あー、わー、と右衛門が平たんな悲鳴を上げる中、跳んだ。
「ヤーハー!」
「きゃー!」
重力を振り切る、ほんのわずかな解放の瞬間のあと、目いっぱい伸ばした右手を勢いよくリングに叩きつける。
ざしゅっとネットが揺れる音がした。
◇
こんこん、と窓ガラスが外から叩かれる音がした。
寝ころんでいたベッドから起き上がり、門倉
「どうも、お手数おかけします」
図々しく思える動きだが、本来は窓を開けてもらう必要もない存在がそうするのは、気づかいとでもいうべき歩み寄りなのを世界一も知っている。
「どこ行ってたんだ?」
「剛田さんのところへ、少しお話をしてまいりました」
ピクリと世界一の肩が震える。
「……そうか、なんだって?」
期待と恐れ交じりの問いに、右衛門は尻尾をゆっくりと上下させながら答える。
「今後も現場に足を運んでご協力いただけるそうですよ」
「――そっか、ほかには?」
「特にはなにも」
「
「話題にもあがりませんでしたね」
そっか、ともう一度つぶやいて世界一はあおむけにベッドに身を投げた。
「――アイツ、人をあんな、あんな『なんだこの一発で落とせそうなデカ乳チョロザコメスは』みたいな目で見ておいて*1」
恨めしそうなその声に右衛門は特に反応を返さなかった。
世界一もそれを気にせず続ける。
「そのくせ人がいいって言ってんのに
どろりとしたものを感じさせる独白のあと世界一は身を起こして右衛門を見た。
「――なあ右衛門、おれの考えてることおかしくないよな」
「ええ、おかしくありませんよ。剛田さんの振る舞いは自尊心を傷つけるものでした。まして門倉さんの容姿とお二人の関係性を考えれば、納得できないのも無理はありません」
ガラス玉のような青い目がまっすぐに世界一の視線を受け止める。
そこに映る
「だよな」
「ですが門倉さん、前々からお伝えしていますが、平常時の長時間の変身はご自身の健康のためにあまりおすすめできません。本日は朝からその姿だったのでは?」
「わかってる、今日はそういう気分だっただけだ――寝る前には戻るよ」
「でしたらよろしいのですが。くれぐれもお気をつけくださいね」
「わかってるって」
興を削がれたような世界一の声に、右衛門はそれ以上の追及をさけた。
戦車に伝えたことに嘘はない、
右衛門のことなど気にせずに始めそうな日課と言い、典型的なドはまりする人間の振る舞いである。
――門倉世界一は多くに恵まれた不幸な青年だった。
たぐいまれな美貌、魅力的な声、平均的な体格、そして平均以上の頭脳と身体能力、裕福な家庭環境――
不幸なのは、それ以外だ。
世界一の性欲は薄い、だがそれに反して精力は極めて強かった。
一度はじめてしまえば歯止めがきかないのだ。
いっそ女性的とさえいえる美男子に惹かれた女性たちが、そのギャップを受け入れられないほどに、あるいはヤリ潰されることを恐れて逃げ出してしまうほどに。
そうして数度の破局のあと彼にはある気持ちが生まれた。
自分だけ気持ちよくなって、満足してしまう女性への嫉妬と羨望の混じった小さな恨みが。
魔法少女への変身はそれを解消する、文字通り魔法のような手段だったのだ。
「――くそ、くそ、馬鹿チャリ、許さないからな……♡ ぜってえ落とし前つけさせる……♡ 知ってんだぞ、ちらちらおれのこと見てるくせに……!」
実のところを言えば、世界に穴はすでに空いている。
そうしてあふれ出す
必要なのだ、より強力な存在が。
その場しのぎの穴埋めなどではない、根本的な解決へと至れるS級の魔法少女が、この世界を守る断固とした力が今求められている。
そうしてそうなりえるものが、ここにいた。
(期待していますよ、門倉さん、剛田さん)
ベッドの上から聞こえてきた恒例行事の声をプライバシー保護のために遮断して、右衛門はネコのように体を丸めた。