TS魔法少女、悪友チャラ男ニ雌落チス 作:ラッダイト
「なぁ
「はい、いかがされましたか
「そもそもこれ、俺いるか? ユニのやついっつも余裕そうに見えんだけどよ」
もう何度目かのヴォイド退治。
例によって生き恥魔法少女姿で無双する親友を眺めながら、剛田
なにせぽこじゃか湧いてくるヴォイド――平面に見えるほどに光を返さない黒い姿の怪物は、数こそ多いもののやみくもに
「現状ではそうですね、戦力的には剛田さんに来ていただくのは過剰なくらいです。ただ今の
「レベル上げだったのか、これ」
「はい。OJTでも良いですが、魔法少女としての力の使い方を学んでいるところです。どんなことでもまずは簡単なことからはじめるものでしょう? ――ああいえ人類はまだあまりそれが得意なレイヤーにはいらっしゃいませんでしたね」
イヤミか? と思ったものの、たしかに創作の魔法少女たちは当たり前のように無茶ぶりをされているし、同様に、友人たちからバ先の愚痴も限りない。
バイト初日に深夜ワンオペはルールで禁止だろ。
人類の旗色はきわめて悪かった、戦車は話題の転換に努める。
「ちなみにもっと強力なヴォイドってのはどんなんよ」
「単純な傾向としてはサイズが大きくなります。今はせいぜい中型犬や子供程度ですが、獣型ならツキノワグマや、人型で剛田さんサイズが出てきます」
「あぁ、そりゃわかりやすくやべえな」
原則として、強さは大きさと重さが担保する。
ゾウがあらゆる肉食獣をはねのけ、シャチが海洋に君臨しているのは彼らのサイズと重量が理由に他ならない。
それこそが自然の摂理なのだ。
「あとはこのレイヤーのヴォイドは出現時の形で固定されていますが、より強力なものは体形の変化も行います」
「魔法みてえなの使ってきたりは?」
「しますね」
「すんのかよ」
「魔法少女側も使うんですから、それは使われもしますよ」
したり顔で言われるとそういうものかと納得できる気もしてくる。
体の一部分からビームとか出たりするのだろうか、少し見てみたい。
「なによりの問題は賢くなることですね」
「……どのくらいに?」
「剛田さんにわかりやすいようにお伝えするとカラスくらいにでしょうか」
「やべえな」
それは背筋が寒くなるような言葉だった。
戦車の認識ではカラスは匿名掲示板に出入りしている一部のホモサピエンスよりもよほど賢い存在である。
「しかも彼らは、形が違っても同じ群れです。言葉もなく統率を取って動きます」
「よく勝てるな? ソレで」
「正しく鍛えれば魔法少女はヴォイドなんかには絶対に負けませんよ」
「フラグじゃねえか。ちなみに、負けるとどうなんだ」
「命にかかわるようなことはほとんどありません。これは詭弁ではなくヴォイドが生物に与える影響は肉体ではなく精神的なものですから」
「……なんか生きる気力とか奪ってきそうな気がすんだが?」
戦車の言葉に右衛門が首をかしげる。
ガラスのような目をしたネコの顔、それがなんとなく笑って見えた。
「人類には抗うつ剤があるじゃないですか」
「ヤベーのはお前もだったわ」
「そういった事例も一般人にあるだけで、魔法少女がヴォイドに狙われるのはその力の源ですし」
「羞恥心とスケベ心を失うのも相当な致命傷に思えるが……」
直後、戦車は自分の思いつきにいよいよ背筋を震わせる。
それは問わずにはいられないほどの想像だった。
「なぁ、悪落ちした魔法少女って――」
「残念ながら皆無ではありません。そしてご想像の通り、おおむね見ている方が恥ずかしくなるような羞恥心の欠片もない格好をなさりますね。自分で絞り出せない分、周囲から集めないといけませんので」
「うおおお、負けんなユニ――!!!」
「えっ、なに!?」
突然の叫びに戸惑う世界一の姿に、右衛門の大きな頭が震えていた。
◇
「そんなこと考えてたの?」
カコン、カコンと音を立てて行き来していたパックがゴールに飛び込む。
エアホッケー台を挟んで戦車と向き合った世界一は、こぼれた髪を耳へとかけなおしながらパックを台へと置いた。
少しずつ伸びてきたウルフボブは、もともと中性的な世界一の美貌を女性的な印象へとかたむけている。
「そんなことじゃすまねえだ、ろっ」
「心配性なんだよ、チャリは」
「いや、心配するだろ普通……っと」
ガコン、と戦車側のゴールにパックが飛び込む。
ポケットからパックを取り出した戦車は、楽しげに微笑んでいる親友の姿に顔をしかめた。
ただでさえ生き恥なフリッフリの衣装を着ている彼が、羞恥心を無くしたバカエロ姿になることなど想像さえしたくない。
「だいたい、お前のことだぞ」
「だからでしょ、チャリより右衛門から話を聞いてるし」
「レベル上げってやつか?」
「それもあるけど……本当に例外だよ、そんな例」
白熱したラリーが続く。
無言で打ちあうことしばし、最終的にパックは世界一側のゴールに飛び込んだ。
十点目がカウントされ、戦車の勝利でゲームは終わった。
「――っしゃあ」
「ムキになりすぎじゃない? 手、痛いんだけど」
「負け犬おっつー、終わってから言うこっちゃねえわ。途中そっちもガチだったろ」
「ウッザ、これモテないわ」
「は? モテるが?」
「は?」
なんてことのない軽口の応酬。
その中に唐突に、底冷えするような低い声が混じる。
「――チャリがモテてんのなんて最近見た覚えないけど?」
「お前は俺のなんなんだよ……」
ホッケー台をぐるりと回りこんできた世界一の湿度の高い視線と声に、戦車は手を払って追い払うしぐさで返す。
もちろんそれしきでひるむような付き合いではない。
「例の文学部?」
「いや、会うたびに毎回金渡そうとしてくんのはちょっと」
「高校の後輩」
「フツーに時間あわねえわ。てか軽口くらい流せって」
こいつ俺のこと把握しすぎじゃね? と思いながらため息をついて歩き出す。
「逃げんなよ。なに、誰にモテてんの? どの女?」
「へーへー、俺はモテてませんよ。これでいいか? クレーンゲー行くっつったのお前だぞ」
実際のところ少し上を狙った受験の結果、戦車は学内の治安から浮き気味で奇人扱いがデフォルト。
興味を持ってくる女子がいないわけではないが、そういうタイプは見えている地雷感があって戦車の方から遠慮したいことになっている。
とはいえ自ら
もともとあまり高望みもしていなければ、現状で恋人を求める切迫した欲求があるわけでもなかった。
「なぁんだ」
だからと言って、こうも勝ち誇られるのはさすがに業腹だったが。
「やっぱモテないんじゃん」
「ムカつくわー。そもそもお前人に勝ち誇れんの?」
一転して上機嫌で肘でつついてくる世界一に聞こえよがしにため息をつく。
魔法少女やってる上に、こうして出かけている相手は戦車である。
似たような境遇では? と指摘すると世界一は意味ありげに笑った。
「おれはモテるよ? 女子にも、あと多分男子にも」
「後者はいらねえだろ、あとなんだよ多分って」
「ん~?」
自慢するにしても適当すぎると思っていると親友はスマートフォンを取り出す。
なにしてんだ? と聞くより早く、ズボンの右ポケットが震えた。
こちらもスマホを取り出せば画面に表示された通知は隣の世界一からのもの。
そして添付されているのはTシャツの胸元をひっぱって、深い谷間を見せつけているデカ乳女の自撮りだった。
「……はぁぁぁぁ」
画像の中で肩にかかった襟足は、口元をスマホで隠しながら目を細める親友のものとよく似ている。
どうよ? と言わんばかりの親友の頭にがしりと手を添えた。
「消せ消せ消せ消せ消せ消せ消せ――――」
本気で握りつぶす気持ちで力をこめると、「なんでだよぉ」と涙目の世界一は情けない声をあげた。