TS魔法少女、悪友チャラ男ニ雌落チス 作:ラッダイト
それは普段と変わらない帰り道のはずだった。
だがそれが、いつの間にか変わっていた。
違和感の一つ目は悪魔みたいに騒がしいムクドリの声が聞こえないことだった。
それだけならどこか別の場所に移動しただけかもしれない、けれど大通りを行き交っているはずの車の音さえ、深夜のように静まり返っている。
なんだ、と思って空を見上げる。
夏が近づきまだまだ明るいはずのそこが、光源がどこともしれないピンク色で輝いていた。
はっきりと異常事態だが最近はもう慣れた。
「ユニ、
「おーい?」
だが、返ってきたのは知らない声だった。
「――へえ、アンタあのクソ猫の
「誰だ」
言いながら戦車は声の主を探す。
後天的に鍛えたチャラ男としての本能が、声だけで油断ならぬ相手だと警告していた。
さながらメスガキや
「ずいぶんイキった感じじゃーん」
お前がな、と反射的に言い返したくなるような声。
それは上から振ってきた。
見上げてすぐ、戦車は後悔した。
「うわ、コワーイ。なにその顔、怒ってんの?」
LED街灯の上に腰かけたその女が、一見して闇落ちした魔法少女と察せられたからだ。
金髪ツインテ、ハの字眉にツリ目、開いた口からは八重歯がのぞくメスガキ顔に、色々と
「顔は生まれつきだよ、悪かったな。で、なんの用だ?」
おそらく男がこんな格好で生き恥を晒しているかと思うといたたまれない。
陰キャな根を持ちながら、あるいはそれゆえにある種の
そして人は自身に向けられたネガティブな感情に敏感なものだ。
「ふーん、そんなイラつく顔しちゃうんだ」
痴女は低い声で言うと、一メートルほどのバトンをくるくるともてあそぶ。
次の瞬間それは「ジャキィン!」と音を立て柄が伸び刃が出て、命を刈りとる形――大鎌となった。
「なら、ちょーっとくらい痛い目見てもしょうがないよねェ!」
「クソがっ!」
ためらわずそれを振りかぶって襲い掛かってきた痴女に悪態をつく。
危険への対処で一番大事なのは、びびって目を閉じないことだ。
何がどう来るのか、それを見極めなければ避けるも逃げるもままならない――
「シャオラッ!」
「ちっ!」
横っ飛びで振り下ろされた鎌をぎりぎりでかわす。
変身時の世界一よりも小柄な痴女だが、その腕力はやはり常人離れしている。
動きが素人だからこそ、何とかかわせたが果たして次はどうなるか。
「ダルーイ、筋肉だるまのくせに……!?」
痴女がくるくると回した大鎌を構えなおす。
そこへパリィンとガラスを突き破ったような音を立てて、イケボとともに戦車の前にあらわれたのは白いネコ型生物だった。
「ご無事ですかっ」
「右衛門、あぶねえ!」
「死ね」
「ぎゃー!?」
「ウオオオオオォッ!?」
そしてノータイムで大鎌の振り下ろしと振り上げの動きで三枚におろされる。
戦車は慌てて体がずれないように左右からバシンと勢いよく抑え込んだ。
「前もあったなこんなん」
「ありがとうございます……ひどいですよマジカル★ムーンライト」
「うるせェ、その名で呼ぶな」
実家で出してそうなドスの効いた低い声で、痴女改めムーンライトがすごむ。
「知り合いかよ」
「はい。マジカル★ユニバースの前にスカウトした魔法少女です」
「へェ、それがアンタの次の被害者の名前かァ」
「なんか、恨まれてんのな?」
「残念なことに。少々不幸な行き違いがありましてグレてしまわれまして」
「――行き違い? はぁん、そんなこと言っちゃうんだ。これは四桁まで刻むしかないよねェ!」
狂気をはらんだ声でムーンライトは言うと、頭上で大鎌を振り回した。
巻き起こった風の音は獣の唸り声のようにも聞こえる。
「オイオイ、だいぶ沸点低くねえかユニの先輩」
「やむをえません。私のことは見捨てて逃げてください。すぐにユニバースが助けに来てくれるはずです」
「でもよ、右衛門。まだ体が」
「心配しないでください。少し時間はかかるかもしれませんがちゃんとくっつきます」
「へー、右衛門ちゃんその子にはそんな優しいんだ、ムカつくねェ。念入りにやっちゃわないとねェ!」
なぶるような笑みを浮かべた、その痴女の表情で覚悟が決まった。
(しゃーなしだな)
右衛門の頭から手を放し、戦車は一歩前へ出る。
「なにを……?」
「観測者が魔法少女相手に何する気? なんか勘違いしてない? アンタ」
「いけません。一般人がかなう相手ではありません。ユニバースと合流を――」
「うるせえな、黙ってろ」
好き勝手なことを言うその
「えっ」
「なに?」
あっけにとられた彼らに、両手を広げてあらためて聞いた。
「なァお二人さんよ。俺を見ろ、この姿を――どう思う?」
「金髪ゴリラ」
「絵にかいたような強面チャラ男だと思われますが」
その評に
身長百八十五センチ、体重九十キロ超、褐色肌の細眉金髪マンバン
「わかってんじゃあねえか」
心を決めれば胸には無限大に湧いてくる勇気がある。
「ナァナァナァ。褐色マッチョの金髪マンバン男が出てきたとき、誰がそいつの敗北を願う?」
ふー、と息を吐き、ごきごきと指を鳴らす。
「誰も願やしねえよ。チャラ男の相手がたとえ百戦錬磨のビッチだろうと、何百年生きた人外だろうと、実はふたなりとか男の娘とかだろうとな」
ムーンライトも右衛門も、その戦車の独白を遮れない。
「強面チャラ男に求められるのは、女を寝取ることだけ、チンコでわからせることだけ――勝利だけを求められる。それが金髪マンバン強面チャラ男って存在なんだよ」
「なに言ってんだ??」
「大丈夫ですか?」
「俺は望んで
「オイ大丈夫か??」
「そんな俺が『こんな姿生き恥だよお♡ みんなのために頑張るけど、もし正体がばれちゃったら……♡』なんて思ってる魔法少女に負けると思うか?」
「キモイ」
「ちょっとなにいってるかわからないですね」
ごちゃごちゃといつまでもやかましい痴女と猫に向かって、肩をすくめる。
なぜこんな簡単な世界の真理がわからないのか――
「俺が上で、お前が下だ。こいよ三下、
ため息とともに手招いて言う、ムーンライトの白い額に目に見えるほどの青筋が浮いた。
「わけのわかんねえことをぐだぐだと――死んだぜ、手前ェ」
「しゃらくせえな、やってみろ」
「いけませんっ、剛田さん――!」
◇
「チャリッ!! 大丈夫っ!?」
そうして数分後、叫びとともにようやく駆けつけた世界一が見たものは――
「おう、勝ったぞ」
「うっそでしょあなた」
「お”っ……おぉ……♡」
「ええ……?」
R15な痴態を晒したマジカル★ムーンライトを見下ろして得意げな戦車、そして大きな顔いっぱいに困惑を浮かべた右衛門の姿だった。