Re:偏頭痛持ちの異世界生活 作:カレー味を堪能して生きていく
細めた目で周り一帯を見渡す。
吐く息も、踏む地面も白、白、白…その色でしか彩られていない白銀の世界に溶けてゆく。
轟々と吹き荒れ、身体の芯をも削り取ろうとする吹雪。
そこで俺は、ヨレついた足取りで進んでいく。
身体に降りかかる、いやブチ当る寒さと雪の痛みに参る。
「どうしたもんかねェ…」
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「ヘァックシュンン!!……はァ?」
ゆっくりと目を開けようとするとありえない寒波が意識に石を投げる。
思わず、雪に手が埋もれる感覚を覚えながら飛び起きる。
何処だよ、ここは!
朝、目覚めると知らない雪原で寝っ転がっていた。
寝巻きも変わっていて、かろうじてダボダボの服であると言えるほどのみすぼらしい栗色に浸食された布を被せられていた。
家で熟睡していたはずなのに外に居る。そして自分の在住していた土地ではないし、季節も蝉が鳴いていた筈なので異常としか言わざるを得ない。
そもそもの事目覚めたら野外にいることすら可笑しい。
明らかに人の手を加えなければこうはならないと驚愕が苛つきと疑いへ変わっていくのは当然。
「そうかドッキリかァ!いやァ〜最近のは進んでんだネ」
随分テキトーなことしやがるじゃねェか!
青筋を立てながら周囲を見渡す。
見つけたらその大層な顔をしてそうな犯人の顔を針金細工の様にへし曲げてやる。
人の不幸を食い物にする輩をとっちめるが為にこの状況を作り出した犯人を探す。
「…………………」
ーーーおっかしいなァ
ネタバラシを求めるが周辺には人の気配を感じないどころか民家も無い。
こりャあ…マジ事かァ、イヤイヤイヤ……
中々粘る犯人たちに焦り出す。さっき迄の憤怒は何処へやら。拳に溜めていたエネルギーは冷や汗になり、流れていく。
その凍りつきそうな頭で何か悪行でも仕出かしたかと昨日迄の記憶を省みる。
な、なんだ!何も思い出せない?!
きちんと普通に生活していて、仕事もし、寝る。そんな当たり前の様なありふれた生命のサイクルはしていた。
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が、肝心なその内容が分からない。
どういう訳か、大まかな『していた』事は思い出せるが『何処で』『何を』『誰と』等の細部がしっかりしない。
まるで開くと中身が全て白紙の本の様に。
自分の身の上も男性だった、短髪の黒髪だった、程度にしか思い出せない。
先程からの怪奇的現実に頭を抱える。
「うん?……ああァぁーっ!」
頭の触り心地が可笑しい。
銀色のサラサラした糸がチラチラと視線の前と首を撫でていたのは分かっていたが…
鬱陶しいと感じていた物は自分の髪の毛だった。
そ、そいえば身体もほ、細いし……
他にも弄ってみる。肩まである白銀の髪、ふっくらした頬、高めの鼻、長いまつ毛、綺麗なソプラノボイス、人間では無いとんがった耳ーーー
探れば探る程、出るわ出るわと確実に昨晩の自分では無い今の自分。
こ、コレが俺ェッ!!
「一体全体どうなンってんだァ!!はァクシュン!!!」
可愛らしくなってしまったくしゃみで全てが吹き飛ぶ。
此処に予想外の驚きに遅れて寒さと肌が合流する。
さらに追い討ちを掛けるように尿意も自身を待ち合わせ場所にしていたようだ。
まあ、分からねェこったわァ置いといて。
「一旦………ちっとォトイレをっと」
人が居ないのは分かっているが周りを見渡す。今度は自分が犯人に仕立て上げられないように。
下腹部の布の切れ目に手を伸ばす…
「ーーーーふゥ、コレに勝るモンはねェぜ……ん?」
軌道がおかしい温水と何かの損失感。
その謎を解く為に屈んで覗き見る………
「うわっ!!!ぁあーー
気づけば場所や季節だけでなく自分すら変わっていた現実に叫び声を投げかけるが返ってくるのは掠れた風の音だけ………
ちょっとだけ布が濡れた。
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そうして冒頭に戻る。
「…邪魔だなァ」
目覚めた場所に停滞していても意味が無いと考え、取り敢えず前に前と進んで行く事を決めてから数時間。
しんしんと降る雪がゴウゴウと降る雪と牙を剥き始める。
「しっかし、なんもねェったらしないトコだな。そろそろ俺の脚もヒィヒィ言い出してきた…」
どういう事だが理屈は分からないがこの身体になってから疲労感や空腹感は感じるが凍傷になったり低体温症になる気配がない。
こうして歩き続けられるのはそのおかげというべきかその所為というか……
「うぐゥ……チィ」
それよりも気になるのが進む事を決めた時から三十分程経過してから悪化していく頭痛である。
始めは、この状況下に置かれたストレスで一時的なものかと思っていた。
今では、鉄バットで殴られていると錯覚する痛みに参る。
そろそろ、収穫がねェと厳しいぜェ……徒労だけで終わることが今一番やばい……
そんな事を思いながら気合いを入れ直していると雪でぼんやりしている景色に仄かに暖かい色が重なる。
「民家か!?へへ、漸く有り付けたぜ」
弱音をその場に捨てて走り出す。
雪の腕に脚を持っていかれそうになるが成果が目と鼻の先にあるとなれば数億倍やる気が出てくる。
そうしてハッキリと明かりが見え始める。
外には薪が積んであり、レンガ造りの昔ながらの家という感じである。
「誰かいねェか!!ちっとだけ入れてくれェ!!」
ドアを叩きながら中に人がいるであろうと縋るように叫ぶ。
暫くすると騒がしい音を立てながら人が走ってくる。
「こんな所に人かいーーーー!!?なぁ
ドアが勢い良く開かれると、七十歳前後であろう老婆が出てくる。
「いヤァ〜助かったァ。ちっと入れて貰っても?」
この世界に来てから始めての人との会合と整った環境に身を置けると思うと安堵で気が抜けてくる。
老婆は突っ立ったままで返答をくれない。
「立ち話もォなんなんで〜早く入れて貰っても?」
「ーーーぁああいいさ。入んなさい」
ラッキーィ身体が疲れと凍えでバラバラになっちまいそうだったぜ。頭痛もひでェし。
これからの未来予想図に心が躍り出す。
だからこそ気がつけないその老婆の固まった理由を。呟きを。
ーーーーーー銀髪のハーフエルフ……