転生だ!追放だ!売国だァ~!   作:丸米

15 / 19
⑮※注意 この物語に登場する主人公は愛着の対象に危機が迫っても、やっぱり想定外の事態に心から楽しめる変態です。心を広く持ち、適切な距離感でのご拝読をお願い申し上げます。

「――もういっぺん言ってくれないかしらぁ、ザッハルト?」

「うむ。貴公には、グリンド・バーンハルトと接触してもらいたい」

 

 ザッハルトがラミアスから諜報部隊を呼び出してから数日が経った頃。

 タスカリカはザッハルトに呼び出され、そんな要請を受けた。

 

「えぇ.....普通に嫌だわぁ.....」

 タスカリカは下処理を怠った魚卵を喉奥に詰め込まれたかのような致命的な表情を浮かべながら、そう呟いた。

「そうか.....嫌かぁ.....」

「あんなのと言葉を交わす位なら腐乱死体の回収作業でもした方がまだ爽快な気分になりそうだわぁ。それにあんなのと接触してどうなるってのよぉ」

 

 タスカリカは訝し気に首を傾げて、言葉を続ける。

 

「あんなのから得られる情報なんて皆無に等しいじゃない。まともな人間ならあんなのに重要な事柄を知らせるなんてあり得ないわぁ。不愉快でもやるべき事ならやるけどぉ.....」

 

 現在、諜報部隊からは当然――あの密売の現場にいたグリンドの情報は流れてきている。

 それはもう、何一つ隠すことのないカスのような情報が流れていっている。

 特定の住居は持たず娼館をはしごし、時折娼婦の住居について行き、日々飲んだくれるか女を抱くかという日々。一応はギルドの警備隊長という役職についているはずなのに、こいつの生活の中に仕事に励むという文字は一握も存在していない。

 

「そうだの。まともな脳味噌を持っていれば、あんな放蕩者に情報の一つもくれてやるわけがない。アレの脳内にある情報を抜こうと無駄な事であろうの。だが、よく考えてみるのじゃ、タスカリカ殿」

「何を考えろってぇ?」

「――あのような馬鹿者をわざわざ仲間に引き入れている理由じゃ」

「強いからじゃない? 実際、本気で戦えば私も貴方も勝てないでしょう?」

「だの――つまりはあの馬鹿者を仲間に引き入れるリスクを冒してでも、あの強さが必要な理由があるという事だ」

 

 つまり、とザッハルトは続ける。

 

「奴が既に持っている情報にゴミほどの価値もないが、奴を使わなければならない事態そのものには価値がある。奴の力だけは間違いなく本物だろうからの。そしてあの男の力を、こちらが望む方向に向ける事が出来るだけでも価値がある」

 

 という訳で、と。ザッハルトは続ける。

 

「よろしく頼んだ」

「やだぁ.....」

 

 

「く.....わざわざ俺に会いに来てくれたってのか⁉ 嬉しいぜパツキン姉ちゃん!」

「本当にねぇ。本当にわざわざよぉ。自発的に貴方に会いに行く位なら牛糞処理場に飛び込んだ方がまだマシだからぁ」

「くぅ~! たまらねぇな! このキツそうな感じ! そうそうそうこなくっちゃなァ!」

「.....」

「あ、なんだなんだアンタ、俺に何か聞きたいことがあるのか? 話していい事なら幾らでも話すぜ! その代わりよぉ、一緒に茶でもどうだい? 何なら一緒にそこの部屋を借りたっていい!」

 

 ダメだこいつ。言葉を交わす前から確信していたが、言葉を交わしてからより深く理解できた。こいつの脳味噌は本当にダメだ。

 

「貴方が持っている情報なんかどうせゴミ同然よぉ。そんなもの金を払われても受け取り拒否よぉ――そんな事より、一応貴方は商業ギルドの警備隊長なんですってぇ?」

「そうだぜ! こう見えて結構偉いんだぜ!」

「どうせ貴方なんてまともに仕事していないんでしょうけどぉ、一応伝えておくわねぇ――ここ最近、禁制品の違法薬物が貧民街を中心に広がっているのは知っているかしら?」

「知らねぇなぁ。興味もねぇしな」

「だったら教えてあげるわぁ――その禁止薬物で貴方の大好きな娼館の女の子がどんどん廃人化しているってね」

「.....は?」

「どぉ? 興味ある? 詳しいことが知りたいのなら、もっと教えてあげるわよぉ」

 

 

「――ヒューイ様からの報告でございます、アメルダ代表」

 前領主の屋敷の一つを改装した商業ギルド本拠の執務室。

 その椅子の上で鬼の如く書類仕事を片付けていたアメルダは――部下のその一言にペンの手を止める。

 

「ヒューイ様から! という事は.....事前の計画は成功したのですわね!」

 アメルダはパチパチと盛大な拍手を送ると共に「さあ報告をして下さいまし!」と部下に促した。

 

 その内容は、おおよそ三点。

 一つ。事前の計画通り、ベルガン本国の秘密警察は掌握出来た。

 二つ。ラミアスの諜報部隊及びそれを率いるザッハルトに正体が露見する危険性がある為、暫くヒューイ自身は表に出ない。表に出る際は、”秘密警察の取り締まりから解放される”という体裁を整えてから出る事になる。要は秘密警察が王都に撤退するか、この地で壊滅させられるかのどちらかの状況下になってからである。

 

 ここまでの二つは、おおよそヒューイと事前に想定していた通りであった。

 重要なのは、三つ目。

 

 三つ。秘密警察を動かし、貧民街に蔓延している禁制品の情報がおおよそ集まってきた。

 第一に、流通ルート。禁制品の多くが支援物資の中に紛れ込ませる形でマモルモン領内に入り込んできている。支援物資を各地から受け入れている状況故に起こっていると言える。

 第二に、禁制品の内容。十中八九予想通りだが、麻薬である。強い依存性と離脱症状があり、薬効に肉体が堪えられないと一気に廃人化する。リキッド型の薬品である事が確認されており、薬効が薄まるが食品に含ませる形での摂取も可能である。

 第三に、禁制品の蔓延する過程。こちらはまだ特定できていない。ただ利益目的での流通ではない、という確信は得ている。金品を得ている売人の姿は確認できず、多くの人間が知らずに麻薬の薬効を得ており、そこから離脱症状や廃人化にまで至っている。

 

 これらの情報をもとに、対策を伝える。

 対策一つ目。支援物資はこれまで関所での簡易チェックを通過さえすればマモルモン領内での頒布を行っていたが、ここを厳格化する。ラミアスから運び込まれた支援物資内にもこの薬剤が入り込んでいる状態故に、ラミアス駐留軍と提携しギルドがチェックを行う事が望ましい。駐留軍との交渉で必要であれば、メルハイムに人を送り交渉に参加してもらうように要請する事も推奨する。”ベネット・アイスナー”の名前を出せば話は聞いてくれる。メルハイムの下に送り込む場合、人材は聖印での疑義を回避するために善人を送り込むべし。間違ってもアメルダ、君が直接出向いてはいけない。

 

 二つ。ここからは諜報されている事を気にせず、貧民街への調査を積極的に行う。

 現在ベルガン王都への情報はこちらでコントロールできる。その上で、ザッハルトの諜報部隊にはむしろギルドが禁制品の調査を行い、事態解決のために動いているという印象を与えるべし。この禁制品の問題に関しては、むしろザッハルト側とは利害が一致する。ラミアスの駐留軍と合同で物資のチェックを行う事も含め、ここからはむしろラミアスの勢力を引き入れて問題解決を図るのが合理的だと考える。

 

「成程.....まるでわたくしが善人ではないとでも言いたげなのは気に入らないとして、方針そのものには異論はありませんわ。流石はヒューイ様。手早く情報を集積いただき、感謝に堪えません」

「では、駐留軍と貧民街に人を送りますか?」

「ええ。ですが――貧民街の調査には、わたくしが直接出向きますわ」

「え? 代表が直接?」

「ええ。当然ですわ」

 

 ふふん、と笑みを浮かべ。アメルダは言葉を続ける。

 

「――我々が取り扱う物資にこのような下らない薬を入れ込ませた下賤者の正体、この目で確かめてやりますわ」

 

 

「.....」

 貧民街の薄暗い地下室の中。ヒューイは考えを巡らせる。

 この貧民街の禁制品問題。合理的な部分と不明瞭な部分がある。

 

 禁制品の持ち込み方法、という側面で見れば合理的だ。惚れ惚れするくらい合理的だ。内乱後の、政権交代が起こった国境線上の用地。どうしてもチェックが甘くなる支援物資に薬品を紛れ込ませ、行政の手が届きにくい貧民街を中心に頒布させる。こちらがせっせと領主の首を挿げ替え、通商協定の取りまとめを行っている間に、ここまで手早く薬品を混ぜ込んでいたとは。

 

 不合理なのは、その頒布方法である。

 頒布させ、ただ人を苦しめ、廃人化させて――何をさせたいのか。

 売買を介在していない時点で金品目的ではなく。では政治的目的でのテロ目的かといえば、これも不合理。酷い言い草だとは思うが、貧民街の人間が幾ら死のうと統治上ではどうとでもなるのだ。支援物資はマモルモンの中流階級以上の市民にも頒布されている。テロ目的でやるなら、貧民街以上にこちらの方が優先度が高いだろう。薬剤を頒布させる手段としては合理的だが、目的が見えてこない。

 

 そもそも、ラミアス国内からの支援物資の中にも入り込んでいる時点でかなり事態は深刻だ。ベルガン本国内で解決出来る話ではなく、ラミアス側でもアクションが必要になってくる。

 

 目的さえ推測出来れば、そこから逆算しての事態解決が可能なのだが。そこが隠されている。

 

「――情報が集まるのはいい事ですけど、かえって目的の部分は解らなくなるものですねぇ」

 

 解らない。狙いが、目的が、解らない。

 混乱の最中にある。

 ヒューイは、今のマモルモンには愛着を持っている。内乱が収まった後。イベントが終了した後の町の姿。あの煮炊きをしながら、それでも息づいている人々の姿を見て零れた笑みは、本物だ。本当に感動していた。これこそが生きるという事だと。本気でそう思った。

 

 今、その愛着の対象に危機が迫っている。

 危機が迫っているというのに、その正体が見えない。手探りで暗闇を搔き分けているような閉塞感。その感覚に襲われながら――

 

「....ヒューイと言ったな」

「ええ。私の名前はヒューイですよ」

 

 たった今新たにヒューイに情報を渡した――オルツ・クシャドールは、表情を歪めていた。

 それは恐怖半分、困惑半分。

 由来は、不可解故。

 

「何故――君は、笑っているんだ?」

「.....」

 

 愛着は、本物だ。

 だが、やはり。

 

 ――新たなイベントがこれから起こる。己の頭上に解決すべきで、まだその糸口すら見えないものが襲い掛かってきている。

 イベントが終わっても、小休止の後に、また新たなイベントがやってくる。

 

 危機を前に、ヒューイは確かな――充足感を得ていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。