転生だ!追放だ!売国だァ~!   作:丸米

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⑰※注意 この物語に登場する人物は子どもに道理を教え込む要領で”人体実験はいけないんだよ”と教え込む必要がある程の道徳観の持ち主です。心を広く持ち、適切な距離感でのご拝読をお願い申し上げます。

「――ふむん」

 一つの手紙を受け取ったヒューイは、思考の中にいた。

 暗号化された手紙には、キャラルシンが貧民街で出回っている禁制品に対して興味を抱いている、と。

 興味の方向性としては悪くない。

 あの肥大化した承認欲求が向かうベクトルとして”仲間から褒められたい”故に”仲間の役に立ちたい”へ向かっている。いい事だ。承認欲求の満たし方としては非常に健全だ。今のところ我々に不満を抱いている気配はないと見ていい。手段と目的の目的の部分では今のところ文句をつける必要はなさそうだ。

 

 考えるべきとしては、手段の方だ。

 研究者であるキャラルシンが麻薬の薬効について調べるというのだから。当然、その成分や服用した際に見られる効果や離脱症状含めて――生体実験に手を出すのだろう。

 

 動物実験でおおよその効果を図る事は間違いないだろうが。いよいよ締めの部分で――人体実験に手を出す可能性が高い。正確な効果を図るためには、最後に人を使う。

 この辺りで、人体実験を行う事に何ら倫理的なハードルが存在しないのがキャラルシンであり。その為のリスクに関しても別段気にしないのもキャラルシンだ。

 ここで安易な人体実験を行って――それが暴かれた際のリスクは計り知れない。この街には未来視の力を持つ相手がいるのだ。絶対にやらせてはいけない。

 とはいえ。「どうせお前はロクな事やらないから先回りして忠告しておくぜ」的なムーブは相手に不信感を与えてしまう事請け合いだ。こういう小さな不信感のタネを大事に大事に育てて芽吹かせ世界に一つだけの花を咲かせる怪物がキャラルシン・プペリストという女であり。そのリスクも勘案して動かねばなるまい。

 

「.....お。いいねぇ。助かるぜアメルダ」

 

 アメルダから送られてきた文書にも目を通し、”よし”と呟く。

 助かる~。これでキャラルシン側にそれとなく人体実験する事をしないように伝える事が出来る。

 

「ふわぁ~。さすがに眠いな....」

 自らベルガン秘密警察の本拠に乗り込み、おおよそ一週間ほどの時が過ぎただろうか。情報の集積と分析が思ったよりも忙しくロクに眠れていない。そろそろ仮眠を取らなければ。

 

「――ヒューイ殿。何をされているのですか?」

「ん? ああ、オルツさん。これは”レジスト”ですよ」

「レジスト.....ああ、精神干渉系の魔法への抵抗力を上げる魔法ですね。何故今ご自身に付与されているのですか?」

「私はあまり眠っているときに夢を見るのが好きではなくて。これを付与する事で夢を見なくて済むようになるのですよ」

「そうですか.....」

 

 オルツは少し逡巡し、覚悟を決めたようにヒューイに頭を下げる。

 

「お願いします。もしよろしければ――私にもレジストをかけていただいてよろしいですか?」

「構いませんけど.....何故です?」

「私も、夢見があまりにも悪くて.....妻の浮気に、己自身の将来の不安とか。もう未来そのものに何一つも希望が持てなさ過ぎて....悪夢ばかり見るのです。ある時は断罪され。ある時は処刑され。妻が浮気相手の子を産んでたり」

「あっはっは。凄い! 本当にあってもおかしくなさそうじゃないですか!」

 あってもおかしくないどころか。実際に原作でこいつが遭ってきた事ばかりだ。

 

「え。何でそんな腹を抱えて笑って.....? と、とにかく。私も久方ぶりに安眠したいのです。家からようやく離れたこの場所でくらい。せめて眠っているときくらい、幸せでありたい.....」

「いいですよ。笑わせてもらったお礼です。まあ、何というかオルツ殿」

「えっと。何でしょう.....」

「家というのは、本来一番安心できる場所であるべきですよ。逆にそこが一番不幸や不安を感じる場所になってしまっているのなら、マネジメントが失敗してます」

「私にマネジメント権がないのだから仕方ないではありませんか.....」

「そりゃそっか。あっはっはっは」

「何故笑うのですか.....!」

 

 笑うしかないだろ。そうだよなぁ。身分差のある婚姻なんざそんなもんだよな。

 

「まあまあ。それじゃあレジストかけておきましょう」

 

 

 いやぁ、キャラルシン主任の先見の明は流石です。

 唐突に、キャラルシンの工房の部下がそのような事を言い出した。

 

「え、えっとぉ....どうしたの突然。ボクを褒めても何も出ないよぉ」

「いえいえ。正直、貧民街の禁制品の研究を始めると聞いてどうなるものかと思っていましたけど....まさか、アメルダ様が貧民街の調査を行う事を先んじて予測し、研究に着手しているとは....!」

「え、えぇ?」

「禁制品問題を重く見たアメルダ様が、現在麻薬の服用者の多くを説得しこちらの工房に送るとのことです。アメルダ様が”薬効を調べる必要があるのだけれど、先んじてキャラルシン主任が研究を始めてくれていたおかげでスムーズに取り組みが出来て本当に助かる”と仰っておられます」

「あ、ああ! 成程ね! ふふん、流石でしょ.....!」

「そうです。本来この薬効を調べるにあたっては人体実験まで手を伸ばさなければ本来的な結果を出すのは難しい。ですが、元々の服用者をこちらに”治療”目的で送り込むことが出来れば。実験する必要もなく、合理的に薬効の研究が行えるという寸法ですね! その先見性にはこちらも見習わなければなりませんね!」

「え、えっと.....は、ははっはっはっは! そうだろう....!」

「服用者がこちらにやってくる前に、早めに動物実験の方を終わらせましょう! 俄然やる気が出てきました....!」

 

 ――人体実験に手を出す前に、貧民街の服用者を工房に送り込む。

 その上でこの結果をキャラルシンの先見性故であるという理屈でキャラルシンの褒めポイントを与え、遠回しに”人体実験なんてリスクある事を賢い賢いキャラルシン様は行わないですよね”という認識を植え付けておく。こうする事で、人体実験をしない=褒められるポイントであるという事を教えるのだ。

 もはや幼稚園児相手の道徳の授業だが仕方がない。先天的に道徳を理解していない愚か者相手には教育のし過ぎという事はない。

 

 

「.....」

 据わった目つき。今まさに、道徳心や倫理と殺意がギリギリの綱引きを行っているのだと、それが垣間見える怒りに満ちた目で――メルハイム・アトランティアは眼前の光景を睥睨する。

 

「これは.....なんだ.....?」

 メルハイムは、商会の代表であるアメルダの要請に従い――ラミアスの派遣軍が配布している支援物資の調査を行うと宣言した。

 もう騎士団を辞した身とはいえ、奇跡の聖印を授かった勇者の宣告である。本来であるならば一も二もなく調査を受け入れるであろう。だが”たとえ勇者様と言えど、貴女はもう騎士団を辞した身。ここは騎士団の管轄であり、貴女の調査は受け入れがたい”と断られた。ならば、と。事前にザッハルト経由で手に入れたラミアス行政局の命令書を突きつけると、彼等は黙りこくった。

 

 もう、聖印は痛いほどにこちらに力を与えている。栄誉あるラミアスの騎士団を前にして、である。

 

 命令書を見た瞬間に襲い掛かってきた連中を片っ端から叩きのめし、全員の手足を縛ると同時――アメルダが派遣した商会の人員と共に騎士団の駐屯地とその倉庫へ足を踏み入れる。

 

 そこには。怪しげな薬剤をプールする設備があった。

 薬剤入りの液体が入った桶。衣類ならばそれに漬け込んだのちに干し。食料品であるならば注射で薬剤を流し込む。その為の設備が、あった。

 

 設備を通して頒布する支援物資の全ては貧民街行きの箱に入れられ。騎士団の手によって運び込まれる。

 

「.....メルハイム殿」

「.....」

「支援物資の頒布元は、ラミアス経由のものだけとは限りません。こちらの騎士団が全ての原因とは限りません。どうか気を落とさず.....」

「.....気を遣ってくれてありがと。大丈夫よ」

 

 明らかに大丈夫ではなかった。

 常人であれば、縛りつけた騎士団員に暴力を振るい、最悪殺しているかもしれない。それだけの激しい怒りがメルハイムの中で渦巻いている。それを、自律心や、倫理や道徳という彼女を縛る心持ちがギリギリで圧し留めている。

 

「商会の方。一つお願いを聞いて頂いても?」

「はい。なんなりと」

「代表のアメルダ殿にこの報告を。それと――この文書を」

 

 そう言うと。メルハイムは懐から書状を取り出し、商会の者に持たせる。

 

「アメルダ代表に渡せばよろしいですか?」

「渡すのは代表でよいです。ただし、こうお伝えください――”例の覆面に真っ先に読ませろ”と」

 

 ギリギリ。

 奥歯を噛みしめる音が、己の頭蓋に響いている。

 怒りでどうにかなってしまいそうだ。だがその怒りを発露した後の結果を、聖印が教えてくれている。耐えろ。耐えるんだ。

 

 ――支援物資に禁制品を紛れ込ませていた原因の一つは、ラミアスであった。

 

 

「いやはや。久々によく寝ましたね~」

 四時間ほどの仮眠を経て、ヒューイは体を起こす。

 いやー、やはり睡眠というものは神ですね。体調がすこぶるよろしい。心なしか視界もクリアになっている気がします。

 

 ずっと薄暗い地下室に籠っているので日光が恋しい。セロトニン君の分泌はモチベの維持においても重要ですからね。とはいえまだまだ外に出るわけにはいかないという事も解っちゃいるんですけどね。

 

「オルツは.....まだ寝ているか」

 すやすや眠りこけやがって....という思いもあるが。ずっと悪夢でうなされ続け、現実でも鞭を打たれまくるあの哀れなおもちゃがようやく手にしたひと時の幸福だ。噛みしめておけ。

 

「.....?」

 

 目の前に、秘密警察の人間がいる。

 それはいいのだが。報告もせずに、何事かをぶつぶつ呟きながら俯きこちらに報告もせず――ただ立ち尽くしている。

 

「どうされましたか?」

 

 そう呟くヒューイの言葉に反応する事すらせず――男は顔を上げた。

 そこには、何処か夢見心地のような。幸福感に満ちた表情を浮かべ、こちらを見据えている。

 

 そして

 

「お.....おおおおおおおおおおおおおおお‼」

 突如として――懐から取り出した刃物を片手にヒューイの脇腹へ突きこんでくる。

 皮膚を通り、肉を裂き、骨に至る――前に。ヒューイは男の手首を取りその顎先に膝を叩きこむ。

 

 顎を叩きこみ舌を巻きこみ派手に口内から血をまき散らすその男は――されど、痛みなど何も感じていないようで。変わらぬ力で暴れまわる。

 

「この野郎.....!」

 ヒューイは今武装していない。

 取った手首を固定しながら、今度は膝に蹴りを叩きこむ。関節が曲がり体勢を崩したその瞬間。ヒューイは背中側から両足を廻し、首を両腕で固定し――絞める。

 相手の両手を封じ、呼吸を封じる。痛みを感じないのならば、絞め落すしかない。その判断の下だ。

 だが――相手は、呼吸が封じられながらも立ち上がり。壁際まで近づいていく。

 

「がぁ!」

 そして。背中から抱き着くヒューイの頭部に向かって、何度も壁へと衝突していく。

 ヒューイの頭蓋に衝撃が響く。

 思わず逃げ出したくなるが、それでも体勢は崩さない。このまま絞め落す。

 

 ガン、ガン。

 二発。頭部が割れて血が流れる。

 我慢だ。こちらも泡を吹き始めている。もうじきだ.....!

 

 もう一発。割れた頭部からまた血が吹き荒れるが――その衝撃を最後に、男の身体からフッと力が抜けていく。

 男の上着をはぎ取り、素早く引き裂き両手両足を縛り、自室から得物である短剣と斧を調達すると――血相を変えてヒューイはオルツの下へ向かう。

 

「――起きろオルツ! 緊急事態だ!」

「むにゃむにゃ.....観念しろ.....断罪だ....私が断罪するんだ~」

「夢なんざ見れねぇのに何の寝言をほざいてやがる! さっさと起きろ!」

 

 胸のあたりをぶん殴るとオルツは「ふんぎゃあ!」と悲鳴を上げ起き上がり。頭部から血をダラダラと垂れ流すヒューイの姿を見て「あがやああああああ!」とまた悲鳴を上げる。

 

「ヒューイ殿! どうされたのですか!」

「非常事態だ! 秘密警察の奴がいきなり我を忘れて襲い掛かってきた!」

「なんですと! それはいったいどういう.....」

 

 そして。

 この地下室の中。そして外。双方から――悲鳴と、何かが引き倒される音が響き渡ってくる。

 

「――取り敢えずこっから逃げ出した方がよさそうだぜ。くそったれめ....!」

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