転生だ!追放だ!売国だァ~!   作:丸米

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③※注意 この物語に登場する主人公は原作知識を不当に用いて原作NPCへの干渉を行っています。心を広く持ち、適切な距離感でのご拝読をお願い申し上げます。

 レイラ・サンダルウッドは聖女となる女性である。

 予言の子。その眼は未来を見渡し、いずれ来る世界の災厄を予言する。

 その者は聖人であるが、ある意味では世界の忌み子である。彼女の出現は、イコール世界の災厄がいずれ起こる事だから。

 

 彼女の目は、未来を見る。

 ある時は、この世界で起こる事象を”ビジョン”という形で受け取り。ある時は特定個人に起こる未来をその者の視点で受け取る。

 

 その未来は変えられない。その結果を変える事は叶わない。

 例えば――誰かに確かな不幸が降り落ちる事になろうとも、絶対に。

 

 特定個人の未来を見るには、条件がある。その者の名を知る事と、その者と両目を合わせること。

 だからレイラ・サンダルウッドは他者の名を聞くことを拒み、誰とも目を合わさぬため俯きながら生きてきた。この力も、ずっと口を噤んで隠してきた。

 

 幸福であれ不幸であれ、未来を知らせる事は呪いだ。

 未来とは不確定故に、無限なのだ。その無限性を、強制的に有限に落とし込む、呪い。

 

「――貴女は、私も未来を知覚していると聞けば信じますか?」

 

 ある時。幼いレイラの前に唐突に現れた少年は、唐突にそんな言葉を投げかけた。

 それが――運命を知覚する彼女にとっての、運命の出会いであった。

 

 

 お互いの力が、どういうものであるかを知りませんか?

 そう少年はレイラに提案した。

 

 少年の事は知っている。村外れの農夫の子だ。それ以外の情報は何も知らなかった。

 そして。唐突に知らされた事は――彼もまた未来を知っているのだという。

 

「レイラ・サンダルウッドさん。貴女が”予言の子”である事を私は知っています」

「....どうして?」

「私も未来を知覚しているからです。――私も貴女も、互いに未来が見えているもの同士だという事です」

 

 少年は父親の農作業の手伝いを終えたタイミングだったのだろう。泥に汚れた服を着込んだまま、レイラの前にいた。そんな少年は言う。”議論してみませんか?”と。

 

「この世界における”未来”とは何なのか。お互い未来を知る者同士、議論しませんか?」

「....何の為にですか?」

「自分が持つ力は正しく把握しておいた方がよくないですか?私としても自分が知っている未来というのがどういう原理で動くのかを知りたいのです」

「....私は、別にどうだっていいです」

 

 どうだっていい。心底、レイラはそう思っていた。

 どうせ。己は大切なものを取りこぼしていく人生なのだ。

 予言の子となった人間は皆早逝する。予言の子が生まれる事すなわち、世界の災厄が起こる。その災厄と、予言の子は必ず関わる運命なのだ。誰一人、例外なく、その運命から逃れたものはいない。

 

「予言の子はどうせすぐに死んでしまうからですか?」

「.....」

「私が議論したいのはそこでして。本当にそうなのかってとこです。本当に、予言の子は世界の災厄に関わる運命を持っているのか。もっと議題を広げれば、私たちが感知している未来というものは、本当に単一の結果しかもたらさないのか、という事です」

「.....未来を知っても、結果は変わらないです。私がどれだけ手を尽くしても.....誰かの不幸を変えてあげられることは、出来なかった」

「そうなのですね。貴女からの視点で見れば、未来というのは既に決定されているものだと。――感知できる未来の結果に対して、貴女は干渉できないと考えている」

「.....はい」

「ところで――私は、皇都へ出向いている貴女の父親が魔物に襲われて死ぬ光景を見たのですが。貴女もそれを見ましたか?」

「.....!」

 

 その瞬間。諦念に満ちた己が脳内に、確かな困惑が襲い来るのを感じた。

 半信半疑だった彼の言葉が、その言葉によって確信に変わった。

 

「――貴女は自らが幾ら手を尽くそうと、この結果を覆せないと諦めているのでしょう?」

 

「下らない。貴女は未来の結果を覆せないと確信を持っているわけじゃない。そう考える事で、未来を知覚できる自分の力から目を逸らそうとしているだけだ。本当はこの力で誰かを救えたかもしれない、という可能性から目を逸らして自分の心を守っているだけ」

 

「賭けをしましょう。私は、今皇都へ出向いている貴女の父親をここまで無事に帰らせます。もしそれが達成できれば、貴女はここに書かれた指示に従って下さい。結果を変えれなければその紙は棄ててください」

 

「結果を変える事の出来ない予言の力なんてクズ同然です。それでは、ただの運命の奴隷だ。私はそんなつまらない人生を歩むつもりは毛頭ない。――それでは。そこで私が持ち込む未来の結果をご覧あれ」

 

 そう言って、少年は己が眼前からも、村からも消えた。

 それから二日ほど経ったころ。事件が起きた。

 村と皇都を結ぶ森林区画の中。樹齢五千年を超え、教会からも『神樹』として保護されていた樹木が、燃やされるという事件であった。

 

 その『神樹』は近年、飛行型の魔物であるグリフィンの巣となっており。教会にも国にも駆除の嘆願を村が出していたが。樹を傷つけずグリフィンを駆除する方法が思いつかず、難航しており。森林区画を通行する者がグリフィンの餌食となる事例が頻発していた。

 

 ――その『神樹』が燃やされることを代償に。グリフィンの巣は壊滅した。

 

 そうして。その事件により街路が封鎖され数日の足止めを食らったものの――レイラの父親は、無事戻ってきた。

 

 事件は、ただの”山火事”として処理された。国も教会も手を焼いていた魔物が棲み付いた『神樹』が燃えてくれて、皆が正直なところ安堵したのだろう。『神樹』故に誰もが手を出したくないところに、火事で問題ごと燃えてくれたというのだからあまりにも都合がいい。誰が燃やしたのかを追求し、万が一でも責任を追及したくない。故に、山火事という自然現象に全ての責を押し付け、この事件は終わった。

 

 手紙を開封した。

 

『この手紙を見ているという事は、私は未来を覆せたという事ですね。

 正直なところ、私としても本当に貴女が知覚した未来を覆せるかどうかの確信はありませんでした。私はこれまで自分が知覚している範囲の未来の結果は変えられましたが。貴女までもが同じように知覚している未来まで変えられるかどうかは確信できなかった。だから確かめたかったのです。貴女が知覚できた未来であっても、その結果を覆せるかどうかを。その為に貴女を利用させていただきました。故に、恩を感じる必要も罪悪感を覚える必要もありません。私は行方不明になっているでしょうが生きていますし、この村からは当初から出ていく予定でした。貴女の所為ではありません。

 では約束を果たしてもらいます。私から出す指示は二択です。この二つの内から選んで下さい。一つ。教会で洗礼を受けるのを十年待ってください。洗礼を受ければ貴女に聖印が刻まれ聖女としての立場を得てしまう。そうなれば貴女は、災厄に関わらざるを得ない状況になってしまう。十年待てばもう災厄は起こっています。十年待てば、貴女は災厄に関わる必要がなくなる。貴女の力は、貴女のささやかな幸福と利益の為だけにお使いください。個人的なおススメはこっちです。これで予言の子の早逝の運命は避けられます。未来を変えられた私が保証します。

二つ。己が未来は覆せる、という確信をもって自由に生きてください。二度と自分の力を言い訳にうじうじしないで下さい。

私としては強く一つ目を選んでくれることを祈っております。それでは』

 

「.....」

 あまりにも不躾な手紙だった。ただの報告と要望だけが書かれたそれを、何度もレイラは見ていた。そして、

 

「ふふっ」

 

 その不躾さがあまりにも愉快だった。だから笑った。この力が発現してからというもの、笑った事なんて無かった気がする。

 本当だ。この力で得た未来は、覆せるんだ。その実感を得る事が出来た。

 実感は得たけれど。それでもまだ自らの手で何かを変えられたわけではない。

 

 ならば。まずはこの男の想定を超えるところから始めようか。どうすればいいだろう。

 約束は果たさなければならない。賭けに勝った代償として提示された二つの選択。どちらを選べば、この男の想定を超える事が出来るだろうか。

 

 ――これから。自分は、膨大な現実を目の前にしていく。

 ――提示された未来に。運命に。抗っても敵わない現実が目の前に現れるかもしれない。

 ――それでも。それは、この力が所以ではなく。己が無力と怠惰が所以なのだ。そう現実を受け入れられる。

 

 レイラ・サンダルウッドは次の生誕日を待たずして洗礼を受け、聖印を受け取り――聖女となった。

 その足で、彼女は――己が運命に向かい歩き出すことを決めた。

 

 

 ヒューイ・ベネディクトに与えられたものは、農夫の子としてのステータスと。”フォウル・ステーラー”というゲームにおける知識のみ。

 彼は、このゲーム開始前に起こったイベントも大まかに把握していた。

 

 検証しなければならなかったのは、このイベントがちゃんと起こってくれるのかという部分だ。

 ゲームというのは、大まかな一本道があり。それをプレイヤーの介入によって枝分かれしていく形で世界が形成されている。それはオープンワールドという自由度の高いジャンルのゲームであっても変わらない。この世界で起こる幅というものは、ゲームの範囲内で決まっている。

 

 その基本原理が、今己が存在しているこの世界においても適用されるのか。つまりは、己のゲームの知識通りに、イベントが動いてくれるのか。バタフライエフェクト的に、原作のイベントがあっちゃこっちゃに搔き消されなくなっていくのなら今自分が持っている原作のイベントを把握しているという優位性がまるで消滅してしまう。

 

 その検証の為に用いたのが――レイラ・サンダルウッドという原作キャラであった。

 彼女は、”予言の子”と呼ばれる未来を知覚できる能力を持っている。

 彼女は、その能力で見せられる未来の結果を変える事が出来ないと悩み。その果てに、己が父親の死を知覚しながらも死なせてしまった事がトドメとなり、塞ぎ込んでしまった。

 

 彼女が塞ぎ込んだままなのか。それともプレイヤーの干渉によって未来を覆せる事を証明し、洗礼を受け聖印を受け取るか。どちらもゲーム上選べる。

 まあ。彼女が洗礼を受けなければ復活した魔王に対抗する手段がないので、復活した魔王をぶっ殺すルートは選択できなくなります。

 

 で。今回、彼女を用いて理解出来ました。イベントそのものは起こります。そのイベントの結果そのものは、干渉によって変えられます。原作の知識をさも同じ未来を知覚できる力であると偽装し、レイラと関わり利用し、それを証明した。ここは本当にゲームと同じ流れだ。

 

 今回――この干渉によって、レイラは洗礼を受けず、聖印を受け取らない可能性を作った。というかその可能性が高い気がする。いやはや燃える。これで魔王復活後にとっちめるルートは自ら塞いだことになる。

 

「――さあて。そろそろ計画の締めですねぇ」

 

 ラミアス辺境領とベルガン辺境領の国境線付近の森の中。

 国境線上の丘陵を背後に、結界に囲まれた工場と、倉庫がある。

 

 工場は既に役目を終え、多くの設備が撤去されており。倉庫の中に存在している多くの食料品が現在運び込まれている。

 

 確か、自分がはじめてこのゲームをしたとき。マモルモン領をどうしたっけな。領邦軍にも反乱軍にもムカついて両方潰して火の海に沈めた気がする。

 

 まあ、今回の目的は”売国”だ。

 

「いやぁ、ワクワクしますねぇ。――リアルタイムで、今俺はゲームを楽しんでいる」

 

 

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