転生だ!追放だ!売国だァ~!   作:丸米

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⑥※注意 この物語のキャラは頭を回す時もあれば心底下半身で動く馬鹿だったりもします。心を広く持ち、適切な距離感でのご拝読をお願い申し上げます。

 さて。ここまででやれる事はやった。後は、――この奇跡の勇者から何とか生き残るだけだ。

 メルハイム・アトランティア。正直、感動している。

 何周もやり込んだゲームの中。味方になったり敵になったり。今、プレイヤーという依り代ではなく。キーボードマウスでの入力によってでもなくて。

 今、ここに生きている己の肉体で。己が脳髄で。この伝説の勇者と立ち向かえている。

 ここで斬り捨てられても、割と満足できるかもしれない。それ程に、己が全身が昂揚している。

 聖印の未発動で動揺しているその隙に――先手を取る。

 ぐるりと回した斧を頭上より叩きこむ。

 

「ぐ....!」

 引き抜いた剣を掲げ互いの刃先が触れる。

 鍔競り、刃先に互いの膂力が伝わらんとする瞬間――スッと足先を下げる。

 

 瞬間。力を込めた側の足先からフッと力が抜け、前屈みに体勢が僅かに崩れる。

 その僅かな隙に、左手の短刀を突きこむ。

 

「やる...!」

 体勢を崩しながらも、短刀を柄口で受け止めたメルハイム。

 

 頭の中で次の行動の為の思考が廻る。

 大技からの後退で体勢を崩させ。そこから最速で出せる小技で細かく相手のスタミナを削っていく。

 ギィン、と金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。

 大丈夫だ。

 今のところ――ずっと先手を取り続けている。

 

「『フィオラ』」

 

 呪文を唱える。ただ炎を出すだけの見習い魔法だ。ヒューイが使える魔法はこれと、もう一つしかない。

 

 ただの見習い魔法だ。

 だが、一つ仕掛けがある。

 斧を掲げての大ぶりの斬撃。そこからの短刀での突きこみ。

 一手目で足元に小袋を投げつけ。二手目の瞬間には魔法の詠唱を行っていた。共に、刃先がぶつかり合った音で聴覚を誤魔化した上である。

 

 小袋の中には――火の精霊の死骸が結晶化した代物が入っている。

 火花が散る程度の見習い魔法。しかし結晶に引火した瞬間――凄まじい衝撃と勢いをもってメルハイムへ襲い掛かる。

 

「――小癪!」

 

 瞬間。対魔法用の結界を張り巡らせ、炎を遮る。

 だがここで更に問題が発生する。今この環境は――タスカリカの精霊術による大嵐が発生している。

 立ち昇った炎は一斉に燃え広がっていく。

 

「雨を伴わない突風の中で火が起こるのは怖いだろう?」

「――正気か!炎に呑み込まれれば貴方だって死ぬでしょう⁉」

「だろうな。で、お前も別に死にはしないのだろう。死ぬのは私だけの自爆技だが――いいのか?」

 

 メルハイムの性格はよく理解している。

 真面目で、人の話をよく聞く。独善には振り切れない程度の正義感と、何事にも公平であろうとする姿勢がある。良くも悪くも自分の正しさに確信が持てていない。自分が正しくない、という可能性を常に頭の隅に置いているタイプだ。

 

「――ここでこの炎に呑まれて私も、隊商も死ぬ。流石に人死にが出ればラミアス側も動かざるを得ないだろうな」

「.....ッ!」

「まあでも。お前には将軍の父と、王の元護衛も、何より聖女もいる。――権力でこの事件を揉み消す事など容易い事だろう。ただの山火事で人が死にました~で処理されるだけだ。どうだ勇者様?御父上と聖女様に泣きついてここでの人死にを無かったことにするか?お前の正義がそれを許すというのならば勝手にすればいいさ」

 

 敵の声など聞いてはいけない。そんな事はとっくのとうに理解しているだろう。

 だが――聞かざるを得ない。何故ならば彼女は奇跡の勇者だから。自分の心の問いかけを誘起する言葉には、耳を傾けざるを得ない。

 

「――アル・ドラ・オー!」

 

 彼女の叫びと共に、夜の中突如としてスポットライトのような光が周囲に降り注ぐ。

 光は高熱を帯びて、炎へ降り注いでいく。

 燃焼を、焼く。

 降り注ぐ光が、燃焼よりも早く、燃焼物を焼き切る。

 

 聖なる光に炎属性をブレンドした大魔法。

 本来――聖印の力を借りて行使できる程の魔法だ。彼女の心身に、軋むような負担が襲い掛かる。

 

「――貴方の思うようにはいかせないわ....!」

「いいや。思い通りに出来ているよ」

 

 その光景を見てもなお――ヒューイは、冷静であった。

 

「お前は火事が起きる度にその魔法で炎を焼き切るのだろう?――私がお前の所に向かうまでの間に、同じような仕掛けをしていないと思うか?私の手勢に既に炎精霊の結晶の仕掛け場所は伝えている。こちらの指示で幾らでも燃やすことができる」

「.....悪辣な男ね。まるで悪魔だわ。この聖印が反応しないのが、本当に信じられない」

「聖印なしでその魔法をどれだけ撃てるか見物だな。――だが、メルハイム。ここで互いにウィンウィンな提案があるぞ」

「.....何かしら?」

「この突風を止めるように高台のエルフに伝えろ。さもなければ、お前の身体が限界を迎えるまで私は迷うことなく幾度でも森を焼くぞ。仕方がない」

「......」

「私だって大金はたいて雇った隊商を死なせたくはないさ。次もお前がその魔法を撃てるとも限らない。次は本当に死ぬかもしれない。でも仕方がない。私は心を痛めながらこの森を焼き、君を止めなければいけない」

「――ふざけているの?」

「ふざけていない。言っておくが私は本気だ。本気で私は燃やせる。生き残る為ならば自分の命すらも賭けられる。それが私だ。その証明は、この戦いでしているつもりだが」

 

 さあ選べ、と。そうヒューイは言った。

 

「突風の中何度もその魔法で無益な消火活動を続けるか。突風を止めさせて一旦仕切り直すか。どちらの不利益を被るか――選べ、奇跡の勇者メルハイム・アトランティア」

 

 淡々とした言葉の中に、――メルハイムは先程の言葉を己の中で取り消す。

 この男は、悪魔などではない。

 この男は――人間でしか持ち合わせていない、もっと純粋な何かが内側にある。

 

 メルハイムという女が持つ正義や倫理を、信じている。

 これらをかなぐり捨てる事などない、と。ただ信じている。

 信じているからこそ、台の上に全てを賭けている。

 

 ――狂っている。

 人の思考や倫理観、そんなあやふやなものに躊躇なく自分の命を賭けられる。

 

 ――そもそも襲撃からメルハイムの所にやってくるまでの間。そんなに都合よく炎の仕掛けなど仕込めるか?この突風の中、都合よく動かせる人員などいるのか?

 そういった疑念だって頭の片隅にある。メルハイムの頭は決して悪くはない。

 ただそういう疑念すらも――僅かでも可能性があるならば、排除できない。

 

 苦虫を嚙み潰したような表情でく、と地面へ俯き。覚悟を決めるように――高台の上で精霊を操る仲間に、指示を出した。

 

 

「――成程。これは一杯食わされたわねぇ」

 

 高台からも見えた炎と、彼方から聞こえてきたメルハイムの苦し気な指示によってタスカリカは大まかに事態を把握した。

 

「仕方ない。精霊術は止めるわぁ。――その代わり、私も打って出させてもらうとしましょう」

 

 そう言うと――タスカリカは精霊を己が手元に呼び戻し――風に乗って高台から飛び降りた。

 

 

「鬱陶しい風が止んだなぁ。――なぁ、爺さんよ」

 タスカリカによる広域魔法が止んだ瞬間――グリンドは、眼前の老人を見やった。

 

「殺すなって指示だからな。風が止んでくれて助かるぜ。手元がブレて、思わず首を飛ばしちまうことだってあり得るわけだからな」

「そうかそうか。それはよう助かるのぉ」

 

 大槍を手にしたグリンドの体躯には、何一つも傷がついていない。

 対して――眼前の老人は、息を切らし、全身の至る所に打撲痕が残っている。

 

 ザッハルト・カレスティン。前皇帝の護衛を数十年に渡り務めてきた、ベテランの武闘家である。渡り歩いてきた修羅場は数え切れぬほど。得物を持てぬ場所であっても皇帝の身を守れるよう、彼のメインの武器は鍛え上げられた体躯と拳である。

 

 その拳が言っている。

 この男には――自らが積み上げてきた武は、通用しない。間違いなく。

 

 あらゆる攻撃が霧散する。恐らくは奴自身の肉体がもつ特別性なのだろう。

 絶対に、勝利はない。

 武闘家としてはまさしく最悪の相手だ。

 

 では勝利が絶対に存在しない相手故に、これまで潜ってきた修羅場に比べて最悪であるか?

 答えは否だ。

 何故ならば、勝利できないことは敗北とイコールではない。

 勝利できないなら出来ないなりに、やれる事はある。

 

「溌ッ!」

 

 体軸を傾け、踏み出す。そこからの瞬時の足捌き。緩急をつけ間合いを詰め――重い踏み込みを行う。

 

 ザッハルトの肩口がグリンドの鎧に踏み込みと共にみしり、と衝撃がやってくる。踏み込み、鎧にその身を沈ませると共に老人の身体が鋼鉄の塊のような硬さと重さを持つ。

 勁を通す。そこには踏み込みにより発生した力の流れであると同時。己が丹田から練り上げた魔力も同時にそこに流す。

 

 ザッハルトは魔法は扱えない。しかし魔力がないわけではなく、その存在を知覚はしている。

 知覚しているがゆえに、それを練り上げ、己が肉体を通じ対象にそれを”通す”という技術を獲得している。

 

 ここまで。このハゲ頭に仕掛けたあらゆる技は無効化された。

 正中を打った。心臓を揺らした。関節を極めた。それでも大木を割るこの脚が、大岩を砕く拳が、悉く効かない。

 

 これはもう確定だ。この男は、こちらの攻撃を弾いているのではない。硬さで防いでいるのではない。柔らかく弾力のある鞣した皮を幾千枚も重ねたような、衝撃を吸収する層が肉体にある。弾くではなく、吸われている。そんな感覚だ。

 

 その感覚が、――魔力に対しては無かった。

 防がれているような感覚はある。だが、ちゃんと肉体に通った手応えがある。

 

 魔法に耐性はありそうだ。だが――効かないわけではない。

 

「あらゆる攻撃が効かないとなればどうしようもなかったが――これならばまだ勝機がある」

「――ザッハルト。お待たせしたわねぇ」

 

 魔法が通じるのならば、今浮いている駒はこちらに回すほかない。

 風の精霊に乗り――高台にいたタスカリカが空より降り立ち、瞬時にザッハルトの隣に立った。

 

「ああん?一人増えたところでこの俺様に敵うとでも――」

 

 瞬間。

 グリンドの顔つきが――変わった。

 

 彼の視覚情報が脳を通じてその輪郭を捉えた時。彼の視線は新たに現れた女性の女性たる所以を見ていた。

 

 揺れる。

 

 空から舞い降り地へ着地した瞬間の衝撃で揺れる。着地姿勢からスッと立ち上がるその所作で揺れる。振り乱れた長い髪を肩の後ろに掻き上げる動きで、揺れる。

 人は見たいものから本能的に見る。

 揺れるそれを見た後で視線は上へ向く。とろんとした蠱惑的な目が何ともセクシーだ。それでいて顔立ちは上品。視線は更に下降していく。何だあの体にピタッと吸い付くようなローブは。スラっとした足先がくるぶしからふくらはぎのラインで微かに垣間見える。いいね。露出が多くてもいいが少なくても当然エッチだ。あらゆる視線を揺蕩わせ、その全体像をここで見る。美しくてエッチで満たされる。そして何よりおっぱいが大きくて柔らかそうだ。そしてよく揺れている。

 

 心が揺れる時がある。

 今まさに――グリンドの心は、生きているという一瞬の実感で満たされていた。

 

「ぎゃあぁ‼」

 実際に、物理的にもこの男は揺れていた。眼前に唐突に現れたタスカリカの身体全体に視線を漂わせ。やっぱりおっぱいを見ようと首を曲げ視線を胸部に漂わせる。視線と同時に身体をくゆらせついでに首まで動かしていた馬鹿一匹は。タスカリカが唱えていた口元の動きすらもナチュラルな唇の光沢の美しさに気を取られ気付く事すらなかった。

 

 風のマナをかき集めた突風で空高くグリンドを打ち上げると、そのまま精霊を使いマナの層を作って遥か遠くに吹き飛ばし頭蓋から地面へ叩き落した。

 

「......」

「......」

 

 残された二人は無言のまま頷き合うと、今の光景をひとまず見なかったことにして――その場を去っていった。

 

 

 

 

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