転生だ!追放だ!売国だァ~!   作:丸米

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⑨※注意 この物語の主人公は変な拘りの所為でもうロクに夢も見れなくなっています。心を広く持ち、適切な距離感でのご拝読をお願い申し上げます。

 国境線上の森から這う這うの体で逃げ出したヒューイは、途中でキャラルシンを拾いマハムドンで一週間ばかりの療養生活を送った。

 

 恐らくは、勇者パーティはもう既にヒューイがマモルモン領に入っていると思っているだろう。一刻も早く、ヒューイを追わなければならないと考えているはずだ。

 

 そこを逆手に取る。あの森の中で顔を知られていないのはヒューイとキャラルシンだ。キャラルシンは身元が割れる心配がないのでそのままマモルモン側に送り込み、こちらは遅れて入国する。

 まあようするにサボりだが、このくらいは許してほしい。あの場面で一番働いたのは間違いなくアメルダだが、その次には自分のはずで。そして一番重傷を負っているのは自分だ。療養くらいしたってバチは当たらないだろう。

 

 安宿の片隅に身を潜め、ゆっくりと目を閉じる。

 

「”レジスト”」

 

 そう一つ唱えて、眠りについた。

 これが――ヒューイが習得しているもう一つの魔法であり。彼が眠る際に必ず自身に付与している代物である。

 

 

 この世界において、夢とは”別世界への移動”と考えられている。

 魔法が存在しているこのフォウル・ステーラーの世界観において。夢とは現世の外に生きるものによる干渉が行われる世界の事なのだ。

 

 睡眠により脳が休止している間。脳ではなく、魂が知覚する世界へ引っ張り込む。その際に見える景色が”夢”なのだという。

 

 夢魔が見せる幻覚。妖精による取り換え子。神託。悪魔の誘惑。

 そのどれもが、夢という領域内にて行われる。

 夢の世界は、脳活動により知覚する現世から魂が引きはがされ。魂そのものが知覚する世界なのだという。

 

 現世に干渉できない存在が、この世界にだけは入り込むことができる。

 神による聖印の付与などもこれに該当する。これは洗礼という行為により魂を現世から神の領域へと連れ込むことで、神の力を魂に刻み付けるのだ。

 

 夢というのは幽世の世界であり。この幽世は、現世と同じく様々な領域で区切られている。神、悪魔、精霊、もしくはマナ。この世界はこの領域と魂を繋げる事で魔法を扱う。睡眠による脳の休止を切っ掛けにこの領域に引っ張り込まれる。

 

 ――この領域に引っ張り込まれないための措置である。

 レジスト。これは単純に精神へ作用する魔法の一切を遮断する魔法であるが。睡眠時に己が肉体に付与すれば、魂が夢の世界に引っ張り込まれることを防ぐ効果がある。

 

 ――俺は、俺だ。

 ――前世では会社勤めの傍らゲーマーをやっていたしがない男で。転生したらただの農夫の子。

 ――なんと平凡な男だろうか。それでも、平凡は平凡なりのこだわりがある。

 ――平凡だからこそ。特別な力もないからこそ。俺は全てを見通すことなど出来ない。

 ――ただ一人。人間の視点からでしかこの世界を見る事が出来ない。

 ――だからいい。これが、いい。

 ――この世界を外の世界から傍観するだけの連中の干渉など要らない。

 ――神託も聖印も要らない。特別な力も魔法も要らない。

 ――俺は俺だ。俺のこの平凡な肉体も、魂も。全ては俺のものだ。

 ――この平凡な脳味噌をフル回転させて全力でこの世界に挑んで。平凡故に想定から外れた結果をどうしようもなく得てしまう。それでいい。それがいい。

 ――要するに、ネタバレなんざ絶対するなという。絶対なる俺の意思だ。

 

 故に。眠りにつく際は己にレジストをかける。この魂を、外なる世界に連れ出させないために。

 そのおかげかこの世界に生まれてこの方、一片たりとも夢を見ていない。それでもいい。言うなれば、今知覚しているこの世界こそが、己にとっての夢のようなものだ。好きなゲームで好きなように生きているのだから。

 

 俺は俺だ。

 俺のこの肉体も魂も、誰一人として触れさせやしない。

 

 ――さあ。さっさと次のステップに進もう。

 ――いつか来る想定外を心待ちにしながらも、フェーズは進めなくちゃあいけねぇ。

 

 

 マモルモン領に怒号が響き渡る。

 これまでもずっと響き続けてきたそれは、更に激しく嘶いている。

 空虚をそれでも膨らませ吐いていた叫びは、微かであれど――腹を満たした上での怒号と変わったのだ。

 

 国境線を超えて運び出した食料。六つの隊商がマモルモン領に輸送したそれらは、名目上は領地の食糧事情を支援する目的であった。

 しかし、それらが隊商の手から離れ、市街から離れた保管庫に移送されたと聞かされた領民の怒りが爆発。

 

 ライアス・イグゼーターにより率いられた反乱軍は、食糧庫を襲撃。奪った食料を領民に配ると共に、反乱軍の求心力を高める。

 

「おーほっほっほ!」

 

 その様を眺めるアメルダ・ココルピーは――高らかに笑い声を上げていた。

 

「ざまぁみやがれでございますわ~!わたくしを蔑ろにした全てが、醜く鳴き声を上げなさって!お~ほっほっほ!」

 

 己が懐には富。眼前には己が商いによって引き起こされた地獄の光景。

 あまりの法悦。これまで生きてきた中で、身も心も――最高に満たされていく。

 

「ああ....!ヒューイ様!わたくし、貴方に感謝いたしますわ!こんな気持ちになれるなんて、商会が潰された時には、思いもしなかった....!」

 

 ――最初は、絶対に眉唾ものとしか思えなかった。

 必ず儲けられるという言葉を信じる商人はいない。己を窮地から救ってくれた男が示した情報を、信じることなど出来なかった。

 

 しかし。彼は確かに――見たい全てを見せてくれた。

 再び、己は商人になれた。

 

「国も神も公平も税金も何も信じませんが――私は、富と権威と貴方だけは信じますわヒューイ様!」

 

 だから、と続ける。

 

「どうかこの先も――こんな素敵な光景を、見せてくださいまし....!」

 

 

 後は、粛々とフェーズが移っていく。

 虎の子の食料を奪われ、精も根も尽き果てた領邦軍は降伏。

 ブーデガルト・マモルモン伯爵は影武者を立てての逃走を企てたが失敗。

 現在――広場にて、領民の前に突き出されることとなった。

 

「ぐ.....くぅ....!」

 

 熱した鉄板の上。手枷足枷がついたまま、その上に乗せられる。

 地面に砂を撒くような乱暴な手つきでブーデガルトを乗せ、その額を足蹴にして鉄板に押し付ける男の額と足には――赤黒く変色した火傷痕がある。

 

「――家畜のような嘶きを上げろ」

 

 これまでと同じ刑罰だ。

 熱した鉄板の上。声を上げれば――その首は落とされる。

 

「領主様、聞かせてくれよ。――お前は今、生きているか?」

「――ッ!」

「死なないために生きられもしない。そんな地獄を――お前もとくと味わえ.....!」

 

 足蹴にした額が鉄板に押し付けられ、皮膚が焼ける激痛が全身に走る。

 死なないために、心を殺せ。

 激痛に叫ぶ機能を止めよ。止めよ。止めよ――!

 

 ――十秒も経たぬうち、広場には獣のような叫び声が上がり。重々しく振り下ろされる断頭の音が低く響き渡った。

 

 

「.....」

 

 その後の顛末を、知り。理解した。

 彼が何を目的としていたのか。

 

「――これが....」

 反乱により新領主となったライアスは、ベルガン王都に支援を嘆願する。

 しかし、当然王都はこれを拒否。事前に内乱を収める事を条件に領主のすげ替えは認可していたものの。それ以上の事をしてやる義理は王都にはない。

 

 ならば、と。次にライアスが打ち出したのは――隣国であるラミアスに支援を求める事であった。

 

 領内での内乱による領民の保護。それを名目として――マモルモン領はラミアス軍の駐屯許可を出す。

 

 多くの食料を輸送し、市街地の再建を支援する目的として――マモルモン領に、ラミアス軍が大勢駐留する事となった。

 

「.....」

 

 ――厳罰主義が横行し、食糧危機が合わさる事で地獄となっていたマモルモン領は。

 反乱による領主の首の挿げ替え。そこからのラミアスの支援目的での軍の駐留を認めるという離れ業により――ベルガン王都からの影響を切り離すことに成功した。

 

 国境線上の要所であるマモルモン領に、ごくごく自然と――ラミアス軍の流入を許したことになる。

 

「これが――狙いだったのですね」

 

 レイラの呟きには、様々な感情が込められていた。

 複雑怪奇な様々な感情が回って、回って。それでも最後に残るのは――無力感。

 

 マモルモン領で蔓延っていた厳罰主義は取り払われた。

 そこを着地点として設定し、あのような事をしていたというならば――理解できる。

 

 理解はしても納得はしていないのだ。

 この結果に至るまでに、どれ程の苦しみが生まれたのだ。無辜の民を飢えで苦しめるという過程を踏んで得た結果。それが最良であると理解しても――どうしても納得できない。

 

 だが。ならば――代案はあるか?

 仮に自分が同じ立場で一年という猶予が与えられて。この結果を得る為に、領民を苦しめずにこの結果を得る事が出来たか?仮にあったとして、己の能力と行動力でそれが成し遂げられるか?

 

 無理だ。不可能だ。そう結論に至る。

 部外者の分際で他者の選択を責めるのだけは、やってはいけない。それをやった瞬間、己はあの時に誓った事の全てを破る事となる。

 

 だから。結局は――湧き上がるのは怒り。ただ、無力な己への怒りでしかない。

 諦めを捨てるという事は。己が無力故の結果は、全て己の中で処理するしかないのだから。

 

 

 暗い、暗い、場所がある。

 そこは空間かどうかすら定かではない。もくもくと、妖しげな煙が立ち込めている。煙が空間の仕切りを曖昧にし、輪郭を消している。

 その煙に包まれた場所には、両手を合わせ焦点の合わない視線を彷徨わせている人間がすし詰めになっている。

 

 ボロ衣を着込んだ彼等は、胡乱な視線をただ上側に向け。意識そのものがふらふらと揺らいでいる。

 

「――この先に起こる事は、悲劇などではありません」

 

 静かに、女の声が聞こえてくる。

 

「この世こそ。この現世こそが地獄なのです。我々が持つ感覚器官が捉えるこの世界は、あまりにも厳しい生を押し付ける。生きるだけで魂が擦り減らされる。欲望はその身を焦がし、意識は我々をこの世界に縛り付ける」

 

「現世の滅びを人は災厄だと言います。ですがここにいる皆様には解るはずです。この世界こそが地獄なのだと」

 

「夢の中で今皆様が味わっているもの。それすらもまだ、我々の意識の中だ。この煙の中で感じている夢見心地ですらも、人工的に報酬系への刺激を連続させ、脳を騙して見せているだけのまやかしでしかない。この夢も、いずれは覚める。我々が生きている限り、本当の救いは訪れない」

 

「――救いは必ず訪れる。その時を待つばかりではない。我々は必ずや、この手で、この意識という地獄の牢獄から逃れて見せる」

 

「魔王。夢の世界。幽世の王。――我らは、必ずや彼の者を蘇らせる」

 

「このベルガンの地にて、必ずや――我らの手で」

 

 

 

 

 

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